アトラシアン本社の情報サイト『Inside Atlassian』より。アトラシアンのHRVP、アリシア・レナート(Alicia Lenart)が、AIスーパーユーザーの定義を18か月で3度変えてきた自社の試行錯誤をもとに、利用者数や利用量ではなく「仕事の再設計」にこそAI導入の本質があると説き、人事リーダーが今すぐ採用・育成戦略に組み込むべき行動特性と指標設計の考え方を提言する。
本稿の要約を10秒で
- WAUや利用量ではなく、職種別の相対指標でAI活用の深さを測るべきである。
- スーパーユーザーの本質は利用回数ではなく、仕事の進め方そのものを再設計していることにある。
- 採用・育成では、ツールの習熟度より「課題発見力・共有志向・不完全さへの耐性」を見極めることが重要である。
- 指標は完成させるものではなく、問いを研ぎ澄ませながら更新し続けていくものである。
この2年間、私の知るあらゆるマネージャーが同じ数字を追いかけてきた。「社員の何パーセントがAIを使っているか?」というものだ。
だが、それは間違った指標である。
アトラシアンでは、これを身をもって学んだ。社員のAI活用度をどう測るかについて、私たちはこれまでに3段階の進化を経てきた。そして指標を変えるたびに、以前の数字が覆い隠していたものが見えてきた。
こうした転換は、採用、人材育成、そしてどこに投資するかという判断そのものを変えた。ここでは、私たちの考え方がどのように進化してきたか、そしてそれがあなたにとって何を意味するかを紹介する。
フェーズ1:「AIに触れているか?」(週間利用者数)
生成AIが企業に登場したばかりの頃、誰もが答えられる問いはごく単純なものだけだった。「この社員は今週、AIツールにログインしたか?」
WAU(週間利用者数)は出発点としては有用だった。社員がツールを試しているかどうかはわかる。だが、何かが変わっているかどうかはわからなかった。
WAUが95%に達しても、社員がAIをスペルチェックと同じように使っている状態はありうる。たまに、受動的に、仕事のやり方そのものを見直すことなく。アトラシアンでもWAUの数字は伸びていたが、その増加が実際の価値について何も示していないことにすぐ気づいた。
そこで、基準を引き上げた。
フェーズ2:全社一律の「スーパーユーザー」基準
2025年の後半、アトラシアンではAIスーパーユーザー ── つまりAIを突出して使いこなしている社員 ── を、「AIツールの利用回数が週40回以上の人」と定義した。これは前半期の全社利用データにおける上位10%にあたる水準だ。そして目標をひとつ掲げた。6か月以内にスーパーユーザーの割合を倍増させる。
結果は、ある意味では成功だった。スーパーユーザーの割合は7月の約14%から12月には34%へと跳ね上がり、目標を大きく上回った。
しかし、すぐに問題が見えてきた。全社一律の基準は、エンジニア以外の職種に不利に働いていたのだ。エンジニアリングはその仕事の性質上、AIとのやり取りの回数が財務アナリストや採用担当者より桁違いに多い。
さらに、依然として「量」に偏りすぎていた。AIチャットにプロンプトを50回貼り付けた営業担当者は基準をクリアする。一方、AIエージェントを週に2回だけ使って契約審査のプロセスそのものを再設計した法務担当者はクリアできない。指標が、本質を見えなくしていた。
そこで、定義をもう一度変えた。
フェーズ3:スーパーユーザーとは職種ごとの頂点 ── 人数ではなく「習慣」で測る
現在のアトラシアンでは、AIスーパーユーザーを職種ごとに定義している。エンジニアリング、デザイン、プロダクトマネジメント、マーケティング、法務、営業、財務、人事 ── それぞれの職種が、2026年1月の利用データをもとに独自の上位10%ラインを持っている。基準は仕事の実態とともに動く。
CTO組織に属するスーパーユーザーのエンジニアは、週に平均270回以上のAIインタラクションをこなす。一方、財務や法務のスーパーユーザーはまったく異なる姿をしている。使うツールも、頻度も、活用の特徴も違う。彼らに共通しているのは数字ではない。自分の職種においてAIが実際に使われている水準の上位約10%にいるという位置づけだ。
全社スコアは、各職種のスコアの平均値としている。これは意図的な設計だ。最大規模の組織が他を埋没させるのを防ぎ、すべての職種が自らの天井を押し上げることを求める仕組みになっている。今年度下半期の目標は、全職種が1月時点の基準値を倍増させることだ。
これは、すべてのCHRO(最高人事責任者)にぜひ採用してほしい ── 少なくとも議論の俎上に載せてほしい戦略である。完璧な指標にたどり着いたからではない(実際、来年に向けてすでに見直しを進めている)。そうではなく、その根底にある考え方が普遍的だからだ。職種ごとに測り、基準は同じ職種の中での相対値とし、組織の成熟に合わせて引き上げ続ける。
これが人材戦略にとって重要な理由
AI活用の指標を進化させてきたのは、単に数字の問題ではない。「AIの導入は何のためにあるのか」という、企業としての信念の問題だ。
- AI導入を導入率の達成だと考えるなら、WAUを測り、数字が上がれば喜ぶだろう。
- 活用の促進だと考えるなら、利用量を測り、平均値を押し上げるための研修を実施するだろう。
- 仕事そのものの変革だと考えるなら ── つまり、AIの真価は仕事のやり方を根本から再設計する人材から生まれると信じるなら ── すべての職種において、すでにそれを実践している少数の社員を見つけ出し、育てなければならない。
そうした人材は、今この瞬間もあなたの会社にいる。アトラシアンでも、私たちは彼らを間近で見てきた。必ずしも最も上位の役職者でも、最も技術に詳しい人でも、最も声の大きい人でもない。パートナーチームのために問い合わせ対応の自動化ボットを自ら構築した法務担当者。バラバラだった6つのシステムを、自然言語で問い合わせできるデータ基盤に統合した財務アナリスト。またひとつスプレッドシートを増やす代わりに、AIを思考パートナーとして採用パイプラインのスコアカードを設計した採用担当者。彼らは組織の「つなぎ役」 ── 部門と部門をつなぐ結節点にいる。業務フローそのものを再設計し、学んだことを周囲に共有する。
指標の改善で「誰か」は見えた。次の問いは「何をしているか」
各職種のスーパーユーザーを確実に特定できるようになったことで、アトラシアンの社内研究チームTeamwork Lab ── AIを活用した働き方を研究する専門組織 ── は、さらに難しい問いに取り組み始めた。「スーパーユーザーは、他の社員がまだやっていない何をしているのか?」
私たちはさまざまな職種・役職・部門のスーパーユーザーに、日常業務でのAI活用法を紹介する短いデモ動画を録画してもらい、それを社内の利用データと突き合わせて分析した。当初は、1つか2つの明確な類型が見つかると予想していた。だが、そうはならなかった。活用パターンは想像以上に多様で、「このタイプを採用すればいい」という単一のスーパーユーザー像は存在しなかった。
それでも、職種を超えて一貫して浮かび上がってきたものがあった。共通する少数の行動パターンと、それを生み出す根底の資質だ。人事やマネージャーが採用や育成で重視すべきは、まさにこの部分である。
AIスーパーユーザーが実際にやっている5つのこと
- AIをたくさん使うのではなく、仕事そのものを再設計する。スーパーユーザーは、タスクを「AIに任せる部分」と「人間にしかできない部分」に分解する。AIで選択肢や素案、たたき台を生成し、人間としての時間は判断と磨き込みに使う。毎回ゼロから取り組むのではなく、再利用できる仕組み(エージェント、プロンプト、チェックリスト、テンプレート)を構築する。たとえば、アトラシアンの財務部門のあるスーパーユーザーは、バラバラだった6つのシステムのデータを統合し、自然言語で問い合わせできるセルフサービス型のハブを構築した。これにより、アナリストはデータの収集・整形ではなく、解釈に時間を使えるようになった。
- 他の人のために、手軽に使える仕組みをつくる。スーパーユーザーは、エージェントやプロンプト、ワークフローをチームメイトと共有し、自分のやり方をオープンに実演し、相手の働き方に合わせてAIの使い方を調整する。周囲が行き詰まったときに頼りにされる「AI推進役」になっていく。アトラシアンの採用部門のあるスーパーユーザーは、AIを思考パートナーとして活用し、採用パイプラインの健全性を可視化するスコアカードを設計した。以前はポジションごとにスプレッドシートを個別に作っていたが、今ではこのスコアカードを組織全体のマネージャーが再利用している。
- 考えている途中の姿を見せることをためらわない。スーパーユーザーは完成品だけを見せるのではない。そこに至るまでの間違った方向、行き止まり、軌道修正のプロセスごと見せる。うまくいかなかったことと、その理由を説明することで、学びを周囲に伝え、他の人がより安心して試行錯誤できるようにしている。
- 「初稿」と「完成」を混同しない。スーパーユーザーはAIを使ってスピードを上げるが、最初の出力をそのまま事実として扱うことは決してない。抜け漏れ、誤り、トーンのずれがないかを確認し、「これはAIの粗い出力」「これは本番品質」と明確に区別する。経験の浅いユーザーならそのまま出してしまいかねないAIスロップ(質の低い粗製コンテンツ)を見抜いて削除し、最終判断の責任を自ら引き受ける。
- 意外な役割、意外なレベルの人が担っている。スーパーユーザーは技術職やAI専門職に偏っているわけではなく、その場で最も上位の役職者とも限らない。新しいツールを自分で学ぶことを楽しみ、「仕事の進め方を変えられないか」と試行錯誤する、好奇心旺盛な問題解決者だ。その多くは、チームやプロセスをつなぐ「つなぎ役」のポジションにいる。専門性の高い同僚が見落としがちな、業務全体を貫く課題が見える場所だ。
採用で重視すべき3つの資質
これらの行動パターンの根底には、3つの資質がある。誰が組織のAIスーパーユーザーになるかを見極めるうえで、予測力を持つと私たちが考えるようになったものだ。
- 課題発見型の実践力。AIスーパーユーザーは、チームの業務に繰り返し生じる摩擦に気づき、「これ、AIでなくせないか?」と問いかける。完璧なAIプログラムや完璧なデータを待つのではなく、小さく具体的な実験をまず走らせる。
- 抱え込まず、共有する志向。うまくいく方法を見つけたとき、最初の衝動は「人に教えること」だ。個人的なAI活用の成果を、共有できる手順書やデモ、テンプレートに変換し、自分の役割を超えてインパクトを広げていく。
- 不完全さを受け入れる力。AIが正しいとは期待していないし、最初の回答を唯一の答えとも思わない。出力をふるいにかけ、押し返し、さらに求める。AIと対話を重ねながら、別の角度やより良い選択肢を引き出していく。不完全な出力を最終結論ではなく素材として扱い、自分と同じように他の人が人前で学ぶことも安全だと感じられる空気をつくる。
AI人材の採用や育成を考えるなら、これらはツールの操作スキルや資格よりもはるかに有用なシグナルだ。ツールは四半期ごとに変わる。だが、これらの資質は変わらない。
今四半期に実践してほしい3つのこと
- WAUを取締役会に報告するのをやめよう。代わりに、職種ごとに設定したパーセンタイルベースの定義に切り替える。営業チームと法務チームが同じ基準を共有すべきではない。
- AIとの思考途中を見せても安全な環境をつくろう。仕事を変革する社員とは、粗い下書きを見せ、AIの出力を採用した理由・却下した理由を言語化し、早い段階でフィードバックを求められる人だ。そうした文化は、リーダーシップの選択によって生まれる。
- スーパーユーザーを見つけ、彼らを研究しよう。称賛するためだけではない。他の社員がまだやっていないことの中身を学ぶためだ。AIツールの操作スキルではなく、そうした「行動」を基準に採用し、育成しよう。
アトラシアンでは、AIスーパーユーザーの定義を18か月で3回変えてきた。そして来年に向けて、次の見直しを進めている。完璧な指標にたどり着くことが目的ではない。問いをより鋭く研ぎ澄まし続けること、そしてその答えを軸に人材戦略を組み立てていくことが目的だ。

