アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ビデオ会議の新しいスタイルを追求するGatheround社の共同創設者兼CEOであるリサ・コーン(Lisa Conn)氏が、ビデオ会議の崩壊につながる「グリッド効果(Grid Effect)」を抑制する方法について説く。
本稿の要約を10秒で
- 「グリッド効果(Grid Effect)」とは社会心理学でいう「傍観者効果(Bystander Effect)」とよく似た現象で、会議の中で出席者の誰もが傍観者となり、ディスカッションに参加しようとしなくなることを指す。
- ビデオ会議ではグリッド効果が起こりやすく、ある調査によればビデオ会議のディスカッションに参加している人は、全出席者の3分の1(33%)程度でしかないという。
- 本稿ではこうしたグリッド効果の発生を抑制し、ビデオ会議をより有効なものにする術(すべ)について紹介する。
「グリッド効果(GridEffect)」とは何か
ビデオ会議でよく問題になる「グリッド効果(Grid Effect)」は、社会心理学でいう「傍観者効果(Bystander Effect)」(参考文書(英語))とよく似た現象だ。
傍観者効果は、人が大勢いる中で何らかの事件・事故が発生すると、誰もが傍観者となり、率先して事に当たろうとしなくなる状態を指している。つまり、自分の周囲に大勢の人がいることで、そこにいる全員が「誰かが対応してくれるだろう」と考え、事態を傍観してしまうわけだ。これは、社会心理学上、人間の自然な行動といえる。
それと同様の現象が、ビデオ会議におけるグリッド効果だ。おそらく、ビデオ会議を主催した(あるいはリードした)経験がある方ならば、グリッド効果という言葉は知らなくとも、その現象についてはよく知っているはずである。
例えば、こんな場面を想像いただきたい。10人程度の関係者が出席しているビデオ会議において、出席者の半数がカメラをオフにしており、音声もオフの状態にある。また、一部の参加者は、カメラこそオンにしているものの、音声をオフにしており、明らかに他の作業に没頭しているふうである。そして、会議を主催・リードする1人がディスカッションを支配して話し続ける一方で、他の出席者全員が主催者の話を聞く気をなくしている。このような現象がビデオ会議におけるグリッド効果である。
先に触れたとおり、傍観者効果は、自分の周囲に大勢の他者がいることで引き起こされる心理状態である。それに対して、ビデオ会議におけるグリッド効果は、比較的少人数の会議であっても発生するとの調査結果がある。その理由は、ビデオ会議の場合、リアル会議に比べて出席者の匿名性が高く、かつ、カメラ・音声のオフで他者から姿が見えなくなり、他のタスクを行うのが容易になるからだ。しかも、ビデオ会議の場合、会議中に他のタスクをこなすことが社会的に容認されると感じやすいという(参考文書(英語))。
さらに、別の調査(参考文書(英語))によると、ビデオ会議では経験の浅い従業員が会話に割り込んだり、方向転換したりすることがリアルな会議よりも難しく、自身がディスカッションに貢献する価値は低いと感じやすいという。
グリッド効果の弊害
現代の組織では、不必要な会議に多くの時間が浪費されている。アトラシアンの調査でも実に72%もの会議が非効率的であるとの結果が出ている(参考文書(英語))。これは、組織で働くワーカーの多くが「メールのやり取りで済ませられるような会議」に慣らされており、「会議への出席は時間の無駄」と決めつけて会議に臨んでいることを意味している。しかも、その決めつけは、多くの場合、間違っていない。大半の会議は、メールや非同期型のビデオコミュニケーションツール「Loom」で済ませられる可能性が高いのである。
とはいえ、会議の中には重要な会議もある。当然のことながら、こうした重要な会議をグリッド効果に支配させてはならない。
実のところ、9人から10人の比較的小規模なビデオ会議でも、出席者のディスカッションへの参加率は33%程度でしかなく、同規模のリアル会議の参加率55%に比べてかなり低いとの調査結果がある(参考文書(英語))。
このように、ビデオ会議出席者の3分の2が、ディスカッションに実質的に参加していない(=つまりは、傍観者でいる)ということは、組織・チームのステークホルダーの3分の2が重要な意思決定に関与していないことになる。また、会議のテーマに関する専門家の3分の2が、計画策定やアイデア創出に対して知識を提供していないことにもなる。重要な会議がこのような状態にある場合、組織・チームの全員が、のちに相応の代償を支払うことになるのは明らかである。
ディスカッションへの参加率を高める方策
私の会社Gatheround社(英語)では、ビデオ会議における人と人とのつながり方を再考し、ディスカッションへの実質的な参加を会議プロセスの中心に据えたプラットフォームを提供している。このプラットフォームでは、9人から10人のグループにおけるビデオ会議への実質参加率が80%を超え、他のビデオツールと比較すると2.5倍近く高くなっている。
私たちは「代理指標」を用いて会議への実質参加率を測定している。代理指標とは、イベントや会議に参加している人の中で、オプトインによる分科会への参加を選択した人の数を意味している。この数値を高めるために、私たちは長年にわたってプラットフォームを改良してきた。それを通じて、ほとんどのワーカーが会議におけるディスカッションに参加したいと望んでおり、適切なツールさえあればビデオ会議における実質的な参加率が高められることを学んだ。
そして、会議の主催者は以下に示す事柄を実行することで、ビデオ会議におけるディスカッションへの参加率を引き上げ、会議の時間を最大限に有効活用できるようになる。言い換えれば、以下を実行すれば、重要なビデオ会議におけるグリッド効果の発生を抑制できるようになるのである。
① 出席者への期待値と会議での行動規範を事前に定めて伝える
ビデオ会議の出席者に対して「会議でどのような振る舞いが期待されているか」「参加者各人が持ち寄るべきアイデアとは何か」「会議で達成すべき成果とは何か」を明確に伝える。理想的には、事前に会議の資料を配布したり、「ページ主導の会議」を試したりするべきである。ページ主導会議の実践によって「チーム会議アジェンダ」(参考文書(英語))の効果を確認できるほか、アジェンダの繰り返しの更新やそのアナウンスに時間を浪費しないで済むようになる。
②「口頭での発言」以外の手段を使ったディスカッションへの参加を促す
ビデオ会議ツールの多くは、投票やリアクション、チャットなど、発言以外の手段を通じてディスカッションに参加するための機能が用意されている。ビデオ会議の主催者は、会議の運営時にそれらの機能の使用を参加者に促すことを忘れてはならない。というのも、投票やリアクション、チャットといった機能には、ディスカッションに参加するハードルを引き下げる効果が期待できるからである。また、会議の内容を特定のグループ内で閉じたかたちにすることで、参加者各人が自分のアイデアや意見を口頭で表現するのに十分な安心感を提供できる可能性がある。
③ ディスカッションの公平性を担保して意思決定を構造化する
重要な意思決定を下したり、出席者全員の意見を収集したりする場合には、分科会の機能やラウンドロビン方式のディスカッション機能(この機能は、ほとんどのビデオ会議ツールでアドオンとして提供されている)を使うのが有効だ。こうした機能の活用により「目立ちたがり屋」による過度の発言を抑制し、全員参加型のディスカッションを維持・継続させることが可能になる。これは、会議を行う当該グループで働いた経験の浅い参加者から意見を収集したい場合に特に重要になる。
④「話すこと」よりも「聞くこと」に集中する
ビデオ会議の主催者は、会議での効果的なディスカッションを促進する立場にある。ゆえに、出席者全員の話に集中して耳を傾け、議論の要点をまとめ上げたり、効果的な質問をしたりしながら、意見を集めることが大切だ。会議中にディスカッションの主導権を握ったり、多くの背景情報を提供したりしたいという誘惑にかられることも多いだろう。ただし、それは避けるべきであり、話すことよりも聞くことに集中するのが、会議をリードするうえでの正しい姿勢といえる。また、その姿勢を貫くためにも、事前の準備が重要になる。
⑤ 会議中のマルチタスクを難しくする
繰り返すようだが、ビデオ会議では出席者が会議中に他のタスクをこなしやすく、それがグリッド効果を生む一因となっている。ゆえに、重要なビデオ会議においては、会議中に他のタスクを行うのを難しくすることが大切だ。そのための方法はシンプルであり、会議の前に出席者全員にディスカッションへの参加を呼びかけ、そのうえで会議におけるすべてのディスカッションを全員参加型にすれば良い。例えば、ビデオ会議の出席者全員に対して誰かの発言への即時的なレスポンスを求めたり、すべての議題のディスカッションを、全出席者に意見を求める座談会方式で進めたりする。こうすることで出席者全員が自分の発言を他者が待っていると意識するようになり、ディスカッションから離脱してメールをチェックしたり、メールへの返信を書いたりするようなことができなくなるのである。
⑥ 不必要な会議を減らす
定例のビデオ会議の有効性が低く、常にグリッド効果が見受けられている場合には、働く時間のより有効な活用に向けて「日課のリセット」を行う時期かもしれない。無駄な会議を極力排除して、非同期型のミーティングやメールに置き換えたり、あるいは、その時間を新しいことに専念する時間に切り替えて、定期的な「破壊的ブレーンストーミング」を行ったり、直近の仕事の「振り返り(レトロスぺくティブ)」ミーティングを行ったりすることもできる。
繰り返すようだが、グリッド効果は人間としての自然な社会心理が働いた結果であり、誰のせいでもない。だからといって、それを制御・抑制しないでいるのは働く時間の無駄遣いにつながる間違った行動だ。また、ビデオ会議をより健全で創造的なものにしたいと望む組織・チームのリーダーならば、既成概念にとらわれない思考法についてすでに多くを知っているはずである。
※ 創造的で効果的なミーティングについて詳しく知りたい方は、リサ・コーン氏の日々の活動(英語)やGatheround社の取り組み(英語)をフォローください。