アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのケリー・マリア・コルドゥチ(Kelli María Korducki)が、組織・チームでのAIの活用を促進し、成果につなげる方法について説く。
本稿の要約を10秒で
- アトラシアンの調査によると、企業のナレッジワーカーと経営層の50%がAIツールを日常的に使用しているという。
- 現場で働くチームのメンバーには、AIの活用に不安や懸念を示す人も多い。
- 本稿では、そうした不安や懸念を乗り越えながら、AI活用を推進し、成果を上げるための方法について説く。
ナレッジワーカーと経営層の半数がAIを活用中
AIはいま、職場の生産性を飛躍的に向上させつつある。
アトラシアンの調査レポート「2024 State of Teams」(参考文書(英語))によると、各国の企業で働くナレッジワーカー、ならびに経営層の50%がAIツールを毎週使用しているという。
ただし、偉大なパワーの活用には相応の責任が伴う。ゆえに会社組織・チームのリーダーは、従業員たちがAI活用から十分なメリットを得られるよう、導入を慎重に進めなければならない。
今日の有能なリーダーたちは、AIの導入に伴う業務プロセスやツールの変更が(たとえ、それが些細な変更であっても)、従来からの仕事の進め方に馴れている従業員らに不快感を与えることを知っている。
また、ビジネス現場のチームで働くメンバーたちは、AIの採用に慎重になる傾向が強い。なぜならば、彼らは大抵の場合、AIツールの扱いに不慣れであるうえに、自分の仕事にもたらすAIの影響に対して不安や懸念を抱いているからだ。
アトラシアンは、AIがナレッジワーカーの生産性向上に必ず寄与すると確信している。とはいえ、AIに対する人々の不安を無視するべきではない。
また、AIに対して不信感を抱く人々は、仮にAIツールが自由に使える立場になったとしても、その恩恵を十分に享受できず、チームの進歩の妨げになる可能性がある。したがって、AIの能力をチームパフォーマンスの向上に最大限に生かすためには、AIの活用に対するメンバー全員の支持を得ることが必須となる。以下では、その点を踏まえながら、AIの活用を全社的に推進する方法について紹介する。
AIの活用を推進する方法
方法① AIに対する理解を深める
AIを導入するに当たり、組織・チームのリーダーはまず「AIツールはどのように機能するのか」「AIツールをどう使うのが適切か」を知っておかなければならない。
特に経営層のAIリテラシーは、企業全体での効果的なAI活用を促進するばかりか、AI活用に潜在するリスクを回避するうえでも役に立つ。
米国ボストンを拠点に働き方のコンサルティングサービスを展開しているCompt社の創設者兼CEOであるエイミー・スパーリング(Amy Spurling)氏は「企業の経営層が普段からAIツールに慣れ親しんでおけば、自社でAIをどう使うべきかの意思決定が適切に下せるようになります。また、AIリテラシーは、ビジネス現場で働くチームにAI活用のメリットを明確に伝えたり、起こりうる問題を予測したりするうえでも有効です」と指摘する。さらに同氏は、こうも付け加える。
「例えば、顧客データや機密データの分析にAIを使うのであれば、これらのデータをしっかりと保護するためのAI活用のポリシーを策定しなければなりません。AIツールに対する理解が浅ければ、そうした基本的な要件にも気づけないはずです」
方法② 明確な目標を定める
AI活用を推進するうえでは、それによって何を実現するかの具体的、かつ現実的な目標を定めて、従業員を納得させる、あるいは安心させることも重要となる。また、いうまでもなく、この目標を定めるうえでも経営層のAIリテラシーが有効に機能することになる。
この点に関連して、米国シアトルを拠点に活躍しているITとサイバーセキュリティのコンサルタント、マイケル・ハッシー(Michael Hasse)氏(参考文書(英語))は、次のように指摘する。
「AIを導入したからといって、それで何かが自動的に起こるわけではありません。大切なのは、AIによって何を達成するかの目標を明確に定めて、計画を練ることです。例えば、AI活用の目標を業務プロセスの効率化に定めたのであれば、AIの適用によって既存のワークフローが壊れてしまわぬよう入念な計画を立てなければなりません。また、AIの導入効果が曖昧なままで終わらないように、効果を定量的に計測できるようにしておくことも大切です」
また、AI活用に関する明確なガイドラインとユースケースを設定することも、従業員の不安を和らげる効果が期待できる。その辺りの効果について、アトラシアンでAI製品「Rovo Agents」のプロダクトマネージャーを務めるアルフレッド・ウイトロン(Alfredo Huitron)は、自身の体験を交えながら次のように述べる。
「これは同僚から聞いた話ですが、私のチームがアトラシアン初のAIツールをリリースした当初、お客様の中には『優れたAIツールを導入することで、AIによる支援を受けた仕事を丸ごと自分の成果にしてしまうといった、仕事上の倫理に反する行動が横行するようになるのではないだろうか』といった不安を示す方が大勢いたようです」
このような不安を解消するためには、AIに対する期待値と活用のガイドラインを会社の上層部が設定して、従業員に伝える必要があるという。
「また、AIツールのユーザーは、それを使用する適切なタイミングを学ばなければなりません。そして仮に、AIの活用を全社で大規模に推進したいのであれば、すでに使用しているツールのAI機能を有効にするか、あるいは自社専用のAIツールを構築することが最善の方法といえます」
方法③ ナレッジ共有を促進する
ここで仮に、企業のリーダー層が自社のワークフローに組み込むべきAIツールを特定し、活用の明確な目標を定めたとしよう。その次のステップとして重要になるのは、AI活用のノウハウが、特定のチーム内で閉じてしまわないようにすることだ。
ゆえに、リーダー層は、AIツールの導入と展開のプロセスに社内の全チームをかかわらせ、AI活用における「縄張り意識」の発揚を未然に阻止しなければならない。また、情報共有を促進するうえでは、社内のさまざまな部署から人員を集めて、AI活用推進のワーキンググループを組織するのも良策であるようだ。
この施策の効果について、ブルガリアに本拠を構えるメッセージングプラットフォームのプロバイダー、Brosix社の共同創設者でCEOのステファン・チェカノフ(Stefan Chekanov)氏は、以下のような説明を加える。
「ワーキンググループを組織することで、社内研修の手順と部署間のチームワークが融合され、結果として組織横断でのナレッジ共有が進みます。また、チーム横断でのブレーンストーミングミーティングを定期的に催すことも、ナレッジの壁を取り払うことにつながります」
さらに、ノルウエーのオスロを拠点に活躍するAIとロボットのエキスパートであり、Too Easy ASのCEOであるトーマス・エンジェロ(Thomas Anglero)氏(参考文書(英語))は「企業のリーダー層は、AIのユースケースや学習方法について、チーム間での対話を促進しなければなりません」と指摘し、こうも述べている。
「AIのユースケースや学習方法に関する、チームの垣根を越えた対話は、やがて情報の共有に重きを置いたチーム文化の醸成へとつながっていくでしょう。なぜならば、チームのメンバー全員が、情報をチーム内でため込むよりも、他と共有したほうが良い仕事ができると気づくからです」
方法④ 情報のサイロを打ち壊す
以上に示すとおり、AI、ないしはAIツールの導入を全社的に進めることは、チームごとの情報の分断に悩まされてきた企業にとって、情報のサイロを打ち壊す好機となりうる。
ちなみに、ソフトウェア開発におけるライフサイクル管理を支援するプラットフォームのプロバーダーで、米国シカゴを拠点とするBloomfilter社の創業者兼CEOであるエリック・セベリンガウス(Erik Severinghaus)氏は、AI活用を推進する中で情報のサイロを打ち壊すうえでは、以下の3点を実行することが効果的であるという。
① Slackやアトラシアンの「Trello」などのコラボレーションツールを採用してコミュニケーションとプロジェクト管理のプロセスを改善する。
② チーム同士の相互研修を通じて、各チームのメンバーがお互いの役割を理解できるようにする。
③ チームワークを評価して報奨を与える。
方法⑤ オープンなコミュニケーションラインを確保する
組織・チームのリーダーはAIに関する社内のコミュニケーションに関して心理的安全性と透明性を持たせなければならない。これは、AIの活用を巡る従業員の不安や誤解を解消するための重要な取り組みであり、これによって従業員たちは、AIに対する自身の不安や懸念を安心して発信し、そのフィードバックを得ることが可能になる。
ちなみに、複数の専門家は、AIに関するコミュニケーションのインターナルな(=社内向けの)指南書として「AIコミュニケーションプレイブック」(参考文書(英語))を作成することを提唱している。これは「コミュニケーション機会の設定」や「技術更新の通知」「継続的なAI関連教育」「AI活用に関する明確な基準とガイドラインの提示」といった要素を含んだコミュニケーションの戦略書だ。
「AIの全社活用を推進するうえでは、そのためのコミュニケーション戦略を策定することが不可欠です」と、言語教育を展開するThink Languages(参考文書(英語))の創設者でデジタルノマドのステファノ・ロドラ(Stefano Lodola)氏は語り、こうも続ける。
「AIコミュニケーションの戦略には、使用しているAIツールの定期的なアップデートや今後予定されている変更点の通知を含めるべきです」
同氏のチームでは、AIや日々のワークフローなどに関する質問や懸念事項をメンバー各人がオープンに発信できるフォーラムも運営しているという。
「こうしたフォーラムによって、すべての従業員が自分の意見を聞いてもらえて、かつ、必要な情報を得られていると感じることができます。このようにフィードバックループの透明性を維持することで、リーダーは起こりうるトラブルを事前に予測し、それを回避するためにAI活用のあり方に調整をかけることが可能になるのです」(ロドラ氏)
人間性を大事にする
言うまでもなく、AIに対する人々の不安や懸念の根底には「AIの発展によって最終的には自分の職が奪われる」という恐怖心がある。ゆえにリーダーは、この問題にも対処しなければならない。
こうしたAIへの恐れを取り除くために「我々はAIに多額の投資は行うが、それによって、あなたの仕事が奪われることはない」と伝えるのは簡単だ。ただし、それだけでAIへの恐れがなくなることは決してないと、アトラシアンのウイトロンは指摘する。
AIに対する人々の恐れを払拭するには、AIの活用によって人間の能力が最大限に高められることを示さなければならない。
「リーダーが成すべきは、従業員各人が『AIによって仕事のスピードを飛躍的に高めている自分』を思い描けるようにすることです」とウイトロンは述べ、こう続ける。
「人間とAIの組み合わせは、両者を個別に活用するよりも、組織にとって10倍価値が高いといえるでしょう。だからこそ、AIを使い迅速に仕事をこなすための道筋を、従業員たちに明確に示し、理解してもらわなければなりません。そのための唯一の方法は、人間とAIとの協働が、現実の問題を解決するうえでいかに有効かを具体的に示すことです。それに加えて、日々の業務からいったん離れて新しい何かに挑戦することを奨励し、インセンティブを供与するようにする。そうすれば、従業員の多くがAIに対する恐れをなくし、より積極的に活用するようになるはずです」