アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。メインライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)が、人が仕事を先延ばしにしてしまう真の理由について解説する。

本稿の要約を10秒で

  • 「仕事の先延ばし」は不快感を避けようとする心の症状であり、「怠け者」のサインではない。
  • 仕事の先延ばしは、脳が「何かが足りていない」「課題解決のためには必要なものがある」と人に伝える手法でもある。
  • 自分が経験している不快感の種類を特定することで、その不快感に対処する方法を明らかにできる。
  • 不快感への対処法を知ることで、仕事を先に延ばしたいという欲求を抑制することができる。

仕事の先延ばしは怠け者のサインではない

読者の皆さんには、ついつい仕事を先延ばしにしてしまい、その都度、自分で自分を「怠け者!」などと罵(ののし)り、自己嫌悪に陥った経験はないだろうか。私にはある。また、多くの人がそうした経験を有しているはずである。ただし、仕事を先延ばしにするのは「怠けグセ」のせいではないらしい。その要因は不快感にあり、不快感によって、人は仕事を始めるのを避けたり、終わらせるのを避けたりするようなのである。

実際、「完璧主義」や「恐怖心」などに起因した不快感が、人が仕事を先延ばしにする本当の理由であると指摘する心理学研究は多くあり、いずれの研究にも説得力がある。そうした研究に携わる一人で、米国で話題の書籍『Big Feelings: How to Be Okay When Things Are Not Okay』の共著者であるリズ・フォスリーン(Liz Fosslien)氏はこう話す。

仕事を先延ばしてしまう自分と戦ううえでまず必要なことは、自分の仕事は『A+』のレベルでなければならないという考えを捨てることです。

フォスリーン氏は現在も、『Big Feeling』の共著者であるモリー・ウェスト・ダフィー(Mollie West Duffy)氏とともに、学術的な文献やソーシャルメディアなどから得たさまざまな情報を参考にしながら、人がどのような不快感を抱き、その感情がどういった行動となって現れるのかの全体像を描いているという。

以下、そんなフォスリーン氏の話を交えながら、人が仕事を先延ばしにする本当の理由について「先延ばしのタイプ」ごとに見ていくことにする。

先延ばしタイプ 1:なかなか仕事が始められない

このタイプの先延ばしには次に示す3つの要因がある。

要因①どこから手をつけるべきかがわからない

「どこから手をつけるべきかがわからない」のは、仕事内容があまりにも漠然としていたり、広範に及んでいたりすることに原因がある。

例えば、上司があなたに「顧客満足度を何とかしろ」と命じたとしよう。このような指示では、顧客満足度をどの程度改善すれば「何とかした」ことに当たるのかがまったくわからない。加えて、どの程度の予算が確保できるかも不明で、自分が取るべきアプローチについても多くの疑問が残るはずである。これらの疑問への答えを上司に求めれば問題は解決できるかもしれないが、そうすることで上司の不興を被るリスクがあり、そのリスクを冒す勇気はなかなか沸いてこないのが通常である。

また、「顧客満足度を何とかする」という仕事は、かなりの大仕事でもある。その大きさゆえに自分の思考が停止してしまうこともある。そんなときは、その仕事をなかったことにしてしまうのが賢明といえる。そうすることで、数々の疑問や問題を解消・解決する必要が一挙になくなり、生産的な選択をしたと思えるはずである

要因②自分の力量への不安

仕事に関して相応の目標やアイデアを有していても、自分にはそれを具現化する力量も、権限もないと感じるときがある。

例えば、前出のフォスリーン氏は、自身のWebサイトを立ち上げて情報を発信し始めた当初、イラストづくりに苦労させられたという。同氏はイラストを描けないわけではないが、専門的にイラストを学んだ経験はない。そんな自分がイラストを描いてWebサイトに掲載することに対しては、サイト全体が「お遊びの場」のように周囲から見られかねないとの恐怖心があったという。

実のところ、この感覚は単なる思い込み過ぎず、自己を必要以上に過小評価してしまう「インポスター症候群(詐欺師症候群=自分は周囲を偽って評価を得てきた人間に過ぎないといった思い込み)」によく似た心理状態といえる。

要因③そもそも「やりたくない」と思っている

私たちはよく「もっと運動をしよう」、あるいは「もっと健康的な食生活を送ろう」といった決意を固めるが、なかなか実行に移せないことが多い。その理由はシンプルで「やりたくないと思っている」からである。

職場においても、誰も読まないようなレポートを作成するなど、ほとんど価値のない仕事を担当させられた場合、「やりたくない」という感情を抱く。結果として人は、その仕事への着手を先延ばしにしがちになる。

また、チームが間違った方向に進んでいると思えるようなプロジェクトも、やりたくない仕事の一つだ。やりたくないという感情を抱いたままプロジェクトにかかわっていると、人は与えられた仕事に着手する動きが鈍る。そのため、周囲からは怠けているように見えるかもしれないが、内心での葛藤が仕事への着手を遅らせているにすぎない。

先延ばしタイプ 2:最後まで仕事をやり遂げられない

仕事を完了させる時間は十分あるにもかかわらず、どうしてもゴールにたどり着けないことがある。その根本原因は、多くの場合、「恐怖心」にあるようだ。

ここでいう恐怖心とは、周囲から低く評価されたり、嫌われたりすることへの恐れである。この恐れが、自分の成果物を世に出したくないという意識につながり、それが仕事の完了を先に延ばそうとする行動につながっていく。

大抵の人は、仕事を完璧に仕上げて周囲から評価されたいという願望があります。それがプレッシャーとなり、仕事上の成果物を世に出すことが恐ろしくなってしまうのです。
(フォスリーン氏)

フォスリーン氏とダフィー氏がソーシャルメディア上で交わした対話の中に、写真の仕上げに何年もかかる趣味の写真家が登場する。

その写真家は、被写体の歯を1ピクセルずつ、何時間もかけて(場合によっては何日もかけて)フォトショップで加工するのだという。ただし、写真家の写真を見て、そうした加工の努力に気づいたのは写真を撮られた当人たちだけだったようだ(当然の結果ではあるが)。

「この写真家の行動パターンは、完璧主義から成果物を世に出すのを恐れるようになり、それを先送ろうとする典型的な時間稼ぎの例といえるでしょう」とフォスリーン氏は語り、こうも続ける。

「当たり前のことですが、この写真家のように作品を世に出す前に“金メッキ”を施してしまうと、有効なフィードバックは得られません。また、完璧を目指すあまり、些細な批評さえも一大事と感じるようになり、作品を世に出す恐怖がどんどん増していくのです」

ちなみに、時間稼ぎの方法は“金メッキ”以外にもさまざまにある。例えば、ビジネスパーソンであれば、終わらせるべき仕事以外のことに手をつけたり、小学生は「宿題は犬に食べられた」と嘘をついたりする。いずれの場合においても行動の裏側では恐怖心が働いていることが多いのである。

ちなみに図4は、私たちが仕事を先延ばしにする本当の理由を示したフォスリーン氏のイラストである。今後の参考にされたい。

【備考】
FEAR:恐怖心/DON’T KNOW WHERE TO START:何から着手すべきかがわからない/PERFECTIONISM:完璧主義/STRECHED TOO THIN:キャパシティオーバー/FEELING INADEQUATE:自分の力量への不安

仕事の先延ばしを抑制する方策

上図(図4)にあるとおり、仕事の先延ばしはさまざまな不快感に起因した症状である。それに対処するうえで大切なことは、自分が仕事を先延ばしにしたことをしっかりと認識し、どうしてそうしたかの原因を把握することである。

また、幸いなことに、フォスリーン氏とダフィー氏らの研究によって、仕事を先に延ばそうとする自分に制御をかける有効な方策がいくつか明らかにされている。以下では、そのエッセンスを紹介する。