アトラシアン本社の情報サイト『Inside Atlassian』より。Teamwork Lab シニアプリンシパルリサーチャーのコナー・ドネガン(Conor Donegan)が、Teamwork Labの調査結果に基づき、AIの成果物の質を高めて手戻りを防ぎ、実務で信頼を獲得するために必要な7つの「組織コンテキスト」とその活用法を説く。
本稿の要約を10秒で
- AIの回答が無難なのは性能ではなく、自社固有の文脈や組織知と十分に結びついていないことが原因
- 組織文脈を深く理解しているAIは、修正なしで即活用できる成果物を増やし、業務の手戻りを大幅に削減できる
- 行動データでも、文脈を統合して業務を進める組織ほど、デリバリー量が最大64%向上することが実証されている
- まずは最も効果の高い「社内データ」と「組織知」をAIに学習させ、信頼できる同僚へと育てていくことが大切
優秀な新入社員を採用したものの、入社時のオンボーディング資料(案内資料)を一切読まず、会社の歴史も知らず、会議のたびに事業戦略を一から説明しなければならない状況を想像してみてほしい。現在、多くの組織がAIから得ている体験は、まさにこれと同じである。技術そのものが劣っているからではない。AIが文脈(コンテキスト)を把握しないまま動いているからだ。
それにもかかわらず、企業がAIの効果を測定しようとするとき、注目するのは定着率や導入状況ばかりである。契約アカウント数(シート数)やプロンプトの送信数、利用状況ダッシュボードなどがその例だ。だが、そうした指標からわかるのは、従業員がAIを「使っているかどうか」にすぎない。実際に「役に立っているかどうか」はわからないのだ。
Teamwork Labによる最新の調査結果は、この2つが全く別物であることを示している。米国の知識労働者(ナレッジワーカー)1,002人を対象とした調査では、AIがどれだけ役立つかを左右する最大の要因は、従業員がAIをどれほど使ったかではなかった。AIが従業員の業務をどれほど理解していたかだったのだ。
主な調査結果
- AIが把握している文脈が多いほど、その効果も高まる。自身の業務を最も深く理解しているAIを使っている知識労働者は、主要な業務全般において「AIが役に立っている」と回答する割合が最大で6倍高かった。
- しかし、大半の従業員が使うAIは、自社のビジネスを十分に理解していない。自身のAIがベテラン社員と同等に会社を理解していると答えた知識労働者はわずか12%にとどまり、半数近く(45%)は、良くても新入社員レベルだと評価している。
- 従業員がAIに求める理解度と、実際の理解度との間には大きな隔たりがある。たとえば、知識労働者の77%が「AIが社内の組織知(蓄積された知見)を徹底的に理解していることが重要だ」と回答したのに対し、実際に理解していると感じている割合はわずか21%にとどまる。同様のギャップは、あらゆる種類の文脈において見られる。
- すべての文脈が同じ価値を持つわけではない。AIのアウトプットを「まずまずの叩き台」から「そのまま使える完成形」へと引き上げるのに最も効果的なのは「社内データ(インサイト、指標、ダッシュボード)」であり、僅差で「組織知(過去の意思決定、文書化された業務プロセス、得られた教訓)」が続く。
- AIが業務を深く理解しているほど、アウトプットの手直しは少なくて済む。業務をよく理解しているAIは、修正不要でそのまま使える成果物を最大48%多く生み出す。
最も役に立つAIとは、あなたの業務を理解しているAIである
この1年間、職場におけるAIの話題は「定着や導入状況(どれだけの人が、どれくらいの頻度で、どれほど深く使っているか)」に集中してきた。その基準で言えば、すでに勝負は決した(普及は達成された)と言える。しかし、利用頻度を見るだけでは、AIが組織に真の価値をもたらしているかどうかはほとんど予測できないことがわかった。
知識労働者1,002人を対象とした最新のPulse調査では、利用頻度が同じであっても効果を左右する別の決定要因が浮き彫りになった。それは「AIがその人の業務をどれほど理解しているか」である。自身の業務の大半をAIに理解されている従業員は、主要な業務全般において「AIが役に立っている」と回答する割合が最大で6倍高かった。
働き方の未来に関する専門家であり、Teamwork Labを率いるモリー・サンズ(Molly Sands)は次のように語る。「誰もが定着や利用の拡大ばかりを目指してきました。しかし、真の価値を実感している従業員は、単にプロンプトを最も多く入力している人たちではありません。自社のビジネスをAIにしっかり理解させている人たちなのです。これは取り組むべき全く別の課題であり、大半の企業はまだ着手すらできていません」
* 他の変数を統制した上で、AIが自社のビジネスをベテラン社員並みに理解していると答えた知識労働者と、そうでない労働者を比較したロジスティック回帰分析に基づく。
文脈のないAIを使うのは、入社したばかりの新人と働くようなものだ
あまりにも多くの組織において、AIは自社のビジネスに関する具体的な情報を持ち合わせていない。Teamwork Labによる過去の調査*1では、こうした情報の不足が「分断コスト(情報のサイロ化に伴う損失)」を生み、Fortune 500企業全体で年間1,610億ドルもの損失をもたらしていることが明らかになっている。
最新調査において、自社の組織(従業員、歴史、実際の業務の進め方など)をAIがどれほど理解しているかを尋ねたところ、経験豊富なベテラン社員と同等だと答えた従業員はわずか12%にすぎなかった。半数近く(45%)は、良くても入社したばかりの新人と同等だと回答している。予想通り、AIが把握している文脈(コンテキスト)が最も乏しい従業員ほど、AIを新入社員レベルだと表現する傾向が強かった。
AIは自社のビジネスをどれほど理解しているか?
わずか12%の従業員が、AIは経験豊富なベテラン社員並みに自社を理解していると回答
半数近くに達する45%が、AIの理解度は「せいぜい入社したばかりの新入社員と同等」と評価
サンズは次のように指摘する。「私たちはより賢いモデルを導入し続けながら、なぜ成果物がこれほどありきたりなのかと疑問を抱いています。しかし問題はモデル自体にあるのではありません。モデルが日常業務の具体的な状況に十分結びついておらず、多くの企業がAIにそうした文脈を学習する手段を提供していないことこそが問題なのです」
行動データも調査結果を裏付けている
今回の調査は、知識労働者の認識(どのように感じているか)を捉えたものである。その認識が実際の現場でも当てはまるのかを確かめるため、私たちは別の角度から検証を行った。アトラシアンのエンジニアリングインテリジェンスプラットフォームであるDXの行動データである。
より豊かな文脈(コンテキスト)がより良い成果につながるかを検証するため、顧客企業272社から得た匿名化ユーザーデータを分析した。その結果、業務に関するインサイトを統合・接続し、文脈を付与するツールであるTeamwork Graphを頻繁に活用していた組織は、デリバリー(リリース)した業務量が最大で64%多かった。
極めて重要なのは、この傾向がユーザーの業界、地域、事業部門を問わず一貫して確認された点である。これは、文脈の価値があらゆる業界やセグメントに共通して存在することを証明している。

AIを実務で活用するために必要な7つの文脈(コンテキスト)の全体像を示した図。業務(タスクと優先度)、組織知(過去の決定と手順)、データ(指標とインサイト)、人材(体制と役割)、資産(各種リソース)、コード(製品基盤)、コミュニケーション(日常の会話)の各要素を定義している。
従業員は本格的な業務をAIに任せたいが、まだ知識が不十分だと感じている
AIが自社のビジネスを把握していない場合、その代償は単に成果物の質が落ちることだけにとどまらない。「信頼」そのものが損なわれることだ。従業員は、AIが信頼を獲得するには自社のビジネスで何が起きているかを真に理解する必要があると考えているが、現在のツールがそのレベルに達していないことも明確に認識している。たとえば、従業員の77%が「AIが社内の組織知を徹底的に理解していることが重要だ」と答えているのに対し、実際に理解していると感じている割合はわずか21%にすぎない。同様の傾向は、あらゆる種類の文脈で見られる。

従業員がAIに求める理解度と現状の認識ギャップを示した図。日常の対話(82%)や組織知・業務(各77%)など、すべての文脈において高い理解度が求められている一方で、実際にAIが理解していると感じている従業員は2〜3割にとどまることを示している。
サンズは次のように述べている。「人々はAIという存在そのものを漠然と疑っているわけではありません。自社が実際にどのように動いているのかを知らない相手に、本格的な業務を任せることをためらっているのです。それは至極もっともな感覚です。しかし、AIが自社の業務を理解していると証明された瞬間、その疑念は消え去ります」
最も価値の高い文脈から始める:社内データと組織知
膨大に広がるナレッジベースを前に頭を抱えているリーダーにとって、朗報がある。すべての情報を一度に連携させる必要はない、ということだ。あらゆる種類の文脈(コンテキスト)が重要であり、どれが最も大きな成果をもたらすかは、業界や統括する部門によって異なる。しかし、どこから着手すべきか迷っているのであれば、調査結果は「社内データ」と「組織知」から始めることを明確に示している。

AIが各文脈を理解することで「修正不要でそのまま使える成果物」を出力する確率が何倍高まるかを示した図。社内データ(1.7倍)や組織知(1.6倍)の理解が特に大きな効果を生み、人材・業務・コミュニケーション(各1.5倍)などすべての文脈において成果物の完成度を1.3〜1.7倍高めることを示している。
そして、理解度が深まることは、単にAIがより役立つと感じられるようになるだけでなく、「手戻り(やり直し)」を防ぐことにもつながる。業務をよく理解しているAIは、修正不要でそのまま使える成果物を最大48%多く生み出す。
サンズは次のように語る。「新入社員とベテラン社員の違いを思い出してみてください。ベテラン社員の価値がこれほど高い理由は、単にスキルがあるからだけではありません。彼らが『何を知っているか』。つまり、組織に長く身を置くことでしか得られない過去の意思決定、文書化された業務プロセス、得られた教訓を知っているからです。AIにそうした組織の記憶(組織知)へのアクセスを与えることこそが、『新入社員』と『信頼できる同僚』の間のギャップを埋める最も確実な道なのです」
調査概要
2026年7月28日から8月3日にかけて、アトラシアンのTeamwork Labは米国のフルタイム知識労働者1,002人を対象に、職場におけるAIの利用状況、文脈(コンテキスト)の理解度、成果物の品質、AIへの信頼に関する二重盲検調査を実施した。回答者の属性は、業界、職種、役職、世代と多岐にわたる。AIの有用性を左右する要因の分析にあたっては、役職、世代、業界、職種、企業規模、利用頻度などの変数を統制している。本調査では、ビジネスにおける各種文脈(データ、ナレッジ、人材、コミュニケーション、業務、アセット、コード)をAIがどれほど理解していると従業員が認識しているか、業務を任せる上でその理解度がどれほど重要か、ならびに修正不要(または軽微な修正のみ)で使用できる成果物の割合を測定した。また、開発者の生産性に関するデータは、DXおよびアトラシアンの顧客企業272社を対象とした分析に基づくものであり、生産性指標と製品のテレメトリーデータを統合して算出している。
出典・参考資料

