アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのマイク・デ・ソシオ(Mike De Socio)が、職場で「燃え尽き症候群(バーンアウト)」が蔓延するのを防ぐための方策を説く。

本稿の要約を10秒で

  • 「燃え尽き症候群(バーンアウト)」は、就労者個々人の問題ではなく、職場のシステムを含めた全体の問題としてとらえるべきである。
  • これまでのバーンアウトの研究は、個人的な対策に焦点を絞っており、それでは問題の抜本解決にはつながらない。
  • 職場でのバーンアウトのリスクを低減させるには、組織におけるシステム上の問題と、個人の問題を併せて解決する必要がある。

「燃え尽き症候群(バーンアウト)」は個人の問題にあらず

組織で働く従業員が「燃え尽き症候群(以下、バーンアウト)」に陥るというのは古くからある問題だ。ただし、それが大きく注目されるようになったのは比較的最近のことだ。より具体的には、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の流行がピーク(参考文書(英語))に達し、ビジネスパーソンのストレスが増大してバーンアウトに陥る人たちが急増したことで、バーンアウトに対する関心、注目度が一気に高まった。

以来、組織内の個人がバーンアウトを克服する方法(参考文書(英語))について、さまざまなアドバイスが提示・提案されてきた。ただ、バーンアウトに対抗するうえでは、個々人がその対処方法を知るだけでは不十分である。それには、この病気を誘発する職場の文化を改善しなければならず、そのことに対する認識も深まりつつある。また、バーンアウトは、「うつ病」と一部症状が重なるがゆえに、うつ病の治療法に対する注目度も高まっている。とはいえ、それが常に効果的であるわけではない。

この点に関して、米国エモリー大学の准教授で臨床精神科医のイーラン・タン(Yi-lang Tang)氏はこう指摘している。

「私たち常に自身のバーンアウトを防ぐための専門知識を身につけようとやっきになります。しかしそれは、自身の視野を狭めてしまうことにつながるのです」

誰もが伝統的なストレス解消法から恩恵を受けることはできる。ただし、仮にあなたが組織・チームのリーダーであり、従業員たちのバーンアウトに抗うためのより効果的な対策を講じたいのであれば、自身の視座を上げて働く環境を俯瞰し、バーンアウトの根本原因を特定して取り除くことが必要とされるといえる。

何をもってバーンアウトと診断するのか

多くのメンタルヘルス問題には明確な診断基準がある。実際、うつ病にも標準化された定義があり、診断は比較的簡単だ。一方で、バーンアウトの診断はそれほど簡単ではない。例えば、バーンアウト診断のために使われる一般的な測定ツール(尺度)の1つに「マラスラック バーンアウト インベントリ(Maslach Burnout Inventory:MBI)」(参考文書(英語))がある。

この尺度の開発者である心理学者のクリスティーナ・マスラック(Christina Maslach)博士と、バーンアウトの研究者であるミカエル・P・ライター(Michael P. Leiter)氏によれば、バーンアウトは以下の3つの主要な要素があるという。

①エネルギーの消耗や疲労感
②仕事と自分との精神的な距離の拡大、ないしは仕事に対する否定的な感情やシニカルな感情
③プロフェッショナルとしての有効性の低下

このMBIは、バーンアウト診断に広く使われている。ただし、学術界ではMBI外にもバーンアウトを測定するための多様な基準が存在し、使用されている。実際、2018年に公表された調査レポート(参考文書(英語))によって、ほとんどのバーンアウト研究でMBIが使われているものの、バーンアウトの基準に関して142個もの独自定義が存在していることが明らかにされている。

米国ニューヨーク市立大学(CUNY)の名誉教授イルビン・サム・ショーンフェルド(Irvin Sam Schonfeld)氏と、氏と共同で書籍「Breaking Point: Job Stress, Occupational Depression, and the Myth of Burnout.」を記した共同研究者のレンゾ・ビアンチ(Renzo Bianchi)氏は、バーンアウトについて他とは少し異なる見解を示している。

両氏の研究によると、バーンアウトにおける感情的消耗の要素は、うつ病の症状と強い相関関係があるという。そして、ショーンフェルド氏は、それこそがバーンアウトの核心であると主張している。

これは、バーンアウトとうつ病が同じものだという意味ではなく、両者に大きな重なりがあるということだ。ショーンフェルド氏は、両者の関係性は無視できないほど強く、ゆえに職場でのバーンアウトの予防・治療の仕方にも影響を与える可能性があるとしている。

これまでの研究の偏り

バーンアウトに対処するための術(すべ)として、私たちは「仕事とプライベートとの境界線を明確に定める」「瞑想の習慣を身につける」といった施策を想起しがちだ。このとき、見過ごしやすいのは、バーンアウトを引き起こす、組織のシステム上の問題だ。前出のタン氏は、こうした要因が見過ごされやすいのは、バーンアウトの研究に偏りがあるからだと指摘している。

「バーンアウトの研究は、ほとんどが個人と、その個人がどう対処するかに焦点を絞ってきました。ただし、それだけでは不十分で、バーンアウトの研究は組織のシステム上の問題も考慮に入れるべきです」

この点については、ショーンフェルド氏も同意見だ。同氏は「従業員たちのバーンアウトの全体像を俯瞰してとらえると、その要因が、うつ病の症状を引き起こす要因と同じく、毒性のある労働条件の産物であることがわかります」とする。

さらにタン氏は、最近のバーンアウト研究を要約した記事(参考文書(英語))のなかでこう述べている。

「過重の業務量やリソースの不足、組織と従業員との価値観の不一致といった問題に対処することで、組織は、従業員の職務上のストレスを大幅に低減させられる可能性があります」

組織がなすべきこと

仮に企業が従業員に対して長時間、ないしは過密なシフトを割り当てているとすれば、彼らの身体的・精神的な疲労は相当のレベルに達するはずだ。このような過重労働によるバーンアウトのリスクを低減させるためには、企業組織の経営陣やチームのリーダーといったマネジメント層が率先して動き、従業員たちの勤務スケジュールを変更しなければならない(参考文書(英語))。

また、バーンアウトの要因となりうるシステム上の問題は、過重労働だけではない。 医療従事者のバーンアウトについて調査し、2024年に公表された、ある研究レポート(参考文書(英語))によれば、個人の価値観に反する状況や行動を余儀なくされると、道徳的・倫理的な心の傷「モラル インジャリー」を受けることになり、それが結果として従業員のバーンアウトにつながっていくという。

モラル インジャリーという精神的な苦痛は、組織によるコントロールを超えたところで生じる場合もある。上の研究によると、選挙で選ばれた指導者が医療を政治化したり、誤報を伝えたりすることも、従業員のモラル インジャリーを発生させることがあるようだ。そう考えれば、国際的な紛争や組織内の政治的な対立も、従業員の精神的なストレスやプレッシャーを膨らませ、バーンアウトを誘発する可能性があるといえる。実際、ウクライナの学術職員を対象とした、ある研究(参考文書(英語))では、同国の戦争が職員たちのバーンアウトの増加につながったことが示されている。

問題の抜本解決に向けた施策

コロナ禍によるストレスの増大は過去の話となったものの、米国の職場では依然としてバーンアウトが蔓延している。

アメリカ心理学会 (American Psychological Association: APA)が発表した2024年調査の報告書によれば、調査対象者の67%が「過去1カ月間において、仕事に対する興味や動機づけの欠如、エネルギーの低下、孤独感・孤立感、努力の欠如など、バーンアウトに関係する少なくとも1つの症状を経験した」と回答したという。

これを逆にとらえれば、米国の組織で働く多くの人たちが、バーンアウトへの組織の繊細で効果的な対抗策によって、相応の恩恵を受ける可能性があることになる。その可能性を追求する意味でも、企業の経営層やチームのリーダーは、従業員のバーンアウトを誘発しうるシステム上の問題を特定し、その解決を図ることが重要となる。

加えてタン氏は、組織的な支援と個人の行動とを組み合わせた「包括的な解決策」を提唱している。

このうち組織的な支援としては、従業員たちが相応の余裕をもって働けるような柔軟な勤務スケジュールを組むことが挙げられる。

また、従業員たちは、勤務時間外や休日に仕事から完全に離れることで、心身の疲労をとることができる(参考文書(英語))。したがって、組織のマネジメント層は、過度の業務量を減らすのはもとより、勤務時間外の仕事の連絡は(緊急時以外は)シャットアウトしても良いというルールを敷いたり、有給休暇の取得を積極的にバックアップしたりなど、従業員らのリフレッシュをサポートすると良いだろう。

加えて、組織のマネジメント層は、職場の方針や慣行を、従業員各人の価値観とすり合わせ、モラル インジャリーを避けるようにすることも忘れてはならない。

例えば、医療業界の場合、従業員たちの道徳的・倫理的な心の苦痛を引き起こす要因として「適切なケアを提供できないほど、多くの患者を割り当てられる」という点が挙げられるだろう(参考文書(英語))。そうした問題は、従業員たちが自身で納得のゆくケアを提供しうる患者数は1日何人程度なのかを調べ上げ、その結果にもとづいて必要な人員を補充すれば解決が図れる。

心身の健康を損なう前に

バーンアウトリスクの最小化に向けて、組織のシステムを大幅に変更するのは長期的な取り組みになるかもしれない。ただし、その実現に向けてシステム、ないしは労働条件の改善を図らない限り、バーンアウトによって優秀で真面目な人材を失うリスクは消えないのである。そのため、シェーンフェルド氏も「組織のマネジメント層にとって大切なのは、従業員たちの心身の健康が損なわれる前に手を差し伸べることです」と指摘している。

さらに、組織は、従業員たちの個人的なバーンアウト対策に投資することもできる。具体的には、資金的な支援のもと、従業員たちにストレス管理のトレーニングを受けさせたり、リラクゼーションワークショップを受講させたりするということだ。これにより、従業員各人は、職場で困難に直面しても、それに適切に対処・対応するためのスキルを身につけることができる。タン氏は「こうしたスキル獲得への支援は、従業員がストレスの多い状況を乗り越えるための回復力を養ううえで有効です」と説いている。

心理療法とバーンアウト

仮に、あなたがチームのリーダーとしよう。そして、あなたが率いているチームのなかに、すでに激しいバーンアウトに陥っているメンバーがいるとする。そうした人には、セラピストとの対話を通じて心の悩みや問題を解決していく「トークセラピー」といった伝統的な心理療法が有効な手段となりえる。

実際、ショーンフェルド氏も、伝統的な心理療法(職場外の専門家によるもの)は、追い詰められた従業員を支援する優れたツールになりえると述べている。特に、先に触れたとおり、バーンアウトはうつ病と共通する特徴がある。その点を勘案すると、トークセラピーにおける「認知行動療法」などの実績のある療法(参考文書(英語))は、個人がスランプから脱すのに役に立つはずである。

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