アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのケイティ・テイラー(Katie Taylor)が「民主的リーダーシップ」を効果的に活用するための方策を説く。

本稿の要約を10秒で

  • 「民主的リーダーシップ」とは、チームを構成するあらゆる職位のメンバーを意思決定に参加させるマネジメントスタイルを指している。
  • 民主的リーダーシップにおける「協議型」のアプローチでは、リーダーはチームのメンバー全員(ないしはステークホルダー全員)から意見を募り、そのうえで最終的な意思決定を下す。
  • 民主的リーダーシップにおける「協働型」のアプローチでは、リーダーは重要な意思決定についてチーム全員(ないしは、ステークホルダー全員)との合意を形成する。
  • 民主的リーダーシップは、チームのメンバーに仕事に関する経験、知識、スキルが十分にない場合や早急な意思決定を迫られている場合に機能しないことがある。

部下から敬愛されるリーダーの条件

あなたはビジネスパーソンとしてキャリアを積む中で、どのようなリーダーと出会ってきただろうか。過去に出会ったリーダーたちの中で、仮にあなたが「偉大」と感じる人がいるとすれば、その人は「民主的リーダーシップ」の使い手である可能性が高い。

実際、ある調査によれば、民主的リーダーシップスタイルをとる人は、部下から好かれる傾向にあり、このスタイルを採用するリーダー(以下、「民主的リーダー」と呼ぶ)のもとで働いていると、自分の貢献が価値あるものと感じることができるという(参考文書 (英語))。

とはいえ、民主的リーダーシップがいかなる状況においても有効であるとは限らない。例えば、経験の浅いチームをリードしたり、重要、かつ緊急性の高い意思決定が必要とされたりする場合には、他のリーダーシップスタイルをとったほうが有効なことがある。

以下、その点を踏まえながら、民主的リーダーシップスタイルの効果的な活用法について見ていくことにする。

民主的リーダーシップとは何か

民主的リーダーシップとは、自分のリードする組織の意思決定プロセスに、職位を問わず、すべてのメンバーを参加させるスタイルを指している。民主的リーダーシップという用語とその定義は、1939年に心理学者のカート・ルウィン(Kurt Lewin)氏とその同僚が生み出したものだ。彼らは、民主的リーダーシップを定義するのと併せて「独裁的リーダーシップ」と「自由放任的リーダーシップ」の2つも定義している。

「民主的」という言葉から「多数決」という言葉を思い浮かべる人は多いだろう。ただし、多数決の原理原則と、民主的リーダーシップとの間には関係性はほとんどない。

この点について、米国フィラデルフィアを拠点に活躍しているリーダーシップコーチのマイク・クルピット(Mike Krupit)氏は次のような説明を加える。

物事を多数決で決めるというのは、意思決定の全責任を“民(たみ)”に委ねてしまう方式です。民主的リーダーは、そんなふうに意思決定の責任を自分のチームのメンバーに背負わせたりはしません。意思決定の最終責任を自身で背負いながら、チームによる意思決定をリードするのです。

クルピット氏はリーダーシップのコーチングを行う際、民主的リーダーシップを「協議型」と「協働型」の2つに分類している。

このうち協議型のリーダーシップでは、リーダーはチームの全員(ないしは、チームのステークホルダー全員)に対して情報や提案を求め、全員の意見にもとづいて最終的な意思決定を自ら行う。

一方、協働型のリーダーシップにおいても、リーダーはチームのメンバーを含むステークホルダー全員に意見を求める。ただし、リーダーがすべての最終決定を下すのではなく、特定の意思決定に関してはステークホルダー全員との合意形成を図る。このアプローチの利点は、チームのステークホルダー全員が「なぜ、最終的にその決定に至ったかの背景理由や経緯」をリアルタイムに把握できることにある。これにより、決定内容に100%賛同できない人も、相応の納得感が得られるのである(言い換えれば「決定に賛同はできないが、コミットはする」という状態がつくれるのである)。

民主的リーダーシップがなぜ大切なのか

民主的リーダーシップは、部下たちを鼓舞し、モチベーションを喚起する手だてとして、さまざまな研究で取り上げられてきた。実際、民主的リーダーシップによって、現場で働く従業員たちは、組織の中で自分の運命を自らコントロールしているという感覚を味わうことができる。また、自分の行動が、組織のより大きな成功に影響を与えているとの実感も持てるようになる。

さらに、民主的リーダーは、自分の率いるチーム内の人間関係を良好に保つことにも力を注ぐ。そのため、チームのメンバーは、お互いが強い絆(きずな)で結ばれていると感じられるようになる。メンバー同士の絆は、共通目標の達成に対する自発的な参加と貢献を尊ぶ組織文化の醸成につながっていく。また、民主的リーダーのもとで働く従業員は、総じて士気が高く、仕事への満足度が高いとされている。

いうまでもなく、メンバーの士気や働く満足度の高さは、生産性の向上と離職率の低下といった恩恵をリーダーや組織にもたらすことになる。その意味で、民主的リーダーシップは、リーダーの「ツールボックス」に入れておくべき戦略的なツール、ないしはテクニックといえるのである。

民主的リーダーシップの長所と短所

以上のように民主的リーダーシップは、組織のリーダーと従業員の双方にベネフィットをもたらす。ただし、先にも触れたとおり、民主的リーダーシップがあらゆる状況下で有効なわけではない。つまり、他のリーダーシップスタイルと同様に、民主的リーダーシップにも欠点があるわけだ。

ということで次に、民主的リーダーシップの長所と短所について確認しておきたい。

【民主的リーダーシップの長所】

  • 仕事に対する従業員の満足度を高める:
    従業員は自分の意見を大切にしてくれるチームの一員であると感じ、自分の将来を自らコントロールできるという感覚も持てる。
  • 組織の革新性の向上させる:
    民主的リーダーシップのもとでは、従業員たちのアイデアは無視されず、検討の土俵に上げられる。これによって、従業員たちの組織への参加意欲が喚起され、組織に新しいアイデアが数多く持ち込まれるようになる。
  • 相互信頼の文化が育まれる:
    民主的リーダーシップによって、チームの全員が共通の目標に向かって働いているという認識が深まり、相互信頼の文化が育まれる。

【民主的リーダーシップの短所】

  • 意思決定が遅くなる:
    特に複雑な意思決定の場合、多様な視点を求めて評価する民主的リーダーシップは、決定までにかなりの時間を要することになる。
  • 経験が浅く知識、スキルの足りない従業員、ないしはチームのマネジメントには向かない:
    従業員やチームに価値ある意見を提供するだけの経験や知識、スキルがなければ、民主的リーダーシップによって意思決定を改善することは難しい。
  • 自分のアイデアが受け入れられないときの失望感が大きくなる:
    民主的リーダーシップにおいても、従業員から出されたすべてのアイデアが受け入れられるわけではない。そして、民主的リーダーシップのもとで、自分のアイデアが受け入れられないとき、拒絶感、ないしは疎外感を強く抱く従業員もいる。

民主的リーダーシップが大きな効力を発揮するケースとは

民主的リーダーは、チームにおける相互信頼の文化を育み、経験や意見の違いを尊重し、メンバーによるミスはチームが成長するための正常なプロセスの一部であると見なす。

では、そうした民主的リーダーシップが大きな効力を発揮するのは、具体的にどのような場面(ケース)なのだろうか。以下にその答えをいくつか示す。

ケース①従業員全員の理解と協力が必要な場合

ビジネス上の厳しい決定も、民主的リーダーシップのアプローチによってすべての従業員との合意を形成すれば、受け入れられやすくなる。

1990年代後半、前出のクルピット氏は米国におけるネットバブルの崩壊直後にeコマース企業のCEOに着任した。その会社はネットバブル期に急成長を遂げたものの、のちに多額の損失を出して買収された。そんな中で同社のCEOに就任したクルピット氏は、巨額の損失を削減する使命を帯びており、就任早々、数百人規模の人員削減を断行せざるをえない状況に追い込まれた。

人員削減を余儀なくされるような厳しい時期には、組織内に多くの不和が生じます。経営陣たちですら『人員削減には同意できないが、それがトップの判断ならば受け入れるしかない』と、それぞれの保身のために従業員たちに言い訳をしようとするのが通常です。しかし、私はそのような言い訳をせず、従業員たちに対して会社の状況を包み隠さずオープンに伝え、人員削減に対する全従業員との合意を形成することに力を注ぎました。結果として、削減の対象になった人たちも含めて、全員が経営陣の対応に感謝してくれたのです。

ケース②イノベーションを促進したい場合

チームのメンバー各人が自分のアイデアを積極的に共有し、それについて話し合おうとしない場合、チームは問題解決の突破口がなかなか見い出せず、立ち往生してしまうリスクが高まる。

実のところ、現場で働くチームのメンバーは、経営陣とは異なる視点を持っていることが多い。ゆえにリーダーは、彼らのアイデアに積極的に耳を傾けること、そして、彼らをチームの課題解決や意思決定のプロセスに参加させ、チームの将来にオーナーシップを持たせることが重要であり、そうした民主的なアプローチがチームの創造性を育むことにつながる。

民主的リーダーシップのスタイルを用いてはならない場面

民主的リーダーシップを発揮すべき場面がある一方で、このリーダーシップスタイルをとらないほうが無難なケースもある。以下、そのケースをいくつか紹介しておきたい。

ケース①一刻を争う場合

民主的リーダーシップのアプローチでは、意思決定のプロセスにチームのメンバー全員、ないしはステークホルダー全員をかかわらせる。ゆえに、意思決定を下すまでに相応の時間がかかるのが一般的だ。特に、先に触れた協働型のアプローチをとる場合、全員との合意を形成しなければならず、意思決定までにかなりの時間がかかる。「ゆえに、緊急の事態に対処しているときや、素早く行動しなければならない場合は、民主的リーダーシップのスタイルをとるのは適切とはいえません。代わりにリーダーの直感や経験を働かせることが大切となります」と、クルピット氏は指摘する。

ケース②チームの経験、知識、スキルが不十分な場合

上で触れたとおり、チームを構成するメンバーの仕事に関する経験や知識が浅い場合、民主的リーダーシップが有効に機能しないことが多い。同様に、チームのメンバーが互いの意見に耳を傾ける術(すべ)を知らなかったり、意見の違いを尊重しない人ばかりでチームが構成されていたりする場合も、民主的な意思決定プロセスは有効に機能しないはずである。

ゆえに、こうした場合には、民主的リーダーシップのスタイルにこだわるのではなく、チームのメンバーの研修や、自分とは異なる視点、考え方を尊重する組織文化の醸成に力を注ぐべきである。そのうえで、まずはメンバーとの1 on 1ミーティングやメンバーに対するアンケートなどを行い、それを通じて各人の意見を都度収集し、協議型の意思決定プロセスに全員を参加させるようにすることが適切である。

ケース③ミスが許されない場合

業務内容によってはミスが許さないケースがある。例えば、公共交通などの社会インフラの運用や医療における外科手術などは、オペレーション上の判断ミスは許されない。このような業務、ないしは仕事には、民主的リーダーシップのスタイルは適用すべきではないといえる。

実際、病院の手術室で外科医が研修医にアンケートを取り、開胸手術の進め方について合意を形成するようなことはまずないだろう。このようなケースでは、民主的リーダーシップではなく、独裁的なリーダーシップのスタイルのほうが適している。

もちろん、社会インフラの運用のし方や医療における手術の進め方について、新しい方式の議論がまったくできないわけではない。ただし、特定の業務の現場では(とりわけ、医療や科学の世界では)民主的リーダーシップを適用するリスクは高すぎるといえる。

民主的リーダーシップを実践する前に成すべきこと

もしあなたがチームを率いる立場にあり、かつ、民主的リーダーシップのスタイルを使用した経験がないのであれば、まずは民主的リーダーシップをとるのが適切かどうかを見定めなければならない。それに向けては、自分のチームがどのようなメンバーで構成されているかを確認しておく必要がある。

「チーム内では、意思決定を巡り対立がしばしば発生します。その多くの原因は、自分とは異なる視点や信念、個性を持った相手を受け入れる文化がチーム内で醸成されていないことにあります。そのような状態にあるチームで、民主的な意思決定のプロセスを走らせても、期待した効果を得ることはできません」と、クルピット氏は指摘する。

果たして、あなたのチームはどうだろうか。お互いの意見に耳を傾けることの価値をしっかりと認識しているだろうか。チームのメンバーは、意見の衝突や自分のアイデアへの批判的な見解に適切に対処する方法を知っているだろうか。

多様な視点や意見、アイデアを吸収すること、また、そのためのスキルを身につけることは、チームの創造性の向上や、より優れた結論を導き出す能力の強化に通じる。したがって、人の多様性を認めて互いを尊重することをチームの価値観として掲げ、メンバーをリードしていくことは大切であり、そうすることが民主的リーダーシップの効力を高め、そこから実質的なベネフィットを得るための最初の一歩となるのである。

This article is a sponsored article by
''.