長年にわたる「幸せ」研究の成果

著者:ジム・クリフトン、ジム・ハーター 、古屋博子 (翻訳)
出版社:日経BP 日本経済新聞出版
出版年月日:2022/7/20

本書は、世論調査や人事コンサルティングなどを世界30カ国・地域で展開する米国ギャラップ社が過去数十年の長きわたり続けてきた「幸せ」研究にもとづきながら、従業員の「ウェルビーイング」を高めて、組織・チームのパフォーマンスやレジリエンス(しなやかさ)を向上させるための要件を示した一冊だ。

本書のベースとなる調査研究はギャラップ社によるもののほかに、科学者などの調査研究も含まれており、調査対象となった各国の労働者の総数は実に1億人に及ぶという。

本書の著者であるジム・クリフトン(Jim Clifton)氏は、ギャラップ社の会長兼CEOであり、ジム・ハーター(Jim Harter)氏はワークプレイス部門チーフサイエンティストだ。CEOのクリフトン氏は、世界70億人の人々に発言してもらうために考案された「ギャラップ・ワールド・ポール(世界世論調査)」を主導した人物とされている。

ギャラップ社による膨大な数の調査と分析にもとづく書籍だけに本書の情報量はなかなか多く、300を超えるページに情報がぎっしりと詰め込まれている。ゆえに、読破するには相当の時間を要するが、内容のすべてがファクト(データ)にもとづくものであるので説得力があるうえに興味深い。また、示唆にも富んでいる。したがって、近年注目されているウェルビーイングとは何であり、なぜ重要なのか。また、どうすれば組織・チーム、従業員各人のウェルビーイングを高めることができるのか。あるいは、仕事に励み相応の報酬をもらっているのに一向に幸福感を抱けないのはなぜなのか。自分がウェルビーイングであるためには、何が足りていないのかといったことを知りたい人には、本書はお勧めであり、必読の一冊といえるかもしれない。

なお、本社の章立ては以下のとおりだ。

はじめに 世界の気分

  • 1章 ウェルビーイングとは何か
    • 「想像しうる最高の生活」とは?
    • 過去の教訓
    • 昔の人たちが、いまの私たちに示唆していることは何か
    • ギャラップ充実度(GNT)~もうひとつの株価
    • ギャラップは「生き生きしている」をどのように定義しているか
    • 雇用主は組織のウェルビーイングをどのように上げたらよいのか
    • ウェルビーイングの5つの要素
    • ウェルビーイングに欠かせない5つの要素
    • 職場のウェルビーイングを高める5つの要素とは
  • 2章 職場のウェルビーイングを考える
    • ウェルビーイング要素のポイント
    • キャリア・ウェルビーイング ──日々していることが好き
    • 人間関係ウェルビーイング ──人生を豊かにする友がいる
    • 経済的ウェルビーイング ──上手にお金を管理する
    • 身体的ウェルビーイング ──やり遂げるエネルギーがある
    • コミュニティ・ウェルビーイング ── 住んでいるところが好き
    • 生き生きした組織文化の築き方
  • 3章 生き生きした組織文化に潜むリスク
    • 4つのリスク
      • リスク1 従業員のメンタルヘルス
      • リスク2 明確さと目的の欠如
      • リスク3 指針やプログラム、特典への過度の依存
      • リスク4 スキルの浅いマネジャー
    • 危機時のレジリエンスの高い組織文化
    • 危機においてフォロワーに必要なもの
      • 希望
      • 安心感(安定)
      • 信頼
      • 思いやり
  • 4章 キャリアのエンゲージメントからウェルビーイングは始まる
    • 世界最大規模の研究
    • ウェルビーイングの実践法を身につける
    • 私の期待値
    • 私の強み
    • 私の能力開発
    • 私の意見
    • 私のミッションや目的
  • 5章 ウェルビーイングを高めるには?
    • 強みはウェルビーイングを高める
  • 付録1:5つのウェルビーイング要素に関する強みの洞察とアクション項目
  • 付録2:マネジャー・リソース・ガイド ウェルビーイングの5つの要素
  • 付録3:テクニカルレポート ギャラップのウェルビーイング5つの要素の研究と開発
  • 付録4:従業員エンゲージメントと組織的成果の関係 Q12メタ分析 4つのリスク

実を言えば、本編である5章までの記述は160ページを少し超える程度で、付録1~4が全体の半分に近いページを占める構成になっている。書籍の構成としては少し奇妙に感じられるかもしれないが、本書の場合、付録は本編と等しく重要であり、自身のウェルビーイング、あるいは組織・チームにおける従業員のウェルビーイングがどのような状態にあるかをチェックしたり、それを高めたりするためのハウツーなどが展開されている。

深刻化する労働者の心の病

ギャラップ社が本書を発行した大きな理由は、各国(特に米国の)労働者の多くが心身ともに不健康な状態にあり、とりわけ心の状態が悪いことにあるようだ。例えば、著者らによれば、(本書執筆時点で)、米国人の3分の1に「不安障害」や「うつ」の兆候が見られという(米国国勢調査局の報告による)。また、いまや世界保健機構(WHO)が「職業性の疾病」と正式に認定している「燃え尽き症候群」を発症させる労働者も多く、米国の場合、労働者の4人に1人以上(28%)が、この疾病にかかった経験を有しているようだ。

こうした傾向から、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の流行というパンデミックに苦しめられた世界は、それに続く危機として「メンタルヘルス・パンデミック」に襲われるリスクがあると、本書では警鐘を鳴らす。そうした社会、そして組織・チームの危機を回避するための一手として、「職場のウェルビーイング」を高める術(すべ)や心構えを示すことに、本書の主眼があるといえる。

仕事へのエンゲージメントが生き生きとした生活の基礎を成す

ギャラップ社ではその調査研究を通じて、職場のウェルビーイングを高める普遍的な要素として、以下の5つがあることを突き止めたという。

  1. キャリア・ウェルビーイング(自分のしていることが好き)
  2. 人間関係ウェルビーイング(人生を豊かにする友がいる)
  3. 経済的ウェルビーイング(上手にお金を管理する)
  4. 身体的ウェルビーイング(やり遂げるエネルギーがある)
  5. コミュニティ・ウェルビーイング(住んでいるところが好き)

これらの要素は、人の健康やパフォーマンスに相加効果をもたらし、上に示した5つのウェルビーイングがすべて高い人は、「身体的ウェルビーイング」だけが高い人よりも、「不健康」な日々を送る日数が圧倒的に少ないという。

また、5つの要素の中で最も重要なもの、すなわち他の要素を高めるうえでの基礎を成すものが上記1の「キャリア・ウェルビーイング(自分のしていることが好き)」であると、本書では指摘している。そして、職場のキャリア・ウェルビーイングを育むうえでの原動力となるのが組織・チーム、あるいは仕事に対する従業員のエンゲージメント(貢献意欲、熱意、コミットメント、など)であるとする。言い換えれば、従業員エンゲージメントを高めることが、職場でのウェルビーイングの向上につながり、ひいては、従業員が生き生きとした毎日を過ごすことにつながるというわけだ。この点について本書では、次のように表現している。

エンゲージする「よい仕事」に就くことは、生き生きとした暮らしを送る、まさしく基礎となる。

加えて本書では、いくつかのデータを用いながら、従業員エンゲージメントとウェルビーイングが高い組織・チームは、ビジネス環境が良いときも悪いときも、相応のパフォーマンスを発揮できるレジリエンスを持ち、危機や変化に強いと指摘する。そのうえで、こうも述べている。

従業員エンゲージメントは、ウェルビーイングとレジリエンスの高い組織文化の根幹となる。

従業員エンゲージメント、職場のウェルビーイングを高めるすべが明確に

本書の大きな特徴であり、読み手にもたらすベネフィットといえるのは、上で触れた従業員エンゲージメントの高い組織の特性や、従業員エンゲージメントを高めるための具体策が、膨大な数の調査研究と分析にもとづきながら、提示されている点にある。

ギャラップ社が組織・チームのウェルビーイングやレジリエンスを高めるうえできわめて重要との結論に至ったのは、過去30年間にわたって212カ国/5,000以上の組織で、510万チームで働く合計4,290万人の従業員にインタビューを実施した結果であるという。

ゆえに、本書の記述の信憑性(しんぴょうせい)はかなり高いといえ、職場のウェルビーイングの向上に向けて従業員エンゲージメントを高める何らかの施策を打ちたいと考えている組織・チームのマネージャーにとって大いに参考になり、かつ、活用がしやすい情報であるはずだ。

加えて本書によると、職場のウェルビーイングを損なわせる4大リスクは「従業員のメンタルヘルス」「明確さと目的の欠如」「指針やプログラム、特典への過度の依存」「スキルの浅いマネージャー」であり、それらを回避する責任は当然、組織・チームのリーダー、あるいはマネージャーにあるという。同様に従業員エンゲージメントを向上させられるかどうかも、マネージャーの行動や資質にかかっているようだ。その意味でも、組織・チームを率いる立場にある人は、本書を一読する必要性が高いといえそうである。

ちなみに本書では、マネージャーの資質が、労働者のウェルビーイングに与える影響の大きさを示す一例として、以下のように述べている。

ドイツと米国でのギャラップ調査から、ひどい上司を持つ人は、無職の人よりウェルビーイングの状態が悪いということが判明した。

おそらくこれと同じような傾向は、日本でも見られるはずである。

ご承知のとおり、日本では以前、労働者の働き過ぎが問題視され、それが働き方の法規制や働き方改革の潮流へとつながってきた。加えて、少子高齢化・労働人口減少の影響から、若い労働力の確保を目的に、働く環境を改善して従業員満足度を高めようとする動きも活発化し、コロナ禍を境に、リモートワーク(在宅勤務)を働き方の標準として取り入れ、従業員が自分にとって都合の良い場所で働けるようにする組織も増えている。

ただし、単純に労働時間を減らしたり、働く場所に柔軟性を持たせたりするだけで、従業員のエンゲージメントやウェルビーイングが高められるわけではなく、そのことは本書を一読することですぐに理解でき、また、従業員満足度の向上に取り組む企業の大多数がすでに気づいているはずである。

では、何をどうするのが適切なのか。本書はそうした疑問を解き明かすための手段として、有効に活用できる一冊といえる。自分の組織・チーム、そして自身のウェルビーイングに少しでも不安を感じるならば、一読をお勧めしたい。