アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのジェネビーブ・マイケルズ(Genevieve Michaels)が、書籍『Manage Yourself toLead Others(他者をリードするために自分をマネージしよう)』の著者であるマーガレット・アンドルーズ(Margaret Andrews)氏
の話を交えながら、組織・チームのリーダーが自己理解のスキルを身につけることの大切さについて説く。
本稿の要約を10秒で
- 「自己理解」は、自分の「感情の動き」「影響を受けたソース」「コアの価値観」「自分に対する他者の認識」の4点について分析・把握するスキルである。
- 自己理解のスキルは組織・チームのリーダーが成功を収めるために不可欠な能力である。
- 自己理解を深めることには、すべてのタイプのリーダーのマネジメントスキルを高める効果がある。
「自己理解」とは何か
マーガレット・アンドルーズ(Margaret Andrews)氏は、フォーチュン 500 社においてリーダーをコーチングし、米国ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学で教鞭をとった経験を持つ。そんな同氏の経験にもとづいた著書『Manage Yourself to Lead Others』では、企業・組織のマネージャーが、自己理解を深めるのに役立つ情報が豊富に記されている。
アンドルーズ氏によると、自己理解のスキルは、他者を効果的にマネージするうえで非常に有効であるという。逆に、組織・チームのリーダーが自己理解のスキルを持たないでいると、のちのキャリアに負の影響を及ぼす可能性が高いとしている。
では、自己理解とはそもそも何を意味しているのか。
アンドルーズ氏は「Manage Yourself to Lead Others」の中で、自己理解を自分の「①感情の動き」「②影響を受けたソース」「③コアの価値観」「④自分に対する他者の認識」の4点について分析・把握するためのスキルであると説明している。
①感情の動き:あなたは、日常生活のなかで自分の感情の動きをどの程度認識しているだろうか。また、自分の感情は、あなたの選択や行動にどんな影響を及ぼしているだろうか。それを明確にすることは最も基礎的な自己理解である。
②影響を受けた(あるいは、受ける)ソース:例えば、あなたの成長を促した(あるいは妨げた)人物や思想、出来事は何だろうか。また、その影響は現在の考え方や行動にどうつながっているだろうか。それを理解することは自己認識を深めることにつながる。
③コアの価値観:コアの価値観とは、あなたが人生で最も達成したいこと、大事にしていることを指している。この点を尋ねられたとき、大抵の人は「友人」や「家族」といった常識的な答えを返そうとする。ただ、アンドルーズ氏は「自分のコアの価値観が何かを見出すうえでは、常識的な考え方や答えにとらわれず、時間をかけて深く掘り下げていくべきです」とアドバイスしている。
④自分に対する他者の認識:これは要するに「自分が他者からどう見られているか」を知ることである。この点に関する理解がないと、自分の言動が自分の意図したとおりに周囲に伝わっているかどうかがからなくなる。結果として、自分の言動が他者から誤解されていると感じることが多くなるのである。
ビジネスパーソンは、誰もが特定業務のプロフェッショナルである。それゆえに、自分の仕事と仕事以外の部分を切り離そうとしがちだ。ただし、組織・チームを率いるリーダーが「ありのままの自分と仕事上のリーダーシップのあり方を一致させること」*1によって、すばらしい成果が上げられるようになる。それに向けた第一歩が、自己理解を深めることなのである。
自己理解はマネジメントにどう役立つのか
「他者をマネージすること」と「自己理解」は、一見すると関係性の薄い事柄に思える。ただし、「共感力」*2や「洞察力」があり、「複雑な状況」*3を読み解いて、意思決定時に相反する要素を秤(てんびん)にかけられる優れたリーダーは、総じて自己の探求に積極的だ。
というのも、自己理解は他者との良好な関係を築くスキルの一部だからだ。この点について、アンドルーズ氏は「自分自身と自分の感情を理解できなければ、他者の感情を理解することはできません」と指摘している。
自己理解はリーダーとしての成長にも不可欠なスキルだ。実際、自分がどんなリーダーであるかを把握できていなければ、より優れたリーダーにはなりえない。
アンドルーズ氏は「自己理解への取り組みがあって、初めて『いまの自分は果たして理想の自分なのか』『自分が理想とするリーダーになるために変えるべき点はあるか』と自問するようになります」と指摘する。
こうした自問への答えを出すことで、さらなる成長に向けた道筋を明確に描くことが可能になる。
リーダーの成功に自己理解が必須である理由
自己理解はあらゆる職務において重要だが、他者を率いる立場の人間にとっては特に重要なスキルである。実際、アンドルーズ氏の経験によるとリーダーとしての挫折は、自己理解の欠如に起因していることが多いという。
例えば「知性」や「技術力」「仕事上の強い倫理感」は、リーダーに昇格するうえでは有効な資質・能力といえる。ただし、それだけでリーダーとして成功できるわけではない。優れたリーダーになるためには、知性、技術力、倫理観といった要素に加えて、深い自己理解のもとで磨かれた対人スキルが不可欠となる。
アンドルーズ氏は「私のワークショップでは、参加者に『これまでで最高の上司』を説明してもらっていますが、その中で聞かれる言葉の約85%が『対人スキル』に分類されるワードです」と明かしている。
だからこそ、有能な社員であってもリーダーとして失敗することが多い。
この点に関して、アンドルーズ氏は「リーダーとして失敗する人は、他者をマネージすることが、現場仕事をこなすこととはまったく異なる、自分にとって未知のスキルであることに気づいていません。ゆえに、有能な人でも部下のマネジメントの難しさに圧倒されてしまうことが多いのです」と述べる。
人をマネジメントするスキルは、日々の暮らしや仕事の中で自然と身につけたり、向上させたりできるものではない。ゆえに、スキルの獲得には特別な取り組みが必要とされるが、スキルを身につけ、向上させる手段はさまざまにあり、自己理解はその有効な手段の1つなのである。
あらゆるタイプのリーダーが自己理解からメリットを得られる
リーダーの中には、他者への共感や思いやりをマネジメントの軸にする感情重視型の人もいれば、威厳ある決断型リーダーを目指している人もいる。ただし、アンドルーズ氏によれば、優れたリーダーは、威厳をもって周囲をリードできる資質と、繊細なきづかいを通じて周囲のモチベーションを引き上げる資質の両方を備えているという。
これを言い換えれば、リーダーは、特定のリーダーシップスタイルを土台としながらも、臨機応変にスタイルを変えられる「適応力」*4が求められる。その適応力を身につけるうえで、人の感情や状況をより明確に読み取る助けとなる自己理解は有効であり、場面ごとに周囲をどうリードすべきかを決める際の指針ともなる。
アンドルーズ氏は「思いやり型や指令型など、採用する基本のリーダーシップスタイルがどうあれ、その基本スタイルをとるのが適切でない場面は必ず訪れます。実際、普段は決断力の強さ発揮しているリーダーでも、状況によって別のリーダーシップスタイルに切り替えざるをえなくなることがあるのです」と指摘する。
いずれにせよ、自己理解はリーダーシップスタイルを特定の何かに切り替えるためのものではない。それは、すべてのリーダーシップのレベルを高めるスキルセットなのである。
ワークシート:自己理解のための6つの質問
アンドルーズ氏は、自己理解を促進する以下の6つの質問から成るワークシート*5をPDF形式で公開している。
①Who, and whose thinking, has shaped you as an individual?(あなたを形づくったのは誰であり、誰の考えなのか?)
②What situations and events have helped shape your perspective?(あなたの視点を形づくるうえで、どのような状況や出来事が役に立ったか?)
③What does success look like for you?(あなたにとって成功とは何か?)
④What are your core values and how have these values changed throughout your life?(あなたのコアの価値観は何か? コアの価値観は人生を通じてどのように変化してきたか?)
⑤To what extent are you aware of – and feel – your emotions?(あなたは自分の感情をどの程度自覚し、感じ取っているか?)
⑥What feedback have you received over the years about how your actions and behaviors impact others?(過去数年来、あなたの言動が他者に与えた影響について、どのようなフィードバックを受けてきたか?)
これらの質問の詳細については、ぜひワークシートを入手(ダウンロード)して確認いただきたいが、シートの有効活用に向けたヒントは示しておきたい。
- 質問に答えるのに少なくとも30分はかける。短く形式的な回答では、成長に必要な洞察は得られない。
- 回答内容に対する自らの批判は避け、事実をありのままに自由に書きとめるようにする。
- 自分の回答を保存し、数日後、あるいは数カ月後に内容を見なおす計画を立てる。これは、時間の経過とともに、自分に対する洞察がどのように変化するか、あるいは変わらないかを追跡するための取り組みである。
最後にもう1つ述べておきたいことがある。
それは、自己理解のためのスキルの習得は簡単ではないということだ。
アンドルーズ氏は「過去に相応の成果を上げきた人にとって、スキルの習得ですぐに思うような成果を上げられないのは不快なことでしょう。しかし、自己理解スキルの獲得においては、間違いを犯し、恥ずかしい瞬間を経験することさえも、成長のきっかになるのです」と述べている。
出典・参考文書
*1: How to embrace the human side of leadership
*2: きっとあなたにもできる!チームのリーダーとメンバーを幸せにする思いやりのリーダーシップ「コンパッショネイト・リーダーシップ」とは? ── 海の向こうからオピニオン その120
*3: Adaptive leadership: principles and a framework for the future
*4: Lead how they need: adopting a situational leadership style
*5: SIX QUESTIONS FOR SELF-UNDERSTANDING
*6: Linkedin:Margaret C. Andrews
*7: Margaret Andrews ウェブサイト