アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのニコール・ビテッテ(Nicole Bitette)が、季節の変化が生産性に与える影響について説く。

本稿の要約を10秒で

  • 季節や天候の変化は人間の気分や集中力、エネルギーに影響を与える。
  • 太陽光の減少(日照時間)が短い冬場では「うつ病」の一種である「季節性感情障害(Seasonal Affective Disorder:SAD)」にかかるリスクが高まる。
  • 冬をポジティブにとらえる人は、SADのリスクを回避し、冬場でも仕事に対するモチベーションを保てる。
  • 季節に合わせて働く環境やスケジュールを調整することで、従業員、ないしは自分自身の生産性を維持・向上させることが可能となる。

季節ごとの心理状態と生産性

私たちの中には、冬を好む人もいれば、夏場に活気づく人もいる。いずれの場合でも、季節の変化には、人間の「気分」を変化させる力がある。また、季節や天候による日照時間や気温の変化は、人間の気分を変化させるだけではなく、幸せホルモンとされる「セロトニン」の分泌量から睡眠のサイクルに至るまで、人間のモチベーションや集中力を変化させるさまざまな要素に影響を与える。それは以下のようなかたちである。

■太陽光とセロトニン
太陽光は、セロトニンの分泌に影響を与える。例えば、日照時間の短い冬場には、セロトニンの分泌量が減少し、睡眠サイクルも乱れる。これにより、心身の疲労や脳に霧がかかったような「ブレインフォグ」の状態が引き起こされる。結果として、気だるさやモチベーションの低下を感じがちになる。

■気温とエネルギー
気温は、人間のエネルギーレベルに大きな影響を与える。この点について、組織における従業員のウェルビーイング(心身の健康)や生産性を向上させるウェルネスプログラムのプロバイダー、Wellness Workdays社(参考文書(英語))のCEO、デブラ・ワイン(Debra Wein)氏は次のように述べている(参考文書(英語))。

「冬場の寒さは身体の活動を低下させ、夏場の暑さは、脱水症状や精神的疲労につながります。また、雨の日は、憂鬱な気分になりがちですが、太陽光のように屋外で気が散る要素が少ないため、集中力が高められる傾向があります。人間のエネルギーレベルは通常、冬場に落ち込み、夏場にピークになりますが、日照時間の長短や気温の変化は、身体的・精神的な生産性にさまざまな影響を及ぼすのです」

■季節性感情障害(Seasonal Affective Disorder:SAD)
季節的な心身状態の変化は「季節性感情障害(Seasonal Affective Disorder:SAD)」と呼ばれる心の病(やまい)に起因していることもある。

SADは、太陽光の減少(=日照時間の減少)によって引き起こされる「うつ病」の一種だ。この病気にかかると、気分の低下や集中力の低下、生産活動からの逃避行動(引きこもり)などが引き起こされる。

この病について臨床心理学者のケリー・ローハン(Kelly Rohan)博士はアメリカ心理学会(American Psychological Association:APA)が運営するポッドキャストの中で次のような説明を加えている。

「日照時間が短くなると、私たちはエネルギーの調整がうまくとれなくなります。ゆえに、日照時間の短い冬場は、モチベーションや集中力が低下しがちになるのです」

ちなみに、ローハン博士は、SADの治療法として「認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy for SAD:CBT-SAD)」と呼ばれる治療法を開発し、提唱している。これは、冬場を「休息」や「内省」、あるいは「通常とは異なる種類の生産」を促進する機会としてとらえなおすという治療法だ。

ローハン博士と同じように、心理学者のカリ・ライボウィッツ(Kari Leibowitz)博士も冬場をポジティブのとらえることを提唱している。同博士は著書「How to Winter」(参考文書(英語))の中で、冬をポジティブにとらえ、適切な過ごし方を心得ている人たちは、冬場が暗くて長いノルウェー スヴァールバル諸島で暮らす中でも、人生に対する幸福感と満足度が高いと指摘している。また、そうした人たちは、厳しい冬に抗(あらが)うのではなく、心を穏やかにして集中力を高める機会として受け入れているという。

このように季節的な問題との向き合い方を変えることで、SADのリスクが強まる冬場も、自身の集中と再生を促す時期としてポジティブにとらえなおすことが可能になる(*1)。

*1 注意:筆者はメンタルヘルスの専門家ではない。SADに悩む方は、医師に相談されたい。

性格と季節との関係性

以上のように、季節による日照時間や気温の変動は、人間の感情や思考、そして仕事、あるいは生産性に影響を与える。また、人間の性格的な特性によって、特定の季節に活躍できる人とそうでない人に分かれる。つまり、ある人にとっては、冬場は集中できて活躍できる環境であり、ある人にとっては夏場の晴れた日が、モチベーションを高めるきっかけになるということだ。そうした人ごとの違いについて以下に示す。

■冬に活躍できる人=内向的な人
内向的な人は「自分の働き方には冬が適している」と感じることが多いようだ。

というのも、冬場は社交的な行事が少なく、静かな環境であり、かつ、仕事のペースを落とすことが可能な季節だからだ。こうした季節は、深く集中して仕事に取り組むのに理想的な環境といえる。

ちなみに人事管理ソリューションのプロバイダーであるカナダのThe HR Agency社によると、内向的な人は、深い集中力や慎重な意思決定が必要なタスクに優れているという(参考文書(英語))。冬はそのようなタスクをこなすのに適した季節だ。この時期は、過度の刺激や社会的圧力も少なくなり、内向的な人の働き方を自然にサポートしてくれる。

前出のワイン氏は「内向的な人は、冬場における静かで孤独な環境で力を発揮する傾向があります。そして、他の季節よりも冬場のほうが、深い思考や戦略的な計画が必要とされるタスクを効率的にこなせることが多いといえます」と指摘し、こうも続ける。

「そして、冬場における居心地の良い自宅(ホームオフィス)や温かい照明、同僚たちや近隣との付き合いといった社会的義務の減少が、内向的な人がエネルギーを充電し、最高の成果を生み出すことを可能にします」

■夏に活躍できる人=外交的な人
一方、外向的な人は、夏場に活気づく傾向がある。長い日照時間、屋外での活動、社交的な交流が、彼らを活気づけるからだ。また、夏場に催される社交イベントは外交的な人たちのアイデアを刺激し、創造性を高める効果が期待できる。

ワイン氏は「大抵の人は、外出をしたいと考えますが、性格によって気が散る原因にも、活力を与える原因にもなりえます」と指摘する。

また、屋外でのチームビルディングやカジュアルなブレインストーミング、あるいはウォーキングミーティングなども、外向的な人が集中力を維持し、生産性を高めるのに役立つ。

季節ごとの生産性をマネージする方策

先に触れたSADにはならないまでも、特定の季節にスランプに陥ることがある。そうした事態を回避するためのマネジメント手法を「企業向け」と「個人向け」の2つにわけて紹介したい。

■企業向け
企業は、職場における働き方のルールや環境を季節ごとに調整することで、従業員らの生産性を維持・向上させることが可能になる。例えば、冬場用としてリモートワークの選択肢やシフト制を導入したり、明るく快適なワークスペースを整備したりすると良いだろう。スポーツジムや昼休みの有効活用を促進するのも良策だ。

一方の夏場には、季節の自然なエネルギーを活用し、屋外でのミーティングをスケジュールしたり、「サマーフライデー」のような柔軟な勤務時間を導入したりするのが適切といえる。

英国の人材会社ABL Recruitment社によると、季節ごとの人間のエネルギーパターンに合わせてワークフローを調整した企業では、全体的な生産性が最大 15% 向上しているという(参考文書(英語))。このワークフロー調整には「レポート作成」や「予算編成」「長期計画」など、データ分析などが必要とされるタスクを冬にスケジュールし、夏場に協働や創造的な取り組みをスケジューリングすることなどが含まれている。

■個人向け
季節に合わせて働く環境や働き方に小さな変更を加えることで、より効率的に働けるようになる。冬場では、例えば、光療法や運動休憩、快適な作業スペースが、だるさを解消するのに有効だ。また、夏には、朝の早い時間に集中して仕事ができる時間を確保し、短い屋外休憩を取ってリフレッシュし、水分補給などを心がける。

繰り返しになるが、季節や天候の変化は、私たちのエネルギーや集中力、生産性に影響を与える。したがって、季節ごとの特性に合わせて働く環境やスケジュール、期待値を調整したり、性格タイプごとに活躍できる季節が異なることを認識したりすることが大切だ。そうすることで、個人や組織が一年中、生産性を維持することが可能になる。

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