アトラシアン本社の情報サイト『Inside Atlassian』より。Teamwork Lab責任者のモリー・サンズ(Dr. Molly Sands)が、全社ハッカソンShipItの2,500人超のデータ分析をもとに、「チームにAIを深く使いこなす人材が1人いるだけで、成果の質は大きく変わる」ことを実証する。

本稿の要約を10秒で

  • AIを深く使いこなすスーパーユーザーが1人いるだけで、チームの成果の質は大きく向上する。
  • 「完成させる力」はチームの人数が左右し、「成果の質」はスーパーユーザーの有無が左右する。
  • 最大の効果は「ゼロから1人」への変化にあり、それ以上増やしても恩恵は限定的だ。
  • 全員をAI習熟者にする必要はなく、各チームに1人の起爆剤となる人材を置くことが現実的な打ち手となる。

AIツールに投資している企業は、どこも同じ問いを抱えている。「実際に何人がAIを使いこなせれば、組織として成果につながるのか?」

もっともな疑問だ。AIの活用状況は人によってばらつきが大きい。常に使い倒している人もいれば、ほとんど触れない人もいる。全員が習熟しなければ投資効果は出ないのか、それとも一定数の人材がいれば十分なのか。リーダーたちはその答えを見つけられずにいる。

私のチームであるTeamwork Labは、アトラシアン社内でこの問いを実証する機会を得た。アトラシアンは年2回、ShipItと呼ばれる全社ハッカソン(短期集中型の社内開発イベント)を開催している。従業員が小チームを組み、24時間以内に何かを作り上げるイベント*1で、プロトタイプ(試作品)、ツール、改善策、あるいは突拍子もないアイデアの具現化まで、何でも対象になる。参加は任意で、チーム編成も自分たちで決め、「革新性」「顧客へのインパクト」「完成度」の3軸で審査される。

ShipItが検証の場として有効なのは、すべてのチームが同じ24時間という制約のもと、同じ形式で取り組み、同じ基準で審査されるからだ。一方で、チームの規模やAI活用レベルは自然にばらつくため、チーム構成と成果の関係をリアルな環境で検証できる貴重な機会でもある。

直近のShipItでは、Teamwork Labが1,200以上のチームに参加した2,500人超のデータを対象に、プロジェクトの審査スコアと社内のAI利用データを照合した。問いはシンプルだ。「チームにAIに長けたメンバーが何人いるかは、成果に影響するのか?」

答えは明確で、しかも驚くほど具体的だった。チームのパフォーマンスが最も大きく跳ね上がったのは、AIをほとんど使っていなかったチームにAIスーパーユーザー(AIを日常的に深く活用する人材)が1人加わったときだ。その1人の存在だけで、上位スコア(全審査チームの中央値超え)を獲得する確率が18ポイント高まるという結果が出た。スーパーユーザーが増えるほど成果は上がり続けたが、最も大きなリターンをもたらしたのは最初の1人だった。

調査結果の概要

調査内容: アトラシアンの直近のShipItハッカソンにおける審査結果と、1,271チームに参加した2,574名分の社内AI利用データを紐づけ、デモを提出してスコアを取得した870チームを対象に分析した。
判明したこと: チームの人数は「成果物を完成・提出できるか」を左右する。AIスーパーユーザーの有無は「成果の質」を左右する。最も大きな質の向上は、スーパーユーザーがゼロのチームに1人が加わったときに起きる。その1人の存在だけで、上位スコアチームに入る確率が18ポイント高まるという結果が得られた。

0→1の効果:AIスーパーユーザーが1人いるだけで、成果はどう変わるか

アトラシアンは、AIスーパーユーザーの定義*2において、所属する職能グループ内でAI利用頻度が上位25%に入る人材を指すとしている。これは相対的な基準であり、部門によってAI活用の実態は大きく異なる。絶対的な利用量が多いかどうかではなく、同様の業務を担う同僚と比べて明確に先行しているかどうかが問われる。

ShipIt参加者のうち約半数(49%)がこの基準を満たしていた。しかし、その分布はチーム間で均等ではなかった。スコアを取得した870チームのうち、約4分の1にはスーパーユーザーが1人もいなかった。

その差は成果にはっきり表れた。スーパーユーザーが1人いるチームと比べて、1人もいないチームが上位スコア(全チームの中央値超え)を獲得する確率は18ポイント低かった。この恩恵はほぼ最初の1人によってもたらされており、スーパーユーザーが2人以上いるチームのスコアは、1人のチームとほぼ変わらなかった。

画像: 最大の飛躍は「最初の1人」から生まれる。 スーパーユーザーがゼロのチームが上位スコアを獲得する確率は33%だが、1人加わるだけで51%に跳ね上がる(+18ポイント)。

最大の飛躍は「最初の1人」から生まれる。 スーパーユーザーがゼロのチームが上位スコアを獲得する確率は33%だが、1人加わるだけで51%に跳ね上がる(+18ポイント)。

スーパーユーザーが1人もいないチームと比べて、1人以上いるチームは:

  • 「革新性が高い」と評価される確率が19ポイント高い
  • 「顧客へのインパクトが大きい」と評価される確率が15ポイント高い
  • 「プロジェクトの完成度が高い」と評価される確率が14ポイント高い

チームリーダーへの実践的な示唆はシンプルだ。全員がスーパーユーザーのチームを作れなくても、「ゼロから1人」にすることが、「1人から多数」にすることよりもはるかに重要かもしれない。

チームの人数が「完成させられるか」を左右し、AIの習熟度が「質の高さ」を左右する

この発見が興味深いのは、混同されがちな2つの成果を明確に切り分けている点だ。

「完成させること」「質の高さ」は、異なる要因によって左右されていた。

  • チームの人数は、チームがデモを提出できるかどうかを左右した
  • スーパーユーザーの有無は、提出された成果が上位スコアを獲得できるかどうかを左右した

分析によると、メンバーが1人増えるごとに、チームが成果物を完成・提出できる確率は79%高まる。しかし、チームの人数は成果の質には意味のある影響を与えなかった。スーパーユーザーはその逆のパターンを示した。審査結果の高さとは強く関連していたが、チームが成果物を提出できるかどうかとは関係がなかった。

チームづくりへの示唆

実践的な示唆は2点ある。

  • 自分のチームにいるスーパーユーザーを把握する。この知見を実際に活かすには、チーム全体のAI習熟度を測れる状態にしておく必要がある。アトラシアンのアプローチは、全社一律の基準ではなく、職能グループごとの相対基準でスーパーユーザーを定義する*2というものだ。
  • AIスキルは均等に広まっていないと認識する。アトラシアンのState of Teams(チームの現状)2026調査によると、知識労働者の85%がAIを活用している一方、日常業務に組み込んでいるのはわずか29%にとどまる。また、55%の経営幹部が「AIによってチーム間の成果格差が拡大している」と答えている。AIを深く使えるメンバーが1人もいないチームは、実質的に不利な状況に置かれている可能性があり、組織内にそうしたチームが思いのほか多く存在するかもしれない。

多くの企業は「全員に少しでもAIを使わせること」に注力している。しかし今回の調査が示す、より大きなレバーは「すべてのチームに、AIを深く使いこなす人材を最低1人置くこと」だ。全員が習熟している必要はない。チーム全体の力を引き上げる起爆剤として機能するスーパーユーザーが、1人いれば十分なのだ。

調査手法

アトラシアンのTeamwork Labは、ShipItのプロジェクト審査結果と社内AI利用データを紐づけ、各参加者がAIスーパーユーザーに該当するかを特定したうえで、チーム内のスーパーユーザー構成とプロジェクト審査結果の関係をモデル化した。データセットは、2026年4月16日から20日にかけて開催されたShipIt 62に参加した1,271チーム・2,574名で構成される。分析はデモを提出して審査スコアを取得した870チームを対象とした。上位スコアチームは、870チーム全体の中央値を超える総合審査評価を得たチームと定義し、同じ中央値基準を「革新性」「顧客へのインパクト」「完成度」の各評価軸にも適用した。スーパーユーザーは、所属する職能グループ内でAI週次利用頻度が上位25%に入るアトラシアン社員と定義した。スーパーユーザー構成の効果を分離するため、すべてのモデルでチームの人数を統制変数として扱った。

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