アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。コンテンツ・ストラテジーを担当するアシュリー・ファウス(Ashley Faus)が「サーバントリーダーシップ」の効果について説く。

本稿の要約を10秒で

  • サーバントリーダーシップとは、他者への奉仕を第一に考えるリーダーシップスタイルである。
  • サーバントリーダーシップにはさまざまな利点があるものの、その実践は容易ではない。
  • いくつかのポイントを押さえながら、サーバントリーダーシップへの取り組みを始めることができる。

サーバントリーダーシップの基本

仮にあなたがチームのリーダーであるならば、プレッシャーを感じることが多いはずだ。チームリーダーは、組織のビジョンや上層部と足並みを揃えながら、自身の目標を達成するという難題と常に対峙している。

ただし、こうした高次の責務だけに気をとられていると、リーダーとして最も大切にしなければならない相手、すなわちチームに対して果たすべき責務を忘れがちになる。

そこで重要になるのが「サーバントリーダーシップ」の考え方だ。これは、仕事上のスポットライトを自分ではなくチームに当てることを意味する。言い換えれば「どうすれば最高のリーダーになれるか」ではなく、「どうすればチームに対する最高の奉仕者(サーバー)になれるか」を常に意識し、それに挑み続けることがサーバントリーダーシップの基本と言える。

サーバントリーダーシップの創始者ロバート・K・グリーンリーフ(Robert K. Greenleaf)氏が設立した非営利団体グリーンリーフ センターでは、サーバントリーダーシップを次のように定義している。

サーバントリーダーシップとは、個人の人生を豊かにし、より良い組織を築き、最終的にはより公正で思いやりのある世界を創造するための哲学であり、一連のプラクティスである。

そんなサーバントリーダーシップのスタイルをとるリーダー(以下、サーバントリーダー)は自分自身ではなく、自分のチームのメンバーや会社全体、業界、コミュニティなど、周囲を改善することに力を注ぐ。そして、自分の欲求よりも他者のニーズを優先することで、それを達成するのである。こうしたサーバントリーダーシップをより単純化して言えば「まず奉仕(サーブ)して、次に導く」ということになる。

サーバントリーダーの10の特徴

サーバントリーダーは、チームにとって身近な存在で、チームの求めに応じて手助けをする以外にも、さまざまな特徴がある。以下にその特徴をまとめておきたい。

特徴①サーブファースト(奉仕第一主義)
「サーブファースト(奉仕第一主義)」とは、文字どおり「奉仕(サーブ)」することを優先させることを意味する。また、サーバントリーダーは常に協調的な考え方のもとで仕事に取り組む。すなわち「どうすれば自分が成功するか」を考えるのではなく、チームのメンバーやステークホルダー全員が「Win-Win」の関係になれる状況を作ろうとするのが、サーブファーストのメンタリティを持つリーダーなのである。

特徴②成長を促す
権威主義的なリーダーは、自分の名声や権力の座を維持することに執着する。それに対してサーバントリーダーは、他者の成長・発展に強くコミットする。それは、チームの業績が自分の業績に反映されるからではなく、他者の成功に純粋に投資しているためだ。

特徴③自分の知識を積極的に共有する
人の知識は社会では「通貨」と見なされることが多い。ゆえに、一定の地位にある人は、時に自分の地位が傷つくことを恐れて知識を共有しすぎることを避けたがる。一方、サーバントリーダーは、純粋に他者の成長に投資する。ゆえに、他者の成功に役立つ知識、情報、ガイダンスを惜しみなく提供するのである。

特徴④信頼を築く
サーバントリーダーは、マネジメント講座で学んだことや説得力のあるスピーチでチームからの信頼を得ようとはしない。代わりに、自分の周囲に対して誠実に行動することで、自身への厚い信頼を得るのである。

また、サーバントリーダーは他者との約束を守り、他者の利益を常に念頭に置きながら意思決定を下す。さらに、自分の率いるチームのメンバーを信頼し、マイクロマネジメントを行うことなく、彼らが自らの判断で行動することを許容するのである。

特徴⑤相手を理解するために聞く
サーバントリーダーは「アクティブリスニング」の実践者でもある。

アクティブリスニングとは、相手のこと深く理解するために相手の話に耳を傾けることを意味している。言い換えれば、自身のあらゆるバイアスや雑念を取り払いながら、相手が話していることに全神経を集中させることがアクティブリスニングとなる。

アクティブリスニングは簡単なようで難しい取り組みであり、それを行うには相当の鍛錬が必要とされるのが通常だ。仮に、アクティブリスニングのスキルをすぐに身に付けたいのであれば、相手との対話中に「その点について、もっと教えてください」「自分が理解するのを助けてくれますか」 と尋ねるようにすると良いだろう。そうした質問をすることで、相手は自分の考えを否定されたり、疑われたりしていると感じることなく、自分の考えを率直に話してくれるようになる。また、相手が話を終えた際には、その内容を要約して相手に伝え、自分の理解に間違いがないかどうかを確認するようにする。それによって相手は、自分の話を真摯に聞いてくれていると感じることができる。

特徴⑥勇気がある
サーバントリーダーは、単純に「優しい上司」と誤解されがちだ。ただし、他者の成長・成功を真に望むのであれば、ときには他者に厳しく当たったり、厳しい決断を下したり、責任を背負わせたりすることも必要になってくる。ゆえに、サーバントリーダーは、他者が不快に感じたり、他者に嫌われたりするリスクがあったとしても、他者の成功に必要な物事を実行できる「勇気」を持っている。

特徴⑦謙虚である
サーバントリーダーにとって、リーダーシップとは人にプラスの影響を与える機会であって自身が栄光を手にするための行動ではない。また、チームの舵取りをするのは自分かもしれないが、チーム全員の働きなしには何も起こらないことを知っている。そのため、思い上がり病である「ヒュブリス症候群」にかかるようなことはなく、常に謙虚であり、相手の行動について称賛に値することは必ず褒めたたえ、一方で、自分の過ちや欠点はすぐに認める。

特徴⑧柔軟である
サーバントリーダーに求められる資質の1つは、変化に機敏に対応できる柔軟性だ。例えば、チームの状態は日々変化する。リーダーによる知恵の供出や励ましが必要な日もあれば、チームの全員が嫌がる仕事をリーダーが自ら行わなければならない日もあるかもしれない。そのような状況に直面しても、サーバントリーダーはそれに柔軟に、かつ速やかに対応し、チームが必要なものを提供できる。

特徴⑨感謝の気持ちを伝える
サーバントリーダーは、チームのメンバー各人に対して心から感謝する姿勢を崩さない。つまり、何かを成し遂げたメンバーを賞賛して彼らの承認欲求、あるいは認知欲求を満たすこと、そして感謝の気持ちを明確に伝えることを決して怠らない。

特徴⑩「エンパシー」を実践する
サーバントリーダーが、チームのニーズに応えるうえでは、何が起きているかを正しく理解することが必要となる。その理解ために不可欠な取り組みと言えるのが、相手を思いやり、相手の立場に共感する「エンパシー」である。言い換えれば、サーバントリーダーは、高い感情的知性(エモーショナルインテリジェンス)を備え、相手の立場に立って物事をとらえ、相手の感じたことに共感できるというわけだ。