30周年のCFで1700万円を集める
休館していた期間のSNSの発信によって、サンリオピューロランドのインスタグラムのフォロワー数は2020年12月末時点で9.8万と、2019年7月の約5万人からほぼ倍増した。Twitterのフォロワーも臨時休館から約3万増やすことができている。このフォロワー数増加の成果ともいえるものが、30周年イベントの支援を募ったクラウドファンディング(CF)の成功だった。
サンリオのテーマパークは、屋内型のピューロランドが1990年12月に、屋外型のハーモニーランドが1991年4月に大分県日出町(ひじまち)にオープンしている。CFは、ハーモニーランドの担当者からの相談から始まったという。
「30周年で何かやりたくて、お金がないのでCFをやろうと思っているけどどう思いますか、と相談を受けました。せっかくなら、ピューロランドと一緒にやった方が金額も大きく調達できるかもしれないと話をしたのが5月でした。
大枠のプランを小巻社長に見せたのですが、30周年のイベントの実施を検討している時期でもあったので、その時点では明確な許可が出ませんでした。それが2カ月後くらいに『どんどんやっていいよ』といわれて、プロジェクトがスタートしました」
小巻社長からは進め方についての指示があったものの、主要な部分は現場のメンバーと決めていった。計画したのは30周年のパレード。コロナの影響で予算は大きく絞られていたので、パレードの衣装も作れない状況だった。そこで、現場担当者から、あとどれぐらいの予算があれば実現できるかヒアリングし、目標額を1500万円に設定した。
「社内では正直なところ、達成できないと思われていました。それでも、3年前にイベントのPRのためにCFで200万円を調達した経験があったので、その知見を生かしました。1500万円の目標数字は、これくらいの人数のファンがいるので、1人がこれくらいは払ってくれるだろうと計算して出しています。コロナ禍で前回よりは集まるだろうと思っていたものの、目標を達成できるかどうかまでは確信が持てませんでした」
CFの締め切り3日前の時点で、集まった金額は1300万円。目標額には足りていなかった。しかし、ここから予想だにしない展開が起きる。
「ファンの方同士で『そろそろCFが終わっちゃうよ。みんなやった?』という声かけがTwitter上で始まりました。その声かけが広がって、翌日くらいには一気に1500万円を達成して、最終的には1700万円を超えました。ファンの方に支えてもらっている会社だと実感しましたね。胸が熱くなったと話すスタッフもいました。
CFが成功したのは、臨時休館中にSNSの取り組みをしていたことも大きかったと思います。前回は200人くらいだった支援者が、2100人を超えるまでに増えたことがうれしかったです」
他部署を巻き込む「ながらコミュニケーション」
コロナ禍で始めたオンラインでの新規事業や、30周年パレードのCF成功の陰には、他部署も巻き込みながらチームを構築した志賀氏によるマネジメントがある。
マーケティングを統括する志賀氏は、いわばミドルマネージャーの立場。社長や役員、部長クラスなどの上司と現場をつなぐために、上司の指示はアレンジして現場に伝えているという。
「物事を進めるときに、『社長が言っているから』と言うのは一番良くないと思っています。現場からすれば、絶対に社長が言う通りにしなければならないと思ってしまいますよね。
もちろん社長は当然やった方が良いことを話していますが、それは一旦横に置きます。やり方は担当である私たちがアレンジして、メンバーには『こういうふうにやっていかない?どう思う?』と違う言い方で伝えます。メンバーからも意見を出してもらって、よりよい方法を探りながら進めていますね」
また、新たなチームを作るときには、志賀氏がメンバーをいろいろな部署から選んで、それぞれの上司にチームへの参加の許可をお願いする。上司同士で調整してもらって、必要であれば人事にまで志賀氏が話をすることもある。しかし、そのためには普段から社員の考えなどを把握しておく必要があるはずだ。その秘訣を聞くと、志賀氏の答えは「歩きながらのコミュニケーション」だった。
「私は中途入社して5年目です。ピューロランドは中途入社の社員は全体の1割いるかどうかなので、顔を覚えてもらうためにいろいろな部署をずっと歩きまわっています。本当に用事はないんですけど、部屋が分かれている部署にふらっと入って、一人ずつ全員に声をかけます。『髪切った?』とか、『メガネ変えた?』とか。あやしい人みたいな感じですよね(笑)。
そうすると、向こうから『相談したいことがある』と言われたり、私たちの取り組みに『実はこう思っている』と意見を話してくれたりすることがあります。いろいろな話を聞くことで、その人がやりたいことも分かってきます。5年かけて“ながらコミュニケーション”をしてきたことが、生きているのかもしれません。暇さえあればうろうろして、ピューロランドの中を1日1万5000歩以上歩いています」
オンラインを推進するチームを作る際には、趣味でYouTuberをしている営業の担当者がいると聞き、YouTubeの担当者になってもらう。その部署の部長からしてみれば「何でこのメンバーを」と思う人を抜てきすることもある。他部署を巻き込むときには、持っている情報や直接聞いた話から、その人に適した仕事を割り振るように意識しているという。
「今はもう昭和ではなくて、令和の時代です。『これをやれ』と上司から言われても、やれないし、やらないのではないでしょうか。私も一方的に言われただけではやりたくないですね。前職のときにも、お互いの人となりを理解できていないまま進めたプロジェクトでは、あまり良いものが生まれない経験をしました。
この仕事を喜んでやってくれそうなメンバーや、このプロジェクトを一緒にできるメンバーを見つけることは、他部署を巻き込むためには大事なことです。うろうろして話しかけるだけでも、一緒に働く仲間になれますし、あとで何かいいことにつながるかもしれない。だから、とにかくコミュニケーションをとることが私の役目だと思っています」
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