2020年2月6日、アトラシアンのプライベートイベント「Atlassian Team Tour Tokyo」が開催された。ここでは、プレジデントであるジェイ・サイモンズ(Jay Simons)が行なったアトラシアンのビジョンについてのオープニングキーノートと、日本法人でソリューションエンジニアを務める皆川 宜宏によるアトラシアンのソリューションについての講演のエッセンスをお届けする。

ジェイ・サイモンズ
アトラシアン本社
プレジデント

皆川 宜宏
アトラシアン株式会社
ソリューションエンジニア

DX時代に勝ち残るために

アトラシアン本社プレジデントのジェイ・サイモンズの講演は、イベントのオープニングキーノートとして展開された。その演壇に立ったサイモンズはまず、自社の現況を次のように報告する。

「アトラシアン製品のユーザー企業はすでに世界190カ国/15万社以上に上り、フォーチュン500社の8割強がアトラシアン製品をお使いです。オフィスは日本を含む世界12拠点があり、従業員数は4,000人超。創業は2002年ですので、かなりのハイペースで組織も、事業も拡大させてきたと言えるかもしれません」

ATLASSIAN TEAM TOUR TOKYOのオープニングキーノートでスピーカーを務めたサイモンズ。アトラシアン製品がどのように組織の変革に寄与するかを紹介。

そうしたアトラシアンのミッションは、あらゆるチームの可能性を解き放ち、企業の課題解決をバックアップすること。そして今日、多くの企業が抱えている課題は以下の3点に集約できると、サイモンズは言う。

  1. 組織のスケール:組織の目標を達成、あるいは上回るために、成長/変革をいかにスケールさせるか。
  2. アジャイルなデリバリー:高品質で的確な製品/サービスを予算内でいかに迅速に提供するか。
  3. 急速な(素早い)イノベーション:顧客のロイヤルティを獲得するために、どのようにして変化する環境に対応し続けるか。

「これら3つの課題の背景にあるのは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流であり、顧客体験(CX)における要求の高度化であり、将来性のあるビジネスモデルの確立の必要性です。このトレンドの中で、多くの企業が研究開発を加速させていて、90%のIT部門のリーダーが、経営戦略上の重要な取り組みを主導しているとのデータもあります。言い換えれば、大多数の企業の事業がテクノロジー駆動型へとシフトし、ソフトウェア化しているわけです。結果として、先に触れた3つの課題が、企業の大きなテーマとして浮上してきたということです」

アトラシアンでは、上記3つの課題を解決するためのソリューションとして、「ツール」と「実践方法」が必要だと提唱している。このうちツールとは、社内Wiki型のコラボレーションツールである「Confluence」やタスク管理ツールの「Trello」、ソースコード管理ツールの「Bitbucket」、さらには、アジャイル開発のためのプロジェクト管理ツール「Jira Software」、ITサービス管理ツールの「Jira Service Desk」などである。

アトラシアンのツールにより加速した有力企業の変革

アトラシアンのツールは、元来、ソフトウェア開発のための製品からスタートしたが、ツールの拡充もあり、「アジャイル」「DevOps」「ITSM(ITサービス管理)/ITOps(IT運用管理)」に至る各プロセスやチームを支えるツールとして機能している。そして今日では、ソフトウェア開発の枠組みを超えて、企業組織全体のアジリティを高めるための仕組みとしても有効に活用されている。

「アジャイルな組織への転換は、今日の多くの企業が望んでいることです。例えば、2023年までに大手企業の80%が、製品/サービスの市場投入の時間を短縮するために、アジャイルを活用するとの予測もあります。そのニーズが、アトラシアン製品に対する大きな需要へとつながっていると言えるでしょう。また、実際にも、アジャイルな組織への転換によって、企業は大きな効果を手にすることができます」と、サイモンズは語り、アジャイルへの転換で成功を収めた企業の一例として、オランダのレゴ(LEGO)社のケースを挙げる。

2023年までに80%の大手企業がアジャイルを活用する─。そうしたデータを見せながら組織のアジャイル化にアトラシアンがいかに貢献しうるかを説明。

「レゴ社では、1万5,000人以上もの社員が、自組織をアジャイルな組織へと変革する取り組みに挑みました。結果として、これまでにないユニークなレゴ商品が矢継ぎ早に生まれ、ゲームソフトに押されて傾きかけていた業績を、上昇軌道へと乗せることに成功しています」

また、180年以上の歴史を持つANZ(オーストラリア・ニュージーランド銀行)は、Jira Software、Confluence、Bitbucketといったアトラシアン製品を活用し、商品を迅速に生み出すアジャイルな組織への大転換を果たしている。さらに、ドミノ・ピザでは、Confluence、Jira Software、Jira Service Deskなどを用い、開発チームとIT運用チームが一体となって動くDevOpsの体制を築いた。これにより、システムの構築・展開・運用のスピードを大幅に高めることに成功している。このほか、アプリケーションパフォーマンス管理のベンダーとして急成長を遂げたAppDynamics社(現在は37億ドルで買収され、シスコシステムズ社の傘下に)は、BitbucketやJira Software、Jira Service Desk、Confluenceを使い、ITSMの手法を拡張し、Jira Service Deskを通じてスピーディなITサービス提供を実現している。

アジャイルな組織への変革に成功したANZについてのビデオ

アジャイル開発でアトラシアンが選ばれる理由

以上のようにアトラシアンのツールは、アジャイル、DevOps、そしてITSM/ITOpsの3つの領域で、実質的な効果を顧客企業にもたらしている。

今回のAtlassian Team Tourでは、そうしたアトラシアンのツールの特徴と導入メリットについて、日本法人のソリューションエンジニア、皆川 宜宏が、上記3つの領域に沿ったかたちで具体的に解説した。

アジャイル開発でのアトラシアン製品活用のメリットを説く。

皆川の講演タイトルは、『エンタープライズアジリティとイノベーションを促進するアトラシアンソリューション』。その講演の冒頭、皆川は、アジャイル開発について、「日本の開発現場では欧米と比較すると浸透度が高くありませんが、最近になって関心を寄せる企業が急激に増え始めたという実感が強くあります」との感触を示す。

ご存知のとおり、アジャイル開発のフレームワークとして一般的に使われているのは「スクラム」だ、このスクラムフレームワークとアトラシアン製品との関係性は、下図(図1)のとおりである。

図1:スクラムフレームワークとアトラシアン製品

この図にあるとおり、スクラム開発を支えるアトラシアンの主要製品としては、ConfluenceとJira Software、Bitbucketの3つが位置づけられている。

開発とタスク、タスクと目的をひもづける

このうちConfluenceをスクラム開発に活用するメリットとして、皆川は、「開発にかかわるすべての情報(ドキュメント)を一元的に、かつ、効率的に管理・共有できる点にあります」と説明する。

例えば、Confluenceでは、マイクロソフトの「Word」を扱うのと似た感覚で共有ページが作成でき、その情報が更新されるたびに関係者に通知が飛ばせる。そのため、関係者間での情報共有が効率化され、例えば、会議を催す際にアジェンダや資料を事前に共有し、簡単な意見交換やアイデア交換をConfluence上で行うことも簡単になる。
「これにより、実際の会議でより深い意見交換が可能になりますし、情報共有だけを目的にしたような会議の回数を減らし、チーム全体の効率性が上げられます」(皆川)。

また、Confluenceなどでの対話を通じて、何らかのタスクの遂行が決まった際には、それをJira Softwareで管理するプロジェクトのタスク(バックログ)として簡単に生成できる。アジャイル開発を行う場合には、そこからタスクの相対難易度を見積り、チームが1日平均でこなせるタスクの分量やタスク優先度に従って1週間の新しいスプリントの内容(タスクの内容と個数)を確定させるのも容易だ。さらに、こうしてスプリントを走らせたのちには、Jira Softwareのカンバンボードでタスクの進捗が、個々のメンバーが今、何をしているかまでのレベルで確認できる(図2)。

図2:JIRA SOFTWAREによるタスク管理の画面例

「スクラム開発で大切なのは、課題解決に向けてチームが自律的に動ける環境を整えることです。Jira Softwareのカンバンボードによる進捗の見える化は、その環境構築に非常に有効で、それがアジャイル開発の現場でJira Softwareが広く使われ、デファクトスタンダードになっている大きな理由と言えます」(皆川)。

一方、スプリントの中での開発作業は、Bitbucketで効率化できる。Bitbucketを使った開発は、このツール上で「ブランチ」と呼ばれる開発者のための“作業場”を作成することから始まる。このブランチでは、ソースコードの変更・修正やステージング環境/本番環境へアップが行え、本番環境へのアップの際には、そのリクエストをチームメンバーなどに送出し、最終的な品質チェックをかけてもらうことができる。

ここでの重要なポイントは、Bitbucketでの開発作業はJira Softwareのバックログにひもづき、Jira Softwareのチケットから開発で何が行われたかが確認できることだ。しかも、Jira Softwareのバックログは、Confluenceでの対話にひもづけることができる。

「こうしたツール間の情報連携によって、例えば、開発者は、ソースコードの変更が、どのようなアイデア/議論に基くものなのかがたどれるようになり、ビジネスチームのメンバーは、Confluenceに記録されたJira Softwareのタスクの状況から、プロジェクト全体の進捗が確認できるようになります。結果として、関係者間での意思疎通の齟齬がなくなり、全員が同じ目的を共有しながら、開発が進められます。それは、アトラシアンのツールを使う非常に大きなメリットと言えます」

DevOps、ITSM/ITOpsでのアトラシアン製品の効用

アジャイル開発でのアトラシアン製品の効果について説明を終えた皆川は、DevOpsやITSM/ITOpsにおけるアトラシアン製品活用にメリットについても言及した。

まず、DevOpsについては、「技術的な側面から言えば、開発側のプロセスである計画・開発・ビルドと、運用側でのデプロイ(展開)・運用の間に隔絶があることが、解決すべき一つの問題です」

この問題を解決する一手が、「継続的なインテグレーション(CI)/デリバリー(CD)」の実現であり、アトラシアンでは、そのための主要なツールとしてBitbucketを位置づけている(図3)。

図3:DevOpsのプロセス概念とアトラシアンのツールとの関係

「Bitbucketのクラウド版には『パイプライン』という機能があります。これを使うことで、ソースコードのビルドからテスト、ステージ環境/本番環境へのアップまでの作業を自動化し、CI/CDの手法をカバーすることが可能になります」(皆川)。

DEVOPSとアトラシアン製品との関係についても概説

また、DevOpsにおいては、ITシステムのインシデント管理を強化することも大きなテーマとなり、アトラシアンではこの観点から、ITSM/ITOps領域でのツールの拡充も進めてきた。その一つは、インシデントの深刻度に応じてアラートの取捨選択を行い、かつ、アラートを適切な担当者にルーティングにする「Opsgeine」の提供である(図4)。

図4:OPSGENIEによるインシデント管理のイメージ

またもう一つは、サービスの稼働状況をモニタリングし、システムダウンなどの発生時に顧客などの関係者に即時的に伝えるツール「Statuspage」の提供である。アトラシアンでは、これら2つのツールを駆使して、インシデント管理をより適切なものにしていく。このほか、ITSM/ITOpsに類するヘルプデスク業務(サービスリクエスト管理の業務)については、ConfluenceとJira Service Deskを連携させ、質問者の自己解決率を高める仕組みも用意している。これは、Confluenceにナレッジをためておき、Jira Service Deskがそのナレッジから、問い合わせに対応する適切な情報を自動で選び、ポータル画面を通じてカタログ的に表示させる仕組みだ。
さらに皆川は今回、企業の事業戦略に基づいてプロジェクトを最適化していくソリューションとして、2019年にアトラシアンが買収した「Jira Align」も紹介した。これは、以下のような機能を提供するツールである。
  1. Program Room:複数のプロジェクトを俯瞰的にとらえ、全体の戦略を練るための場。各プロジェクトの進捗や見積を一挙に可視化できる(図5)。
  2. Backlog:複数のJira Softwareを横断するかたちで、すべてのプロジェクトのバックログを可視化する。
  3. Road Map:すべてのプロジェクトの計画を可視化し、全体調整を図りやすくする
  4. Dependency:複数のチームを適切に動かしていくために、プロジェクト間での相互依存の関係(あるいは、将来的な依存環境)を可視化/予測する。

図5:JIRA ALIGNのPROGRAM ROOM画面の例

「個々のチームのアジリティを高めることも簡単ではありませんが、社内のすべてのプロジェクトを俯瞰的にとらえ、それが本当に企業戦略・ミッションに適合したものなのか、自社にとって必要なものかを判断するのはより難しいとされています。Jira Alignはそうした戦略業務をバックアップするツールとして、かなり有効に使えるのではないと考えています」と皆川は語り、次のように述べて講演を終えた。

「ここでお話ししたように、アトラシアンでは企業の組織/チームがよりアジャイルに、効果的に動けるようにするツールをさまざまに提供しています。ただし、ツールだけで変革が成し遂げられるわけではなく、変革に必要なのはツールと文化、そして手法です。アトラシアンではこうした観点から、今後も単にツールを提供するだけではなく、お客さまの課題に適合したアジャイルのソリューションを包括的に提供していく考えです」(皆川)。