アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff-Dupont)が、チームリーダーが仕事をメンバーに任せてマネージする良策について説く。
本稿の要約を10秒で
- チームのリーダーにとって現場仕事を手放し、メンバーにすべてを任せるのは簡単なことではない。
- リーダーのなかには仕事をメンバーに任せたとしても、その作業を細かくコントロールし、メンバーのスキルアップや成長を阻害してしまう人がいる。
- 本稿では、メンバーに仕事を任せる不安や抵抗感を乗り越え、かつマイクロマネジメントの衝動を抑えながら、メンバーへの仕事の委譲を成功に導く方策を紹介する。
チームのリーダーはなぜ現場仕事をなかなか手放せないのか
企業で働くチームリーダーは、多くの場合、そのチームが担当する現場仕事を最も巧にこなすことができる。だからこそ、その人はリーダーになったといえる。
そんなリーダーにとって、現場仕事を手放してメンバーにすべてを任せるのは簡単なことではない。その大きな理由の1つは、現場仕事を手放すことが、自分の存在意義を自ら捨て去る行為のように思えるからだ。そして、多くのリーダーは、こう思い悩む。
「もし、私が現場仕事の遂行者でなくなるのなら、一体私は何者になるのか」
また、現場仕事をメンバーに任せるうえでは、そのメンバーに対する信頼がなくてはならない。ところが、メンバーを信頼するのも簡単ではない。とりわけ、職場では、チームによる仕事の出来・不出来が、リーダーに対する周囲の評価の高低に直結する。それゆえに「この仕事を、彼ら(メンバーたち)に任せて本当に大丈夫なのか」という懸念がなかなか払しょくできない。そして結局は「自分でその仕事を担ったほうが安全だ」との考えに至り、多くのタスクを抱え込もうとしてしまうのだ。ただし、そのような判断は、自身がマネージするチームの成長を阻害するものでしかない。
ご存じのように、チームリーダーの本来的な役割は、チームのマネジメントであって現場仕事を担うことではない。したがって、現場仕事のすべてをメンバーに委ねることは、リーダーが成すべき責務でもあるのだ。
では、どうすれば自身の不安や抵抗感を乗り越えながら、すべての現場仕事をメンバーに任せられるようになるのだろうか。以下、そのための効果的な方法について見ていきたい。
タスクを上手に割り振る
チームリーダーはときとして、自分の能力を過信して自身のキャパシティを超えるタスクを抱え込んでしまったりする。もちろん、きわめて重要なタスクを自ら担当することは、まったくの間違いではないかもしれない。ただし、自らのキャパシティを超えるような現場仕事を抱え込んでしまうのは、リーダーとして失格だ。したがって、自分を過信するのをすぐさま止めにして、チーム全体の「キャパシティプランニング」(参考文書)に着手すべきである。
キャパシティプランニングは、適切なタスクを適切なメンバーに割り振るための最も効果的な方法である。それを行うことで、例えば、チームが1週間で合理的にこなせるタスクの分量や、メンバー各人の能力を把握することが可能になる。加えて、キャパシティプランニングは、チームに新しく入ったメンバーが「チーム内の誰が、どのようなタスクを担ってきたか」を知るうえでも役に立つ。
メンバーにタスクを割り振る際には、メンバー全員の役割を整理し、その役割と各自のスキルとのギャップを明確にすることも大切だ。この作業を行ううえで有効な手段の1つが「Atlassian Playbook」にある「Roles and Responsibilities(役割と責任)」プレイ(参考文書)を実行することである。
このチームプレイの実行により、メンバー各人の役割や埋めるべきギャップを明らかにできるだけではなく、メンバー各人が「自身の役割に満足しているか」「役割の変更を望んでいるか」を点検する機会も得ることができる。
この確認作業は、メンバーのスキルやタスクによる業務負担を考慮することと同じぐらい重要だ。というのも、メンバーに割り振る役割を、それぞれの希望に合わせれば合わせるほど、仕事に対する彼らのモチベーションやエンゲージメント(能動的な貢献意欲)、そして生産性は上がっていくからである。
タスクのコンテキストを明確にして責任感を育む
チームリーダーはメンバーに対し、自分と同レベルの情熱をもって仕事に取り組んでくれることを望む。ゆえに、その情熱が感じられないと、メンバーの仕事に介入したり、細かな管理(=マイクロマネジメント)をしたりしたくなる。
ただし、現場仕事への過度の介入やマイクロマネジメントは、すべてのタスクをメンバーに委ねる意義(=メンバーのスキルアップや成長を促すという意義)を大きく損なわせる。したがって、リーダーが成すべきことは、仕事に対するメンバー各人の責任感、ないしは当事者意識を強めることとなる。そのためには「なぜ、このタスクを遂行しなければならないのか」「なぜ、その人に、そのタスクが割り振られたのか」について、メンバーの理解を深めておくことが重要となる。
TIPS
そのタスクを「なぜ行う必要があるのか」「当該のタスクを、なぜその人が担うべきなのか」といった「(タスクの)コンテキスト」を明確にすることは、優れたリーダーの要件でもある。ただし、コンテキストの明確化は、とかく見落としやすい。したがって、何らかのタスクをメンバーに一任するときや、新しいプロジェクトを立ち上げるとき、あるいは、チームの運営方法を変えるときなど、ことあるごとにタスクのコンテキストを明確にするようにして習慣化するべきである。
ではここで、先に触れた「なぜ、このタスクを遂行しなければならないのか」を明確にするプロセスについて簡単に確認しておきたい。
このプロセスは、チームリーダーが「当該のタスクがいかに重要か」をメンバーに説明することから始まる。その説明を終えたのちには、タスクを割り振られたメンバー各人とともに「タスクによって解決すべき問題とは何なのか」「その問題が解決されなかった場合、どんな負の影響が周囲に及ぼされるのか」といった事柄について話し合い、タスクを遂行することの必要性・重要性への理解を深めていくと良い。
その必要性・重要性への理解を深めたのちには、そのタスクを担当するメンバーに「なぜ、自分がタスク遂行の適任者なのか」を理解させ、納得させなければならない。
その際には、メンバーのスキルや、これから身につけたいスキル、職務上の目標、さらには目標達成に向けて何を成すべきかを念頭に置きながら、当該タスクを担うことが、そのメンバーの成長やスキルアップ、そして目標の達成に役立つことを伝えるべきである。また併せて「あなたなら、当該のタスクを確実にこなせる」との期待感、ないしは信頼を示し、それと同時に「仮に、何らかの問題に突き当たったとしても、私が全力で手助けする」と約束し、不安を取り除いてあげることも忘れてはならない。
以上のようにしてタスクを割り振ったのちには、メンバー全員が、自分に課されたタスクの範囲と期限について同意しているかどうかの最終確認を行う。
このとき、メンバーが不安を隠しながら「大丈夫です」と答えるケースがある。また、リーダーが不安そうなメンバーを見つけ「本当に大丈夫か」との疑念を抱いても、何も手を打たずに、そのままやり過ごしてしまうこともある。
こうした状況は、タスクの遅延リスクを強めるものだ。そのリスクを回避するには、メンバー全員に本音を吐露する機会を与え、必要に応じてタスクを調整することが大切だ。そして、期限の順守が必須の場合は、タスクの範囲を狭めることを検討する。また逆に、タスクの範囲が固定されているならば、スケジュールを延長したり、追加の人員を投入したりといった対策を講じるのが賢明だ。
タスクの結果のみにフォーカスする
チームのメンバーがタスク遂行の実務に入ったならば、リーダーはすべてのタスクから手を引き、実務にかかわらないようにする。そして、タスクの遂行結果のみにフォーカスを当てることが大切だ。
実のところ、メンバーをコントロールするのを好むリーダーにとって、タスク遂行の結果のみにフォーカスを当てるのは、なかなか難しい。というのも、そうしたリーダーは、メンバーによる目標達成の「手段」にもフォーカスを当て、それをコントロールしたがるからだ。なかでも過去に同じようなタスクの遂行し、一定の成果を上げているリーダーは、タスクをどうこなすかの詳細にまで口を出し、自分のとった手段を真似させようとする。しかし、そうしたくなる衝動は抑えなければならない。経験者として多少のアドバイスを行うのは良いかもしれないが、チームのリーダーとしてとるべき行動は、メンバー各人が自分なりの方法で仕事に取り組むことを許容し、彼らの成長を促すことなのである。
このように、チームのリーダーは、細かな作業指示を出す必要はなく、そうすべきでもない。ただし一方で、タスクの目的、目標に基づいてメンバー各人が進むべき方向を示し、そのうえで、進む方向のズレ幅について、その許容範囲を明確にしなければならない。
この取り組みの中で最初に行わなければならいのは「何をもってタスク目標の達成(ないしは、タスクの完了)」と見なすかの定義を明確にし、それを簡潔な言葉でメンバーに伝えることだ。例えば「Webサイトのコンバージョン率を10%向上させる」「経理部門が契約書を承認する」などである。のちには「予算」や「法的制限」など、メンバーが守るべきガイドラインを示すことが大切である。
例えば、顧客のフィードバックを表示するダッシュボードを作成するタスクがあるとしよう。このタスクを遂行するうえでは、可視化するフィードバックに顧客の住所や電話番号といった個人情報を表示させてはならないのである。
このようにしてメンバーが正しい方向に進んでいることを確認し、タスクのガイドラインを決めておけば、リーダーが実作業に過度に介入する必要はなくなる(はずである)。
定期的な進捗の確認は必ず行う
繰り返すようだが、メンバーに任せたタスクやプロジェクトのマイクロマネジメントは不要であり、避けるべきである。ただし、それでもフォローアップは必要だ。
特に長期的なプロジェクトの場合、ミーティングの場を定期的に設けて「何がうまくいっていて、何がうまくいっていないのか」を都度確認しなければならない。加えて、メンバーたちに対し「期限内にタスクを完了させる自信はあるか」「あなたたちを支援するために自分にできることは何かあるか」といった質問を投じて、その確認を行うことも忘れてはならない。
また、タスクやプロジェクトの進行中に、成果に対するフィードバックを、適切なタイミングで行うのも有効だ。こうすることでメンバーは、時間的な余裕があるなかで、タスクの軌道修正の行う機会を得ることができる(もっとも、小さなタスクの場合は、完了後にその方向性を確認するだけで十分である)。
さらに、タスクやプロジェクトの規模によらず、事後レビューを行い、その結果を今後のタスクの割り振りに生かすことも大切である。このレビューでは、メンバー各人に対して「タスクやプロジェクトを遂行する中で楽しめた点は何か」「退屈したり、過度に困難に感じたりした部分はどこか」「何を学んだのか」「担当したタスクをこれからも担当したいか」といった、回答の仕方に制約を設けないオープンエンド型の質問をさまざまに投じると良いだろう。それに対して、単に「今回のタスク(ないしは、プロジェクト)はどうだった?」と尋ねるのは間違いである。このような質問を投じても「まあ、良かったです」「特段、問題はなかったです」といった、あまり参考にならない答えが返ってくるだけで終わる可能性が高い。
TIPS
人々の仕事に関する目標や好みは変化する。ゆえに、優れたリーダーは、年次の業績評価のときだけでなく、定期的に上述したような質問をメンバーに投じている。
祝うことを忘れない
タスクやプロジェクトに対するフィードバックを行った際には、メンバーたちの良い仕事を祝うことも忘れてはならない。お祝いの形式はどのようなものであっても構わない。チャットツールを通じて簡単な賛辞を贈るのでも良いし、チームミーティングの場で当該のメンバーを褒めるのでも良い。それだけで、メンバーは喜びを感じて自信を深め、かつ、チームに貢献する意欲が増すのである。
また、チームのメンバーにタスクを一任し、彼らの仕事を成功へと導けたときには、多少なりとも自分自身も褒めていただきたい。
チームのリーダーは、自ら行動するのが好きなタイプが多い。そうしたリーダーにとって仕事をメンバーに任せ切りにして、マイクロマネジメントや毎日の手助けを行いたい衝動を抑制しながら、チームのミッションを成し遂げるのは簡単なことではない。ゆえに、ミッションを完遂したときには、自分自身を「よくやった。きみは優れたリーダーへの道のりを着実に歩んでいる」と評価し、達成感を味わっていただきたい。