ワークマンが積極出店を続け、売上高と利益をともに伸ばしている。従来の作業服専門店に加え、アウトドアに特化したWORKMAN Plusや、女性をターゲットにした#ワークマン女子などの新業態も展開。2021年3月期のチェーン全店売上高は1466億5300万円と、5年間でほぼ倍増し、21年9月末での店舗数は924店舗にまで増加した。

そんなワークマンの躍進を主導しているのが土屋哲雄専務だ。三井物産に30年以上勤務したのち、12年にワークマンに入社すると、データ分析によって店舗の仕入れと在庫を最適化するエクセル経営を導入して同社の成長をけん引した。加盟店の発注の手間をなくす完全自動発注システムも開発し、約半数の店舗に導入している。

ワークマンでは店舗の95%をフランチャイズチェーン(FC)によって運営している。土屋専務が進めている改革の目的は、ワークマンと加盟店がともに100年以上続く競争優位を構築し、社員一人ひとりが自走する自律分散型組織にすること。その先には、経営者が凡人でも安定した経営ができる「凡人経営」の実現がある。

土屋専務に加え、データ分析や自動発注システムを担う同社店舗エンジニアリング部の森池翔さんと、石原侑佳さんに、同社が目指す組織の在り方を聞いた。

土屋哲雄(つちや・てつお)

ワークマン専務取締役。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役を経てワークマンに入社。常務取締役経営企画・情報システム・ロジスティックス担当としてアウトドアウェア新業態店「WORKMAN Plus」を企画。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。20年10月に初の著書『ワークマン式「しない経営」――4000億円の空白市場を切り拓いた秘密』(ダイヤモンド社)を上梓

最も重要な仕入れをデータ経営で最適化

ワークマンは作業服と作業用品の専門店として1980年に群馬県伊勢崎市に1号店をオープンした。以後、順調に店舗数を増やして、40年間にわたり業界で圧倒的なシェアを取っている。

土屋専務が入社したのは、全国の店舗数が700店を突破した12年。三井物産で国内外の子会社社長を歴任するなど30年以上勤務していたが、ワークマン創業者で叔父の土屋嘉雄会長に声をかけられて入社した。ただ、入社するなり「会長からは良い会社だから何もしなくていいと言われた」という。

「何もしなくていいと言われ、本当にすることがなかったので、最初の2年間は全国の店舗を飛び回りました。ワークマンはほとんどがフランチャイズの加盟店です。何も分からなかったので、加盟店店長が何を考えていて、社員がどんなことをやりたいのかを聞き続けました。

話を聞いて理解したのは、店長にとっては仕入れが一番大変だということでした。仕入れる商品は全て加盟店の買い取りです。真面目な店長は、店を閉めた後に全ての棚を見ながら小さい端末に入力して、2時間もかけて発注作業をしていました。

しかし、それでも売れている商品を正確に把握できていない場合があります。あるお客さまが4カ月おきに購入していた商品を、そのお客さまがすでに職を離れていることも分からずに仕入れ続けていたこともありました。それで、品ぞろえと発注作業にボトルネックがあることがはっきりしたので、ここをITで変えていこうと決意しました」(土屋専務)

土屋専務は全国の店舗を訪れる一方、社内で全社員を対象にエクセルの教育を始めた。外部の講師は呼ばず、2年4カ月かけて社内で関数やピボットテーブルを扱える人材を育成する。上級者はAIも扱うようになる。その準備期間を経て、14年からデータ分析を駆使した「エクセル経営」を導入した。

データ分析チームのリーダーを務める森池翔さんは10年に入社。入社当時はまだ、店舗運営や加盟店巡回の際にデータは参考にしていなかったと話す。

「当時は店舗を巡回しているスーパーバイザーが感覚的に発注していました。『この商品は売れていますか』と店長に聞いて、『売れていますよ』と答えがかえってくると、それなら10着発注してもらうといった感じでした」(森池さん)

ワークマンの社員は入社後2年間、直営の店舗に配属される。14年以降は並行してエクセルの教育が行われるようになり、2年目の社員は毎月店舗の分析レポートを作成している。本社でのデータ分析と合わせて、売り上げアップにつながる取り組みが積極的にされるようになった。石原侑佳さんが15年に入社した際には、すでにデータによる分析が進んでいたという。

「ベテランのスーパーバイザーの中には感覚で発注を決める人もいましたが、多くの社員はデータをもとに店長と話をしていました。入社3年目くらいでスーパーバイザーになったばかりの社員でも、データを分析した上で具体的な指示を出していたと思います」(石原さん)

データ分析チームの石原侑佳さん(左)と、リーダーを務める森池翔さん

売り上げをアップさせた自動発注システム

データベースの次に土屋専務が導入したのが、現在約半数の店舗が使っている完全自動発注システム。店舗の売り上げや在庫、本部が推奨する商品、新製品や古い商品の廃盤などのデータを本部が分析して、店長がボタン一つ押すだけで一括発注できる。17年4月から導入を進めて、924店舗のうち約470店舗に導入されている。

導入を半数の店舗にとどめているのは、使っていない店舗との差を比較するABテストによって効果を検証するためでもある。

この470店舗分の自動発注システムを管理しているのは、20人の分析チームのうち4人。森池さんはリーダーで、石原さんもそのメンバーだ。森池さんはシステムによる効果の大きさを次のように説明する。

「運用を開始して4年ほどで、使っている店舗の売り上げの伸び率は通常の店舗を上回っています。通常の店舗を100とすると、使っている店舗は105くらいで売り上げを伸ばしています。

自動発注システムによって、店舗在庫の中身も良くなりました。その結果として売り上げを伸ばすことができて、在庫を維持しつつ回転率を上げることにもつながっています」(森池さん)

ワークマンでは土屋専務の発案で、18年9月からアウトドア専門店のWORKMAN Plusを新業態として展開。既存店からの業態変更も含めて、すでに330店舗を突破した。20年10月から女性をターゲットにしたアパレルの#ワークマン女子も展開している。

自動発注システムは当初、既存店だけに対応していたが、改修を重ねて第3次のシステムでは全ての業態に対応できるようになった。データ分析と自動発注システムは、新業態の展開に欠かせないと土屋専務は考えていたという。

現場での異変をデータを見ることによっていち早く察知し、検証して調べる(WORKMAN Plus 南砂町SCスナモ店)

「データ経営で一番の肝になるのは店舗の最適な品ぞろえです。作業服の専門店は働く人のための店で、お客さまは建設現場や工場、農業、林業、水産、サービス業まで幅広い業種に及びます。100坪しかない店舗に最適な商品をそろえて喜んでもらうことが、私たちの最大の目標です。品ぞろえが良ければ当然売り上げも上がりますよね。

ただ、長年作業服だけを売ってきたので、一般客向けの商品の作り方や売り方は分かりませんでした。経験も知見もないので、新業態の店舗を運営するにはデータ分析が必要でした。特に女性ものの商品はほとんど扱ったことがなかったので、#ワークマン女子ではどんな商品をそろえるのが正しいのかを店舗ごとに実験して、データで絶えず分析しながら舵とりをしています」(土屋専務)