2022年11月17日、アトラシアンのプライベートイベント「Atlassian TEAM TOUR Tokyo 2022」が開催された。そのイベントで展開された基調講演のエッセンスを報告する。演題は「“分断”されたピラミッド型組織からの脱却 ~ DXを前提とした組織づくりの勘どころ」。ITコンサルティング・調査会社アイ・ティ・アール(ITR)の会長兼エグゼクティブ・アナリストで経済産業省「DX銘柄」の選定委員でもある内山悟志氏がスピーカーを務めた。

株式会社アイ・ティ・アール(ITR)
会長兼エグゼクティブ・アナリスト
内山悟志氏

グローバル企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパン(現ガートナー・ジャパン)でIT分野のシニア・アナリストとして国内外の主要IT企業の戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は、企業のIT戦略立案・実行およびデジタルイノベーション創出のためのアドバイスやコンサルティングを展開している。2015年から経済産業省「攻めのIT経営銘柄」および「DX銘柄」選定委員を務める。

日本的経営の寿命はすでに尽きている

ITRの内山悟志氏による講演は、デジタルトランスフォーメーション(DX)で成功を収めるために、日本企業の組織のあり方、組織文化(仕事の進め方)をどのように変革すべきかを説いたものだ。論点は「①なぜ、組織と組織文化の変革が必要なのか」「②デジタル時代に適応した組織文化とは何か」「③新しい組織を手に入れるための要点とは何か」という3つのポイントに絞られた。

このうち、最初の論点である「なぜ、組織と組織文化の変革が必要なのか」の理由として、内山氏は「日本的経営の寿命がすでに尽きているため」との見解を示す。

「ピラミッド型の階層組織や上意下達の指揮命令、過去の成功体験に基づく意思決定など、高度経済成長期に形成された日本的経営モデルや組織文化は、今日のデジタル時代には不適合です。デジタル時代を生き抜くためには、日本的経営モデルとそれを支える組織文化の変革が必須であると断言できます」(内山氏)

「デジタル時代にはピラミッド構造の階層組織や上位下達、過去の成功体験に基づく意思決定などを基礎とする日本的経営モデル、組織文化は適応できない」と指摘する内山氏

デジタルはもはや変革の「手段」ではない

内山氏によれば、現代社会はすでに「アフターデジタル」の時代に突入しているという。

アフターデジタルとは、人とリアル、人とデジタルとの関係が従来とは逆転した世界を指している。例えば、かつての暮らしは「普段は実世界(リアルな場)を通じて人や店舗、企業、社会との接点を持ち、ときおりデジタルを通じてそれらとつながろうとする」といったものだった。それに対して、アフターデジタルの暮らしは「常にデジタルとつながり、ときおり実世界でも人や店舗、企業、社会とのつながりを持とうとする」といったものだ。

このような時代においては、社会活動・経済活動の全体が高度にデジタル化され、「DXが持つ本質的な意味も変化していきます」と内山氏は語り、次のような説明を加える。

「現時点のDXでは、デジタル(データやデジタル技術)はビジネス変革の『手段』にすぎません。ただし、これからデジタルが『手段』から『前提』へと変容していきます。つまり、何事にも『デジタルファースト』の発想で臨み、高度にデジタル化された社会活動・経済活動に適応できる企業へと『まるごと生まれ変わる』ことがDXの本質になるということです(図1)」

図1:これからのDXの本質(出典:ITR)

アフターデジタルの時代に適応できる組織文化とは

内山氏のいう「これからのDX」においては、ビジネスモデルはもとより、顧客やパートナ企業との取引・接点、社内での働き方、業務プロセス、意思決定、組織運営の方法など、すべてがデジタルを前提にして組み立てられていることが目指すべき姿となる。

そうした「あるべき姿」を実現し、維持していくうえで必要されるのが、アフターデジタルの時代に適応できる組織文化を築くことであると、内山氏は訴える。

では、アフターデジタルの時代、あるいはデジタルを前提にすべての物事を組み立てなければならない時代に適応できる組織文化とはどのようなものなのか。その問いかけへの答えとして、内山氏は以下に示す5つを掲げた。

①創造的な活動の自由と奨励
この文化は、誰もが自発的に創造的な活動を自由に行うことができ、経営陣を含む周囲からの支持や協力が得られ、活動の成果がしっかりと評価・称賛される環境を指している。

②ファクト(データ)に基づく意思決定
これは、市場や顧客のニーズの変化が激しい今日では必要不可欠な行動規範といえるものだ。ビジネスの現場がデータにもとづいて速やかに意思決定を下し、行動することを意味している。この組織文化を醸成するためには、実績などの定量データのみならず、市場、顧客に関する情報や先行指標となりうる定性情報など、意思決定に必要なあらゆるファクト(データ)が、組織横断のかたちで全社員にオープンにされていることが前提となる。

③人材の多様性と組織のトライブ化への対応
トライブ(種族)化された組織とは、所属するメンバーが固定的ではなく、かつ、情報の流れや指揮命令系統が上意下達ではなくフラットで縦横無尽であるような組織を指す。また、トライブ化された組織は、会社や部署といった組織の枠を超えた協調、交流が実現されるといった特徴も持つ(図2)。さらに、トライブ化された組織では資金、設備、人材などをメンバーが持ち寄ったり、その都度調達したりするようになる。

図2:ピラミッド型の組織とトライブ化された未来型の組織(出典:ITR)

④個人の組織への貢献の可視化と正当な報奨
これは、就労した時間の長さや業務のプロセス、働きぶりではなく、企業(の目標達成)への貢献度によって従業員を評価する文化を指す。こうした評価を行うためのフレームワークとして「OKR(Objectives and Key Results:目標と主要な結果)」などがある。

⑤リスクの許容と失敗からの学習
この組織文化は、社内の誰もがリスクをとって新しいことにチャレンジできるよう、組織全体がリスクを許容し、人の失敗を責めるのではなく、そこから学ぼうとする姿勢を指す。この文化を醸成するうえは、失敗の隠ぺいを防ぐための「心理的安全性」の確保が必要とされるほか、「行動するリスク」と「行動しないリスク」とを比較し、ポートフォリオで管理することも求められる。

これからのデジタル時代に適応できる組織文化について説く内山氏