アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)が、グーグルの従業員アンケートの項目に基づきながら、優れたリーダーになるための方法について説く。

本稿の要約を10秒で

  • マネジメント職で多くの人が苦労するのは、チームをマネージするためのスキルを身に付けぬままリーダーの地位に就くからである
  • チームのメンバーに対するグーグルのアンケート項目からは、優れたリーダーに必要とされるスキルとは何かが明確にわかる
  • 優れたリーダーとはチームのメンバーのために尽くす人である

リーダーたちはなぜ苦労するのか

プロスポーツの世界では「優れたプレイヤーが必ずしも優れた指導者になれるわけではない」ということが一般常識として認識されている。理由はシンプルで、競技で能力を発揮することと、他者に指導することでは求められるスキルが異なるからである。

ところが、ビジネスの世界では、現場で一定以上の能力を発揮してきた(あるいは、成果を上げてきた)人を、何のトレーニングも施さずにマネージャーにしてしまうことが間々ある。ゆえに、組織・チームのマネジメント職に就いた人の多くが、職務がうまく遂行できずに苦労するのである。

組織・チームのリーダーがそんな状況に陥るのを避けるために、グーグルではハイパフォーマンスなチームに関する研究をフィードバックメカニズムに応用している。つまり、部下たちによるフィードバックを通じて、リーダーが自分のパフォーマンスを把握し、自分のどのスキルを伸ばすべきかを理解できるようにしたのである。

この取り組みでは、チームのメンバーに対して13項目から成るアンケート調査(英語)が行われる。グーグルによれば、そのアンケートの結果を通じて効果的なリーダーシップとは何かが明らかになるという。以下、そのアンケート項目を参考にしながら、優れたリーダーになるための方法について見ていくことにする。

①パフォーマンスの向上にフィードバックを役立てているか?

優れたリーダーになるための一手は、周囲に対するフォードバックを即座に行うことだ。コメントすべき何らかの事態が起きたのであれば、年次の業績評価や1 on 1ミーティングのタイミングまで待つようなことはしてはならない。当該の出来事が起きた1日以内にフィードバックを相手に伝えることが大切であり、そうすることで皆の心の中にフィードバックの内容がしっかりと刻まれることになる。

また、フィードバックを出すときは形式にこだわる必要もない。オフィスの廊下やチャットを通じて、さらりとフィードバックを伝えるだけでまったく問題はない。ただし、重大な問題を巡って批判的なフィードバックを誰かに伝えたいときは、個室を確保して相手への批判が周囲に聞こえないようにする配慮が必要とされる。

なお、書籍「Radical Candor」の著者で、元グーグル幹部のキム・スコット(Kim Scott)氏は、効果的なフィードバックに必要な要素は「思いやり」と「率直さ」の2つに絞れると指摘する。

つまり、相手への批評を単に甘くするのではなく、思いやりをもちながら、率直に伝えることが大切であるということだ。その思いやりと率直さを適切に混ぜ合わせることで、フィードバックが「甘やかし」や「人心操縦」、あるいは「攻撃」の領域に入ってしまうのを回避することが可能になる。

②チームのメンバーを人として思いやっているか?

自分のチームのメンバーを人として思いやることも、優れたリーダーになるための要件と言える。

この要件を満たすための方法は数多くあるが、なかでも効果的な方法は3つある。

1つ目は「聞き上手」になること、言い換えれば「アクティブリスニング」を実践することだ。例えば、会議中はできるだけノートPCのふたを閉じたり、スマートフォンの電源をオフにしたりして、相手の話に集中するようにする。同様に、自分のデスクにやって来たチームメンバーと話すときには、スマートフォンをチェックしたりせず、相手の話に集中して耳を傾けるようにする。そして、相手が話し終えたら、話の内容を要約して相手に伝え、自分の理解に間違いがないかどうかを確認することも忘れてはならない。

2つ目の方法は、柔軟なワークスタイルを認めることだ。例えば、チーム内の誰かが病気の子供の世話が必要なときや配管工を家に入れなければならないときは、在宅勤務を認めるようにする。

また、チームの中には通勤時間が長く、ラッシュアワーの渋滞を避けるために出勤時間を早めたり、遅らせたりしたいと望むメンバーがいるかもしれない。そのような場合も、メンバーの望みを柔軟に叶えてあげることが大切だ。そうすることで彼らのチームへのエンゲージメントとロイヤリティを高めることができる。

方法の3つ目は「小さな成功を祝うこと」だ。

例えば、チーム内の誰かが重要な目標を達成した際にはチームランチを催す。こうすることで、リーダーがメンバー各人の目標を常に気にかけていることを示すことができ、かつ、メンバー同士の個人的なつながりも強められる。また、誰かが優れた仕事をしたときに、そのことを公の場で即座に認めるだけで大きな効果が期待できる。

③マイクロマネジメントの衝動を抑えているか?

仮にあなたがチームのリーダーであり、有能な人材をチームに採用できたとしよう。その際には、彼らが自由に羽ばたけるようにすることが大切だ。

ダニエル・ピンク(Daniel Pink)氏は、著書「Drive(ドライブ)」の中で、従業員のモチベーションを高めるカギの1つとして「自律性」を挙げている(他の2つのカギは、スキルアップの道筋を明確にすることと目的意識の共有である)。

言い換えれば「いつ、何を、どのように行うべきかを細かく指示・指導される」ことほど、ビジネスパーソンから士気を奪うものはないということだ。

したがって、チームリーダーはメンバーのマイクロマネジメントを行いたいという衝動を抑えなければならない。そして「OKR(Objectives and Key Results:目標と主な成果)」などのフレームワークを用いてメンバー各人の計測可能な目標を定めるようにする。あとは、メンバー各人の裁量によってタスクをこなしてもらうようにすれば良いのである。要するに、チームリーダーは、メンバーの個人目標の設定に関与し、承認する責任を背負うものの、その目標をどのように達成するかはメンバー各人の判断に委ねるべきということだ。

現場で働くチームのメンバーは、チームの仕事に最も近い存在である。彼らに相応の自主性と自律性を与えることは、プロフェッショナルとしてのそれぞれの成長を促すのである。

④メンバー各人の視点を尊重しているか?

チームリーダーは多くの場合、そのチームの担当業務、あるいはビジネスに関して多くの成功体験を持つ。ゆえに、自分と同じ視点を持つことをメンバーに求めがちになる。

ただし、優れた頭脳が常に同じ視点、観点を持つかといえば、そうではない。また、単一の視点によって今日における複雑化したビジネス上の問題を解決しようとするのには無理がある。ゆえに多様な視点から物事をとらえることが必要とされ、また、そうすることは問題解決の斬新な方法を見い出すために不可欠な要素でもある。

このような視点のダイバーシティ、ないしは着想のダイバーシティを確保するためにチームリーダーが講じるべき施策は意外とシンプルだ。リーダーの決定に異を唱え、新しいアイデアを能動的に出す文化を醸成すれば良いのである。

その実現に向けてリーダーは、創造的な意見の衝突はチームにとって良いことであり、かつ、リーダーの意見に常に従ってもらうためにメンバーを採用したわけではないことをチームの全員に伝え、理解してもらう必要がある。そして、チーム内の誰かが勇気を出してリーダーと異なる意見を出した際には、その行動を評価するようにする。

このように自分とは異なる視点を積極的に受け入れ、評価する姿勢を示すことは、チームにおける心理的安全性の確保や自分との違いを尊重する文化の醸成につながっていく。