チームを変革し、そのパフォーマンスを高めるには、何をすべきなのか。その答えを、人材開発・組織変革のコンサルティングファーム、リンクアンドモチベーションの取締役である麻野耕司氏に聞いた。麻野氏は、話題の書籍『THE TEAM~5つの法則~』(幻冬舎)の著者としても知られる人だ。
画像: 麻野 耕司(あさの こうじ):株式会社リンクアンドモチベーション取締役。2003年、慶應義塾大学法学部卒業。リンクアンドモチベーション入社。10年に中小ベンチャー企業向け組織人事コンサルティング部門の執行役員に当時最年少で着任。13年、成長ベンチャー企業向け投資事業立ち上げ。複数の投資先を上場に導く。16年、国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」立ち上げ。18年、同社取締役に着任。同年オープンワーク株式会社取締役副社長を兼任。国内最大級の社員クチコミサイト「OPENWORK」を展開。著書に『THE TEAM~5つの法則~』など。

麻野 耕司(あさの こうじ):株式会社リンクアンドモチベーション取締役。2003年、慶應義塾大学法学部卒業。リンクアンドモチベーション入社。10年に中小ベンチャー企業向け組織人事コンサルティング部門の執行役員に当時最年少で着任。13年、成長ベンチャー企業向け投資事業立ち上げ。複数の投資先を上場に導く。16年、国内初の組織改善クラウド「モチベーションクラウド」立ち上げ。18年、同社取締役に着任。同年オープンワーク株式会社取締役副社長を兼任。国内最大級の社員クチコミサイト「OPENWORK」を展開。著書に『THE TEAM~5つの法則~』など。

「チーム偏差値」が40台なのは誰のせいなのか?

「自分のチームはこのままでいいのか」─―。会社組織の中で、何らかのチームを率いているリーダーの多くがこうした不安を抱いているはずだ。

言うまでもなく、このような不安を払拭する一手は、チームづくりに関する知見・方法論を広く吸収することである。その意味で、リンクアンドモチベーション取締役の麻野耕司氏が記した書籍『THE TEAM~5つの法則~』(発行:幻冬舎/以下、『THE TEAM』)は、まさにチームづくりの“ハウツー”をつかむうえで有効な一冊といえる。

麻野氏は、組織変革のプロフェッショナルとして数々の実績を残してきた人だ。『THE TEAM』は、そんな麻野氏の知識・経験がフルに生かされた書籍といえるが、ユニークなのは、この本が単なる経験則や精神論に基づいた指南書ではない点にある。

同書では、優れたチームづくりと運営に必要とされる5つの要素─―すなわち、「Aim(目標設定)」「Boarding(人員選定)」「Communication(意思疎通)」「Decision(意思決定)」「Engagement(共感創造)」に関する手法が、心理学・社会学・言語学・組織行動学・行動経済学など、さまざまな学術的知見に基づく「法則」として、論理的にまとめ上げられている。それぞれの説明は明快で、チームづくりに悩むリーダー/マネジャーにとって大いに参考になるはずである。

もっとも、麻野氏によれば、同書は特に企業組織のリーダー/マネジャーに向けて書いたものではないという。

「むしろ、本書にある法則を知っていただきたいのは、リーダーやマネジャーの下で働く現場の社員の方々です。というのも、社員の一人一人が、チームを変えていく意志と正しい知識を持って行動しなければ、チームの変革は成し得ないからです」(麻野氏)。

麻野氏は大学卒業後の2003年にリンクアンドモチベーション社に入社し、10年に同社の中小ベンチャー向け組織人事コンサルティング事業の執行役員に当時最年少で就任した。のちの16年には、組織の状態を定量的に診断/可視化できる「モチベーションクラウド」のサービスを立ち上げた。

麻野氏によれば、このモチベーションクラウドによる分析結果を見ると、同じ会社に属するチームでも、そのパフォーマンスに大きな開きが出ることがよくあるという。例えば、あるチームの偏差値が65であるのに対し、あるチームの偏差値が40台でしかないといった格好だ。会社が同じということは、働く環境も、組織の慣習も、基底のカルチャーも同じであり、上司の能力にもそれほどの開きがあるわけではないはずである。

「それでも、チームパフォーマンスに開きが出てしまうのは、チームメンバーの当事者意識に格差があるからです。パフォーマンスの低いチームほど、メンバーの当事者意識が低く、所属チームのパフォーマンスの悪さを上司や会社のせいにしがちです。そして、自分のチームの問題点や欠点を、まるで評論家のように批判したり、指摘したりしている。そんなことでは、チームは変われませんし、強くなれないんです」と、麻野氏は語り、語気を強めて次のように続ける。

「プロスポーツのチームと同様に、企業におけるチーム成績が振るわないのは、経営陣やリーダーだけのせいではなく、チームで働く全員の責任です。そのことをしっかりと認識し、現場で働く方も、当事者意識を持って行動を起こすことが重要です」

ミドルマネジャーがダメだとすれば……

日本の企業組織では、部下が上司を選べないのが通常だ。それと同様に、チームリーダーも、一般的には部下を選ぶことができず、会社から与えられた人的リソースでチームを編成して結果を出さなければならない。

「にもかかわらず、なぜか経営層も、現場で働く社員たちも、リーダーたちに過大な期待をかけ、チームの全責任をリーダーに背負わせようとします。このような組織の状態はとても健全とはいえません」と、麻野氏は指摘する。

同氏によれば、この問題の責任は経営側にあり、なかでも改善すべきは、リーダー、あるいはミドルマネジャーの役割定義の曖昧さだという。

「経営層の方々から、自社のミドルマネジャーへの不満を聞くことがよくあります。そのようなとき、私は必ず、『ならば、個々のミドルマネジャーの役割を明確に定義できていますか』と聞き返します。実のところ、この問いかけに、しっかりとした答えが返ってくることはまずありません。つまり、ほとんどの企業がミドルマネジャーの役割を明確に定義していないわけです。

役割を定義せずにミドルマネジャーに仕事をさせるというのは、大学が受験科目を決めずに入試を行うようなもので、マネジメントの在り方として明らかに間違っています。実際、どんな役割を担うべきかが曖昧なまま、単に数字だけを背負わされるのでは、ミドルマネジャーが有効に機能できなくて当然です。従って、ミドルマネジャーのパフォーマンスに問題があると感じたときには、まずは、マネジメントの在り方から見なおすべきでしょう」(麻野氏)

“最高・最強のチーム”は世の中に存在しない

画像: “最高・最強のチーム”は世の中に存在しない

「米国に比べると、日本の企業は、優れた人材の雇用・開発への投資意欲が圧倒的に低いですね。日本企業の多くは、まだ機械化・工業化時代の発想を引きずっていて、チームや人材の能力次第で会社の付加価値生産性や収益が大きく上下するとは考えていないようです」(麻野氏)

確かに、日本の組織では、上席部長、部長、部長代理・補佐、課長、課長代理・補佐、係長、主任など、ミドルマネジャーの職位は数多くあり、組織階層上の上下関係は定義されているが、それぞれの役割の違いは曖昧で、どうとでも解釈できるような一文で責任範囲が示されていることが多い。また、各マネジャーのジョブディスクプリションも存在しないのが一般的だ。このような状況では、そのポジションに就いた人が、どのような役割・責任を果たすべきかが分からず、勢い、ミドルマネジャー間での責任転嫁が起きてしまうリスクも高まる。

加えて、麻野氏によれば、チームリーダーの役割は、チームごとに決められ、定義されるべきもので、組織における汎用的な職位・役割の定義自体にはほとんど意味がないという。

「企業組織のチームは個々に置かれた状況や環境、ミッション、目標が異なります。ですから、リーダーがどのような役割を担うべきかは、チームごとに決めるのが理にかなった方法です。例えば、あるチームでは、チームの目標設定や共感創造、意思決定などの全てをリーダーが担うのが有効な場合があるでしょう。逆に、最終的な意思決定以外は全てチームのメンバーが分担して担ったほうが有効な場合もあります」

また、チームごとに環境や状況が異なる以上、世の中に「最高・最強のチーム」なるものも存在しないと麻野氏は付け加える。

「メディアの方から、『麻野さんが思い描く最高・最強のチームとは、どのようなチームですか』と聞かれることがあります。ただし、チームのあるべき姿は、置かれた環境・状況の違いによってさまざまです。従って、最高・最強のチームなるものは世の中に存在せず、あるのは個々の状況・環境に適合した“最適なチーム”だけです」(麻野氏)

では、その「最適なチーム」を目指す中で、『THE TEAM』に記されている法則をどのように活用していくのが正解なのだろうか。この問いかけに、麻野氏は、「『THE TEAM』の応用を検討するならば、とにかく1つでもいいので、本の中に記されているテクニックをすぐに実践することをおすすめします」と語り、次のような説明を加える。

「『THE TEAM』の内容を完璧に理解してから、その中の法則を実践しようとすると、時間を要しますし、書かれている法則を全てパーフェクトに実践するのもなかなか困難です。実際、法則を記した私ですら、法則に反するようなことを仕事の中でやってしまい、『しまった』と思うことがたびたびあります。ですので、あまり大上段に構えず、本の中から、これは効き目がありそうだと思えるものをいくつか見つけて、とにかく実践してみてください。そうすれば相応の手応えを感じていただけるはずです」

麻野氏によれば、日本の企業は、米国などに比べてチーム力強化や人材育成・開発への投資が圧倒的に少ないという。結果として、日本のナレッジワーカー(知識労働者)の付加価値労働生産性は、米国企業に大きく水を開けられている状態が長く続いている。そうした点を踏まえながら、麻野氏は次のように話をまとめる。

「今日、あらゆる産業のソフト化が進んでいますが、ソフトのビジネスでは、人の能力の違いによって、パフォーマンスに1000倍もの開きが出ることがあります。

その意味で、優れた人材の雇用・開発やチーム力強化は、かつての大量生産・大量消費時代とは比べものにならないほど重要性を帯びていて、私の大きな使命は、そのことを日本の経営者に理解してもらい、自社の競争力を高めてもらうことです。一方で、現場で働く人たちにも、経営者が変わること、会社が変わることをただ待つのでなく、自らすぐに行動に移してもらいたいと願っています。会社の将来を担うのは、それぞれの組織の現場で働く方々です。その組織の変革を緩やかに進めていて、市場での現在の地位を将来にわたって確保できるほど、今日の企業間競争は甘くはないと私は見ています」(麻野氏)

画像: 『THE TEAM~5つの法則~』(幻冬舎) atlassian-teambook.jp

『THE TEAM~5つの法則~』(幻冬舎)

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