アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのカット・ブーガード(Kat Boogaard)が、果てしなく続く物事の選択にエネルギーを消耗してしまう「決断疲れ」への対処法を説く。

本稿の要約を10秒で

  • 「決断疲れ」とは、文字通り「決断をすること」、ないしは「意思決定のための取捨選択を行うこと」の繰り返しによって精神的に疲弊してしまうことを指している。
  • 「決断疲れ」は、決断に使う精神的なエネルギーは有限であり、決断のためにそのエネルギーは失われていくという理論をベースにしている。
  • 「決断疲れ」は、意思決定を巡る「遅延」「先送り」「品質の低下」といった弊害をもたらす。
  • 「決断疲れ」は工夫によってある程度、抑制することが可能でなる。

果たしなく続くビジネスパーソンの「取捨選択」

「朝食に何を食べるか」にはじまり「どのメールに最初に返信すべきか」「チームミーティングで誰がメモを取るべきか」「チームが次に優先すべきプロジェクトは何か」「チームの新しいメンバーとして誰を採用すべきか」「どのルートで帰宅するか」などなど、チームのリーダーやメンバーが選択すべき事柄は無数にある。ある推定によれば、些細な事柄から重大な事柄に至るまで、ビジネスパーソンが日々取捨選択している事柄の数はおよそ3万5,000にも及ぶという(参考文書 (英語))。

このような大量の選択肢の中から、何かを選び続けていると、精神的な疲労とエネルギーの消耗が激しくなり、苛立ちを覚えることもある。ゆえに夕食のメニューを考えるころには「もう何も考えたくない!食べれるモノなら何でもいい」という気分になる。

こうした選択による精神的な疲労、あるいは消耗が「決断疲れ」と呼ばれる症状である。

「決断疲れ」とはどのような症状か?

「決断疲れ」とは、その名が示すとおり、意思決定を下すこと、あるいは取捨選択することに疲れ切ってしまうことを指している。言い換えれば、人は決断を下すたびに精神的な疲労を蓄積していき、結果として以下のような行動をとりがちになるというわけだ。

  • 意思決定を先延ばしにする。「もう疲れた!これはあとで考えよう!」
  • 根拠のない、性急な決断を下す。「もう疲れた!この方法でさっさと終わらせちゃえ!」
  • 「分析麻痺」を引き起こすほど考えすぎる。「うーん、これじゃダメだ!最良の策を考え抜く(選り抜く)には、もう少しの時間と検討が必要だ!」

「決断疲れ」のベースとなる考え方は、意思決定に使える精神的なエネルギーは有限であるということだ。決断を下すたびにそのエネルギーは消費され、最終的には次の取捨選択をするために必要なエネルギーが完全に枯渇したと感じるまでになる。

そんな「決断疲れ」は一般的な心理現象でもあり、誰にでも起こりうる現象なのだ。

「決断疲れ」の主因

「決断疲れ」の原因として知られている1つは「自我消耗(Ego depletion)」である。「自我消耗」とは、「人の意志の力は有限であり、その井戸は枯渇する可能性がある」という理論だ。また、「自我消耗」は「決断疲れ」の原因であると同時に、結果でもある。
「自我消耗」を巡っては異論もあり「人のやる気や自制心が有限の資源であることを証明する、ないしは反証する十分な証拠はない」と指摘する研究者もいる(参考文書 (英語))。

「決断疲れ」を加速させ、物事を取捨選択する際の苛立ちを増幅させる要因はいくつかある。以下は、「決定疲れ」の主な要因として挙げられるものだ。

  • 決断すべき事柄が多すぎる
    決断を下すべき事柄が多ければ多いほど、精神的な疲労は大きくなる。実際、決断の数の多さは、リーダー層において「決断疲れ」や「燃え尽き症候群」が起こりやすい理由の1つにもなっている(参考文書 (英語))。
  • 重大な決断を下す
    重大な決断は、大きな精神的ストレスを人に与える。つまり、リスクの高い決断や、複雑性の高い取捨選択を行うと、人は相当のストレスを感じ、精神的な消耗も激しくなるわけだ。また、重大な決断は、すでに感じているストレスや疲労を増幅させるリスクもある。
  • ストレスレベルが高い
    精神的なストレスは、意思決定における悪循環として現れることがある。つまり、精神的なストレスは意思決定能力に負の影響を与えるわけだ(参考文書 (英語))。また、強いプレッシャーのもとでの意思決定は、精神的なストレスと疲労を増大させる。
  • 完璧さを求める
    物事に完璧さを求める気持ちが強いと「決断疲れ」をより強く感じる可能性が高まる。というのも、完璧さを追求する人は、1つ1つの選択(たとえ、それが些細な選択であっても)に対して、成功か失敗かのプレッシャーを自身に与え続けるからだ。
  • 睡眠不足
    肉体的疲労と精神的疲労は密接に関係している(参考文書 (英語))。ゆえに、睡眠不足も「決断疲れ」の度合いに影響を与える要素となりうる。実際、睡眠には認知機能を回復させる効用があるという(参考文書 (英語))。ゆえに、睡眠が不足していると認知機能が回復せず、適切な取捨選択が行えないリスクが大きくなる。

「決断疲れ」の弊害

疲労困憊しているときに何らかの取捨選択を迫られたことがある人なら、それが過酷なプロセスであることを知っているはずだ。一方で、「『決断疲れ』は、それほど深刻な問題なのだろうか」といった疑念を抱く人もいる。

結論から先にいえば「決断疲れ」の弊害は決して小さなものではない。なかでも大きな弊害の1つは、個人、ないしはチームの決断力が低下してしまうことだ。つまり、疲労によって集中力を低下させた個人、ないしはチームは、より悪い選択をするようになるのである。そうした点を踏まえながら「決断疲れ」がもたらす主な弊害を以下に示そう。

  • 決断の回避
    ここでいう「決断の回避」とは、意思決定や最終的な取捨選択を「どうしてもそれが必要とされるタイミング」まで先延ばしにしたり、回避したりすることを指している。
    • 具体例:あなたのチームは、海外で催される業界のイベントにチーム内の数名を参加させるかどうかの結論を先延ばしにしている。そして結局は、イベントへの参加登録期限が過ぎてしまい、誰も参加できなくなってしまった。
  • 「認知バイアス」への依存
    決断を下すのに疲れていると、より簡単な方法を探すようになる。結果として陥りやすくなるのが、物事の判断を、直感やこれまでの経験にもとづくバイアス(先入観)によって非合理的に下してしまう「認知バイアス」となる(参考文書 (英語))。
    • 具体例:新たに始めるプロジェクトについて、チーム内の主要なメンバーやステークホルダーに確認することなく、野心的なスケジュールを設定してしまう。これは「楽観バイアス(Optimism bias)」が働いた結果であり、このバイアスに支配されると、物事の可能性を過大に評価しがちになる。
  • 決断に対する葛藤と後悔
    「決断疲れ」は、自分、あるいは自分たちの決断に対する疑念を膨らませ、不安感や後悔を増幅させることもある。
    • 具体例:相当の時間をかけて幾度も議論を重ねた結果、チームは、ある機能についてプロダクトのロードマップから削除することに合意した。ところが、その合意から間もないタイミングで、チームのメンバー数名から、自分たちの判断は間違っていたのではないかという疑念の声が挙がった。

以上のように「決断疲れ」は、最適とはいえない決断を下す(ないしは、取捨選択を行う)ことにつながる。まとめれば「決断疲れ」は、意思決定や最終選択を巡る数々の問題、すなわち「遅すぎる」「性急すぎる」「裏づけがない」「偏りがある」「議論の余地が残されている」といった弊害を引き起こすというわけだ。