アトラシアン本社の情報サイト『Inside Atlassian』より。Teamwork Labシニア・プリンシパル・リサーチャーのコナー・ドネガン(Conor Donegan)が、米国のナレッジワーカー1,008人を対象とした最新の調査をもとに、AIを減らさずにコストを抑える方法を解説する。AIの利用コストに厳しい目が向けられるなか、AIの費用対効果を高める鍵は、コストを見えるようにすることと、組織のコンテキストを整えることにあるという。

本稿の要約を10秒で

  • AIコストを減らすには、AIの利用を制限するより、上手に使える環境を整えることが大切。
  • 「慎重に使って」と呼びかけるより、AIの利用コストを一人ひとりに見せることで、行動を変えられる。
  • AIを使い込んでいる人ほど大きな価値を生むので、利用を控えさせず、効率よく使えるよう支えていく。
  • モデル選びより組織のコンテキストを整えることで、手直しが減り、AIの費用対効果を高められる。

「もっと使え」の時代から、AIの費用対効果が問われる時代へ

この2年間、企業のAI活用をめぐるメッセージはシンプルだった。「もっと使え」である。まず試し、導入し、全社に広げる。しかし、アトラシアンのTeamwork Labが米国の知識労働者(ナレッジワーカー)を対象に行った最新の調査で、状況の変化が見えてきた。AIが日々の業務の中心になるにつれて、そのコストに注目が集まっている。そして新たな問いが浮かんでいる。「AIへの投資に見合う成果は、本当に得られているのか」という問いだ。

主な調査結果

  • コスト意識が広がり始めている。AIユーザーの5人に2人(40%)が、過去3か月の間に何らかのコスト対応を経験したと答えた。具体的には、利用状況に気をつけるよう言われた、利用の理由を説明するよう求められた、実際に制限を受けた、のいずれかだ。制限には、利用上限、利用権限の停止、より安いツールへの切り替えなどがある。
  • コスト管理が厳しくなっても、AI活用の方針は変わっていない。AIユーザーの84%が、自社はAI活用を現状維持している(48%)、または全面的に推進している(36%)と答えた。縮小していると答えたのは、わずか3%だ。
  • 多くの人にはAIのコストが見えていない。AIユーザーのほぼ半数(49%)が、自分の使うツールに会社がいくら払っているのか知らない、またはよくわからないと答えた。コストが見えているのは上の立場の人に偏っている。AIへの支出を把握している割合は、リーダー層で67%、マネージャー層で37%、一般社員では22%にとどまる。
  • 「コストを意識して」と言うだけでは、行動は変わらない。AIコストの締め付けを感じた人のうち、実際に働き方を変えたのは3分の1に満たない(31%)。残りはそれまでどおり使い続けた。さらに、AIユーザー全体の39%は、コスト削減のためにはっきり求められても使い方は変えたくないと答えている。
  • AIの価値を左右するのは、モデルの種類より文脈(コンテキスト)だ。AIがコストに見合う理由を尋ねると、使っているツール(42%)と、AIに与えるコンテキスト(41%)を挙げた人が多かった。特定のAIモデルを挙げた人(13%)を大きく上回る。

AIコストへの目は厳しくなったが、働き方はほとんど変わっていない

アトラシアンが米国のナレッジワーカー1,000人以上を対象に行った最新の調査では、AIユーザーの5人に2人(40%)が、過去3か月の間にAIの使い方について何らかの対応を求められたと答えた。利用状況に気をつけるよう言われたり、利用の理由を説明するよう求められたりしたケースだ。さらには、はっきりとした制限を受けたケースもある。具体的には、利用上限の設定、利用権限の停止、より安いツールへの切り替えなどだ。

[図1]勤務先がAIのコストに目を光らせていると答えたナレッジワーカーは40%にものぼった。仕事でAIから価値を引き出すために最も重要なものは何かとの問いには、42%が「使っているツール」、41%が「AIに与えるコンテキスト」と回答した。

画像: AIコストへの目は厳しくなったが、働き方はほとんど変わっていない

AIコストへの目が厳しくなっているのを見て、AI活用から後退し始めたと考えるのは早計だ。企業のAI変革への取り組みは、今も揺らいでいない。AIユーザーの84%が、勤務先はAIへの投資を維持している、または全面的に推進していると答えた。縮小していると答えたのは、わずか3%だ。この2つの数字からわかるのは、コスト管理を徹底する動きである。企業はAIに賭け続けながら、投じたお金に見合う成果が返ってきているかを問い始めている。AI活用の方針は「もっと使え」から「上手に使え」へと成熟しつつあるのだ。

とはいえ、注意を呼びかけるだけではほとんど効果がないことも、データは示している。AIコストに気をつけるよう求められた人のうち、実際に働き方を変えたのは3分の1に満たない(31%)。残りの人は、それまでどおり使い続けた。

アトラシアンのTeamwork Labを率いるモリー・サンズ(Dr. Molly Sands)は、こう話す。「AIを『慎重に使って』と言っても、ほとんど響かない。言うのは簡単だが、具体的に何をすればいいのか、言われた側にはほぼわからないからだ。自分が使うAIのコストが見えて、AIを使うと効果が出る場面がよくわかるようになり、毎回のやり取りで成果を引き出せるコンテキストがそろえば、コストは自然と適正な水準に落ち着く。」

多くの人には、AIのコストも、そのコストの抑え方も見えていない

本当の障壁は、コストが「見えない」ことだ。AIユーザーのほぼ半数(49%)は、自分が使うAIツールに会社がいくら払っているのかを知らない。また46%は、「AIを使う量を減らす」という大ざっぱな方法以外に、コストを下げる方法を知らないと答えた。多くの人は、目安になる数字も、コストを下げる手段も持っていないのだ。

コストが見えているかどうかは、技術スキルによって差がある。技術職の社員では77%が自分のAI利用にかかるコストを把握している。一方、それ以外の社員では45%にとどまる。

さらに気がかりなのは、役職によっても差があることだ。リーダー層の3分の2(67%)はAIのコストが見えている。しかし、役職が下がるにつれて、その割合は急速に小さくなる。マネージャー層では37%、一般社員では22%にすぎない。

その結果、マネージャーは板挟みになる。経営層からAIの効率化を求める方針が下りてくると、それを実行するのはマネージャーの役目だ。それなのに、多くのマネージャーは、自分が管理の責任を負うはずの支出そのものが見えていない。

ある行政機関の経営管理部門マネージャーはこう話す。「職場でAIを使っても、そのコストを直接感じたり目にしたりすることはないですからね。だから、ほとんどの人は気にしていないんです。」

AIの恩恵を最も受けている人ほど、AIを手放すつもりはない

AIユーザーの39%は、コスト削減のためにはっきり求められても、働き方は変えたくないと答えている。あるテクノロジー業界の財務部門バイスプレジデントは、こう言い切る。「AIにいくらかかろうと、私には関係ありません。仕事に必要なんですから、費用は会社が払えばいいんです。」

こうした抵抗感が最も強いのは、AIによって働き方を最も大きく変えた人たちだ。AIが「自分にとっての新しい当たり前」や「チームの標準」になっている人では、半数(50%)がコストに気をつけるよう言われている。AIをそれほど使っていない人では、この割合は3分の1に満たない(32%)。それなのに、AIを使い込んでいる人ほど、実際に行動を変えようとしない。こうしたヘビーユーザーの61%は、会社のコスト削減につながるとしても、使い方は変えたくないと答えている。この傾向が最もはっきり表れているのはマーケティング部門だ。何らかの形で利用状況に気をつけるよう求められた人が過半数(66%)に達したのは、職種別で見てもマーケティング部門だけである。

サンズはこう話す。「AIを最も使い込んでいる人に利用を減らさせようとするのは、発想が逆だ。AIから最も大きな価値を引き出しているのは、まさにその人たちだからだ。だからこそ、真っ先に利用を控えるよう求めるのではなく、真っ先に自分の支出が見える仕組みと、効率よく働くためのツールを渡すべきだ。」

AIの費用対効果を左右するのは、モデルではなくコンテキストだ

AIの価値を生むものは何かをナレッジワーカーに尋ねると、2つの答えがほぼ同じ割合で並んだ。使っているツール(42%)と、AIに与えるコンテキスト(41%)だ。特定のAIモデルを挙げた人はわずか13%で、大きく離された3位にとどまった。

[図2]仕事でAIから価値を引き出すために最も重要なものとして「使っているモデル」を挙げたAIユーザーは、わずか13%だった。多くの人が、モデルよりもツールとコンテキストを重視している。

画像: AIの費用対効果を左右するのは、モデルではなくコンテキストだ

この直感は、アトラシアン自身のデータでも裏付けられている。最近のTeamwork Labの調査*1では、AIが自分の仕事を理解していると感じている人ほど、AIを高く評価していた。AIに与えるコンテキストが最も少ない人と比べると、AIが「役に立つ」と答える割合は最大6倍だった。また、手直しせずにそのまま使える成果物も最大48%多かった。コンテキストが充実すれば、AIはもっと役に立つ。質の低い成果物を手直しする作業も減る。この手直しには大きなコストがかかっている。本当のコスト削減につながるのは、この手直しを減らすことなのだ。

サンズはこう話す。「モデルやツールの差が縮まっていくなかで、AIの違いを生むのは、そのAIが組織のことを実際にどれだけ理解しているかだ。組織に蓄積された知見、進行中の仕事、そこで働く人、そしてデータをどこまで理解しているかである。」

AIコストを賢く抑えるために、企業ができること

AIコスト削減への近道は、AIを使いにくくすることではない。上手に使うことを簡単にすることだ。そのために大切な取り組みは3つある。

  • AIの利用コストを一人ひとりに見えるようにする。見たこともない数字を示されずに「慎重に使って」と言われても、気をつけようがない。アトラシアンでは、全社員のために次の仕組みを整えた。1つ目は、自分のAI支出をリアルタイムで確認できる画面だ。2つ目は、その範囲内で使える予算である。3つ目は、仕事に合ったツールを自由に選べる環境だ。4つ目は、仕事で必要になったときに予算の追加を簡単に申請できる手段である。こうした申請は、ほとんどが承認されている。ねらいは、コストを見えるようにして、一人ひとりが自分の利用を自分で管理できるようにすることにある。
  • 毎回のやり取りから、より多くの成果を引き出せるようにする。そのためには、AIへの指示文(プロンプト)を工夫するだけでは足りない。組織のコンテキストを、もっと充実させてAIに与える必要がある。情報同士がつながっていて、仕事に関係があり、抜け漏れのないコンテキストだ。また、とりあえず最も高性能で高価なツールを使うのではなく、作業に合ったツールを選ぶことも欠かせない。
  • コンテキストを、組織を支える基盤(インフラ)として整える。かけた費用に対して最も大きな価値を得る企業は、AIを一番使わない企業ではない。質の最も高いコンテキストをAIに与えている企業だ。

サンズはこう話す。「AIのコスト構造はまだ固まっていない。それでも、賢いやり方はすでにはっきりしている。支出を減らすよう求めるのではなく、かけたお金からより多くの成果を引き出せるよう支えることだ。自分のAIにかかるコストが見えるようにする。仕事に合ったツールを選べるようにする。そして、AIを本当に役立つものにするコンテキストを届ける。しかも、予算を管理する人だけでなく、全員がそれを使えるようにすることだ。アトラシアンが実践しているのはまさにこれであり、どの企業にも勧めたいことでもある。」

調査方法

2026年8月25日から28日にかけて、アトラシアンのTeamwork Labは、米国でフルタイムで働くナレッジワーカー1,008人を対象にアンケート調査を行った。調査は二重盲検方式で実施した。回答者には調査の実施元を、実施元には回答者の身元を伏せる方式である。テーマは3つある。AIの活用状況、AIをめぐって厳しくなりつつあるコストへの目、そしてAIの価値を生むものについての働き手の考えだ。回答者の業種、職種、役職、世代は多岐にわたる。調査では、まずAIをどう使い、どう感じているかを尋ねた。次に、AIの利用に気をつけるよう言われたり、利用の理由の説明や利用の制限を求められたりしたことがあるか、またそれにどう対応したかを尋ねた。さらに、AIにかかるコストがどの程度見えているか、そのコストを減らせる自信がどの程度あるかも尋ねた。最後に、AIの価値をもたらす最大の要因は何だと思うかを尋ねた。選択肢は、使っているツール、AIに与えるコンテキスト、土台となるAIモデルの3つである。

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