アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのケイティ・テイラー(Katie Taylor)が変更管理(チェンジマネジメント)の実践手法について説く。

本稿の要約を10秒で

  • 組織内での大きな変化は相応の混乱を生じさせる
  • 組織は、大抵の場合、過去の投資が回収不可能な無駄な投資、つまりは「サンクコスト」となるのを恐れて変化を嫌う
  • 歴史ある企業の従業員たちは、レガシーな習慣、ソフトウェア、ワークフローを合理性ではなく感情的な判断から維持しようとしている可能性がある
  • 変化を起こす際には、その理由を明確に、正直に、そして頻繁に従業員に伝える必要がある

変更管理の基礎

業務のプロセス、システム、ワークフローに大きな変更を加えるプロセスはまさしく「カオス」である。ただし、人中心の変更管理を行えば、そのカオスを整理することができ、ポジティブな結果をもたらすことができると、ポジティブ組織心理学について博士号を持つ組織心理学者のキム・パーキンス(Kim Perkins)氏は語り、次のような説明を加える。

変更管理とは、人をある習慣から別の習慣に変える際の混乱をマネージすることを指しています。業務システムのクラウドへの移行を計画している場合でも、会社組織の再編成を計画している場合でも、人中心の変更管理の計画を立てることが大切で、そうすることで変革への賛同者を増やし、起こりうる問題を事前に回避することが可能になります。

変更管理のプロセスは、古いものから新しいものへと移行するための構造化された一連のステップで構成されており、新しいものへの移行によって影響を受けるあらゆる人と業務プロセス、システムを考慮したうえで設計される。そして、組織がこれまでとは異なるシステムやソフトウェア、組織構造、あるいは文化(仕事のやり方)への移行を計画するとき、人中心の変更管理が必要とされる。

例えば、業務システムのクラウドへの移行は、システムのエンドユーザーのみならず、社内の法務担当者やセキュリティチームにも影響を与える可能性がある。ゆえに、そのシステムの変更に先立ち(あるいは、その途中において)、それらの関係者の協力を仰がなればならない。それによって、組織全体の混乱を最小限に抑えることができるのである。

アトラシアンでは、チームワークを向上するための複数の演習を「Team Playbook」として無料で公開しており、変更管理に関連した演習も用意されている。変化に対するチームの混乱への対策として、ぜひ活用されたい。

変更管理のプロセスを成す 5 つの重要ステップ

パーキンス氏によれば、同氏がともに仕事をしてきた大抵の組織は、単に新しいシステムを使うよう従業員に指示すれば、システム変革が実現できると考えていたという。

「全員がボタンをクリックすればいい、というのは簡単な変更に思えます。ただし、それを従業員たちに実行させるのは非常に難しいことなのです」(パーキンス氏)

こうした「変化へのハードル」を引き下げるべく、パーキンス氏は変更管理の支援を組織に対して行う際に、以下に示す5つのステップから成る人中心のアプローチを使用しているという。

ステップ1:最終ゴールを明確にする

システムをクラウドに移行する、あるいは、より安全性の高いコミュニケーションツールを使うといった変更は何を行うべきかがわかりやすい。ただし、それらによって何を実現すべきかのゴールを明確にできていない組織は多いとパーキンス氏は指摘する。

例えば、パーキンス氏の顧客企業の多くは、変革の目的として「従業員全員がよりイノベーティブになること」といった答えを返してくるという。そうした顧客に対しては、目的や成果をより具体的に掘り下げるようアドバイスしている。

「例えば、『本当に従業員の全員がイノベーティブになる必要があるのか』『従業員をよりイノベーティブにするというのは、具体的に彼らに何をさせたいのか』といったゴールを明らかにするよう、顧客にはアドバイスしています。ゴールが明確ではない変化への取り組みには、従業員たちからの支持や協力を期待できません」(パーキンス氏)

ステップ2:支持者と反対勢力を特定する

上記のステップで最終ゴールを明確にしたならば、次のステップは支持者を集めることである。システム変更の場合、IT組織の技術者たちが“応援団”になるはずである。

「そうした支持者たちを見い出したら、必要なリソースを提供し、旗振り役を担ってもらうようにすることが重要です」と、パーキンス氏は言う。

また、支持者を集める一方で、変化に抵抗し、取り組みを妨害しようとする人たちを特定することも必要とされる。反対派を抑え込む、あるいは懐柔するのにどの程度の労力を要するかは、反対する人の社内での地位によって異なってくる。例えば、IT組織のトップがシステム変更に反対であれば、その道のりはかなり険しいものになる可能性が高い。

もっとも、パーキンス氏は、反対勢力への対処・対応に労力や時間をかけ過ぎるのは間違いであると指摘する。

「いかなる取り組みにも、反対派は必ず存在します。ただ、そうした懐疑論者もいずれは、変化に対して熱心で合理的な支持者たちの勢いに圧倒され、反対の力を弱めるのです」(パーキンス氏)

ステップ3:損失を認識する

新しいモノへの移行は、古いモノを捨て去ることを意味し、一定の「損失」を必ず発生させる。すなわち、変革を遂行するうえでは、慣れ親しんだ仕事のやり方など、これまで積み上げてきた物事を破棄しなければならず、結果として、過去の投資が回収不可能な「サンクコスト」になるわけだ。また、それゆえに古いモノへの執着が生まれることになる。

パーキンス氏は以前、ある映画スタジオにおいてメッセージサービスをAOLから新しいサービスに移行させようと試みた。だが、その試みは幾度も失敗したという。

「人というのは、仕事に追われていると使い慣れたツールをなかなか手放そうとしないものです。私自身、仮に10年間AOLを使い続けていれば、同僚から即座に返事が欲しいときに、ついついAOLを使おうとするでしょう。その映画スタジオにおける現場の状況はそれとまったく同じだったということです」(パーキンス氏)

そんな状況を打開すべく、パーキンス氏は「AOLを失うつらさと皆で真正面から向き合おう」と社内に呼びかけた。そして、映画スタジオのロビーにAOLのキャラクターであるランニングマンの大きなポスターを貼り、従業員たちに自分たちのスクリーンネーム(=AOLのユーザーID)を「お別れの言葉」とともに書き込んでもらったという。

「従業員の中には、12歳のときに作ったスクリーンネームを書き込む人もいて、この催しには皆が大喜びでした。それは古い文化に別れを告げ、新しい文化に切り替える瞬間になったのです」(パーキンス氏)

もちろん、古いモノを捨て去る際には、必ずしも大きな催しごとを展開する必要はないとパーキンス氏は付け加える。

「例えば、会議の時間を少し割き、廃棄を決めたシステムを作り上げた担当者にねぎらいと感謝の拍手を送るだけで事足りるケースもあります。大切なのは、古いモノを捨て去る損失、あるいは人の喪失感を無視せず、しっかりと向き合うことです」

ステップ4:正直に説明する

古いモノを捨て去る喪失感を処理した従業員たちは、将来について考える準備が整う。そのとき、組織・チームのリーダーは、オープンで、かつ正直である必要があるとパーキンス氏は説く。

「組織・チームのリーダーは、その変化がチームにとってつらい作業であることと、それでも必要であることを、包み隠さずメンバー全員に伝えることが大切です。その説明が不十分であると、従業員は特定の誰かのエゴや気まぐれによって変革が行われると勝手に思い込み、積極的に協力しようしなくなります」と、パーキンス氏は説き、次のような説明を加える。

「大切なのは、変化が必要とされる背景として、チームが直面している市場の状況について十分に説明することです。それによってチームのメンバーは自分たちの将来の可能性を具体的に思い描くことができ、その必要性を肌身で実感できるようになります。そのときこそ、メンバーが変革に本気で取り組もうとする瞬間であり、真のスタート地点と言えます」

ステップ5:実行する

変化に対して従業員たちの賛同が得られた場合、その実行は容易となる。そのため、業務システムの刷新や組織構造の変更の際に、変更管理のコンサルタントを雇い入れ、支援してもらっている企業は少なくない。

ただ、コンサルタントの支援を仰ぐ、仰がないかかわらず、変化を主導するリーダーにとって大切なのは、自分や支持者たちの意志、積極的な関与を目に見えるかたちで示すことであり、それが「新しい仕組みや文化の導入」にほかならないと、パーキンス氏は説明する。

「例えば、リーダーが古いツールでメッセージを受け取ったら、従業員全員に使って欲しい新しいツールで返事をしなければなりません。これは、当たり前のことですが、できていない人が意外と多いのです」(パーキンス氏)

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