アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのトレーシー・ミドルトン(Tracy Middleton)が、体内時計の科学「クロノバイオロジー」を使って1日の仕事の進め方を適切に設計する方法について説く。

本稿の要約を10秒で

  • 「クロノバイオロジー」は、人間を含む生物の体内時計や、体内時計にもとづく生理的リズム「サーカディアンリズム」を研究する学術分野である。
  • クロノバイオロジーの研究により、人間には「夜型」「朝型」などの「クロノタイプ」が存在することがすでに証明されている。
  • 従業員各人のクロノタイプに適合した仕事のスケジューリングにより、それぞれの生産性やウェルビーイング(心身の健康)を良好に保つことが可能になる。

「クロノタイプ」と「クロノバイオロジー」

米国ではよく、朝早くに活動する「朝型」の人を「ヒバリ(Larks)」族と呼び、夜になると元気になる「夜型」の人たちを「フクロウ(Owls)」族と表現する。その表現の仕方はどうあれ、あなたはこのいずれかのタイプに属しているはずである。

こうした「朝型」「夜型」の分類は「クロノバイオロジー」でいうところの「クロノタイプ」(参考文書(英語))と呼ばれるものだ。クロノバイオロジーとは、生物の体内時計や、体内時計によって調整される「サーカディアンリズム(概日リズム)」などを研究対象にした科学である。サーカディアンリズムは、1日24時間における周期的な生理的リズムを意味しており、クロノタイプは、このリズムにもとづく個人の特性(=サーカディアンパーソナリティ)を指している。ちなみに、最近の研究(参考文書(英語))によると、人間のクロノタイプには「朝型」「夜型」以外にも「中間型」(=朝型に近いが、朝型よりも数時間遅く活動し始めるタイプ)など、いくつかのタイプが存在するという。

いずれにせよ、クロノバイオロジーは正当な学問である。2017年には、身体のサーカディアンリズムを制御する分子メカニズムを発見した3人の研究者にノーベル医学賞が授与されてもいる(参考文書(英語))。

クロノバイオロジーへの理解がなぜ重要なのか

クロノバイオロジーに関係した生物学的な研究によれば、私たち人間は夜に眠らないでいると「精神疾患」(参考文書(英語))や「糖尿病」(参考文書(英語))、「心臓病」(参考文書(英語))になるリスクが高くなるという。また、自分の体内時計と一致していない毎日のスケジュールは「精神的なパフォーマンスの低下」(参考文書(英語))や「判断力の低下」(参考文書(英語))につながる可能性がある。

一方で、就労者の多くはこれまで毎週5日間午前 9 時~午後 5 時(あるいは、それ以降)の時間帯で働くことを求められてきた。この勤務体系の問題点は(特に通勤に長い時間を要する場合)、多くの人たちの体内時計と一致しない(=つまりは、大抵の人間のサーカディアンリズムから逸脱するような)早起きを強いることだ。

この点について、米国コロラド大学ボルダー校の助教授で、同大学におけるサーカディアンリズム & 睡眠疫学研究所ディレクターのセリーヌ・ヴェッター(Céline Vetter)氏は「ニューヨークタイムズ」に寄稿した記事の中でこう指摘する。

「会社組織で働く従業員の実に80%が、人間本来の体内時計と一致しないスケジュールで働いている可能性があります」

また、ドイツにおけるクロノバイオロジー学者らの調査によれば、人間のネイティブなサーカディアンリズムに従って「深夜から午前8時ごろまで寝ている人」は(高校生・大学生を含む一般市民の)13%に過ぎない という(参考文書(英語))。また、同調査によると、「朝型」に類別される人は全体の26%程度でしかなく、46%は就寝時間が遅い「夜型」の人であるという。

とはいえ「早起きは三文の徳(The early bird catches the worm)」というのが、世の中の定説である。ゆえに、企業のマネジメント層も朝早く出社する従業員を勤勉であると見なし、遅く出社する従業員よりも良い業績評価を与えがちだ(参考文書(英語))。

そこに大きな問題があると指摘するのは、組織心理学者でイノベーションコンサルティング会社 Inventium社(参考文書(英語)) のCEO であるアマンダ・インバー(Amantha Imber)氏だ。書籍「Creating Your Most Productive Workday(毎日の仕事を最も生産的にする方法)」の著者でもある同氏は、この点について次のように述べている。

「職場は、働く各人のクロノタイプと働き方とをリンクさせるべきです。生物学的に、すべての人を同じ型にはめることはできません。そして、あなたも、働き手たちに精神的なパフォーマンスがピークのときに働いてほしいと望んでいるはずです」

職場は、働く各人のクロノタイプと働き方とをリンクさせるべきです。── アマンサ・インバー氏

自分のクロノタイプを見つける

新型コロナウイする感染症の流行を境に、多くの企業がハイブリッドワークやリモートワークを導入した。結果として、企業の従業員(ナレッジワーカー)の多くが、勤務時間や勤務地に関して、より柔軟な選択が可能になっている。

そうした中で重要性を増しているのが、自分のクロノタイプを把握し、それに合わせた仕事の進め方を設計することである。言い換えれば、1日における自分の精神的パフォーマンスの変化に合わせて仕事を構造化するということだ。こうすることで「午前9時~午後5時」という伝統的なタイムフレームで勤務するよりも、効果的に働けるようになる。

簡易のクロノタイプ診断を試す

自分のクロノタイプを見出すための最良の方法は、専門医による診察を受けることである。ただし、遊び感覚で良いのであれば、自分のクロノタイプをセルフで診断できるツールがある。その1つはSleepopolisが提供している「クロノタイプクイズ」(参考文書(英語))だ。また、Google で検索すれば、同様の診断ツールが他にも多く見つかるはずである。

クロノタイプに合せて仕事を最適化する方法

方法① 1日における自分のピークを知る

ダン・ピンク(Dan Pink)氏が記した人気の書籍「When: The Scientific Secrets of Perfect Timing(When:完璧なタイミングの科学的秘密)」(参考文書(英語))によると、人間は通常、精神的なパフォーマンスが「ピークのとき」と「谷のとき」、そして「回復するとき」の3段階を経て1日を過ごすという。例えば、「朝型」の人の場合、精神的なピークは朝で、のちの午後の早い時間に谷となり、午後遅くから夕方にかけて徐々に回復していく。「夜型」の人はこの順序が逆になり、ピークに至る数時間が最も集中力が高まる時間帯となる。

方法② ピーク時に「ディープワーク」を集中して行う

自分の精神的なピークを特定したら、その時間を「ディープワーク」にあてる。ディープワークとは、米国ジョージタウン大学のコンピュータサイエンス教授カル・ニューポート(Cal Newport)氏(参考文書(英語))がよく使う言葉で、相当の集中力を要する精神的に要求の厳しい作業を指している。

こうした作業は、精神的なエネルギーがピークのときに集中して行うべきもので、その際には集中の妨げになる物事を排除することも大切である。その点について、前出のインバー氏は次のように述べている。

「私のチームのメンバーがディープワークをしているときは、邪魔になるものをすべて排除するよう奨励しています。そのための簡単な方法の1つは、ディープワーク時に他者からのメールメッセージにすぐに対応できない旨を伝える自動メール応答の機能をオンにすることです。私のチームでは、メンバーの約半数がこの手法を採用しています」

方法③ 午後の中ごろに単純作業をまとめて処理する

イムバー氏によれば、大抵の人は、深い思考を必要としない単純作業に多くの時間を費やし、ネットワークを介して都度送られてくるメッセージに気を取られながら、単純作業の合間にディープワークを詰め込もうとしているという。いうまでもなく、これではディープワークの能率を上げることはできない。

そこで、朝型の人も、夜型の人も精神的エネルギーが谷間となる1日の真ん中(午後の中ごろ)に単純作業(例えば、経費申請書の作成や分析的な思考をあまり必要としない会議など)をまとめて行うようにすると良い。

方法④ 勤務時間を調整する

Inventium社のチームは、インバー氏による指示のもと、メンバー各人が自分の体内時計(ないしは、クロノタイプ)に合わせて働いている。この働き方について、インバー氏は次のような説明を加える。

「私のチームのメンバーは、3人の『朝型』と11名の『中間型』で構成されています。このうち朝型の3人は、定期的に午前4時、ないしは午前5時に仕事を始め、午後の早い時間に仕事を切り上げます。一方、中間型の11名は、午前8時ごろ、ないしは8時30分ごろに仕事を始めます。チームにおける唯一の『夜型』は、CEOである私で、私の場合、午後10時に仕事のメールを送りますが、午前7時には送りません」

こうしたチームのメンバーたちも、顧客との会議など、それぞれのクロノタイプと合わない時間帯に仕事をしなければならないことがある。ただし、基本的には各人のクロノタイプ(ないしは、体内時計)にフィットした時間帯で働いており、インパー氏は「この働き方が、チーム全体の生産性を高めています」と述べ、こうも続ける。

「自分の体内時計に合せて、勤務時間を設定することは、生産性の向上につながります。ただ、そのような働き方をしたいと上申する際には、期待値を明示し、しっかりと管理することを忘れてはなりません。また、1日の中でチームメンバーや顧客への対応が可能な時間帯はいつなのか、また、自分の勤務時間外に緊急の用件が発生した場合に、どのような方法で連絡を取れば良いのかといった点を明確に伝えておくことも大切です」

方法⑤ 会議のタイミングを適切にマネージする

ここで仮に、チームメンバーの半分は「朝型」で、もう半分は「夜型」であるとしよう。このような場合、チーム内会議のタイミングをどうするのが効果的なのだろうか。

アトラシアンの場合、すべての従業員が仕事上での自分の扱い方を記した「ユーザーマニュアル」(参考文書)を、それぞれのチームで共有している。このマニュアルからは、メンバー各人のクロノタイプ(ないしは、サーカディアンリズム)を類推できることが多い。それを手がかりにすることで、メンバー各人の日々の生産性を最大限に保つために、会議をどうスケジューリングするのが適切かのヒントが得られる。ちなみに、インバー氏のチームでは、メンバーの誰にとってもピークではない時間帯(=昼間)に会議をスケジュールしているという。

方法⑥ 適切なタイミングで人間関係を構築する

1日の仕事を終えたのちに催されるチーム内外の親睦会は、「朝型」の人にとっては疲れるものである。したがって「朝型」の人は、ランチタイムに人的ネットワークを構築したり、同僚と情報交換をしたりするのが適切といえる。一方、「夜型」の人たちは夕食や仕事後のハッピーアワーのイベントで人的ネットワークを構築するのが良策である。

方法⑦ 休憩をスケジュールする

インバー氏によれば、人間は基本的にマラソンではなくスプリントのために設計されているという。ゆえに、仕事中の適度の休憩はパフォーマンスの向上につながり、仮に精神的パフォーマンスがピークの状態にあるとしても、およそ1時間ごとに休憩をはさむのが有効となる。ちなみに、ある調査によれば、最も生産性の高い人は「52分間集中して働き、その後17分の休憩をとっていた」という(参考文書(英語))。この結果にもとづき、インバー氏のチームでは以前は60分だった会議の時間を50分に短縮させたという。

また別の研究(参考文書(英語))では、1日6時間のデスクワークにおいて、仕事前に30分間の適度な運動(ウォーキングなど)をまとめて行うよりも、1時間ごとに5分のウォーキング休憩(=合計で30分間のウーキング休憩)を取るほうが、午後のエネルギー、集中力、気分を向上させ、疲労感を軽減させる効果が高いことが明らかにされている。

したがって、もし可能であるならば、仕事をする中で1時間ごとに少し外に出て散歩を楽しんでみると良いだろう。加えて、そのとき、木々のある場所で散歩をするのが良いらしい。ある調査によると「40秒間のグリーンマイクロブレイク(=緑を眺めるちょっとした休憩)」を取ることで、集中力が8%向上するという。試してみる価値はありそうだ。

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