アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。Head of the Teamwork Labの Molly Sands(モリー・サンズ)が、AIワークショップを通じてチームの「AI への自信」と日常業務での実践スキルを高めるための具体的なポイントを解説する。
本稿の要約を10秒で
- AIに自信が持てるチームをつくるには、役割や業務に即した実践型のAIワークショップを設計することが出発点となる。
- ワークショップの役割分担を明確にし、レベルに合わせた段階的な演習とわかりやすいアジェンダを用意することで、メンバーのスキルと自信を底上げできる。遊び心あるアクティビティを組み込み、心理的ハードルを下げながら、チームで試行錯誤する文化を育てることが重要である。
- ワークショップの継続とふりかえりを通じて、学びが好循環する「AI ラーニング・ループ」をつくり、AIが日常業務に自然に溶け込んだチームを実現できる。
ローマは一日にして成らず、AIへの自信も一朝一夕では身につかない。
生成AIに関心はあっても、「どこから手をつければよいのか分からない」と感じている人は多い。新しいテクノロジーをいち早く試す人たちは、いわばアーリーアダプターとして積極的に飛び込んでいく一方で、不安や怖さから距離を置く人もいる。
多くの人はその中間にいて、少しは触ったことがあるが、日々の仕事に本格的に取り入れるところまでは踏み切れていない。
AIが業務プロセスやコラボレーションの基盤に組み込まれていく今、誰もが安心して同じ土台に立てるようにすることが、チーム全体の生産性と学習効果を高めるために欠かせないのである。
最近、アトラシアンのPeopleチームは社内で一連のAIワークショップを実施した。仮説はシンプルである。― 参加者はAIを使う自信を高め、自分たちの働き方を「どう変えられるか」を具体的に発見できるはずだ、というものだ。
- 参加者の22%が、「ページの作成やドラフトを始めるときにRovoを使う自信が高まった」と回答した。
- RovoのAIチャット機能の週次利用は24%増加した。
- 33%が「エージェントを使う自信が高まった」と回答した。
- そして98%の参加者が、「このワークショップを同僚に勧めたい」と答えた。
これはキャンペーン直後だけの一時的な利用増ではない。
継続的な実践型のAIワークショップは、日々の業務改善やイノベーションのきっかけとなり、結果としてメンバー自身が AI 活用を周囲に広げていく「社内アンバサダー」へと変わっていくのである。
なぜAIワークショップが「AIに強いチーム」をつくるのか
本質的なブレイクスルーは、チームが一緒に学び、試行錯誤するときに起こる。とりわけ、実際に手を動かす実践形式で、役割やタスクに即したワークショップを行うときである。
本当に「針を動かす(変化を生む)」のは、現場の仕事にきちんと結びついた、実践的でインタラクティブな学びである。今回のワークショップでも、参加者はそれぞれの職種・役割に紐づくリアルなユースケースを題材に、AIを実際に使ってみた。その結果として、AIへの自信と、日常業務での利用は大きく伸びた。
こうした実践のアプローチは、私たちが「AIラーニング・ループ」と呼んでいる好循環を生み出す。練習を通じて自信がつけばつくほど、人はさらに実験を重ね、学びを共有し、チーム全体での活用が広がっていく。
本当の意味で状況が変わるのは、「読み物としてのナレッジハブ」や一方向の座学研修の段階を超え、メンバー同士が学び合うアクティブで協働的な学習の場をつくれたときである。
チーム全員の学びを引き出すAIワークショップの進め方
AIワークショップの効果を検証するために、Teamwork Labは250人のPeopleチームメンバーを招き、「AI for the People Team」という実践の研修を実施した。
共通のゴールは、AIの「よく分からない感じ」をほぐし、日々の業務の中でどのように役立つのかを具体的に示しながら、メンバーのAI活用スキルと自信を底上げすることである。
参加者は「自分だけついていけないのでは」と不安になるのではなく、実際のAI活用シーンを目の前で見て、自分の手で試すことができた。
以下では、日本の組織でも応用しやすい形で、AIへの本当の自信を育てるワークショップのつくり方をいくつか紹介する。
AIチャンピオンを見つける
もしあなたが、小さな子ども向けタブレットの使い方を本気で習得したい親だとしたら、いちばんの「プロ」は案外その子ども自身かもしれない。年齢や肩書きとは関係なく、一番よく触っている人が一番よく知っているからである。
AIチャンピオンを見つけるときも、発想は同じでよい。
AIトレーニングワークショップの企画を始める際には、まずこの取り組みを後押しするスポンサー役としてリーダーを1 人決める。次に、その部門の中から「身近な相談役」となれるチャンピオンを少なくとも1 人選ぶ。チャンピオンは必ずしも最もシニアな人である必要はないし、むしろ日常的にツールを使っている現場メンバーのほうが適任であるケースも多い。
リーダーだけでなく同僚も巻き込みながらチャンピオンを推薦してもらうと、形だけの任命に終わらず、長期的にも高いエンゲージメントにつながりやすい。日本の組織文化でありがちな「担当者まかせ」ではなく、チーム全体で支える体制を意識したいところである。
学習ゴールを言語化し、アジェンダを作成する
メンバーごとにAIへの慣れ具合がばらばらな状況では、「どこから始めるか」を見極めることが成功の鍵となる。ワークショップの前に、まずチームとしてのゴールを明確にし、それに沿ったアジェンダをつくるべきである。
AI活用に関する学習ゴールの例としては、例えば次のようなものがある。
- 参加者が、自分たちが利用できる生成 AI/AIツールのラインナップを把握していること
- 参加者が、自分の業務に直結する具体的なAIの使い方(ユースケース)を理解していること
- 参加者が、承認済みのAIツールを使って生産性と成果を高めるための基本的な使い方を理解していること
ゴールさえ定まれば、「現実的で回しやすいアジェンダ」を設計すること自体はそれほど難しくない。難しいのは、特に「AIへの自信」を中心テーマに据える場合に、参加者一人ひとりの現在地にきちんと寄り添うことである。
どのメンバーも置き去りにせず、途中でつまずいても気兼ねなく質問できる心理的安全性の高い場をつくることが、AI研修を単なる座学ではなく、行動につながる学習体験に変えるポイントである。
アジェンダ例
- スポンサーまたはリーダーによるイントロダクション
- GoogleフォームやZoomのアンケートなどのシンプルなツールを使ったオープニングサーベイ(参加者の現時点での自信度や活用状況を把握する)
- 利用するAIツールについて、優先度の高いユースケースを 2〜3 個取り上げるウォークスルー(初級、中級、上級といったレベルをバランスよくカバーする)
- ゲーム性のあるインタラクティブなアクティビティ(実際に手を動かしてもらい、楽しみながら実践で練習する)
- Q&A前に実施するクロージングサーベイ(ワークショップを通じてAIツールに対する自信がどの程度変化したかを測る)
- Q&Aセッション
- スポンサーまたはリーダーによるクロージング(学びの振り返りと、今後のアクションの呼びかけ)
アジェンダのドラフトができたら、チャンピオンと共有してフィードバックをもらい、必要に応じて修正する。あわせて、ファシリテーターとも連携し、内容を十分に理解していて自信を持って進行できる状態を整えるべきである。本番直前にリハーサルを1 回挟んでおくと、当日のトラブルや時間超過を最小限に抑えられる。
「ゴルディロックス方式」でレベル別にAIを体験させる
迷ったときは、いわゆる「ゴルディロックス方式」を取り入れるとよい。ワークショップの設計において、AIの初級・中級・上級という3つのレベルのユースケースを一通り扱うようにするアプローチである。これにより、参加者は自分のレベルに合った AI 活用のイメージを持ちやすくなり、スキルの段階的な習得にもつながる。
初級演習
まずは、最も基本的なAIユースケースから始める。
例えばアトラシアンの場合、最初のユースケースとして「ConfluenceのAI機能を使って、短い段落の文章を読みやすく書き直す」といったものが適している。
ここでは「見せてから、やってもらう」という進め方をとる。最初にファシリテーターがタスクやワークフローのやり方をデモし、その後で参加者自身に同じことをやってもらう。ファシリテーターは会場内を回ったり、オンラインであればブレイクアウトルームを訪問したりして、質問に答えながら実践でサポートする。
日本の組織では、「まずはお手本を見てから自分でやってみる」形式は受け入れられやすく、OJTとも親和性が高い。このスタイルを AI 研修にもそのまま持ち込むイメージでよい。
中級演習
次に、同じ「見せてから、やってもらう」アプローチを、少しレベルの高いユースケースで実施する。アトラシアンユーザーであれば、Rovo SearchやRovo Chatを使って、まるで人に相談するように、文章を書いたり、読んだり、レビューしたり、新しいコンテンツを作成したりするユースケースが考えられる。
ここでも同様に、ファシリテーターが会場内やブレイクアウトルームを回りながら、質問への対応や実践のサポートを行う。この段階まで来ると、「単なる文章生成」から一歩進んで、情報探索やレビュー、要約など、知的生産プロセス全体をAIと一緒に回す感覚をつかめるようになる。
上級演習
最後に、さらに高度なユースケースでも同じ進め方を行う。
アトラシアンユーザーであれば、自分たちの業務に特化したRovo Agentを活用するケースが該当する。標準で用意されているエージェントに加え、チーム内の誰かが構築したカスタムエージェントを使うこともできる。
カスタムエージェントは、AI チームメイト*1で紹介されているように、特定のワークフローやナレッジに最適化された「AIの同僚」である。たとえば、問い合わせ対応の一次回答を自動化するエージェントや、社内ドキュメントから必要な情報を引き出してくれるエージェントなどが考えられる。
この演習でも、ファシリテーターが会場やブレイクアウトルームを回りながら質問に答え、より踏み込んだガイダンスと実践の支援を提供する。参加者は、「汎用チャットボット」としてのAIを超えて、自分たちのチームに特化したAIパートナーを持つイメージを実感できるようになる。
「遊び」の余白をあえてつくる
少しの「遊びの時間」がなければ、ワークショップとは呼べないかもしれない。インタラクティブなアクティビティやゲーム要素を取り入れることは、参加者の集中を保つだけでなく、新しいスキルを肩の力を抜いて練習するうえでも有効である。日本の研修でも、演習やゲームが入ると一気に場が温まり、発言が増えることはよく知られている。
AIを試しながら、チームを「プレイモード」に切り替えるためのアイデアをいくつか挙げる。自社の文化やチーム規模に合わせてアレンジしてよい。
- AIスカベンジャーハント
参加者に、AIツールを使って達成すべきタスクのリストを配布する(例:「Rovo Search を使って〇〇の答えを見つける」「ある段落を別のトーンに書き換える」など)。すべてのタスクを最初に達成したチームや個人には、ノベルティやちょっとしたギフトカードなどの賞品を用意すると盛り上がる。 - プロンプト対決
グループをいくつかのチームに分け、それぞれにお題を出す(例:「キャッチーな社内告知文を作る」「複雑な資料を要約する」など)。各チームはベストだと思うプロンプトを考え、生成された結果をみんなの前で共有する。どのような指示の出し方が良い結果につながったのかを比較すると、プロンプト設計力の学びになる。 - AI vs. 人間
会議メモの要約、チェックリスト作成、メールの下書き作成など、シンプルなタスクを1つ選ぶ。
一人には手作業で行ってもらい、もう一人にはAIツールを使ってもらう。そのうえで、「どちらがどの点で優れていたか」「どこまでをAIに任せ、どこからを人間が判断すべきか」を議論する。AI活用の「線引き」を考えるよい機会になる。 - プロンプト即興劇
まずは「この記事を要約してほしい」といった基本的なプロンプトから始める。
各ラウンドで「ユーモアを入れて」「箇条書きだけで」「経営層向けに」などの条件を追加していき、AIがどのように出力を変えるかを観察する。プロンプトを少し変えるだけで結果が大きく変わることを体感し、言葉の選び方の重要性を学べる。 - 「AI を困らせろ」チャレンジ
参加者に、AIにとって一番難しそうな質問やタスクを考えてもらう。
実際に試してみて、AIがうまく対応できた点と、苦戦した点を一緒に振り返る。AIの限界や注意点を知ることで、「万能ではないが、うまく付き合えば強力な味方になる」という現実的な理解が進む。
AIに自信を持てるチームづくりは、ここから始まる
実践のAIワークショップが、自分たちのチームにもたらす変化を試してみたいと思うだろうか。であれば、まずは小さく始めて、自信を積み上げていけばよい。
いくつか実践的なユースケースを選び、チームメンバーを招いて一緒に実験してみる。全員が同じ前提と期待値で参加できるように、チームの「働き方のルール」を明文化する 作業合意*2をあらかじめ決めておくことも有効である。
もしかすると、思いがけない「AI自信ギャップ」を自分たちのワークショップで埋められるかもしれない。ワークショップ設計の詳細なステップやテンプレートについては、AIトレーニングワークショップ*3を参照してほしい。
メンバー一人ひとりの現在地に合わせて寄り添うことは、「怖れずに学ぶ」ための扉を開くもっとも有効なアプローチのひとつである。実践ワークショップは、信頼関係を築き、好奇心を刺激し、AIをどのように使っていくかについての共通認識をチームで整える助けとなる。
新しい生成 AIツールやRovoのようなAIプラットフォームを導入するのであれば、実践的なトレーニングに投資し、試行錯誤を歓迎するカルチャーを育てていくことが重要である。それこそが、AIを「一部の得意な人のもの」ではなく、「チーム全体の生産性と学びを支えるインフラ」に変えていく近道である。
出典・参考文書
*1: AIチームメイト
*2: 作業合意
*3: AIトレーニングワークショップ