アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。アトラシアンのプロダクトマーケティング責任者、ディヴィヤ・クマール(Divya Kumar)が、自社の調査データやアダム・グラント(Adam Grant)らの知見をもとに、AIを「個人の生産性ツール」から「チームの連携力を高める仕組み」へと転換するための5つの実践的アプローチを提案する。
本稿の要約を10秒で
- AIによる個人の時短効果をチーム成果につなげるには、リーダー自身が使う姿を見せ、実験しやすい文化をつくることが大切
- 個人が速くなるほどチーム連携の古さがボトルネックになるため、課題をチームで診断し一緒に直していく
- AIの精度はデータの質で決まるため、まず一つのデータセットを整備するところから始める
- 能力よりも「学び続ける適応力」が問われる時代では、良いやり方をチームで共有し広げていくことが武器になる
1日76分を生み出しても、チームの成果につながらないのはなぜか
AIはすでにあらゆる場面に浸透している。メールの下書き、会議の要約、データ分析、企画書の初稿作成 ── こうした作業をAIがこなしてくれる時代だ。個人レベルでは、AIは確かに成果を上げている。アトラシアンの調査では、ナレッジワーカーがAIによって1日あたり76分を節約
できていると回答した。いわば「浅瀬」の段階 ── 便利で、手応えもあり、前に進んでいる実感が得られる。
しかし、あまり語られていない事実がある。この個人レベルのスピードアップが、チーム全体の成果にはまだほとんど反映されていないのだ。なぜか。
アトラシアンのAIコラボレーションインデックス*1によると、「AIのおかげでこれまで解けなかった問題を解決できた」と答えた経営層はわずか4%にとどまる。さらに37%は、AIがかえってチームの時間を浪費させた、あるいは誤った方向に導いたと回答している。これらはテクノロジーだけの問題ではない。組織文化とチーム連携の問題である。
筆者はこのギャップを掘り下げるために、アトラシアンのTeamwork Lab、Forresterのリサーチャー、そしてアダム・グラント(Adam Grant)が登壇したウェビナーシリーズ「Teamwork in an AI era」*2を改めて視聴した。そこから浮かび上がったのは、一つのパターンだ。リーダーたちはAIを「個人の生産性ツール」として捉えがちだが、本当の変革は、チームがどう連携し、文脈を共有し、信頼を築いていくかにある。
朗報がある。大がかりな導入計画は必要ない。今週から始められる、いくつかの実践的なアクションがあればいい。以下に、チームが前進するための具体的な提案をまとめた。
1:AIを使っている姿を見せよう ── 「使っていい」ではなく「使うのが当たり前」に
リーダー自身がAIを使っている姿をチームが目にしなければ、メンバーは「使わなくてもいいもの」あるいは「リスクがあるもの」と受け取る。沈黙はそれ自体がメッセージになるのだ。
「AIの活用を推進したい」と語るリーダーは多い。しかし「あなた自身は日々どう使っていますか?」と聞くと、言葉に詰まる。デモを一度試しただけの人もいれば、こっそり使っている人もいる。チームが受け取るメッセージは明白だ ── 上司が堂々と使っていないなら、自分も手を出さないほうがいいのだろう、と。
アトラシアンのAIコラボレーションインデックスの知見によれば、リーダーが率先して使う姿を見せると、チームの実験的な取り組みが増える。心理的安全性の研究もこれを裏づけている。人は、リーダーの言葉ではなく行動を手がかりにするのだ。だからこそ、「使ってみて」と促すだけでは足りない。自ら見せることが重要である。
日常の業務の中で、AIをどう使ったかを言葉にしよう。たとえばこんなふうに。「初稿はRovoに書かせてみた」「このアジェンダは先週のアクションアイテムから自動で作った」「AIが拾ってくれた気づきがあって、自分だけだと見落としていたかもしれない」 ── こうした小さなシグナルを積み重ねることで、AIはチームの"当たり前"になっていく。
そのうえで、チームがすでに重視している成果と結びつけることだ。企画書の作成が速くなった、レビューの往復が減った、引き継ぎがスムーズになった。成果が目に見え、そのプロセスも透明であれば、AI活用は「上からの号令」ではなく、チーム自身の推進力として動き始める。
今日から試してみよう:
次の1on1やチームミーティングで、一人ひとりに「この1週間でAIをどう使ったか」を共有してもらおう。うまくいかなかった話でも構わない。大事なのは、この会話を当たり前にすることだ。完璧である必要はない。AIの活用が、「使っていいのだろうか」とひそかに悩むものではなく、チームがオープンに語り合えるものになること ── それがゴールである。
2:「AI を活用した“金曜日に問題解決”」でシステムの課題をチームで一掃しよう
よく見かけるパターンがある。同じチームの5人が、それぞれ黙って同じ壊れたプロセスと格闘している。原因がツールなのか、プロンプトなのか、エージェントの設定なのか、人への引き継ぎなのか、誰にもわからない。
そんなときは「AI を活用した“金曜日に問題解決”」プレイ*3を試してみてほしい。チーム全員を集め、実際に困っている問題を一つ選び、60〜90分かけて原因を突き止める。こう問いかけよう。
- 実際にどこで詰まっているのか?
- システムレベルの問題か?
- プロンプトの書き方の問題か?
- AIエージェントの設定の問題か?
- 人への引き継ぎの問題か?
これをチームで一緒にやるからこそ、一人では見えなかったものが見えてくる。そして、ただのアイデア出しで終わるのではなく、プロセスに対する具体的な改善を一つ持ち帰ることができる。
個人のスピードを上げると、旧来の連携のやり方こそが本当のボトルネックだったと気づくことが多い。これはまさに「AI効率化のパラドックス」であり、アムダールの法則が示すとおりだ。そのオーバーヘッドを解消することこそ、チームで取り組むべき課題なのである。
今日から試してみよう:
チームのカレンダーに、月1回または隔週で60〜90分の定期枠を設けよう。毎回、チーム共通の課題を一つ持ち寄り、全員で原因を診断する。持ち帰るのは、アイデアを並べただけのドキュメントではなく、具体的な改善アクション一つだ。
セッションの進め方に軽量なフレームワークがほしければ、アトラシアンチームプレイブック*4にあるふりかえり(レトロスペクティブ)やヘルスモニターのプレイが、出発点としてうまく機能する。
3:まずデータを一つ整備しよう ── AIが本当に使える情報を用意する
地味だが、これこそが他のすべてをうまく機能させる土台となるステップだ。
AIの実力は、私たちが与える情報の質で決まる。データが歯抜けだったり、タグ付けに一貫性がなかったり、分類体系が曖昧だったりすれば、AIは自信たっぷりに要約を出す ── そして的を外す。
その結果はすぐに表れる。AIにパフォーマンスの分析を頼めば、信用できない数字が返ってくる。重要顧客のサマリーを求めれば、CRMのメモが不完全なせいで話の半分が抜け落ちている。
アトラシアンの2025年版AIコラボレーションインデックスによると、AIを活用して部門横断の連携を改善している企業は、大幅な効率向上を実感している割合が1.8倍高い。ただしこれは、整備された、チーム共通の信頼できる情報基盤*5があって初めて成り立つ話である。
今日から試してみよう:
AIの業務フローに直接影響するデータセットを一つ選ぼう。キャンペーンのタグ、商談メモ、ライフサイクルステージ ── 最も摩擦を生んでいるものでいい。そして、次の3つを決める。「正しい状態」とは何か(許容される値とフォーマット)、誰が責任を持つのか、そしてまずどの重要レコードから修正するか。
すべてを一度に片づけようとする必要はない。まず10〜20件のレコードを修正する。基準をつくる。一つのチームに浸透させる。そこから広げていけばいい。データ整備の効果は時間とともに複利のように積み上がる。AIが整った土台の上で動けるようになれば、そのアウトプットの質は劇的に向上する。
4:会議を「やり方の共有」の場に変えよう
ここまでの話をすべてつなぐ、根本的な転換点がある。
AIが個人の仕事を速くした結果、ボトルネックは別の場所に移った ── 承認待ち、順番待ち、引き継ぎ、そしてやり方のばらつきだ。「State of Teams」レポート*6によると、ナレッジワーカーの65%が「自分たちのプロセスやワークフローは、うまく連携できる仕組みになっていない」と回答している。それにもかかわらず、多くのチーム会議は旧来のパターンから抜け出せていない。進捗を確認し、タスクを動かすだけで終わっているのだ。
マネージャーとして、次のふりかえり、週次ミーティング、1on1で最も価値のある一手は、ステータス報告の時間を15分削り、その分を「やり方の共有」に充てることだ。一人ひとりに一つだけ持ち寄ってもらおう。うまくいったプロンプト、自分で作ったチェックリスト、時間を節約できたちょっとしたプロセス改善 ── 何でもいい。それを共有ドキュメントに記録すれば、チーム全員が再利用できる。
AIを活用したチーム連携に注力している組織は、個人の生産性向上だけに注力している組織と比べて、全社的な効率向上を実現している割合が約2倍高い。これをチームレベルで実現したいなら、会議そのものをその推進力に変える必要がある。
今日から試してみよう:
次のチームミーティングで15分を確保しよう。一人ひとりに、再利用できるやり方を一つ共有してもらう。うまくいったプロンプト、ワークフローのショートカット、やり取りの往復を減らせた引き継ぎルール——何でもいい。それらを一つの共有ページにまとめ、生きたドキュメントとして育てていこう。2週間ごとに見直す場を設ければ、チームの知恵は着実に蓄積されていく。
こうした気づきを引き出すふりかえりの進め方を体系的に知りたければ、アトラシアンチームプレイブックのスプリントのふりかえり*7を試してみてほしい。
職場の新たな通貨は「適応力」である
アダム・グラントの言葉が強く印象に残った。かつて職場で価値を持っていたのは「能力」 ── すなわち、今持っているスキルと専門知識だった。新たな通貨は「適応力」、つまり学び続ける力だ。*8
この指摘が響くのは、まさにいま目の前のチームで起きていることそのものだからだ。成果を上げているリーダーは、最先端のAI環境を揃えた人たちではない。実験しても安全だと思える空気をつくり、うまくいった方法を気軽に共有でき、「このやり方、もう合わないから変えよう」と普通に言える ── そんな環境を築いた人たちだ。
大がかりな変革は必要ない*9。代わりに、次の5つを日常に組み込もう。
- 新しいことを試すための余白の時間
- うまくいっていないことをチームで直す定期的な場
- AIが本当に力を発揮できる、整備されたデータ
- AIをどう使っているかを日常的に見せる透明性
- ステータス報告ではなく、良いやり方を広める会議
今月、この中から一つだけ試してみてほしい。一つのプロジェクトに余白の時間を設ける。「AI を活用した“金曜日に問題解決”」を実施する。次に作るドキュメントに、AIをどう活用したかを書き添える。
大切なのは、立ち止まらないことだ。
ここで紹介した学びは、先日開催された「Teamwork in an AI era」イベントで共有された知見のほんの一部にすぎない。アダム・グラント、Forrester、その他の研究者によるセッションはオンデマンドで視聴できる。
出典・参考資料
*1: AIコラボレーションインデックス
*2: Teamwork in an AI era
*3: プレイブック:AI を活用した「金曜日に問題解決」
*4: チームプレイブックで 成功を加速させる
*5: Best practices for modern knowledge management
*6: The State of Teams 2025レポート
*7: プレイブック:スプリントのふりかえり
*8: Adam Grant on how AI reshapes work: why agility beats ability
*9: 継続的改善プロセス: 重要なステップ、手法、メリット