アトラシアン本社の情報サイト『Inside Atlassian』より。Teamwork Labのシニア・プリンシパル・リサーチャー、コナー・ドネガン(Conor Donegan)が、最新の調査データをもとに、AIの活用がナレッジワーカーの役割をいかに拡大させ、実務からマネジメントへと視座を変化させているか、そしてその過程で生じる「人間関係の希薄化」という課題にリーダーはどう向き合うべきかを説く。
本稿の要約を10秒で
- AIは単なる効率化ツールではなく、職種の枠を超えて専門領域や他チームの役割まで担う力を個人に与える。
- AI活用が進むほど仕事の重心は実務から指揮へと移り、自ら手を動かす役割から仕事を導く役割へと変化する。
- 役割が広がる一方で希薄化する人間関係を補うため、部門を越えた対話やサポート体制を意図的に構築する。
- AI利用を「怠慢」ではなく「成長」と評価する文化を醸成し、新しい領域への挑戦を組織で支えることが大切だ。
かつては何時間もかかっていた作業を数秒で終わらせるツールが登場すれば、人間に残される仕事はなくなるのではないかと不安になるのは当然だ。しかし、アトラシアンのTeamwork Labによる最新の調査は、その逆の結果を示唆している。AIは従業員の職務範囲を狭めるどころか、引き受ける仕事の幅を広げ、さらには業務の深みまでも増大させているようだ。
今年初め、カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスの研究チームが、あるIT企業における8ヶ月間のAI導入状況を調査した。その結果、AIを活用する従業員は、以前は他の役割の担当だったタスクまで引き受け、より広範な責任を担うようになったことが明らかになった*1。
アトラシアンのTeamwork Labによる知見は、この研究をより大規模な集団へと広げ、拡大したエネルギーが実際に「どこ」に注がれているのかについて、新たなデータを示している。
主な調査結果
- AIは役割を縮小するのではなく、拡大させている。ナレッジワーカーの92%が、この1年間で自分の責任範囲が当初の職務記述を超えて広がったと回答している。その中で最も明確な分岐点となっているのが、AIの活用度だ。AIを使っていない層は、AIを最も使い込んでいる層に比べ、「自分の役割は変わっていない」と答える割合が7倍も高い。
- AIを使うほど、守備範囲は広がる。AIを日常的に使う習慣を身につけた人は、他チームの業務を引き受ける割合がおよそ2倍、専門家に頼らず専門的なタスクをこなす割合も2倍に達する。
- AIは「自分でやる仕事」を「人を導く仕事」に変える。AIの活用度が高まるほど、仕事の重心は実務からマネジメントへとシフトする。ヘビーユーザーはAIで生まれた時間をマネジメントや方向づけに充てる一方、非利用層は引き続き目の前の作業に没頭している。AIの活用が深まるほど、「自分で手を動かす」から「仕事をリードする」への転換は加速する。
- AIは部門横断の活動範囲を広げるが、人間関係は深まらない。ヘビーユーザーが部門横断的な仕事を引き受ける割合は、最大で72%高い。しかし、AIを使っているグループはいずれも、「同僚と過ごす時間」の優先度を最下位に置いている。一方、非利用層はこれを3位に挙げている。つまり、AIユーザーはより多くのチームと協働しているにもかかわらず、そのチームの誰とも深い関係を築けていない可能性がある。
役割の拡大は例外ではなく、もはや常識である
アトラシアンのTeamwork Labは、2026年5月27日から6月9日にかけて、米国のナレッジワーカー1,000人を対象に調査を実施した。その結果、役割の拡大はほぼ普遍的な現象であることが判明した。回答者の92%が、この1年間で自分の責任範囲が当初の職務記述書(ジョブディスクリプション)を超えて広がったと答えている。しかし、AIユーザーと非利用層の間には歴然とした差がある。AIを使っていない層は、AIを最も使い込んでいる層と比較して、自分の役割が「変わっていない」と答える割合が7倍も高い。このデータは、AIの導入こそが、その人の仕事が変化しているかどうかを判断する最も強力な指標であることを示している。
[図1]AIを使い込んでいる人ほど仕事の枠が広がっている。「役割が変わっていない」と答えた割合は、AI非利用層(Non-AI users)の28%とヘビーユーザー(Heaviest AI users)の4%で7倍の開きがある。

単なる「量の増加」ではなく、新たな「領域の開拓」へ
この拡大は、単に「同じ仕事をもっと速くこなせるようになった」という話ではない。AIを最も深く習慣化している層は、根本的に「異なる」仕事をしていると報告している。かつては専門家の力が必要だったり、まったく別のチームの管轄だったりしたタスクだ。
AIのヘビーユーザーは、公式な職務記述書の枠を超え、チーム間の境界線を曖昧にしつつある。他チームの業務を引き受ける割合はおよそ2倍、専門家を巻き込まずにAIを活用して専門的なタスクをこなす割合も2倍に達している。
[図2]AIヘビーユーザー(Heaviest AI users)は、他チームの仕事を引き受け、専門外の領域に踏み込み、職務記述書の枠を超えて働く傾向がいずれも顕著に高い。特に専門家に頼らずAIで専門的タスクをこなす割合は、たまに使う層(Occasional AI users)の2倍に達する。

この拡大のあり方は、職種によって異なる。マーケティング職では、AIヘビーユーザーの半数以上が「よりクリエイティブな仕事」と「より技術的な仕事」の両方に領域を広げていると回答しており、これは全職種の中で唯一の傾向だ。一方、ITやエンジニアリングの分野では、コミュニケーションや部門横断の調整業務へと守備範囲が広がっている。これらはもともと他チームの領域だった仕事だ。
しかし、最も重大な変化は、AIヘビーユーザーが時間を「どこに」使っているかにあるのかもしれない。AI非利用層が増えた時間を目の前の実務に費やしているのに対し、AIを最も使い込んでいる層はその逆を報告している。彼らは、自ら手を動かすのではなく、マネジメントや指揮、仕事の方向づけに最も多くの時間を割いているのだ。
[図3]AI非利用層(Non-AI users)が最も時間を使うのは目の前の実務(Heads-down work)だが、ヘビーユーザー(Heaviest AI users)では監督・マネジメント(Oversight & management)が1位に逆転する。一方、同僚とのつながり(Connecting)は両層とも下位に沈み、ヘビーユーザーでは最下位となっている。

この傾向は役職の上下を問わず一貫しており、この視座の変化を引き起こしているのは、キャリアのステージではなくAIの活用そのものであることを示唆している。
「AIによって従業員はより高い次元で仕事ができるようになる、と専門家たちは長らく予測してきました」と語るのは、"働き方の未来"の専門家であり、Teamwork Labの責任者であるモリー・サンズ(Molly Sands)だ。「その予測は正しかった。ただ、誰もが想定していたよりずっと速いスピードで現実になっているだけです。AIヘビーユーザーは、自分の持ち場にとどまっていません。かつては手を出すことのなかった領域にまで踏み込み、しかもこれまでにない力を備えてそれをやっているのです」
広がる活動範囲と、深まらない「つながり」
データの中には、ある矛盾が潜んでいる。AIヘビーユーザーはかつてないほど多くのチームにまたがって仕事をしている。部門横断的な仕事が増えたと回答する割合は、非利用層と比べて72%高い。しかし、実際に何に時間を使っているかを問うと、AIユーザーは「同僚とのつながり」を最下位に挙げる。非利用層はこれを3位に置いている。
つながりの優先度が低いのは、AIを最も使い込んでいる層に限った話ではない。AIの習熟度にかかわらず、すべてのグループに共通する傾向だ。つまり、AIの活用と職場のつながりの関係は、単純なトレードオフでは説明できないほど複雑なのである。これは他の研究者たちも注視している問題だ。最近の研究でも、AIの導入が進むにつれて何気ない日常のやりとりが減少していること*2や、人間ではなくAIのサポートに頼る傾向が強まっていること*3が指摘されている。
明らかなのは、役割がかつてないスピードと広さで拡大しているにもかかわらず、部門横断の仕事を実際に機能させるための「つながり」がそれに追いついていない可能性があるということだ。注視すべき兆候である。
「つながりを伴わない役割の拡大は脆いものです」とサンズは語る。「仕事を広げて、より多くのチームと関わるようにすることはできます。でも、それを支える人間関係が一緒に育っていなければ、いずれ崩れる足場の上に立っているようなものです」
リーダーが今すべきこと
役割の拡大はすでに起きている。問われているのは、組織がその成長を適切に導くのか、それともただ無秩序に広がるままにするのかだ。
まず着手すべき2つのポイントは:
AIの活用を「見える化」し、評価し、当たり前のものにする。 AIによって役割が拡大しているにもかかわらず、AIを使っていると明かすことが職業上の不利益につながるとしたら、それは成長の原動力となっている行動そのものを罰する仕組みを作っていることになる。Teamwork Labが最近行った実験*4では、あるタスクでAIを使ったと申告した人は、成果物の質がまったく同じであっても、10倍「怠けている」と見なされた。しかし、この偏見は、リーダーがAIの活用を積極的に称賛しているチームではほぼ消えた。どうやって成果を出しているかを隠さなければならない状況では、役割の拡大は頭打ちになる。
新しい領域への挑戦を、個人の孤軍奮闘に終わらせない。 部門横断的な役割の拡大がうまくいくのは、その領域をすでに熟知している人たちから、ちょっとしたサポートが得られる場合だ。それは形式ばった研修プログラムではなく、相談できる関係性を指す。例えば、業務の範囲(スコープ)を確認する短い会話や、「質の高い成果」の具体例の共有、あるいはすぐに質問できる連絡手段があることだ。こうした支えがなければ、役割の拡大は質の低い仕事と人々の不満を生むだけになってしまう。逆にサポートがあれば、挑戦する側は本物のスキルを身につけ、専門家の知識は軽んじられるどころか、その価値をさらに高めることになる。アトラシアンのNetwork of Teamsプレイ*5(チーム間の連携を強化する手法)は、こうしたつながりを意図的に築くための出発点となるフレームワークを提供している。
「単に責任を増やすだけでは、戦略とは言えません」とSandsは語る。「拡大した役割が持続するのは、その土台にあるものに組織が投資したときだけです。規範、人間関係、サポート体制——大きくなった仕事を持続可能なものに変えるのは、こうした目に見えにくい基盤なのです」
調査手法
2026年5月27日から6月9日にかけて、アトラシアンのTeamwork Labは、米国のナレッジワーカー1,000人を対象に、AIの利用状況、職務範囲、時間配分、および職場におけるAIへの意識に関する二重盲検調査(double-blind survey:調査対象者と調査実施者の双方にバイアスが生じないよう設計された調査手法)を実施した。回答者は業種、職種、役職、世代にわたって幅広く分布している。本調査では、AIの利用頻度、活用の深度(単発的な利用からチーム全体での標準化まで)、主要な業務カテゴリごとの時間配分、そして役割が当初の職務記述書をどの程度超えて拡大しているかを測定した。

