アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのサラ・ゴフ=デュポン(Sarah Goff-Dupont)が、日々のドキュメント作成と情報管理の現場で今すぐ実践できる具体的なポイントを紹介する。
本稿の要約を10秒で
- ナレッジは「あるかどうか」ではなく、人とAIの双方が必要なときに見つけられるかどうかで価値が決まる。
- タイトルや見出し、本文構成、権限設定、altテキストやキャプションなどを工夫し、ドキュメントとシステムの両方を「見つけやすさ」前提で設計することが重要である。
- 動画・画像・テキストを適材適所で組み合わせつつ、AIが読み取れない要素(図解・画像内テキストなど)は、テキストとして補完することで検索性とアクセシビリティを高められる。
- 情報とAI技術の両方はすぐに古くなるため、定期的な見直し・更新と、AIの最新機能のキャッチアップを続けることが、コラボレーションと意思決定の質を底上げする。
情報の価値は「アクセスしやすさ」で決まる
超高速なコンピューターやAIツールが身近になった今でも、情報が必要な人の手元に届くかどうかは、私たちがどのように記録し、整理し、公開するかにかかっている。
情報をオープンに共有することは、チーム全員が仕事を進めやすくするための土台になる。たとえば、プロジェクト計画書やふりかえり(レトロスペクティブ)の記録を社内に公開しておけば、他のチームが一から同じことを考え直す「車輪の再発明」を防げるし、ゴールやKPIへの認識をそろえる*1こともぐっと簡単になる。意思決定の理由や、検討したものの採用しなかった選択肢をきちんとドキュメント化しておけば、「なぜこの方向に進むのか」「自分たちの仕事が全体戦略のどこに位置づけられているのか」を、チーム全員が理解しやすくなる。
情報共有には大きく2つのタイプがある。1つは、特定のメンバーに対して、いま一緒に進めている仕事に関連するリンクやドキュメント、動画などを「積極的に届ける」共有のしかたである。もう1つは、情報を社内のナレッジ基盤や業務システムの中に蓄積しておき、必要になった人が必要なタイミングで「自分で探しにいける」形での共有である。
こうして蓄積されたナレッジは、単なる社内アーカイブではない。チームの自律性を高め、仕事のスピードとクオリティを押し上げる「燃料」そのものである。ただし、そのナレッジは、私たちが「どれだけアクセスしやすい形で整理できているか」によって価値が大きく変わる。特に後者の「受動的な情報共有」を機能させるためには、必要な情報をすぐに探し出せるよう、検索性や構造化を意識して保存しておくことが不可欠である。
これまで私たちは、文書にわかりやすいタイトルをつけておき、利用者がリポジトリ内を検索したり、ネットワークフォルダをブラウズしたりすることで、必要な情報を見つけられるようにしてきた。しかしいまでは、特に膨大なデータを複数のシステムに抱える大企業を中心に、AIを活用した検索が急速に広がりつつある。
複数のシステムやアプリを横断して検索できる「グローバル検索」は、情報探索性を大きく前進させるものである。一方で注意すべき点もある。AIツールは依然として非構造化データの扱いを苦手としており、画像から情報を正確かつ一貫して読み取る段階にはまだ至っていない。
だからこそ、仕事の情報の見せ方と整理のしかたをアップデートする必要がある。人間にとってもAIにとっても、アクセスしやすく理解しやすい形に整えるべきタイミングが来ているのだ。以下では、そのための「ナレッジ探索性を高める5つの新しい原則」を紹介する。
押さえておきたい大原則:情報を抱え込まないこと
ナレッジを、メールの受信箱やチャットのDM、ローカルPCにだけ保存したドキュメントといった「他人から見えない場所」に閉じ込めておいてはいけない。そうした「個人の引き出し」にしまわれた情報は、事実上、その持ち主以外の世界からは消えてしまうに等しい。AIから見ても同じである。AIが「見えない」情報は、検索結果として提示することもできないため、どうしても不正確で、抜け漏れのあるナレッジ検索になってしまう。
その代わりに、ConfluenceやSharePoint、共有ネットワークドライブ、社内ナレッジベースといった、チームで利用できる情報共有ツールを活用すべきである。また、DM やクローズドなチャンネルだけで議論して終わらせず、有益なやり取りや結論は、あとからチームメンバーがアクセスできる共有スペースに必ず移し替えるようにすることが重要である。そうすることで、いまその会話に参加していない同僚や、将来同じ課題に直面する誰かにとっても、価値あるナレッジとして再利用できるようになる。
ナレッジ探索性を高める5つの新しい原則
1. 見つけやすさをデザインする
情報の「構造」はきわめて重要である。人間にとって理解しやすいようにフォーマットされた情報は、そのままAIにとっても扱いやすく、理解しやすいデータになる。
たとえば、誰も「文字のかたまりのようなドキュメント」は好まない。AIも同様で、長大な文章がだらだらと続くテキストを処理すると、文脈を追い切れず、検索した人の意図とズレた結果を返してしまうことがある。そこで役に立つのが、セクションごとの見出しである。見出しを適切に配置するだけで、AI(と人間の両方)が、個々の段落だけでなく全体像や論理構造をつかみやすくなる。
リスト(箇条書き)も有効である。第一に、人間の目にとって読みやすく、情報のまとまりが一目で把握できる。第二に、箇条書きにすると、書き手は自然と簡潔かつ正確に表現しようとする。その結果として、AIが効率よくスキャンしやすい、情報密度の高いナレッジの塊が生まれる。
さらに、タグやラベルを活用して、関連するドキュメント同士を紐づけ、「どのようなテーマでつながっているか」を示すことも重要である。たとえば「顧客ロイヤルティ向上施策」「従業員向け福利厚生」といったラベルで整理しておけば、人間にとってもAIにとっても、関連情報をたどりやすい情報アーキテクチャを構築できる。
2. 量より「伝わること」を優先する
情報過多の時代においては、1つのドキュメントや記録の中に「何を」「どこまで」含めるかを慎重に設計することが重要である。まず、その情報は誰に向けたものなのか、そして受け手はどのような状況・文脈でそれにアクセスするのかを考えるべきだ。
読み手や利用シーンを想定して的確に絞り込まれた「栄養価の高いドキュメント」のほうが、枝葉末節に踏み込みすぎたり、話題があちこちに脱線したりする「だらだら長い資料」よりも、はるかに価値が高い。
また、タイトルやセクション見出しも、簡潔さだけでなく「文脈の豊かさ」を意識して明確に書く必要がある。たとえば、「Q3レポート」よりも「2025年度第3四半期 売上パフォーマンスレポート」といった具体的なタイトルのほうが、人間にとってもAIにとっても内容を正しく判断しやすく、検索性やナレッジ活用の精度を大きく高めてくれる。
実践的なヒント
Confluenceユーザーであれば、Expandマクロを積極的に活用したい。詳細まで知りたい人もいれば、要点だけ把握できれば十分という人もいる――そんなケースに特に有効な手法である。
UXの世界では、これは「プログレッシブ・ディスクロージャ(段階的な情報開示)」と呼ばれる。まずは概要だけを見せ、必要な人だけがセクションを展開して詳細を確認できるようにすることで、人間にとっては情報過多を防ぎつつ、ドキュメントとしてはすべての情報がちゃんとページ内に存在する状態を保てる。その結果、人間の読みやすさと、AIによる全文解析・検索性の両方を両立できるのである。
文章を書くときは、できるだけストレートに、わかりやすい言葉でテーマに向き合うべきである。とはいえ、これは「書くことにあまり自信がない人」にとって意外なほど難しい。自信のなさを隠そうとして、つい話が回りくどくなったり、実態以上に「それっぽく」見せるための難解な表現を使ってしまいがちだからだ。もし心当たりがあるなら安心してほしい。AIツールを使えば、草稿をもっと簡潔に整えたり、そもそものたたき台となるドラフトを生成してもらって、それを自分でブラッシュアップしていくといった書き方もできる。
だからといって、比喩表現やスラング、文化的な言い回し、ユーモアのような「読みやすさ・親しみやすさ」を高める要素を避けるべきだ、という意味ではない。むしろふさわしい場面では、会話に近い自然な言葉づかいのほうが望ましい。私たちの脳は日常会話に最適化されているし、大規模言語モデルが学習しているデータの多くも、カジュアルな文体で書かれたテキストだからである。そのほうがAIにとっても扱いやすい。
そもそも、人は「チーム間のシナジーを最大化する方法」などとは検索しない。他のチームが似たようなプロジェクトを進めていないか、をシンプルな言葉で尋ねるだけである。だからこそ、いわゆる社内用語やビジネスの専門用語を盛り込みすぎた「企業っぽい言葉づかい」はほどほどにしておくべきだろう。ビジネス用語を使いすぎないほうがよい理由*2は、そこにもある。
3. 「原則オープン」をめざす
ナレッジは、必要としている人が、必要としているタイミングでアクセスできてはじめて価値を持つ。社内文化としてあらゆる情報を「まずはロックする」ことが前提になっている企業では、情報を探しやすくするには、そもそもの情報の持ち方・しまい方を根本から見直す必要がある。
「原則クローズ」で、ドキュメントを開示したい側がいちいち理由を説明して権限を広げていくやり方ではなく、「原則オープン」に切り替え、どうしても必要なものだけを個別にクローズにする──という設計にすべきである。もちろん、人事情報や機密性の高い財務データ、発表前のプレスリリースといった情報は、多くの人から見えないようにしておく必要がある。それはそれでよい。
しかし、たとえばプロジェクト計画書のようなドキュメントは、基本的には誰でも閲覧できる状態にしておくべきであり、むしろ最終版になる前の段階からオープンにしておいたほうがよい。そうすることで、他チームからのフィードバックや協力の機会が生まれ、組織全体としてのナレッジ共有とコラボレーションの質が高まっていく。
実践的なヒント
誰しも職場では「きちんと仕上がったアウトプット」だけを見せたくなるものだが、それは「作業中の成果物をすべて隠すべきだ」という意味ではない。ドキュメントの冒頭に「ドラフト」「WIP(作業中)」といった断り書きを明記したうえで、ロックせずに公開しておけばよいのである。
こうしておけば、自分のプロフェッショナルとしての評価は守りつつ、同時にその情報をチームメンバーやAI検索が活用できる状態にしておくことができる。つまり、「未完成だから見せない」のではなく、「未完成であることを明示したうえで共有する」というスタンスが、ナレッジ共有の観点からは望ましいのである。
個々のドキュメントだけでなく、「原則オープン」を徹底するには、業務データを蓄積しているシステムそのものを見直し、最適化する必要がある。いわゆるシステム・オブ・レコード(正式な記録を保存する基幹システム)は、可能なかぎり、そこに含まれる情報の恩恵を受け得る人とAIツールに開いておくべきである。もしユーザーライセンスのコストがネックになっているなら、頻繁には利用しない人向けに、無料もしくは低価格の「閲覧専用」ライセンスが用意できないかを検討し、ライセンスモデルの都合だけでアクセスが不必要に妨げられないようにしたい。
また、ナレッジはシステム間を流通できなくなった瞬間に、その価値が大きく下がってしまう。社内に Jira Cloudのサブスクリプションがバラバラに5つも存在しているような状態であれば、1つのインスタンスに統合できないかを検討すべきである。さらに、利用しているアプリやサービス同士は、可能な限り連携・統合し、情報がシームレスに行き来できる状態を整えることが重要である。
4. マルチメディアを賢く使う
動画による情報共有は、「文章を書くのが苦手な人」にとっても、「耳からのインプットのほうが頭に入りやすい人」にとっても、大きな助けになる。Loomのようなツールで作成したビデオメッセージは、部門からのアップデート、チュートリアル、その他の一方向の情報共有に非常に向いている。メールと同じ情報を受け取りながら、話し手のボディランゲージや表情といった豊かな文脈情報もあわせて得られるからである。さらに、視聴者側は再生速度を2倍などに上げて時間を節約することもできる。Loom のようなプラットフォームは、あとからAIが検索できる文字起こしも自動生成してくれる。
一方で、画像には注意すべき点もある。ダイアグラム、フローチャート、写真、イラストは、人間に対して概念的・文脈的な情報を伝えるうえで非常に優れた手段である。しかし、AI技術は進歩を続けているとはいえ、フローチャートやダイアグラムを正確に読み解くことはいまだに得意ではない。大規模言語モデルの上にOCR(文字認識)技術を組み合わせたとしても、この点は変わらない。また、画像の中に埋め込まれたテキスト(たとえばミーム画像のキャプションなど)を抽出する精度も安定しておらず、信頼がおけない。そしてここでも、「AIは、見えないものは取り出せない」という原則が当てはまる。
では、ダイアグラムはもう意味がないのかといえば、そうではない。ただし、ダイアグラムやその他の画像には、AIがアクセスできる形で、内容を明確かつ説明的に表現したキャプション(説明文)を必ず付けるべきだ、ということである。
さらに、画像に対して代替テキスト(altテキスト)を追加できるのであれば、なおよい。これは、Confluence、PowerPoint、Google ドキュメントなどでも設定できる。altテキストは、スクリーンリーダーソフトウェアが参照する情報源でもあり、視覚に障害のある人々にとって画像を理解するうえで欠かせない役割を果たしている。
どのような altテキストを書くべきかは画像の種類によって異なるが、たとえば次のような内容を含めるとよい。
- グラフィック要素の多いスライドであれば、そのスライド上に書かれている正確な文言
- イラストであれば、そのイラストが何を描いているかの説明
- ダイアグラムであれば、その図が何を説明しているのかの要約
- フローチャートであれば、その目的と、全体としてどのような流れを表しているのかの説明
あわせて重要なのは、検索の際に人々が実際に使いそうなキーワードを、altテキストの中にきちんと含めておくことである。そうすることで、この情報は人間にとってもAIにとっても、見つけやすく・理解しやすいナレッジとなる。
5. ナレッジを常に最新の状態に保つ
古い情報は、人間にとってもAIにとっても混乱のもとになる。そのため、定期的に内容を見直して更新するサイクルが重要である。理想的には、チームとして「情報の手入れをする文化」を育てるべきだ。たとえば、四半期ごとに時間をとってアーカイブを見直し、もはや現状に合わなくなっている、あるいは関連性が低くなっているコンテンツを洗い出すやり方が考えられる。あるいは、メンバーが日々の業務の中で古い情報を見つけたときに、その都度フラグを立てていく、というようなアドホックな運用でもよい。
あわせて、「AIに何ができて、何がまだ苦手なのか」という自分たちの理解もアップデートしておく価値がある。検索技術は日々進化しているため、AIベンダーから届くプロダクトアップデートのお知らせを、読まずに削除してしまうのはもったいない。
オープンでスムーズに流れる情報は、コラボレーションを促進し、同じ質問や問い合わせの重複を減らし、意思決定に必要なナレッジがきちんと届く状態をつくり出す。「原則オープン」という考え方を受け入れつつ、情報そのものと、それを格納しているシステムの両方を、機密保持の必要性に配慮しながらも、できるだけ幅広くアクセス可能にしていくことで、組織に蓄積された集合知を最大限に活用し、チームの力をさらに引き出すことができるのである。