アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。メインライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)が、ハイブリッドワークの効力を高める「ワーキングアグリーメント」の作り方について指南する。

総点検:ワーキングアグリーメントがチームにもたらす効果とは?

まず、ワーキングアグリーメントには、チームに新たに加わったメンバーがチームに馴染むスピードを早めるという効果がある。また、以下のような働きも期待できる。

  • チームのワークフローを合理化し、生産性を高めるための手段を明確にする。
  • チームのメンバー同士が互いの良さを引き出す方法を明確にする。
  • チームのメンバー同士が互いに何を期待すべきかを明確にし、過度の期待を回避する。

加えて、ワーキングアグリーメントはメンバーのストレス、不安の蓄積を回避するのに有効な、次の4つの効果をチームにもたらす。

1. コミュニケーションを改善する

大抵の人は仕事に「安定性」や「予測可能性」を求める。そのため、自分の問い合わせに対するチームメイトやリーダーからの返事がいつになるかが不明であったり、新しい仕事の内容がどのように伝達されるかがわからなかったりすると、チーム全体に不安感が広がり、士気が損なわれることになる。実際、52%の企業がコミュニケーション不足のために損失を出しているとの調査報告もある。

また、チームのメンバーは「自分は輪の中にいる」「すべての最新情報を得ている」と信じることができなければ、自分で正確な情報を探し出そうとして時間を浪費しがちになる。加えて、その探索によって正しい情報が見つけられなければ、結果として間違った行動をとり、さらに時間を浪費してしまうことになる。ワーキングアグリーメントでチーム内におけるコミュニケーションのあり方や情報伝達のあり方を明記しておくことで、こうしたメンバーの不安や不安に起因した時間の浪費を回避することが可能になる。

2. メンバーへの期待値を明確にする

チームの中で仕事をしていると、自身がとるべき行動についてさまざまな疑問が生じるはずである。例えば「チームメイトとのミーティングに遅刻したときには逐一上司に報告すべきなのか」「プロジェクトに遅延などの問題が発生した際に、自分はどのような責任を果たすべきなのか」「自分のアイデアをチームに受け入れてもらうためには、何をどうするのが適切なのか」といった具合である。こうした疑問への答えが明確であれば、チームのメンバーは、自分のとるべき行動を速やかにとれるようになり、不要なストレスの蓄積や人との衝突を避けられるようにもなる。そしてワーキングアグリーメントは、このような仕事上の疑問を解消するための情報源として有効に機能しうるのである。

3. メンバー同士で互いのワークスタイルを理解し、調和させる

人はそれぞれ異なる条件のもとで最高のパフォーマンスを発揮する。例えば、人と対話しながら思考を巡らしてアイデアを想起するのが得意な人もいれば、自分なりに考えをまとめてからでないと人とアイデアを共有できない人もいる。また、自分にとってベストの働き方が「ワークライフ・セグメンター(=仕事とプライベートの時間をきっちり分けようとする人)」タイプの人がいる一方で、「ワークライフ・インテグレーター(=プライベートと仕事が混然一体の状況を好み、その状況の中で能力を発揮する人)」タイプの人もいる。そうしたタイプの違いをお互いに理解し、尊重し合うことで、チームは高いパフォーマンスを発揮する。その逆に、例えば、ワークライフ・インテグレーターのメンバーが、セグメンターのチームメイトがなぜ夜9時の仕事の連絡に反応しないかのを理解していなければ、互いのフラストレーションと対立のもととなる。

ワーキングアグリーメントでこのようなメンバーのタイプの違いを吸収できるような働き方をルール化し、かつ、働き方に対する嗜好やライフスタイルの違いに対する相互理解を促すような一文を明記することで、メンバー各人のフラストレーションの蓄積や対立を避けられるようになる。

4. 心理的安全性を担保する

ワーキングアグリーメントチームにおけるメンバー間の相互信頼や心理的安全性の欠如は、メンバーのストレスの蓄積や「燃え尽き症候群」、さらには「いじめ」「ハラスメント」につながるおそれが強い。その兆候は、例えば、会議中にメンバーの誰かが、誰かの話を遮るといった些細(ささい)な行動として現れるかもしれない。ただし、そうした行動を放置していると、その負の影響は時間とともに蓄積されていき、チームの士気とパフォーマンスが致命的なレベルにまで落ちてしまうリスクがある。ゆえに、ワーキングアグリーメントの中で、チームにおけるメンバー間の相互信頼と心理的安全性を担保するための行動規範を明文化しておくことが重要となる。

ちなみに、アトラシアンのベテラン社員であるアンネリーゼ・キャピー(Annelise Cappy)は、PRスペシャリストからSEOスペシャリストへとキャリアを転換する際に、ワーキングアグリーメントが大いに役立ったと振り返る。

新しいチームのメンバーとは面識はあったものの、ともに仕事をする機会はほとんどありませんでした。ですので、彼らのワーキングアグリーメントは、チームがどのように機能しているのか、また、その中で私がどのような役割を担うべきかを理解するうえで非常に有効だったといえます。

また、その記述からは「プロダクトの更新情報をどこで共有するのか」「何時まで働くのか」といった仕事や働き方の基本的なルールだけではなく、チームの全員がプロジェクトワークに集中するための「ヘッドダウンタイム(=脳を休ませる時間)」を切望していることも読み取れた。そこでキャピーは、月に一度、会議のない週を設けることを提案し、その提案がワーキングアグリーメントに取り入れられたという。

このほか、ワーキングアグリーメントは、チームの行動が協定から逸脱した場合のフェイルセーフメカニズム(修正メカニズム)としても機能しうる。

例えば、協定から逸脱した行動が認められたときに、チームの全員が「チームは以前、●●を行うことで合意したが、実質的にそれは実行されていない。この合意事項を見直す必要はあると思うか」と、チーム全員に問いかけることができる。これによって、ワーキングアグリーメントの適正化が図られることになる。

優れたワーキングアグリーメントの作り方

ワーキングアグリーメントの作成・改訂を進めるうえで最も重要なことは、それにチームの全員がかかわり、合意を形成することだ。というのも、これはあくまでもメンバーによるチームの取り決めであって、上から命令を受けて作成するものではないからである。

「Atlassian Team Playbook 」にあるワーキングアグリーメントの作成に向けたグループワーク「Working Agreements Play」(以下、WAP)には、オフィスワーク中心型のチームやリモートワーク中心型のチームに向けたテンプレートや要点など、ワーキングアグリーメントを作るうで必要な手順と要素がひととおりまとめられている。例えば、WAPでは、優れたワーキングアグリーメントを作成するうえでのテクニックとして、チーム全員で以下の自問への答えを見出すことを推奨している。これらを参考に作成/改訂し、より調和のとれた職場環境を目指していただきたい。

  • チームが自身の活力を感じられるようにするには何が必要か?
  • チームの心理的安全性を高めるに、何をどうするのが適切か?
  • チームの全員で最優先事項を共有させるには何が必要か?
  • 新しい仕事を引き受ける前に、あるいは始める前に、私たちは何をするか?
  • 私たちは、どのような方法で連絡を取り合うのが好ましいか?
  • チームメイトからのメッセージにはどの程度早く対応するのが適切か?
  • より良い会議を行うためには、どのようなガイドラインが必要か?
  • チーム内で意見の相違があった場合には、どのように対処すべきか?
  • 勝利の喜びをどのように分かち合うか?
  • 多様な考え方を受け入れ、オープンな議論を促進するには何が必要か?
  • 継続的な改善の考え方を日々の行動に取り入れるにはどうすべきか?