アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのKelli María Korduckiが、人とAIの協働に関する最新の知見 ─ チームで成果を上げるためのヒントを説く。
WORK LIFEでは、AIに関する重要なニュースや注目すべきポイントを毎月お届けしている。人工知能の進化が加速する今、最新動向を押さえ、これからの変化に備えるための情報源として活用してほしい。
本稿の要約を10秒で
- AIは経営層や研究開発の現場で導入が進み、効率化だけでなくリーダーシップやイノベーションの強化にも寄与している。
- 生成AIの活用により、中小企業でも大企業と同じ土俵で競争できる環境が整いつつある。
- AIを日常業務や意思決定、R&Dプロセスに取り入れることで、組織や個人の成長が加速する。
AIが経営層にもたらすイノベーション
創業者やCEOといった経営層は、組織内で生成AIを積極的に導入してきた。その背景には、さまざまな業務を自動化することで生産性を最大化できるという技術への期待がある。しかし今、多くの経営幹部たちは、AIが単なる業務効率化の手段にとどまらず、自らのリーダーシップをさらに高める強力なツールとなり得ることに気づき始めている。
経営トップがAIアシスタントを積極活用
IBMが実施した2,000人のグローバルCEOを対象とした調査 *1 によれば、経営層の61%が自らの業務にAIエージェントを導入しており、今後は組織全体への大規模な展開を見据えて準備を進めている。
たとえば、Weber Shandwick North AmericaのCEOであるジム・オレアリーは、AIを活用して自分自身の業務を「拡張」している *2 。オレアリーはFast Companyの取材で、「自分の文体でコミュニケーション文書をAIに下書きさせたり、業務フローを効率化したりすることで、毎日1~2時間の時間を節約できている」と語っている。
同様に、Nvidiaのジェンスン・フアンは、AIを「家庭教師」として活用し、新しい知識やスキルの習得に役立てていると報告している *3 。 また、Appleのティム・クックCEOは、長文のメールをAIで要約させているという。
さらに一歩進んで、未来学者のマイケル・チョンは、AIが「共同CEO(co-CEO)」として活躍する時代が近い将来訪れる可能性を指摘している。チョンは、過去40年にわたりテクノロジーとビジネスの関係を分析してきた専門家であり、Business Insiderのインタビューで「AIアシスタントを使いこなせない経営者は、今後“企業経営力が不足している”と見なされるかもしれない」と述べている *4 。
実際、一部の企業ではAIを搭載した「AI CEO」 *5 の実験も始まっているが、現時点の研究では、人間のリーダーがAIよりも優れた成果を上げていることが示されている。
AIがリーダーシップの進化を後押しする“共創パートナー”に
AIが経営層のコミュニケーションやデータ分析、組織戦略の立案といったリーダーシップの業務を担うようになるにつれ、CEOたちは日々の業務の進め方や、短期・長期の優先事項の設計を根本から見直す必要がある。
これからは、真に価値あるイノベーションを生み出すために、戦略的な目標設定や大局的な視点に一層集中することが重要となる。言い換えれば、リーダーには「人間らしさ」を発揮したマネジメントがこれまで以上に求められる時代が到来している。
実践例
- まずは、日々の業務を支えるAIツールを一つ導入する。 セキュリティ面でも信頼できるツールを一つ選び、長文スレッドの要約やリアルタイムの議事録作成、チーム向けのアップデート文案作成など、繰り返し発生する業務に活用する。
- 意思決定は「1ページ要約」でスピードアップ。 重要な意思決定の際には、AIを使って選択肢・リスク・推奨事項を1ページにまとめたブリーフを作成し、判断を迅速化する。
- 小さく始めて、うまくいけば拡大する。まずは30日間など短期間でAIを活用した経営ワークフローの効率化を試す。効果があったプロセスは継続し、チームにも展開する。一方、うまくいかなかったものは潔くやめる。
AIが変革する研究開発の現場
業界を問わず、パッケージ食品 *6 から製薬 *7 まで、さまざまな企業がAIを活用し、研究開発(R&D)にかかる期間を大幅に短縮しようとしている *8 。実際、AIによって従来数年かかっていたR&Dプロセスが劇的に短縮されている事例も増えている。
経済的なインパクトも非常に大きい。マッキンゼーの最新レポート *9 によれば、AIはR&Dのスピードを2倍に高め、年間で最大5,000億ドル(約75兆円)もの価値を新たに生み出す可能性があると予測されている。
AIによる洞察をイノベーションへとつなげる
生成AIは組織の効率化ツールとして語られることが多いが、マッキンゼーはこの技術がイノベーションを生み出す強力な手段にもなり得ると指摘している。情報集約型の作業をAIが担い、知識の統合を加速することで、チームは新しいアイデアをより迅速に生み出せるようになる。
また、AIはデジタル上で新製品や新プロセスの効果を予測する“仮想モデル”を作成できるため、実際に試作品を作って検証する手間を省くことも可能だ。
こうしたマッキンゼーの見解を裏付ける個別事例も出てきている。サンフランシスコ連邦準備銀行が主催したラウンドテーブルでは、複数の経営者が「すでに生成AIを使って顧客インサイトを分析し、より迅速に製品ソリューションを特定できている」と発言している *10 。
同様に、マーケティング戦略・調査会社GBK Collectiveの新たな調査 *11 によれば、市場調査担当者の約半数がすでにAIを活用してインタビュー記録や消費者データを分析し、より良い意思決定を迅速に行うための基盤を築いていることが明らかになった。
イノベーションの競争環境がより公平になる
生成AIの時代においては、従来のR&Dにおける「アイデアの枯渇」や「高額な検証コスト」といったボトルネックが、もはやイノベーションの障壁とはならなくなってきている。
この変化は、あらゆる規模の企業にとって朗報であるが、特に限られたR&D予算で広い市場に挑戦しようとする中小企業にとっては、大きな追い風となる。
実践例
- アイデアの入口を広げる。 AIを活用して論文や顧客の反応、過去の実験データを幅広く収集・分析し、短時間で多様な選択肢をブレインストーミングする。
- まずは画面上で検証し、実験室はその後に使う。 シミュレーションやAIが設計したテストプランを活用し、一定の基準を満たしたアイデアだけを実際に試作・実験する。
- 成果を測定し、知的財産を守る。 最初のプロトタイプまでの期間、実験ごとのコスト、成功率などを記録・管理する。また、AIに入力した情報やAIが出力した内容、日付やリンクも必ず記録しておく。これにより、監査や知的財産の証明が必要な際に、成果が正当なプロセスと承認された情報源から生まれたことを示すことができる。
AIの進化は、リーダーシップや研究開発の現場に新たな可能性をもたらしている。効率化だけでなく、創造性や戦略性といった人間ならではの強みを引き出すパートナーとして、AIは今後ますます重要な役割を担うだろう。
変化のスピードが加速する時代において、AIを柔軟に取り入れ、自らの強みと組み合わせていくことが、組織や個人の持続的な成長につながる。
出典:
*1: IBM Study: CEOs Double Down on AI While Navigating Enterprise Hurdles
*2: How one CEO used AI to scale himself
*3: Nvidia’s Jensen Huang
*4: Sorry, CEOs. This futurist predicts AI bots are coming for the C-suite.
*5: AI CEOs: Genius or Gimmick? The Truth About Algorithmic Leadership
*6: How AI is Disrupting Food Innovation – Here’s Why You Should be Paying Attention
*7: AI needs human partners to elevate its work – and keep it in check
*8: AI business impact: Microsoft AI use cases
*9: The next innovation revolution—powered by AI
*10: Roundtable on AI and Product Development
*11: How Gen AI Is Transforming Market Research