アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのジェネヴィーヴ・マイケルズ(Genevieve Michaels)が、マーク・C・クロウリー(Mark C. Crowley)氏の考えや著書をもとに、変化や不確実性に前向きに向き合う姿勢が職場の安心感やチームの成長につながることを紹介する。
本稿の要約を10秒で
- 変化や不確実性に直面したときこそ、恐れずに好奇心を持って向き合うことが、チームや自分自身の成長につながる。
- マネージャーやリーダーは、分からないことを認めて質問し、他者の意見を柔軟に取り入れることで、信頼関係や生産性を高められる。
- 不安やストレスを感じる場面でも、感情をコントロールし、柔軟な姿勢で対応することが、職場の安心感やパフォーマンス向上につながる。
- 完璧を目指すよりも、失敗や未知を受け入れて学び続ける姿勢が、組織全体の健やかな成長を後押しする。
誰しも、不安や自信のなさを感じる状況は避けたいものだ。特に、自分が誰かの上司やリーダーであれば、その重圧はなおさらである。しかし、著者のマーク・C・クロウリーは、「未知のもの」を恐れる必要はないと語る。むしろ、自分自身を見つめ直し、物事の本質に目を向けることで、より良いマネージャーへと成長するチャンスになるという。
彼の新著『The Power of Employee Well-Being』では、従業員エンゲージメントといった抽象的な指標よりも、「チームがどのように感じているか」に注目することこそが、生産性向上への最も直接的で効果的な方法だと説いている。
「マネージャーの影響によって、従業員の気持ちの70%が左右される」とクロウリーは指摘する。その責任の重さに、時には圧倒されることもあるだろう。なぜなら、マネージャーのあらゆる言動が、チームに大きな影響を与えるからだ。しかし、「未知」に対して少しずつ慣れ、好奇心を持って向き合うことが、最初の一歩となる。
不確実な状況は、どんな職場でも避けて通れない。そうした場面を乗り越える力を身につけることで、マネージャー自身だけでなく、チーム全体のストレスも軽減できる。本記事では、キャリアのどの段階にいる人でも役立つ、クロウリーの実践的なアドバイスを紹介する。
リーダーに不可欠な「好奇心」というスキル
マネジメントのキャリアを始めたばかりの人ほど、「すべての答えを持っていなければならない」と感じがちだ。しかし実際には、積極的に質問を重ねる人のほうが、周囲からより大きな信頼と尊敬を集めることが多い。
リーダーとして他者を率いるとき、「知識が豊富で頼れる存在」と思われたいのは自然なことだ。しかし、何でも知っているふりをする姿勢は、かえって自分自身やチームの成長を妨げてしまう。優れたリーダーは、すべてを知っているわけではないし、知っているふりをすることもない。その代わりに、さまざまな視点や意見を積極的に取り入れ、チームの進むべき道を柔軟に考えていく。
「好奇心を持つリーダー」であるためには、常に探究心を持って物事に向き合うことが大切だ。最初から明確な答えや立場を決めつけるのではなく、できるだけ多くのオープンな質問を投げかけてみよう。自分自身の思い込みを疑い、より深い理解を目指す姿勢こそが、リーダーとしての成長につながるのである。
- あなたがマネジメントするメンバーは、それぞれ豊かな知識や経験を持っている。その力を、好奇心を持ってどう引き出せるだろうか。
- チームの外にも目を向け、好奇心を原動力にどのように外部の情報や知見を探しにいけるだろうか。
好奇心を持ったマネジメントスタイルは、より良い意思決定につながる。自分の理解の範囲を超えて積極的に知識を集めることで、より多角的で十分な情報をもとに判断できるようになるからだ。また、その姿勢はチーム全体にも良い影響を与える。すべての答えを持っていなくてもいいのだと示すことで、チームに「好奇心を持つ文化」が根づき、全員のパフォーマンス向上につながる。
さらに、好奇心はメンバー一人ひとりを深く知ることにも役立つ。これは、メンバーのウェルビーイングを支え、思いやりのあるリーダーシップを発揮するうえで非常に重要な要素である*1。
「仕事以外で何がその人にとって大切なのかを知ることが必要だ」とクロウリーは語る。「たとえば、最近子どもが生まれたのか、大学院に通っているのか――そうしたことを理解することが大切だ。」
「わからない」を受け入れる力
現代のビジネス環境では、「確かなもの」はほとんど存在しない。新しいテクノロジーから世界経済まで、あらゆるものが目まぐるしく変化している。日々、さまざまな予測が飛び交い、中には非常に大きなインパクトを持つものもある。
たとえば、「気候変動やAIが自分たちの業界に脅威をもたらす」といった話を耳にすることがあるかもしれない。しかし、1週間も経たないうちに「そのリスクは過大評価されている」とする別の調査結果が発表されることもある。こうした不確実性の中でリーダーシップを発揮するには、「わからないこと」に慣れることが不可欠だ。
「予測不能な状況で感情が大きく揺さぶられると、その様子は必ずメンバーに伝わってしまう」とクロウリーは語る。「それがストレスの連鎖を生み、生産性を下げ、最終的にはリーダーとしての信頼も損なわれてしまう。」
大切なのは、プレッシャーの中でも優雅さや冷静さを保つことだ。そのためには、自分自身の感情をコントロールすることが求められる*2。そうすることで、ストレスや不確実性に直面しても、落ち着いて対応できるようになる。「人生は自然に展開していくものだ」とクロウリーは言う。「多くの出来事は劇的なものではなく、少しずつ、段階的に解決していくものなのだ。」
プレッシャーの中でこそ活きる好奇心
「最も成果を上げられないマネージャーは、すべての結果を自分でコントロールできると信じている」とクロウリーは語る。好奇心や「未知に慣れる力」に共通するのは、「仕事で直面する多くのことは自分の手の届かないところにある」と受け入れる姿勢である。
これは「諦める」ことではなく、現実を受け入れることだ。予想外の出来事は必ず起こるものだと理解し、好奇心を持って不確実性を恐れずに向き合うことで、より現実的かつ柔軟に対応できるようになる。
この柔軟性こそが、強いリーダーになるために欠かせない資質であり、決してリーダーシップと矛盾するものではない。たとえば、好奇心旺盛なマネージャーであっても、自信と決断力は必要だ。曖昧な状況を探求し、チームの意見を聞いたうえで、最終的な判断を下すのはリーダー自身である。
「予期せぬ事態や不明瞭な状況に直面したとき、好奇心と自信を持ったマネージャーは、柔軟に適応し、何が本当に起きているのかを探り、新たな知見に基づいて再び行動を選択できる」とクロウリーは言う。「もしあなたがそれを実践できれば、部下にも柔軟な方向転換を促し、より効果的にチームを導くことができるはずだ。」
不確実な時代に好奇心を磨く方法
自分が知らないことを素直に認める習慣を持つ
「何かを知らないとき、人は無防備に感じるものだ」とクロウリーは語る。「しかし、好奇心を持つ姿勢があなたのマネジメントスタイルの一部として認識されるようになれば、それはむしろ強みになる。」
常に「自分には伸びしろがある」と考える
「人は運転やマネジメントなど、ほとんどのことについて自分の能力を平均以上だと考えがちだ」とマークは指摘する。「でも、最初からそう思い込んでしまうと、成長のチャンスを逃してしまう。」
より深く掘り下げる質問を意識的にする
「誰かが『来週はうまくいきそうです』と言ったとき、そのまま受け入れるのではなく、さらに具体的な質問をしてみてほしい」とクロウリーはアドバイスする。「たとえば『うまくいくとは具体的にどういうこと?どのプロジェクトで?なぜ成功できると思う?』といった質問を重ねることで、本質に近づくことができる。」
意思決定を「一方通行のドア」と「両方通行のドア」で考える
不確実性の中で意思決定をするのは不安がつきものだ。そこでクロウリーは、Amazonのジェフ・ベゾスが提唱した意思決定モデルを活用することを勧めている。「一方通行のドア」は、一度決めたら後戻りできない決断を指し、「両方通行のドア」は後から軌道修正が可能な選択を意味する。
「特にマネジメントの初期段階で直面する意思決定の多くは、実は『両方通行のドア』だ」とクロウリーは言う。「この考え方を持つことで、常に正しい判断をしなければならないというプレッシャーやストレスから解放されるはずだ。」
最後に、これらの変化は一朝一夕で身につくものではないことを忘れてはならない。「自分自身に対しても、どうか忍耐強くあってほしい。これは長い旅路であり、途中で失敗することもある」とクロウリーは語る。「それでも、好奇心を持ってリードし、周囲に安心感を与えることができれば、いざというときに支えてくれる人たちが必ず現れる。」
チームは、あなたに完璧さを求めているわけではない。複雑な状況で好奇心を持ち続けることは、マネージャーであっても簡単なことではない。しかし、たとえ思い通りにいかないときでも、学び続ける「等身大のリーダー」としての姿勢を見せることで、メンバーも自分の不安や迷いを受け入れやすくなる。それが、チーム全体がベストを尽くせる土壌をつくるのだ。