アトラシアン本社の情報サイト『Inside Atlassian』より。アトラシアンのTeamwork Lab責任者であるモリー・サンズ(Dr. Molly Sands)が、約800名を対象とした実験と実務検証の結果をもとに、AIを活用したアイデア出しの落とし穴と、チームの真の創造性を引き出す「人とAIの最適なコラボレーション法」について解説する。
本稿の要約を10秒で
- ナレッジワーカー約800名を対象に、AI起点と人間起点のアイデア出しによる創造性や当事者意識の差を検証。
- 最初からAIを使うと初速は出るが、当事者意識が薄れ「生産的だという錯覚」に陥りやすいことが判明。
- 真に独自性の高い発想を生むには、ツールの前にまずチーム内でアイデアの種を掛け合わせることが不可欠。
- AIは最初の丸投げではなく、人間起点で考え抜いたアイデアを拡張・検証する触媒として活用するのが効果的。
アイデア出しにおけるAIの功罪:初期のスピードと引き換えになる「隠れた代償」
プロジェクトの最初に行うアイデア出し(ブレインストーミング)は、本当に難しい。真っ白な文書を前に、何から書き始めればいいのか悩んだ経験は誰にでもあるだろう。そんなとき、AIに頼るのは手軽な始め方に思える。特に最初のうちはそうだ。
しかしアトラシアンは、AIは人の判断力を高めるものであり*1、人の判断に取って代わるものではないと考えている。アトラシアンの研究チームであるTeamwork Labは、アイデア出しのどの段階でAIを取り入れると最も効果的なのかを調べることにした。AIを取り入れるタイミングは、チームの創造性に影響するのか。AIと一緒にブレインストーミングをすると、社員が自分の生み出した成果を「自分の仕事だ」と感じる意識はどう変わるのか。
調査の概要
実施した内容:
- Teamwork Labは、2つの対照実験を実施した。
- デスクワークに従事するナレッジワーカー797人を集め、複数の条件(AIを使う、AIを使わない、同僚が作成したリストを先に見る)のいずれかでブレインストーミングの課題に取り組んでもらった。
- 補足調査として、AtlassianのHRBP(人事ビジネスパートナー)15人を集めた。各参加者に20分のセッションを2回実施してもらい、1回は人が先にアイデアを出してからAIを使い、もう1回は最初から最後までAIを使ってブレインストーミングを行った。
判明したこと:
- AIを使うと、アイデアを出すスピードや幅広さの面で初期に優位性を得られる。
- しかし、最初からAIに頼ることには隠れた代償がある。仕事への当事者意識(オーナーシップ)が薄れ、楽しさも損なわれる点だ。
- 最高の独自性(オリジナリティ)をもたらすのは、プロンプトではなく同僚である。
第1実験で参加者に課した課題は、心理学研究において創造的思考の測定に最も広く使われている「代替用途課題(Alternative Uses Task:AUT)」と呼ばれるものだ。この課題では、日常でよく使う物(今回はゼムクリップ)について、通常とは異なる創造的な使い道をできるだけ多く挙げるよう参加者に求める。参加者は3つの段階に分けてこの課題に取り組み、各段階で次の3つの条件のいずれかに割り当てられた。
- AIを使わずに自力でアイデアを出す
- AIを使って新しいアイデアを出す
- 1人でアイデアを出す前に、同僚が作成したアイデア一覧を確認する
各ラウンドの終了後、生み出されたアイデアがどれほど創造的だったかを測定した。また、参加者自身にも各ラウンドで自分がどれほど創造的だったと思うかを評価してもらった。
第2実験では、実際の組織で実務の課題を扱った場合に、この効果がどのように現れるかを検証した。Teamwork LabはアトラシアンのHRBP15人に、自らの業務に関連する20分間のブレインストーミングセッションに2回参加してもらった。テーマは「人材の維持・定着」と「オペレーティングモデル(業務運用モデル)の設計」の2つである。
参加者の一部はセッションの前半にAIを使わずにアイデア出しを行い、残りの参加者は最初からAIを使ってアイデア出しを行った。どちらのグループも、セッションの後半では最終的なアイデア一覧を推敲する*2ためにAIを使用した。
発見1:最初からAIを使うと、(少なくとも最初のうちは)スピードと発想の幅で初期の優位性を得られる
どちらの調査でも、AIの活用はアイデア出しを行う参加者の大きな後押しとなった。
ゼムクリップの実験では、AIを使った参加者は、AIを使わなかった対照群と比較して、第1ラウンドで最大43%多くのアイデアを生み出した。また、創造性の総合スコアも対照群を上回った。
同様に、アトラシアンのHRBPワークショップでも、最初からAIを使ってブレインストーミングを行った参加者は序盤の進みが速かった。セッション前半の時点で、最初はAIを使わなかったグループに比べ、アイデアの完成度は36%高く、網羅したトピックの数も45%多かった。
しかし、開始10分の時点ではアイデアの多様性や深みでリードできたものの、それは一時的な先行にすぎなかった。20分が経過し、双方がAIを使って成果物を推敲した段階では、両グループの創造性スコアはほぼ同等となった。
発見2:しかし、序盤の作業をAIに任せると、成果物への当事者意識が薄れる
HRBPワークショップの参加者のうち12人中10人が、最初にAIを使ったほうが着手しやすいと感じたと回答した。しかし同時に、そのスピード感には心理的な代償が伴うことも指摘した。
それぞれのアプローチをどう感じたか尋ねたところ、次のような結果となった。
- 参加者全員(12人/12人)が、人間起点で出したアイデアのほうにより強い当事者意識を感じた。
- 圧倒的多数(12人/9人)が、人間起点で行ったセッションのほうがやりがいを感じられたと回答した。
- 3分の2(12人/8人)が、人間起点のアプローチのほうがより高い創造性を発揮できたと感じた。
発見3:真の独自性を求めるなら、ツールの前にまずチームに目を向けよ
ゼムクリップの実験において、創造性が最も高まったのはAIツールにプロンプトを入力したときではなく、チームメイト同士でアイデアを掛け合わせたときだった。1人でアイデア出しを行う前に同僚のアイデアを確認した参加者(AIは不使用)は、すべてのグループの中で最も優れた成果を収めた。独自性のスコアは、終始1人だけで取り組んだグループより18%高く、AIを直接使ったグループと比べても11%高かった。
アイデアの独自性スコアの比較:同僚のアイデアを参考にしたグループが、AIを起点にしたグループや単独のグループよりも高い創造性を示した。
「成功の秘訣は、白紙の状態からLLM(大規模言語モデル)を使って始めることではない。他者の思考を吟味し、つなぎ合わせ、発展させていくという人間ならではのプロセスにある。ゼロからAIにプロンプトを入力すればアイデアの量は出せるが、同僚のありのままのアイデアを土台に肉付けしていくことこそが、独自性を最も高めてくれるのだ」
── アトラシアン Teamwork Lab 分散ワーク研究リード サラ・ゴットリーブ=コーエン(Sara Gottlieb-Cohen)
「生産的だという感覚」の落とし穴と、AIが真に果たすべき役割
生成AIを使うとアイデア出しが驚くほど手軽に感じられ、1人で取り組む場合に比べてストレス(フラストレーション)のスコアは半減する。しかし、アイデアが一気に大量に出てくることで、「創造的な勢いに乗っている」という錯覚が生じてしまう。
どのラウンドが最も創造的だったかを参加者に特定してもらったところ、全体で見ても当て推量(ランダムな予測)と大差ない結果となった。中でも、AIを使った参加者は自身の成果物を正しく見極める精度が最も低く、単独で取り組んだグループの正解率が40%だったのに対し、わずか32%しか言い当てられなかった。
ここから得られる教訓は、「ブレインストーミングにAIの居場所がない」ということではない。AIがもたらす創造的な価値は、出力されたアイデアをめぐる人と人との対話や意見交換の中にこそ存在する、ということだ。
AIを活用したアイデア出しをどう見直すべきか
- 最初の思考プロセスをAIに丸投げしない:個人やチームが最初からAIによる生成に飛びつくと、スピードと引き換えに当事者意識や自負心を手放すことになる。
- 「生産的だと感じたか」でワークフローを評価するのをやめる:AIは着手時の認知的負荷を大幅に減らすため、人々はセッションが実際にどれほど創造的だったかを過大評価しがちになる。チームは、最初の5分間で生成されたテキストの量ではなく、その後の成果物の新規性や実現可能性によってAIワークフローを評価する必要がある。
- 1人のショートカット(近道)ではなく、チーム全体の起爆剤(触媒)としてAIを使う:最も優れた成果を上げた発想者は、チームメイトが共有した厳選されたアイデアの種を土台に発展させた人たちだった。他者がまとめたリストを吟味することは、白紙からLLMにプロンプトを入力するよりも、より深い独自の思考を引き出す呼び水となる。
結論:
定型業務でより多くの分量・アウトプットを求める場合は、LLMにプロンプトを入力すればよい。しかし、独自性が求められる重要度の高い思考を行いたいなら、白紙の状態からプロンプトを打つべきではない。まずはチームが課題にじっくり向き合って格闘する時間を取り、チームメイト間でアイデアの種を掛け合わせ、その上で既に構築したアイデアを拡張・検証(ストレステスト)するためにAIを取り入れるべきだ。
調査手法
2026年4月、Teamwork Labはナレッジワーカー797名を対象に実験を実施した。各参加者は、AIの活用や単独での作業など複数の異なる条件下で、3ラウンドのブレインストーミングに取り組んだ。各ラウンドの終了後、Teamwork Labはアイデアの創造性を測定し、参加者自身にも各ラウンドで自分がどれほど創造的だったと思うかを評価してもらった。さらに2026年5月、Teamwork Labは実証的な追試実験として、アトラシアンのHRBP(人事ビジネスパートナー)15名を対象とした実験も実施した。参加者は「終始AIを使用する」条件と「人間起点でアイデア出しを行った後にAIで推敲する」条件の2つの異なる条件の下、20分間×2回のブレインストーミングセッションに取り組んだ。セッション終了後、HRBPにはアンケートへの回答も求めた。
この記事は、より良い働き方を設計・検証する専任の研究者グループであるアトラシアンのTeamwork Labによる調査に基づいています。
ラボで検証、チームで実証
この記事は、より良い働き方を設計・検証する専任の研究者グループであるアトラシアンのTeamwork Labによる調査に基づいています。