アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのジョナサン・トンプソン(Jonathan Thompson)が、仕事に没入した状態である「フロー状態」と人間の脳の「アルファ波」との関係について説く。

本稿の要約を10秒で

  • 私たち人間は、1日における時間帯の違いや活動の種類によって、脳内で優勢になる電気活動が変化する。
  • 脳の「アルファ波」を活用することで「フロー状態」に入ることができ、より少ない労力で仕事に没入することが可能になる。
  • 脳のアルファ波には、穏やかな感情をもたらし、創造性を高め、新しい情報を吸収する能力を高める効果がある。
  • 「瞑想」や「マインドフルネス」は、アルファ波によるフロー状態を生み、維持する有効な手段だ。ただし、それら以外にもフロー状態に入り、維持する方法はある。

「フロー状態」とは何か

「フロー状態」とは、良い意味で時間を忘れ、穏やかで創造的な集中状態に入っていることを意味している。この状態に入ると、物事を学ぶスピードが高められ、仕事のパフォーマンスが大幅にアップするという。

フロー状態に入ることの意義について、人気の書籍「Deep Work: Rules for Focused Success in A Distracted World」(邦訳版「大事なことに集中する――気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法」ダイヤモンド社)の著者であるカル・ニューポート(Cal Newport)氏は次のように指摘する。

ほとんどの人は、大事な物事に集中しながら仕事を成し遂げる『ディープワーク』の能力を失っています。それを補う良い方法は、フロー状態にもっと頻繁に入り、ディープワークを行うことです。そして、そのディープな状態に飛び込むためのカギは、脳の『アルファ波』の活用にあります。

「アルファ波」の基礎知識

アルファ波は脳波スペクトルの中心にある「8~13Hz(ヘルツ)」の脳波だ。アルファ波の周波数で脳が活動しているときは、新しい情報を簡単に吸収することができ、創造性が格段に高まる。

人間の脳には850億個(参考文書(英語))の神経細胞があり、常に何らかの電気的活動が行われている。例えば、朝目覚めると、脳はまどろみのゆっくりとした「デルタ波」から、夢と覚醒の世界をつなぐ低周波の「シータ波」に移行する。また、覚醒して問題解決に取り組んだり、意思決定を下したりする際には「ベータ波」が使われる。さらに、アドレナリンとエネルギーに満ち溢れ、複数のタスクに熱中しているときにはベータ波よりも周波数の高い「ガンマ波」が使われる。

もっとも、仕事のパフォーマンスに関していえば、シータ波とベータ波の中間にあるアルファ派が最も価値の高い脳波となる。脳波がアルファ波にあるときは「仕事の催眠術」にかかっているような状態といえる。つまり、仕事に完全に没入しながらも、幸せでリラックスしていて落ち着いており、手際よく仕事をスケジュールどおりにこなしていくことができるのである。

アルファ波を増やす方法を学ぶ

人間は、脳内におけるアルファ波の発生量を意識的に増やすことができる。そのための標準的な手法は、物事をゆっくりと進め、呼吸を深めて心拍数を下げ、脳内の電気的活動を落ち着かせることである。また、より多くのアルファ波を発生させ、有益な心の状態に入るうえでは「瞑想」と「マインドフルネス(=自分の全神経を『いま起きている事象』に集中させること)」が有効であるとの実証が2015年の研究によってなされている(参考文書(英語))。

これを言い換えれば、瞑想とマインドフルネスは、アルファ波による脳内活動を活発化させてストレスレベルを引き下げ、かつ、生産性のレベルを向上させる有効な手法であり、個人にとっても、チーム全体にとっても、すばらしいビジネスツールになりうるわけだ。

とはいえ、職場での仕事中に瞑想やマインドフルネスを実践するのはなかなか難しい。そこで必要とされるのが、より簡単にアルファ波によるフロー状態に入り、かつ、その状態を維持するための方法である。以下、その方法を7つ紹介したい。

脳波をアルファ波へと導く7つの方法

①心の合図を作る

「パブロフの犬」のように、人間の脳は特定のトリガーに対して、特定の反応(アルファ波の発生を含む)をするように条件づけることができる。要するに、アルファ波によるフロー状態に入るための「心の合図」を作れば、人間の脳はそれに自動的に反応するようになるのである。

この合図は、例えば、特定の文言やマントラを繰り返し口ずさむことであっても、特定の音楽を聴くことであっても、あるいは、深呼吸を複数回行うことであっても構わない。とにかく、アルファ波によるフロー状態に入る前に毎回まったく同じことをすれば、脳はそれを、アルファ波を発生させる合図と認識し、合図に従った活動を始めるのである。ゆえに、より早くフロー状態に入ることが可能になる。

作家のスティーブン・プレスフィールド(Steven Pressfield)氏は、人間の創造性に関する著書「The War of Art: Break Through the Blocks and Win Your Inner CreativeBattles」の中で、自身の執筆前のルーティンについてこう述べている。

私は執筆の作業を始める前に、必ずホメロスの『オデュッセイア』から「ミューズの呼びかけ」を唱えながら、机の上に小さなミニチュアの大砲を置き、大砲を椅子のほうに向けるようにしています。すると、インスピレーションが湧き上がってくるんです。

このような自分なりの儀式を作ることで、脳が「そろそろ深く考えよう」という指示を自身に対して出すのである。

②気を散らす要因を排除する

最新の調査によれば、人間は仕事中、他の物事に気が散ると、仕事に完全に集中できるようになるのに平均25分かかるという。したがって、仕事に集中した状態をすぐに取り戻したい、あるいは、集中した状態を長く保ちたいと考えるのであれば、あらゆる障害物を取り除いておく必要がある。つまり、スマートフォンの電源を切るなど、すべてのアラート、通知を無効にしたうえで、静かで清潔な環境に行き(アルファ波を発生させるには、シンプルで清潔なデスクが欠かせない)、ノイズ遮断機能付きのヘッドホンをつけることが大切といえるのである。

③生物学的にピークな時間帯に仕事をする

疲弊してエネルギーが低下しているときにアルファ波を発生させようとすると、かえって意志力や集中力が弱まり、気が散りやすくなる。ゆえに、1日の中で自分のエネルギーレベルが最も高い2~3時間を選び、それをディープワークのための時間帯として定めておくことが大切である。

エネルギーレベルの最も高い時間帯は人によって異なるだろうが、朝一番や昼食後、あるいは夕食後など、適切な休息をとった後の2~3時間が、アルファ波を使った作業には理想的といえる。

④適切な音楽を聴く

先に触れたようにフロー状態は「催眠状態」に近い。ゆえに、音楽はフロー状態へと自身を導くうえで役に立つ。もちろん、音楽によって気が散ってしまうのでは本末転倒となる。したがって、普段から聴き慣れた、繰り返しの多い曲で、歌詞のないものが理想的である。

また、音楽を使ったアプローチの優れた点は、気を散らす内的な要因と外的な要因をともに遮断する効果があることだ。これによって、完全なかたちで仕事に集中できるようになり、アルファ波によるフロー状態に、よりすばやく入ることが可能になる。

⑤カフェインを戦略的に摂取する

書籍「Hyperfocus: How to Be More Productive in a World of Distraction」の著者、クリス・ベイリー(Chris Bailey)氏によると、カフェインを戦略的に摂取することで、脳内のアルファ波を呼び起こすことができるという。ここでいう「戦略的」とは、カフェインの摂取量を適切に抑えることを意味している。

実のところ、カフェインの適切な摂取量とされているのは「200ミリグラム」で、コーヒーに換算すると標準的なマグカップ1.5杯分に相当する。この分量のカフェインは、人間の集中力を高め、かつ、集中した状態を長く保つのに有効であることが科学的に証明されている。ただし、それ以上のカフェインを摂取すると、コルチゾールとアドレナリンが急増し、ベータ波とガンマ波が増加してしまうことになる。

⑥1つの作業に集中する

フロー状態による仕事は「量」ではなく「質」がすべてといえる。また、脳内でアルファ波を発生させるには、心を「いまの瞬間」に集中させなければならない。ゆえに、複数の仕事をフロー状態でこなそうとせず、1つに仕事に集中することが大切となる。

また、簡単な方法によって1つの仕事への集中力を研ぎ澄ましていくことができる。その方法とは、重要な仕事を1つ選び、1つの仕事にフロー状態で取り組む時間を、タイマーを使いながら「15分間」から徐々に長くしていき、1時間以上、集中したフロー状態を保てるようにするというものである。

心理学者であるミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)氏の著書「Flow: The Psychology of Optimal Experience」によれば、フロー状態を長い時間維持するコツは、フロー状態を阻害する雑念を止められるよう、心に入り込む思考をコントロールする方法を学ぶことであるという。つまり、自分の心を「公園のベンチ」のようにとらえ、どの思考を座らせるかをコントロールするというわけだ。

⑦水分を十分に補給する

本稿の最後に紹介する方法は、水分の摂取だ。これは、人間の脳のパフォーマンスを向上させる(≒フロー状態に到達しやすくする)最もシンプルで、かつ最も見落とされがちな方法の1つである。

人間の脳は75%が水分で構成されており、アルファ波を発せられる最適なレベルで脳を機能させるためには、適量の水分を供給し続ける必要がある。

実際、適量の水分補給によって、脳の思考スピードを14%アップさせ、かつ、はるかに長く集中力を維持させられるという研究結果もあるのだ(参考文書(英語))。

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