アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのカット・ブーガード(Kat Boogaard)が、意思決定プロセスを効果的にする方策について説く。

本稿の要約を10秒で

  • ビジネス上の重要な意思決定は偶然や直感だけを頼りに下すべきものではない。
  • 重要な意思決定は、問題点を特定してとるべき選択肢を入念に検討し、客観的なデータにもとづいて下さなければならない。
  • 本稿では、そうした意思決定を下すための7つのステップを紹介する。

偶然に頼らない意思決定のステップ

「コインを投げる」「ダーツをボードに投げる」など、意思決定の方法はさまざまにある。ただし、そうした方法の多くは偶然に依存したもので、分析や戦略的な思考にもとづくものではない。言うまでもなく、ビジネスにおける勝負ごとは、偶然に頼ることはできない。例えば、プロのハスラーやチェスのプレイヤーのように、問題点を特定して選択肢を検討し、客観的なデータにもとづいた判断を下す必要がある。以下では、そのための7つのステップと、それぞれの実践方法、ならびに注意すべき事柄を紹介する。

ステップ① 決定すべき事柄を明確にする

意思決定における最初のステップは、決定すべき事柄の全体像を把握することだ。「解決しようとしている問題は何なのか」「達成しようとしている目標は何か」を明確にすることが、意思決定プロセスの起点となる。

【実践方法】

  • 「5 つの Why 分析」 *1 を用いて問題の根本原因を理解する。
  • 「問題のフレーミング」 *2 を試み、チームが解決しようとしている問題の詳細を掘り下げる(ここでのポイントは、問題を定義することであり、解決することではない)。

【注意すべき事柄】決断疲れ(ディシジョン ファティーグ)
「決断疲れ(ディシジョン ファティーグ) *3 」とは、意思決定を過度に行うことで精神的に疲労し、判断力が低下することを指す。「選択」という行為は精神的な負荷がかかる *4 。ゆえに、1度に複数の決定を行おうとせず、1つの決定に集中することが有効である。

ステップ② 情報を収集する

チームには大抵の場合、物事に関するいくつかの推測や仮説がある。ただし、そうした推測や仮説は、意思決定を間違った方向へと導く衝動的な反応を招きかねない。意思決定を行う際には、入念な情報の収集・調査が必要とされる。

この情報収集のステップは、いわば論拠を構築するフェーズといえる。ここで収集すべき情報は、例えば、公的な統計データや自社の顧客事例、過去のプロジェクト情報、顧客からのフィードバックなど、意思決定に関係するもなら何でも良い。そうした客観的な情報に基づきながら、意思決定を行うことが大切なのである。

【実践方法】

  • チームで「マインドマッピング」 *5 のためのセッションを催し、アイデアを探索し、それらを結びつける。これにより、意思決定プロセスを支える有効な情報が何かを特定することが可能となる。
  • 「プロジェクトポスター」 *6 を作成して目標を定義するとともに、すでに把握している情報と、まだ収集が必要な情報を明確にする。

【注意すべき事柄】情報バイアス
「情報バイアス」 *7 とは、意思決定に影響しない不必要な情報までを収集しようとする偏った行動を指す。情報は多ければ多いほど良いと考えがちだが、意思決定に使えない事実や洞察を大量に集めたところで、判断を鈍らせるだけとなる。

ステップ③ 選択肢を特定する

意思決定はしばしば二者択一のように感じられる。だが、現実の物事はそれほど単純ではなく、意思決定における選択肢は複数あるのが通常だ。ゆえに、意思決定のプロセスにおいては、ブレインストーミング *8 をチームで実施し、各人が創造性を発揮しながら、あらゆる道筋や解決策を考え抜くことが大切となる。

【実践方法】

  • 「シックスハット法(6つの帽子思考法)」 *9 を用いて、問題や目標をあらゆる側面から探求する。この思考法によって、チームの問題や目標を「事実(情報)」「感情」「直感」「リスク」「利益(ベネフィット)」「創造性」といった切り口からとらえることで、意思決定にかかわる各人は、普段の役割や思考パターンから離れ、より自由に考えられるようになる。
  • 「ブレインライティング」 *10 を試してみる。これは、チームメンバー各人がそれぞれのアイデアを書き出し、共有する方法だ。ある研究によれば、ブレインライティングにおける個人的な思考の時間は「心理的安全性を高める」 *11 、「より創造的な提案を生み出す」 *12 といった効果があるという。

【注意すべき事柄】集団思考
「集団思考(グループシンク)」 *13 とは、チームのような集団が同調を優先し、不適切な決定を下してしまう傾向を指す。集団の中で「波風を立たせる」のを恐れていると、人々は意見を言わなくなる。

ステップ④ 証拠・根拠を検討する

このステップは、選択肢のリストを手に、どの案が追求する価値があるかを精査するフェーズである。このステップにおいてチームは「この策は、問題をどのように解決するのか」「この選択肢の長所と短所は何か」を突き詰めていく必要がある。

これは自問のプロセスともいえるが、問いかけへの回答は正直でなければならず、可能であれば、収集した情報による裏づけがあることが望ましい。

加えて、チームのリーダーは、このステップの目的が「自分の提案を採用してもらうことではなく、選択肢を絞り込んで最善の決定を下すことにある」という点をメンバー全員に再認識させなければならない。

【実施方法】

  • 「SWOT分析」のテンプレート *14 などを使い、検討している選択肢の「強み」「弱み」「機会」「脅威」を掘り下げる。
  • 「プロジェクトのトレードオフ分析」 *15 を実施し、必要に応じてチームが最も譲歩しやすい制約(時間、範囲、コストなど)を把握する。

【注意すべき事柄】本能による絶滅
ここでいう「本能による絶滅」とは、「とにかく意思決定のプロセスを終わらせたい」という衝動によって決断を早めてしまうことを指す。この決断では「まあまあ良い選択肢」を選んでプロセスを終わらせてしまうのが通常だ。だが、ビジネス上の重要な意思決定においては、そのような妥協は許されないのである。

ステップ⑤ 選択肢を選り抜く

このステップは、意思決定プロセスの中で最も重要な作業となる。このステップにおいては、検討してきた選択肢の中から1つを選ぶだけではなく、提案された解決策を修正したり、複数を組み合わせたりして、最適な道筋を見出すことが大切である。

【実践方法】

  • 「DACI意思決定フレームワーク」 *16 を使って、最終的な意思決定権を持つ人を明確にする。このフレームワークは、意思決定プロセスにおける関係者の役割を定義するためのものだ。DACIは、意思決定プロセスにおける「Driver (推進役)」「Approver (承認者)」「Contributors(貢献者)」「Informed(報告先)」の頭文字をとった言葉である。いずれにせよ、意思決定プロセスは協働的でも構わないが、誰かが最終判断を下す権限を持つ必要がある。
  • より民主的な意思決定を行いたい場合には、単純な投票方式を採用し、チームの投票を集計して多数決に従うと良い。

【注意すべき事柄】分析麻痺(アナリシス パラリシス)
「分析麻痺(アナリシス パラリシス)」 *17 とは、自分たちの選択に完璧さを求めるあまり、物事を過剰に考えすぎてしまい、最終的な決断を下す際に思考が凍りついてしまう状態を指している。

ステップ⑥ 実行に移す

大きな決断を下すのは、相当の手間と労力が必要とされる仕事だ。とはいえ、その作業は意思決定プロセスにおける最初の段階にすぎない。意思決定を下したのちには、それを実際の行動に移すことが必須となる。

これは当然のことといえるが、人々は、意思決定を下しただけであとは物事が自動的に進むと考えがちだ。しかし実際にはそうではなく、特に会社組織で働くチームの場合、決定事項を関係者(ステークホルダー)全員に明確に伝えて実行のプランニングを立て、遂行につなげていくことが大切になる。

【実践方法】

  • 「関係者のコミュニケーション計画」 *18 を策定し、チームのメンバーや会社のリーダー層、顧客といった関係者全員に決定事項を伝え、その進捗状況をどのように共有するかを明確にする。
  • 決定事項の「目標、シグナル、指標」 *19 を明確に定義する。これにより、チームを次のステップに結束させやすく、施策の成否の判断も容易になる。

【注意すべき事柄】自己不信
ここでいう「自己不信」とは、自分たちの判断に自信が持てない状態を指している。実のところ、人間は「すべての物事を疑うようにプログラムされている」 *20 。だが、意思決定を下したときは、その決定に疑念を抱くタイミングではない。自分たちの決断を信じ、前に突き進むことが大切なのである。

ステップ⑦ 意思決定の成果を振り返る

決定事項を実行に移し、結果が出始めた際には、その振り返りを行い、効果を検証することが大切である。

その振り返りを通じて、自分たちが選んだ施策は「期待どおりに機能したのか」「その遂行によって何が起きたのか」「施策を遂行して良かった点は何か、悪かった点は何か」を入念に検証することをお勧めしたい。そのうえで、のちの意思決定に向けた教訓として、何を心にとどめておくべきかを決めることも忘れてはならない。

【実践方法】

  • 「4 Lの振り返り」 *21 を行う。これは、チームが選び、遂行した施策について、自分たちが「愛したもの(Loved)」「嫌ったもの」(Loathed)」「切望したもの(Longed)」「学んだもの(Learned)」について話し合う振り返りの手法である。
  • 意思決定がもたらした成功を祝う。たとえそれが小さな成功であっても、それを祝うことは、チームの士気を高め、将来の決断への恐れをなくす効果が期待できる *22

【注意すべき事柄】 後知恵バイアス
「後知恵バイアス(ハインドサイト バイアス)」 *23 とは、現在の知識で過去を振り返り、当時それを知らなかったことを悔やむ心理現象を指している。とるべき施策を慎重に考え抜き、計画を立てたとしても、それが成功につながらないことは必ずある。それを現在の知識をもとに悔いても意味はない。意思決定では、そのときに存在する情報しか活用できないのである。

意思決定プロセスを賢く選ぶ

以上の記述から、多くの人が「意思決定プロセスは、かなり包括的で工数のかかる作業である」という点に気づかれたはずである。

もちろん、すべての意思決定に対して、上で触れたステップを適用する必要はない。例えば、ランチミーティングの場所をどこにするかなど、チーム内で下す些細な決定に、以上に示した7つのステップを適用するのは過剰だ。とはいえ、チームがこれから優先すべき主要なプロジェクトをどれにするかといった重要な決定を下す際には、以上に示したようなステップを踏むことが必要になる。

結局のところ、意思決定を下す際にどのようなプロセスを採用するかは「満足志向と最大化志向」 *24 という2つの異なる志向によるところとなる。

このうち「最大化志向」とは、意思決定によって最高の結果を得ようとすることを指している。一方の「満足志向」は、最高の結果に固執せず、相応の満足感が得られればそれで良いという考え方を意味している。この2つの考え方に優劣はなく、それぞれに適した場面がある。

例えば、会社の収益や顧客満足度に相当の影響を及ぼす重大な意思決定を下すうえでは、相当のこだわりや完璧主義が求められる。しかし、チーム内で些細な選択を行う際に、あれこれ迷うのは、メンバー各人のストレスやフラストレーションを増大させ、作業を遅らせるだけとなる。

このように、意思決定にどれほどの熟考、あるいは緻密さが要求されるかは、その決定が及ぼす影響にもとづいて判断すべき事柄といえる。

意思決定には「アート」と「科学」の両面がある。何らかの決断を下す際には「直感」も大切にしなければならないし、一方で、十分な根拠や評価、そして協働も必要とされる。意思決定プロセスは、ある意味で、これらの要素のバランスを取るための手順ともいえる。そして、本稿に示した7つのステップに沿って意思決定のプロセスを進めれば、チームのリーダーとメンバーは、少なくとも、自分たちの下した決定に自信が持てるようになるのである。

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