聞くことの大切さと手法を説く

本書はジャーナリストとして数多くのインタビューを行ってきた著者が「LISTEN(能動的に人の話に耳を傾けること)」の大切さと、そのための実践手法を説いた一冊である。本書によれば「LISTEN」には、人間関係をスムーズにし、組織やチームのコラボレーションを成功に導くパワーがあるという。ただし、誰かの発言を受動的に聞くこととは異なり、能動的に人から話を聞き出すことはなかなか難しく、それには相応の技術や鍛錬が必要なようだ。

そんな「LISTEN」の大切さや難しさ、そしてノウハウを以下の章立ての中で詳細に説明しているのが本書となる。

  • chapter 1 「聞くこと」は忘れられている
  • chapter 2 私たちは、きちんと話を聞いてもらえた経験が少ない
  • chapter 3 「聞くこと」が人生をおもしろくし、自分自身もおもしろい人物にする
  • chapter 4 親しい人との仲もレッテルからも「聞くこと」が守ってくれる
  • chapter 5 「空気が読めない」とはそもそも何が起こっているのか
  • chapter 6 「会話」には我慢という技術がいる
  • chapter 7 反対意見を聞くことは「相手の言うことを聞かなければならない」ことではない
  • chapter 8 ビックヒットは消費者の声を「聴く」ことから生まれる
  • chapter 9 チームワークは話をコントロールしたいという思いを手放したところにやってくる
  • chapter 10 話にだまされる人、だまされない人
  • chapter 11 他人とする会話は、自分の内なる声に影響する
  • chapter 12 「アドバイスをしよう」と思って聞くと失敗する
  • chapter 13 騒音は孤独のはじまり
  • chapter 14 スマートフォンに依存させればさせるほど企業は儲かる
  • chapter 15 「間」をいとわない人は、より多くの情報を引き出す
  • chapter 16 人間関係を破綻させるもっとも多い原因は相手の話を聞かないこと
  • chapter 17 だれの話を「聴く」かは自分で決められる
  • chapter 18 「聴くこと」は学ぶこと

本書のページ数は400ページ強に及ぶので、読破するにはなかなか骨が折れると思えるかもしれない。ただし、上に示したとおり、本書の中身は18の章に細かく分かれており、それぞれの内容も分かりやすい。そのため、読み進めるのはそれほど苦にはならないはずである。しかも本書の場合、全体が起承転結の体系的な構造を成しているわけではなく、イメージとしては、「LISTEN」を巡る18の「教え」を箇条書きで列記してある体裁となっている。ゆえに、chapter 1から18までを順番に読み進める必要は特になく、自分の興味・関心に従って読みたい章から読み進めていくことも可能だ。そうした構成を見て散漫な印象を受ける人もいるかもしれないが、本書のような構成のほうが要点をつかみやすく、便利と感じる人は多いのではないだろうか。

なお、上の章立てにあるとおり、本書では「LISTEN」の訳語として「聞く」と「聴く」の2つの言葉を当てている。こうしている理由は、本書で言うところの「LISTEN」を行う際の姿勢(すなわち、能動的に人の話を聞き出す際の姿勢)に以下の2タイプがあるからであるという。

  1. 話し手の語る内容を「私の考えと合っている・違う」などと自分の頭の中で判断しながら聞く姿勢
  2. 聞き手がいったん自分の判断を留保して話し手の見ている景色や感じている感覚に意識を集中させる姿勢

本書では、このうち2の姿勢を強く持った「LISTEN」に「聞く」ではなく「聴く」という日本語を当てているのである。

「LISTEN」の実践ノウハウを凝縮

本書によると、著者のケイト・マーフィ氏は『ニューヨーク・タイムズ』をはじめとする米英の有力紙・誌で活躍するジャーナリストであり、本書を記述するに当たっては、プロのインタビュアーとしての過去の豊富な経験を生かすだけではなく、およそ2年間にわたって、心理学や生理学などの大量の文献を読み込み、研究者や一般の生活者に至るまで数多くの人たちにインタビューを行ったという。

そうした著者の努力もあり、本書は実践的で納得感のある「LISTEN」の啓発書・指南書として仕上がっている。記されている内容はおそらく「人と話すのがそもそも苦手である」「なかなか人と打ち解けることができない」「顧客からうまく課題や本音を聞き出せない」「1on1ミーティングを重ねても部下がなかなか本音を語ってくれない」「場の空気を読むのが苦手である」といった悩みを抱えているビジネスパーソンに有効なヒントを与えてくれるはずである。

また、本書の記述には、インタビューを相当数重ねないとなかなか気づけないであろうポイントの指摘など、ジャーナリストである著者ならではの視点や知見、経験が随所に生かされている。その点でもユニークであり、かつ、実践的・実用的でもある。

例えば、「chapter 15」の「『間』をいとわない人は、より多くの情報を引き出す」という指摘は、ジャーナリストやメディアの記者ならば誰もが知っているようなインタビューのノウハウと言えるが、一般のビジネスパーソンはなかなか気づけないポイントである。

実のところ、メディアの記者やジャーナリストは、決められた時間内で自分の聞き出したい情報を得ようとするあまり、沈黙が長く続くのを嫌い、インタビュー相手の思考のペースを考えずに矢継ぎ早に質問を投じてしまい、結果として大切な情報を引き出せずに終わることがある。このような「LISTEN」の失敗は、ジャーナリストや記者のインタビューに限らず、あらゆるビジネスコミュニケーションにおいても同様に起こりうるというわけだ。

また、「chapter 17(だれの話を『聴く』かは自分で決められる)」で展開されている指摘にも、人から情報を聞き出すプロとしての著者の経験や鍛錬、研究の成果が生かされていると言える。

例えば、この章には以下のような記述がある。

コミュニケーションが最高にうまい人は、これまでの人生で人の話をしっかりと「聴いて」きた人であり、今、コミュニケーションをしようとしている場所でもしっかりと耳を傾けているでしょう。

こうした気づきは、著者のように人から情報を聞き出すプロとして、インタビューのスキルを高める努力を続けていたり、コミュニケーションが巧みな人の観察や分析を重ねたりしていると、自ずと得られるものであるとも言える。実際、ジャーナリストや記者としてインタビューを数多く行っていると、有能と評されるビジネスリーダーたちが、共通して話の受け答えが実に巧みであることに気づかされる。そして、その巧みさが何によって生み出されているかを観察したり、分析したりしていくと、大抵の場合、「LISTEN」の能力の高さ──すなわち、「相手の話を聞き、理解する能力の高さ」という結論に行き着くのである。

加えて、本書によると、人と話すのが巧みな人は、話す相手がどのような人かを感じとる能力にも優れており、相手のことを観察しながら、話す内容を巧みに調整しているという。さらに、会話の際には、相手の話を理論的、かつ直感的に理解するために全力を挙げているようだ。人はよく、人の話を聞きながら頭の中で別のことを考えがちになるが、そのようなことでは「コミュニケーション上手」、あるいは「LISTEN」に長けた人にはなれないらしい。ただし、人が話しているときに、その話に意識を集中させることは意外と難しく、相応の努力と鍛錬が必要であるようだ。

コミュニケーションの効力を上げるために

近年、チームパフォーマンスを高めるうえで、コミュニケーションの果たす役割がいかに大きいかが、メディアやビジネス書でさかんに唱えられるようになり、その中で、人の話に真摯に耳を傾けて理解することの大切さ──すなわち、本書で言う「LISTEN」の能力を高めることの重要性が指摘されてきた。その大きなきっかけを作ったのは、本書でも紹介されているGoogleによる調査であり、その結果をまとめたGoogleのサイト「re:Work」によると、パフォーマンスが高く創造性に富んだチームは、社会的感受性に関する平均値が高く、チームのメンバーは、話し相手が発する声のトーンや顔の表情など、非言語的な手がかりをもとに、お互いの感情を直感的に読み取る能力に総じて長けていたという。言い換えれば、チームにおける「LISTEN」の能力の高さは、チームのパフォーマンスや創造性と正の相関にあるというわけである。

となれば、チームのマネージャーとしては、自身とメンバーの「LISTEN」の能力を高めたいと考えるのが自然の成り行きと言えるが、これまでは会話のテクニックや手法を教える書籍はあっても、「聞くこと(ないしは、聴くこと)」だけに特化した指南書はほとんどなかったように思える。しかも、本書の著者は、対話によって人から情報を聞き出すプロとして実績を上げてきた腕利きのジャーナリストであり、コミュニケーションを生業とする人物でもある。そのノウハウが詰まった本書は、チームと自身の「LISTEN」の力を高めたいマネージャーにとって一読に値する一冊と言えそうである。

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