アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。アトラシアン タレントマネジメント&人材開発ヘッドのサラ・ラーソン(Sarah Larson)が、人材の流出を抑止する一手「ステイインタビュー」の実践手法を説く。

本稿の要約を10秒で

  • 米国労働省労働統計局のデータを見ると、ホワイトカラーの離職率が急激に上昇している傾向が見られる。
  • 退職希望者との面談(=退職時面談)は、人材が会社に何を求めているかを聞き出す好機だが、この段階でその人材の要望を満たそうとしても、退職の意向を翻意させるのは難しい。
  • 組織・チームのマネージャーが、従業員との1対1(1 on 1)の「ステイインタビュー(Stay Interview)」を展開することで、有能な人材の流出を未然に防げる可能性が高まる。

1カ月間で70万人の米国ホワイトカラーが会社を辞める

2021年春ごろから、企業の労働力を巡り、人事担当者やチームのマネージャーらを震撼させるような予測・データが相次いで報告されている。

例えば、ある米国メディアの報道によれば、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の流行が引き起こした世の中の大きな変化に適用できず、コロナ終息後にビジネスのあり方や働き方をコロナ以前の状態に戻そうとする企業の場合、従業員の25〜40%が退職してしまうおそれがあるという。

また、米国のメディア『The Atlantic』はさらに衝撃的なデータを紹介した。それは、米国労働省労働統計局のデータであり、その内容によると、2021年5月単月で実に70万人超の米国ホワイトカラーが仕事を辞めているという。

企業のマネージャー層は、このような「破壊的なビジネスリスク」を回避する、あるいは低減させるために何を、どうすればよいのだろうか──。

従業員が自ら会社を辞めようとする動機づけはさまざまだが、病気や家庭の事情といった特別な理由がない場合、大抵は、自分の会社に対する不満や不安、疑問を抱くことが退職のきっかけとなる。ゆえに、企業のマネージャー層は、従業員各人の心の状態や会社で働くことへの意欲・意識を常に把握しておくことが大切である。

ここで仮にあなたが、あなたが組織のマネージャーだとしよう。果たしてあなたは、自分のマネージする組織の中で「燃え尽き症候群」に陥っている人員がいるかいないかをすぐに確認するすべを持っているだろうか。

また、組織の中の誰が、伝統的で安定した雇用を捨て去り、リスクをとって自分の本当にやりたい仕事にまい進する「YOLO(You Only Live Once )エコノミー」の一員になる可能性が高いかをつかんでいるだろうか。さらに「(コロナ終息後に)リモートワークができなくなるなら、会社を辞めよう」と密かに決意している従業員が組織の中に何人いるかを把握できているだろうか。

仮に、これらができていないなら、あなたはマネージャーとして優秀な人材の流出を未然に防ぐことは難しいと考えるべきである。

「スタープレーヤー」の退職を防ぐ

私は、アトラシアンにおけるタレントマネジメントの責任者であると同時に、文化人類学の元研究者でもある。その「フィールドワーク」の一環として「退職時面談」の研究を行ってきた。

純粋な学術研究の対象として退職時面談は非常に魅力的な場であり、個人の嗜好や集合的な欲求・ニーズを知るうえで、きわめて有効なツールと言える。

ただし、言うまでもなく、大多数の従業員は、退職時面談を受けるまでに退職の意思を固めている(かつ、優秀な人材であれば、退職時面談を受けるまでに新しいキャリア・人生をスタートさせるための準備を整えている)。ゆえに、退社時面談によって面談相手のことを正確に知りえたとしても、当人の退職を引き留めるのは非常に難しく、ほとんど不可能である。言い換えれば、人材流出を阻止する一手としては、退職時面談はほとんど(というよりも、まったく)機能しないと言えるのである。

したがって、組織・チームのマネージャーが人材流出を防ぐためにまず成すべきことは、自分の組織・チームにおける「スタープレーヤー」の退職を未然に防ぐこととなる。

ビジネスのチームにおける「スタープレーヤー」とは、パフォーマンスが高く、統率力もあり、同僚たちの役割も担えてしまえるような人材のことだ。プロスポーツのチームと同じように、このような優れたプレーヤーが抜けると、チームは浮足立ち、全体の仕事・機能・士気に大きな負のインパクトが及ぼされる。それが、チームの瓦解へとつながり、結果として、他のメンバーの流出へとつながっていくおそれも強い。

実際、私のチームにもスタープレーヤーが幾人か存在し、仮に彼らが抜けた場合、チームの目標・目的が達成されることはまずないと言い切れる。ゆえに、私は、彼らが退職の意思を固めてしまい、退職時面談の場に姿を現すのを未然に防ぐ目的で、彼らが普段の仕事で何を楽しんでいるのか、何に対して働く満足感を得ているのかを常に観察・把握するよう心がけている。

その目的を果たすための手段として、私が自分のチームで展開しようとしている1つが「ステイインタビュー(Stay interview)」である。

ステイインタビューは仕事に対する人の心理状態をとらえるうえで、かなり優れた手法と言え、人材流出を防ぎたいと考えるすべてのマネージャーにお勧めしたいテクニックでもある。そこで以下では、ステイインタビューの実践方法について紹介する。なお、ステイインタビューの主目的がスタープレーヤーの退職阻止にあるとしても、公平性を期すためにインタビューはチームの全員に対して個々に行うのが原則である。