アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのシャイナ・ローゼン(Shaina Rozen)が「発散的思考」によって斬新のアイデアを生むための方法について説く。

本稿の要約を10秒で

  • 「発散的思考」とは、自由で構造化されていないブレインストーミングを通じて新しいアイデアを生み出す創造的なプロセスである。これは、1つの答えに直線的にたどり着こうとする思考法とは一線を画すもので、あらゆる可能性を探ることが奨励されている。
  • 発散的思考が最も効力を発揮するのは、それを行う人たちの間に心理的安全性が確保され、かつ、インスピレーションを得るための相応の時間と場所が提供され、ブレインストーミングに貢献する約束が交わされ、そして適切なウォーミングアップが行われている場合に限られる。
  • 発散的思考の実践手法は、非構造の思考プロセスに適切な構造を持ち込み、ブレインストーミングをより効率的で効果的なものにする効果がある。

発散的思考とは何か

「発散的思考(ダイバージェントシンキング)」とは、1956年に心理学者のJ. P. ギルフォード(J.P. Guilford)氏によって紹介された思考法だ。自由な発想による非構造型のブレインストーミングを通じて新しいアイデアを生み出す創造的なプロセスを指している。

問題解決ためのミーティングやブレインストーミングでは通常、「収束的思考(コンバージェントシンキング)」や「水平思考(ラテラルシンキング)」を使い、単一の“正しい”答えを速やかに見つけ出そうとする。それに対して発散的思考では、とりうる選択肢をすべて探索するために曲がりくねった道を歩む。また、自分のペットに名前を付けるときと同じように、そこには「正解」も「誤答」も存在しない。

この発散的思考のアプローチには以下のような利点がある。

  • 問題やコンセプトを多面的、多角的にとらえられる
  • より多くのアイデアの中から最適な解決策を選り抜くことが可能になる
  • 人の創造性とオープンマインドを刺激し、より良い解決策が見い出されることが多い

なお、以下の表は、発散的思考と収束的思考、そして水平思考の違いを示したものだ。

発散的思考自由で構造化されていないブレインストーミングを通じて新しいアイデアを創造する思考法
収束的思考分析と構造化されたプロセスによってアイデアを論理的に絞り込んでいく思考法
水平思考創造性と論理性のコンビネーションによって1つの答えを出す思考法。発散的思考のように自由な着想が許容されるが、その究極的なゴールは収束的思考と同じく1つの答えを導き出すことである
3つの思考法の概略

共創への道を開く

発散的思考には、新しいアイデアやより良い解決策を導き出せる可能性がある。ただし、この思考法を有効に機能させるためには、いくつかの要件を満たさなければならない。その要件とは次に示す5つである。

要件①「心理的安全性」を確保する

心理的安全性は、ハーバード大学の研究者エイミー・エドモンドソン氏による造語だ。組織・チームのメンバー全員がお互いを尊重し、安心してリスクをとれる心理状態にあることを指す。組織やチームのメンバー全員が心理的安全性を感じ「何を言っても他者から非難されたり、蔑(さげす)まされたりすることはない」と感じていれば、人は快適になり、オープンマインドのもとで新しいアイデアを探求するようになる。また、最善の解決策を見つけるために協力的にもなる。

要件②相応の時間と場所を確保する

日々の業務に忙殺されていると、組織・チームが戦略的で、かつ創造的であり続けることは難しい。ゆえに、発散的思考には相応の時間が必要であり、そのための場所も確保しなければならない。また、その場所は会議室や社外など、普段仕事をしているところとは異なる場所であることが望ましい。というのも、そうした場所でブレインストーミングを行うことで、組織・チームのメンバーは、いつもとは異なる、自由な発想ができるようになるからだ。

要件③5~7名のメンバーを集めて多様性も確保する

ある調査によれば、発散的思考を使ったブレインストーミングは参加者を5~7名にするのが効果的であるという(参考文書 (英語))。

また、ブレインストーミングを行うメンバーの多様性(ダイバーシティ)を可能な限り確保することも忘れてはならない。これにより、大勢に迎合して自分の信念を曲げてしまう「集団思考」を回避することが可能になるためだ。なお、ここで言う多様性とは、専門分野(設計、開発など)の違いをはじめ、部門(営業、マーケティング、製品企画など)の違い、「批判的思考」における視点(ビジネスの最前線での経験、機能的な専門知識、創造性、革新性など)の違い、アイデンティティ(文化的背景、性別など)の違いを指している。

要件④「チーム協定」によって発散的思考への積極的な参加を促す

発散的思考は、ブレインストーミングの参加するメンバー全員がセッションに集中し、協力的でなければ効力を発揮しない。そうした状況をつくるうえでは「チーム協定」としてブレインストーミングにおける行動規範(例えば、ブレインストーミングのセッション中はPCやスマーフォンなどのデバイスを脇に置いておく、思いついたアイデアをすべて述べて参加者全員と共有する、判断を保留する、他者の提案を否定せず、それをもとにしながら自分のアイデアを組み立てる、など)を定めて、合意をとっておくことが有効である。

要件⑤ウォーミングアップから始める

運動の前にウォーミングアップを行うのと同じように、発散的思考によるブレインストーミングを行う前には頭を温めておくことが大切である。

このウォーミングアップは、アイスブレークアクティビティのように構造化されたものでも、音楽を聴いたり、絵を描いたりするような自由形式のものでも構わない。