アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのカット・ブーガード(Kat Boogaard)が、集団的思考を回避するための方法を指南する。

本稿の要約を10秒で

  • 「集団思考(グループシンク)」とは、グループによる意思決定プロセスにおいて批判的思考によって議論を煮詰めていくことよりも、合意形成を優先させる集団でよく起こる現象である。
  • 集団思考は歴史的にさまざまな惨事を引き起こしてきた。また、一般的な職場においても集団思考による意思決定が、グループや会社に相応のダメージを与えるリスクがある。
  • 本稿で紹介する方策を実践することで、グループによる集団思考を回避することが可能になる。

「集団思考」とは何なのか

集団思考(グループシンク)」は、意思決定プロセスにおいて、批判的思考によって議論を煮詰めていくことよりも合意形成のほうを優先させる集団(グループ)でよく起こる現象である。

集団的思考に陥っている議論の場では、例えば、お互いの主張の問題点を突いたり、疑念を口にしたり、起こりうる結果を分析したり、新しいアイデアや提案を出そうとしたりせず、相手の意見にひたすら同調し合う。

このようにいうと、集団的思考は争いごとが嫌いな気の弱い人ばかりが集まったグループだけに起こる現象のように思えるかもしれない。ただし、必ずしもそうとは限らず、いかなるグループでも、状況次第で集団的思考に陥る可能性がある。

以下、この現象の引き金になる要因をいくつか挙げてみよう。

  • グループのメンバーが心理的安全性を感じていない
  • グループが早期に重要な決断を下すことを迫られている
  • グループの全員が、現状に異を唱えるための正しい知識を持っていないと感じている
  • グループとして対立よりも調和や結束を好む文化を持つ

これらの状況は、グループの全員を「自分の発言によって議論が難しい方向に転じたり、他者との対立を引き起こしたりするような事態は避けたい」という心理状態に陥らせる。そして、たとえグループの決定が最善ではないと感じていても、それに従おうとするのである。

集団思考が引き起こす惨事

人類の歴史を少し振り返れば、集団思考が引き起こした悲惨な出来事が数多く見つけられるはずである。米国の例でいえば「ピッグス湾事件」(参考文書)や「チャレンジャー号爆発事故」(参考文書)、「ベトナム戦争」(参考文書 (英語))などは、集団が誤った判断に従ったことで引き起こされた惨事としてよく知られている。日本の方なら集団思考が引き起こした惨事として「太平洋戦争」を真っ先に挙げるかもしれない。

もちろん、一般的な職場での集団思考は、これらの出来事ほど悲惨な結果は招かない。とはいえ、相当のダメージをチームや会社に与える可能性はある。以下、そのことを示唆する架空のストーリーを3つ紹介したい。これらは、企業内のグループにおいて集団思考がどのようにして起きるかを示すものでもある。

【ストーリー①】
あなたの所属するグループは、新製品の発売スケジュールを最終決定した。そのスケジュールはきわめて挑戦的なもので、あなたは内心で「非現実的なスケジュールだ」と感じていた。ところが、チーム内の誰もが新製品の発売に興奮しており、スケジュールの決定に熱狂していた。そのため、あなたは口をつぐみ、スケジュールに対する自身の懸念を皆に伝えようとはしなかった。代わりに同僚たちが形成した「興奮の輪」に入り、笑顔を振りまくことを選んだのである。

【ストーリー②】
あなたが所属するグループのミーティングで、上司がプロジェクトの選択肢をいくつか掲げながら、次のような指示をグループの全員に伝えた。「現在のプロジェクトを完了させたのち、次に取り組むべきプロジェクトをこの選択肢の中から選んで欲しい」
この指示を受けて、メンバーの1人である「A」は、ある選択肢(「プロジェクト1」とする)の優先度が最も高く、次はこれに取り組むべきと訴えた。Aは現在のプロジェクトで大活躍している。ゆえに、あなたや他のメンバーは、内心で「プロジェクト1が最良の選択肢ではない」と感じながらも、Aの提案に従うほうが楽であると考え、Aの意見に同調したのである。

【ストーリー③】
あなたの所属するグループは、屋外で行われる大規模な顧客向けイベントの準備をしていた。その数週間前、会場から悪天候に備えてテントを借りたいかどうか尋ねられた。そのとき、メンバーの誰もが、イベントを予算内で開催することしか考えておらず、会場の警告を軽く受け流していた。結果として、イベント当日に予期せぬ雨に見舞われた場合、バックアッププランのまったくない無防備な状態に皆が置かれることになった。

上記3つのストーリーは、職場で起こりがちな集団思考の例だ。このような集団思考が実際に引き起こされたとしても、歴史的な大惨事に発展するようなことはない。ただし、自分たちの理性や物事の合理性よりも、グループや上司に対する忠誠、ないしは服従を優先させてしまうと、結果として、深刻なダメージをグループや会社に与えてしまうリスクがあるのである。

集団思考がもたらす災い

ここで、集団思考がどのような災いをもたらしうるかについて、もう少し具体的に示しておきたい。結論から先にいえば、集団思考によって以下に示すような災いが、グループ、ないしは会社にもたらされる可能性がある。

意思決定能力の低下

集団思考の最大の欠点は、質の高い意思決定や問題解決の妨げになることだ(参考文書 (英語))。集団思考に陥っているグループのメンバーたちは、意思決定プロセスにおいて「自分たちの乗っているボートを自ら揺らさない」という1点に集中する。ゆえに、たとえ間違った意思決定が下されようとしていても、それに抗うことをしなくなる。

多様性の喪失

グループの全員が自分の意見を述べることに抵抗感や恐怖心を抱いていると、グループは多様な視点から物事をとらえたり、多様なアイデアを生かしたりする機会を逸することになる。加えて、グループのメンバーが、集団の和を保つために自身の言動に対して検閲、ないしは規制をかけ続けなければならないと感じている場合、グループの視野は一層狭くなる。実際、考え方や行動が均質なチームでは集団思考が起こりやすいという調査結果もある(参考文書 (英語))。

グループのメンバーは価値観や物事の見方、考え方が似てくるのが通常だ。また、だからこそグループには一体感が生まれ、人はそれに心地良さを感じ、その状態を維持しようとする。ただしそこには、グループの視野を狭め、発想力を減退させるリスクもあるのである。

過度の自信

集団思考は、1つの決定を集団で支持することを意味する。こうした「数のパワー」は人の優越感を刺激する。そして決定に対するグループの自信を過度に膨らませ、自分たちは常に正しいという思い込みを増長させる。このような思い込み、すなわち、自分たちの決断に間違いはないという思い込み、あるいは、過度に膨れ上がった自信は、失敗への備えのない不安定な状況にグループを追い込むことがある。

集団思考は「絶対悪」なのか?

集団思考は常に有害であるわけではない。例えば、「チームでのランチのときに何を注文するか」「社外でのチームミーティングをどこで開催するか」といった、さほど重要ではない事柄を決定する際には、集団思考は有益だ。というのも、それによって、チームにとってまったく無駄な対立を減らし、より迅速でスムーズな意思決定が促されるからである。したがって、チームで何らかの意思決定を下す際には「最善の選択が必要なのか」、それとも「単なる決断が必要なのか」を常に見極めるようにすると良いだろう。仮に後者であれば、集団思考は必ずしも悪いことではないのである。