アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』から新着コラム。メインライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)が、チームの集中力をマネージするアテンションマネジメントの実践手法について解説する。

チームにおけるアテンションマネジメントの実践手法

ということで、次にチームレベルでアテンションマネジメントを実践する方法について紹介することにしたい。それは以下のとおりである。

実践手法1: 仕事の「なぜ」を追求する

例えば、あなたが大きな石を背負い、丘の頂(いただき)に運んでいたとする。このようなとき、人は必ず、「どうして、このようなつらい作業をする必要があるのだろうか」「これによってどのような見返りが得られるのだろうか」と疑問に思うはずである。

実は、こうした疑問が仕事の目的を理解する出発点となる。丘の頂に石を運ぶ理由をしっかりと認識することで、運ぶのをやめたり、他の仕事をし始めるのを避けることできる。

あなたのチームが背負っている石(=重荷)が何であれ、チームのメンバー全員に対して、「なぜ、その重荷を背負い、歩き続けなければならないか」の理由・目的を明確に伝え、その理由・目的に対する共感・同意を得なければならない。

仮に、あなたがチームのリーダーで、チームに課している仕事の理由・目的をメンバーにまだ明示していないのであれば、次回のチームミーティングやプロジェクトミーティングの場で、必ず数分の時間を割き、メンバーたちに重荷を背負ってもらっている理由と目的を明確に伝える必要がある。

そのうえで、チームメンバーが重荷を背負っている理由・目的を忘れないよう明文化し、チームで共有する全てのドキュメントやチャットチャンネル、あるいはプロジェクトに関する資料のトップに掲出しておくと良い。

実践手法2: 合理的に仕事を選択する

重要な仕事へのチームの集中力を高め、維持するうえでは、仕事の取捨選択が合理的な判断に基づいて行えるようにしておくことも大切である。これを言い換えれば、会社やチームの目標に沿って、仕事の優先順位付けを明確に定めておく必要があるということだ。

こうした優先順位付けを行うためのフレームワークとしては、「OKR(Objectives and Key Results)」が最も優れたものと言える。

OKRではまず、チームが追求すべき高次の目標(Objectives)を2~3つ設定する。次に、各目標に対して、それを達成するために必須となる計測可能な成果目標(Key Results)を2~3つ定める。これにより、チームの目標達成に向けて何の仕事を優先すべきかが明らかになり、かつ、成果目標の達成度によって、自分たちがチームの目標達成に向けて正しい道のりを進んでいるかどうかも明確にできる。

OKRで定めたチームの成果目標は、四半期に1回、あるいは年1回の頻度で達成度が評価され、それに基づいてチームの活動の軌道修正などが行われる。また、OKRの内容を、例えば、アトラシアンの社内Wikiツール「Confluence」などを使ってチーム内で共有しておくことで、チームに対して新しいリクエストやアイデアが提示された際に、それに取り組むことが本当に正しい選択かどうかを判断する基準として、OKRが活用できるようになる。

例えば、OKRの内容と新しいリクエスト・アイデアを照合した結果、取り組むことがチームの目標達成に資するものと判断される場合がある。そのときには、その新しい取り組みにチームの人的・時間的リソースを振り向けることが、正しい判断となる。一方、新たなリクエスト・アイデアに取り組んでも、チームの目標達成に何らプラスの効果がないと判断した場合には、断るのが正しい選択となる。もっとも、新しいアイデアについては、のちに改めて採用の是非を検討したほうが良い場合が多い。

チームにおける仕事の優先順位付けを効率的に行う他の方法としては、「アイゼンハワーマトリクス」を活用するという手もある(図2)。

図2:アイゼンハワーマトリクスの例

図2に示すとおり、この方法は、全ての仕事を「重要度」と「緊急性」の2軸に基づく4つの象限──例えば、「Do(やる)」「Delegate(委託)」「Delay(後回し)」「Delete(削除)」の4タイプに分類するというものだ。

このマトリクス(4象限)を使うことで、チームが成すべきことの優先度が明確にできる。常に新しいリクエストを精査できるよう、このマトリクスを使った仕事の分類は、1カ月に1回の頻度で更新することが望ましい。

以上に示した2つのフレームワークはともに、チームごと、あるいは部門ごとの仕事の優先度を決めるうえでとても有用である。ただし、自チームが仕事をこなすのに、他チームの協力・貢献が必要とされる場合には、より高度なフレームワークを使う必要が出てくる。そのフレームワークの一つが、アトラシアンが開発した「全ての優先度を決める(prioritize allthethings)」マトリクスである(図3)

図3:アトラシアンが開発した「全ての優先度を決める(prioritize allthethings)」マトリクスの例

図3を見てのとおり、このマトリクスでは、仕事の「インパクト(Impact)」の高低を表すY軸と、「緊急性」の高低を表すX軸の2軸から構成される。

この2軸で構成されたフィールドに、まずはチームの目標達成に寄与する全ての作業を当てはめていく。そのうえで、リクエストを提示したチームのリーダーを招き、彼らの全てのリクエストをマトリクス上の仕事の配置に反映させる。そして、あなたのチームのキャパシティに準じるかたちで作業を「遂行すべきこと(Must do)」「遂行したほうが良いこと(Nice to have)」「遂行しないこと(Won’t do)」に区分けするラインを描くのである。

この手法の最も優れた部分は、協力を要請したい他チームのリーダーを、自チームにおける仕事の優先順位付けに参加させることだ。これにより、他チームのリーダーらは自動的に、あなたのチームの目標やミッション、そして、あなたのチームがなぜ、他チームの要望を全て受け入れることができないのかについて理解を深めることになる(たとえそれが、他チームにとってあまり心地の良いことでないとしても)。

実践手法3: 仕事に集中しやすいチーム文化を育む

ミーティングやチャット、メールのやりとりは、ナレッジワーカー(ホワイトカラー)のコラボレーションには欠かせない要素だ。ただし、これらは全て人の集中を妨げるものでもある。

そのため、労働生産性に関する識者たちは一様に、決められた時間内でメールをチェックするようにして、それ以外の時間はメールのチェックは一切行わず、重要な仕事だけに集中するよう唱えてきた。

ところが、多くのビジネスパーソンが、この貴重なアドバイスを無視し続けている。その最大の理由は、「自分宛てのメールを長時間放置しても構わない」という承認が得られていない(と感じている)からだ。またこれは、チャットメッセージの扱いについても、同様に言えることである。

したがって、重要な仕事に対するチームの集中力を高めるためには、チームとして、メール/チャットメッセージを長時間放置しても構わないという承認を自らに与えることが大切となる。そのうえで、メンバー同士のメール/チャットのやり取りにおいて、どの程度のレスポンススピードを確保するのが適切かについて合意を形成したり、緊急の知らせを互いに伝える方法を取り決めておいたりすることが重要である。例えば、チームメイトからのメール/チャットに対するレスポンスは3時間以内に行うことを原則とし、緊急の用件を伝える際には必ず電話を使うようにする、といった具合である。

こうしたルールは、テレワークなど離れた状態で働く場合に特に有効である。というのも、リモートワークでは、チームメイトや上司からのメッセージに即座にレスポンスを返さないと、「サボっていると疑われてしまう」といった強迫観念にとらわれやすいからである。実際テレワークでは、チームメイトや上司からのメール/チャットメッセージに対してクイックに反応しようとする。ただしそれは仕事への集中を妨げ、生産性の低下を招く行動なのである。

上述したとおり、チーム内のミーティングも、仕事に対するメンバーの集中を妨げ、その生産性を低下させる因子となる。したがって、チーム内で“ミーティングを行わない時間”を設定し、その時間帯にはミーティング設定できないようにするのが望ましい。実際、アトラシアンでは、多くのチームが、毎週、特定の1日を“ミーティングを行わない日”に設定している。

ちなみに、Google社内のチームの中には、午前中はメンバー同士が互いの仕事を中断させないというルールを設けているところもあるらしい。要するに、午前中は「ミーティングはしない」「互いに話しかけない」といったルールを敷いているのである。ここまでのルールが必要かどうかは意見の分かれるところだろうが、1週間のうち1日ぐらいは、午前中を大事な仕事に一点集中する時間帯に設定して、Googleのアテンションマネジメント手法を試してみると良いかもしれない。

実践手法4: 仕事に対する責任を果たす

アジャイル開発の手法の一つに、チームのメンバー全員が毎日、朝一番に集まり、10分から15分のスタンドアップミーティングを行うというものがある。このミーティングでは、チームのメンバー各人が「昨日行ったこと」「今日行うこと」を完結に報告する。これにより、チームのメンバー全員が互いの仕事の進捗をクイックに確認することが可能になる。また、このミーティングはチームやプロジェクトのリーダーにとって、日々の仕事/プロジェクトの意義や目的をメンバー全員にリマインドさせる良い機会でもある。

さらにこのミーティングの良いところは、チームのメンバー各人が自分の仕事に対する説明責任を“強制的に”ではなく、“紳士的に”果たすことができる点だ。これは、メンバー各人の仕事への集中度を高めるうえで有効である。

個人のためのアテンションマネジメントTIPS

以上、チームレベルのアテンションマネジメントの実践手法について駆け足で見てきた。

これらの手法は有効だが、実のところ、チームのメンバー各人が、個人としてアテンションマネジメントをしっかりと実践しなければ、上述した手法の全ては効力を失う。そこで本稿の締めくくりとして、個人に向けたアテンションマネジメントのTIPSを紹介しておきたい。それは次のとおりである。

  • ある時間帯を集中のために使いたい場合は、その時間内は、チャットのステータスを「DO NOT DISTURB(邪魔をしないでください)」に設定する。
  • 重要な仕事の作業中は、スマートフォンを手元に置かないか、電源を切る。
  • 仕事だけに集中したい場合は、パソコン上の不要なブラウザのタブやアプリケーションを全て閉じる。
  • パソコンやスマートフォンの画面を全く見ない1日を作り、頭を徹底的に休ませる。
  • ニュースやSNS、個人のメールなどの確認は、作業と作業の合い間に行い、作業中には行わない。
  • 仕事中に、TO-DOリストに追加すべき新しい事項が頭に浮かんだ際には、それを紙に書き留めるようにし、パソコン上のTO-DOリストを更新するようなことはしない。

究極的には、仕事に集中できるかどうかは、私たちが自らの行動をどれだけ制御できるかにかかっている。そして、私たちのモダンな生活を支えているデジタルテクノロジーは、現代人にとって祝福であると同時に呪いであることを忘れないでいただきたい。デジタルテクノロジーは、仕事の効率性を高めてくれるありがたい存在であるのと同時に、仕事への集中を散らす魔力も備えているのである。