アトラシアン本社の情報サイト『Inside Atlassian』より。Teamwork Lab責任者のモリー・サンズ博士(Dr. Molly Sands)が、新卒世代のAI活用力に関する調査データをもとに、採用市場が冷え込む今こそ企業が若手人材に投資すべき理由を説く。

本稿の要約を10秒で

  • 新卒世代はAIを1.5倍多く日常的に使い、失敗しても粘り強く使い続ける
  • 採用市場が冷え込んでいる今こそ、AI人材への先行投資で差がつく
  • 若手がAI利用を隠さずに済む環境をつくるのはマネジメントの責任である
  • リーダーが手本を示し、活用ルールを明確にすることで組織全体の底上げができる

AIツールへの投資は進んでいる。だが、チームの中で実際にAIを使いこなせるのは誰か。その答えは、企業が「もう採らなくていい」と切り捨てた人材かもしれない。
大手テック企業やスタートアップでは、経験1年以下の人材の採用比率がパンデミック前の水準から50%も低下している *1。一見、理にかなった判断に思える。AIが定型業務を自動化してくれるなら、かつてそれを担っていた若手をわざわざ採用する必要はない ── というわけだ。

しかし、この考え方には落とし穴がある。新卒採用を縮小している企業の多くが、AIの活用を試験導入の段階から先に進められずにいるのだ。アトラシアンのTeamwork Labが発表した最新の調査は、この2つの現象が無関係ではない可能性を示唆している。

調査の概要

調査方法: テック業界で働く560人以上を対象としたアンケート調査に加え、アトラシアンのエンジニア新卒採用者2,200人以上のAI利用データを分析。さらに、アトラシアンに近年入社した社員10名への詳細インタビューを実施した。

明らかになったこと: 経験1年以下の新規採用者は、組織の中で最もAIを積極的に、かつ継続的に活用する層である。つまり、若手採用を絞ることは、AI活用の勢いそのものを失速させるリスクがある。

新卒はAIを「道具」だと思っていない

多くの企業が、チーム全体にAIを定着させようと苦心している。しかし、アトラシアンの調査からわかったのは、社会に出たばかりの若手がすでにその段階を超えており、しかもより効果的にAIを使いこなしているという事実だ。

アトラシアンのTeamwork Labは、社内のエンジニア新卒採用者のAI利用データと、テック業界全体の560人以上を対象とした外部調査「AI Collaboration Index」のデータを併せて分析した。2つのデータセットから浮かび上がった傾向は一致していた。

テック業界全体の傾向(21〜24歳 vs. 25歳以上):

  • 日常的にAIを使っている割合が1.5倍
  • AIを創造的なパートナーや専門的な助言者として活用している割合が1.7倍
  • 意思決定の質を高めるためにAIを活用している割合が2.1倍

アトラシアン社内の傾向(エンジニア新卒 vs. その他のエンジニア新規採用者):

  • AIのヘビーユーザーである割合が19%高い
  • 週あたりのAIツール利用数が15%多く、アトラシアン標準のツールに加えてLLM PlaygroundやRovoLabなどのAIプラットフォームも併用している
  • 1日1時間以上をAIの試行錯誤に費やしている割合が1.8倍

新卒世代は、この技術に慣れ親しんだ状態で社会に出てくる。アトラシアンの調査では、彼らがさまざまなツールを横断しながら試行錯誤を繰り返す傾向が強いことがわかった。そしてAIから期待外れの回答が返ってきたとき、新卒世代はそこで諦める割合が明らかに低い。AIを自動販売機のように「入れたら出てくるもの」として扱うのではなく、協働する相手として粘り強く向き合う ── この姿勢こそが、AIから本当の価値を引き出せるチームとそうでないチームを分ける決定的な違い*3なのだ。

若手の採用市場は回復するが、AIスキルの格差は回復しない

ここで、しばしば混同される2つのトレンドを切り分けておく必要がある。「若手向けポジションの減少」と「AIの台頭」だ。

若手採用の縮小は、ChatGPTが登場する数か月前の2022年初頭にすでに始まっていた*4。その主因は金利の引き上げと予算の引き締めであり、AIではない。AIがこの流れを加速させたと考える人は多いが、根本原因はAIとは別のところにある。そして、この縮小傾向を追跡しているのと同じ予測データが、今後の回復も示している。米国労働統計局は、ソフトウェアおよびデータ関連職が今後10年間で8〜18%成長すると予測しており*5、これは全職種平均の4%を大きく上回る水準だ。

一方で、AI人材の需要はすでに供給を上回っている。AI関連のソフトウェア求人は2015年から2022年にかけて年率31.7%で増加した*6のに対し、関連する学士号の取得者は年率わずか8.2%の伸びにとどまった。2024年だけを見ても、AI関連の採用は米国、インド、オーストラリアで前年比17〜33%の急増*7を記録している。

思わぬ落とし穴 ー 問題は人材の質ではなくマネジメントである

今回の調査では、特に注目すべき発見が一つあった。アトラシアン社外では、若手テック人材がAIの利用を上司やチームメンバーに隠している割合が38%も高い(40% vs. 29%)。

隠しているのは、自分のやっていることがわからないからではない。学校での不正行為をめぐる議論、職場の空気、あいまいなルール——そうした経験を通じて、AIを使うことが「手抜き」と見なされかねないと学んできたからだ。

Teamwork Labの研究者であるSami Nesnidol(サミ・ネスニドル)はこう指摘する。「これは大きな機会損失です。AIの試行錯誤が個人の中に閉じてしまうと、チームとしての学びも改善もガバナンスも生まれません。新卒世代のAIリテラシーの本当の価値は、個人の成果だけにあるのではなく、彼らが見つけた使い方やツールの知見をチーム全体に共有できるところにあるんです。」

「AIの試行錯誤が表に出てこなければ、チームとしての学びも改善もガバナンスも生まれません。新卒世代のAIリテラシーの本当の価値は、個人の成果だけにあるのではなく、彼らが見つけたワークフローやツールの知見をチーム全体に共有できるところにあるのです。」

サミ・ネスニドル(Sami Nesnidol) アトラシアン Teamwork Lab リサーチャー

今すぐできること

  • AIの活用ルールを明確にする: AIの利用を推奨する場面、レビューが必要な場面、使用を控えるべき場面を定義する。
  • リーダー自らがAI活用の手本を示す: 自分自身のAI活用を積極的に見せ、プルリクエストやコードレビューでプロンプトを共有し、試行錯誤を当たり前の文化にする。
    • リーダーによるAIデモが活用促進につながる理由*8を参考にしよう。
  • AI世代の若手人材を戦略的に育てる: 新卒を単なる補充要員ではなく、戦略的な協働者として位置づける。インターンシップや産学連携プログラムを通じてAIスキルを持つ人材を発掘し、彼らの試行錯誤がチームに見える形で活かされる仕組みをつくる。

これらをすべて実行すれば、互いに高め合う好循環が生まれる。新卒世代が新しいツールやアプローチを発掘し、経験豊富な人材がドメイン知識と批判的な視点で補完する。この組み合わせによって、AIの活用は個人の取り組みではなく、組織全体で共有され、継続的に改善されていく実践へと変わるのだ。

結論:新卒人材に「逆張り投資」せよ

大学側の動きも急速に進んでいる。AIの学士課程を設けている米国の大学数は2025年に倍以上に増加し*9、カナダ、インド、オーストラリアでも同様の拡大が見られる。さらに、大学生の92%が何らかの形でAIを利用している*10と回答しており、1年前の66%から大きく伸びた。

次の世代の卒業生は、体系的なAIの経験を身につけた状態で社会に出てくる。そして、その中でも優秀な人材は、早くから投資してきた企業にすでに囲い込まれているだろう。

Teamwork Labの研究者であるエリカ・メスナー(Erica Messner)はこう語る。「問いは、新卒採用に投資するかどうかではありません。市場が冷え込み、優秀な人材に手が届く今やるのか、それとも採用コストが跳ね上がり、どの企業も人材を奪い合う状況になってからやるのか ── その違いです。」

データは明確だ。新卒世代は、AIを最も積極的に、最も粘り強く、最も実験的に使いこなす層である。AIを使うよう説得する必要はない。必要なのは、うまく使いこなすための支援だ。それは、今動き出せば十分に解決できる課題である。

調査方法: テック業界におけるAI活用の実態を調査するため、Teamwork LabはアトラシアンのAI Collaboration Index*3から得た外部アンケートデータを使用した。開発/IT業界全体の若手テック人材(21〜24歳)とそれ以外の個人貢献者(25歳以上)を比較し、AIに対する意識と利用状況を自己申告ベースで分析した。主な測定項目は、AIの利用頻度と活用の深さ、主な用途、期待どおりの回答が得られなかった際の継続利用の傾向、AI利用を周囲に隠す傾向、AIの効果に対する認識、および必要な労力である。

アトラシアン社内では、エンジニア新卒採用者とその他のエンジニア個人貢献者のAI利用データを比較分析した。社内アンケートの回答も補足データとして活用した。主な測定項目は、週あたりのAI利用状況、AIヘビーユーザーの割合、利用しているAIツールの種類といった実測データに加え、AIに対する意識と利用状況の自己申告データである。

さらに、アトラシアンの新卒社員10名を対象に、各40分の半構造化インタビューを実施し、AIがキャリア初期の経験、目標、価値観にどのような影響を与えているかを調査した。参加者の内訳は、ソフトウェアエンジニア8名、エンジニア以外の職種2名。地域別では北米5名、オーストラリア3名、インド2名。全員が2024年後半から2025年半ばにかけて大学を卒業しており、うち8名は入社前にアトラシアンでインターンを経験していた。