エモーショナルサポートネットワークの構築法
ここまで読み進めた読者は、おそらくこう考えているはずである。「エモーショナルサポートネットワークが有用なのは分かったが、そもそもどのようにして構築すれば良いのか」
実を言えば、法人組織の中には従業員のウェルビーイングを重視し、従業員同士の絆(きずな)を深めるためにエモーショナルサポートネットワークに関するオフィシャルで体系的な構築プロセスを設けているところがある。例えば、以下のようなかたちである。
- 私が以前勤めていた非営利団体では、エモーショナルサポートネットワークの一種と言える「ディレクターズグループ」を設置し、四半期に一度の割合でハッピーアワーや小グループでの交流会を催していた。
- 医療機関のメイヨークリニックでは(新型コロナウイルス感染症が流行する以前)、医師が一緒に食事をすることで、普段はなかなか時間を作れないような話を共有し、お互いをサポートすることを推奨していた。
- 上述したとおり、アトラシアンでは、マネージャー同士の対話を促進し、その効果について多くのポジティブなフィードバックを得ている。
もっとも、エモーショナルサポートネットワークの構築において、会社が正式なプログラムやイニシアチブを立ち上げるのを待つ必要はない。自分のニーズ、目的にフィットしたエモーショナルサポートネットワークを自ら構築すれば良い。その際には以下のステップを踏むことをお勧めする。
ステップ 1:エモーショナルサポートが必要な課題を明確化する
繰り返すようだが、エモーショナルサポートネットワークは仕事上の悩みを聞いてもらい、有効なアドバイスを受けるための場である。そのため、自分の直面している課題に対して、適切で、的を射たアドバイスをしてくれるサポートポッドを探し当てることが必須となる。
当然のことながら、そうしたサポートポッドを探すうえでは、他者によるサポートが必要な課題が何かを明確にしておくことが最初のステップとなる。
課題例:プロダクトマネージャーとしての自分個人のブランド(パーソナルブランド)を確立し、強化したいが、どのようなステップを踏めばよいかが分からない。
ステップ 2:サポートポッドに求めることを明確に定める
エモーショナルサポートの欲しい課題を明確にしたのちには、課題解決に向けてどのような人からサポートを受けたいかを明確にする。この段階で、具体的な個人を特定する必要はない。自分の課題解決の支援者として、どのような人物が理想的かをイメージすれば良い。それをイメージする際に有効なのが、以下の問いかけである。
- その人は、どのような経験を積んできたのか?
- その人は、どのような行動をうまくとっているのか?
- その人は仕事上、どのような事柄と対峙しているのか?
仮に、あなたの課題が先に示した「課題例」と同じだったとする。その際には、かつての同僚であるプロジェクトマネージャー(PM)仲間の中から、LinkedInでフォロワー数を増やしているような人をサポートポッドとして探そうとするかもしれない。あるいは、自分とは異なる職務を担ってきた人をサポートポッドとして選んで自分が伸ばしたい関連スキルを獲得したいと望むかもしれない。以下は、そんなサポートポッド選びの一例である。
サポートポッド選びの例:パーソナルブランドの確立と強化が目的であるならば、SNSに対して定期的にソートリーダーシップコンテンツを投稿し、業界のイベントでも講演し、関連メディアにも寄稿しているような人をサポートポッドの理想像として設定すると良い。ちなみに、私は主としてパーソナルブランディングと専門家としての地位を確立することに長けている人をサポートポッドとして選んでいる。
ステップ 3:理想とのマッチングにベストを尽くす
自分が求めるサポートポッドの理想像を特定したのちには、その型に当てはまる人物を探すためのロードマップを作成する。
このとき、即座に数人の候補者をピックアップできるかもしれないが、誰も思い浮かばない場合もある。そのようなときには、次のような方法で適任者を見つけることができる。
- 職場の同僚・上司を観察する:職場の中に「自分もあのようになりたい」と思える人がいたら、その人がサポートポッドの適任者である可能性が高い。
- 既存の人脈に対して推薦を依頼する:例えば「オンラインとオフラインの両方で、ブランディングに優れた数人とつながりたいのですが、どうすれば良いか」といったかたちで、既存の人脈にサポートポッド探しの依頼をかけ、推薦してもらう。
- 元同僚を頼る:サポートポッド探しの際には、以前のチームメイトのことを忘れてはならない。現在は一緒に仕事をしていなくても、彼らはあなたをサポートしてくれる優れたリソースになりえる。
ステップ 4:サポートを依頼し、期待に沿う
エモーショナルサポートネットワークは、それほど構造的・規則的なものである必要はない。ただし、サポートポッドと適宜コミュニケーションをとり、あなたが困難な状況に陥ったときに本当に話を聞いてくれるかどうか、あるいは、アドバイスをしてくれるかどうかを確認するのは悪いことではない。
また、それを続けることで、そうしたコミュニケーションをお互いに心地良く感じるようになり、サポートポッドが自身の経験をあなたに話す方法も、よりフランクになるかもしれない。そのうえで、あなたがアドバイスやエモーショナルサポートを求めていることを知れば、彼らはより多くの時間、エネルギーを、あなたとの対話に注ぎ込もうとするはずである。
しかも、あなたのエモーショナルサポートネットワークに参加している大多数の人は、あなたが自分のことを高く評価し、その指導に信頼を寄せていることを認識しており、それを喜ばしく感じているはずだ。ゆえに、相談を持ちかけるのを恐れる必要もない。
ただし、サポートポッドに悩みごとを聞いてもらう際には「率直さ」「誠実さ」「相手を上手に褒めること」を常に心がけることが大切である。また、初回の対話を終えたのちには、同様のアプローチを今後も継続することへの許可を求めるのが適切である。
サポートポッドの中に、依頼に応じない人がいても、それほど気にする必要はない。本業が忙しく時間が取れない人が多くいるはずだからである。また、そのようにして相手の状況に対する相互理解を深めることで、エモーショナルサポートネットワークは真に投資価値の高いものへと発展していくことになる。
人は社会の生き物であり、フラットに薄く広がり過ぎると個々人がなかなか能力を発揮できない。もし、仕事における自分と人とのつながりに薄さを感じるのであれば、エモーショナルサポートネットワークの構築に乗り出してみてはいかがだろうか。