アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。Time4Good社の創設者兼CEOで米国イェール大学ビジネス環境学部の講師でもあるピーター・ボイド(Peter Boyd)氏が、自身が開発した「コネクテッドリーダーシップ」について説く。このリーダーシップのフレームワークは、より優れたリーダーになるための枠組みとして注目を集めている。

本稿の要約を10行で

  • 「コネクテッドリーダーシップ」とは、自身や周囲の目的と日々の仕事とをリンクさせ、個人がチームや社会とつながりながら成功をつかむことを支援するリーダーシップである。
  • コネクテッドリーダーシップのコアは「①目的(Purpose)の明確化」「②優先事項(Priorities)の決定」「③可能性(Potential)の探索」「④進捗(Progress)のマネージ」という「4つのP」から成る。
  • 本稿では「4つのP」の実践が、なぜ有効なのかについて明らかにする。

「コネクテッドリーダーシップ」とは

「コネクテッドリーダーシップ」とは、自身とチームの目的や日々の作業を結びつけて共有し、個人がチームやコミュニティ、さらには社会システムとつながりながら成功をつかむことを支援するリーダーシップだ。

私は長年にわたって会社組織のリーダーたちをコーチングしたり、教育(イェール大学での経験も含む)したりしてきた。コネクテッドリーダーシップは、それを通じて完成させた概念でもある。

早速、コネクテッドリーダーシップについて詳しく説明したいところだが、その前に、なぜこの種のリーダーシップが必要とされているかについて簡単に確認しておきたい。

アトラシアンの調査レポート「State of Teams」(参考文書(英語))によると、フォーチュン500社は非効率なコラボレーションによって毎年250億時間もの業務時間を失っているという。また、ギャラップ(Gallup)社の調査レポート「State of the Global Workforce」(参考文書(英語))は、従業員エンゲージメントの低さによって2023年だけで世界のGDPが8.9兆ドル失われたと指摘している。さらに、仕事がうまくいっていると感じている労働者は34%でしかなく、52%が新しい仕事を探しているという。

これらの調査結果が示唆しているのは、チームを鼓舞してメンバーを相互に結びつけ、目的を一致させる能力、スキルを備えたリーダーの必要性だ。

組織・チームを束ねる人は、そんな優れたリーダーになることで、自分自身や周囲の人々をエンパワーし、仕事により深く関わり、回復力を高め、一層効果的に仕事がこなせるようになる。そのための手段の1つが、コネクテッドリーダーシップの能力、スキルを身に着けることなのである。

今日、コネクテッドリーダーシップの原則は、イェール大学のビジネス&環境センター(参考文書(英語))やプルーブ教育学習センターと提携した「Courseraコース」(参考文書(英語))を通じて、よりは幅広い層の人たちに学んでいただけるようになっている。人は誰もが会社の組織・チーム、あるいはそれ以外のコミュニティにおいても、ポジティブな変化を推進できる潜在能力を有している。その能力を自ら引き出すことは、今日のような変化の激しい世界で意義ある影響を周囲に与え続けるうえでのカギといえる。

コネクテッドリーダーシップの「4つのP」

コネクテッドリーダーシップのフレームワークは、私が「4つのP」と呼ぶ4段階のコアステップが中心を成す。その4つとは「①目的(Purpose)の明確化」と「②優先事項(Priorities)の決定」「③可能性(Potential)の探索」、そして「④進捗(Progress)のマネージ」だ。以下、これら4つの「P」が、より効果的なリーダーシップを発揮するためにどのように役立つかについて説明する。

ステップ①「目的(Purpose)」を明確にする

私たちビジネスパーソンは「自分はなぜ、ここにいるのか」、また「自分の仕事がより大きなゴールにどうつながっているのか」を理解しているとき、最高のパフォーマンスを発揮できる。そうした「目的」を明確にするうえでは、内省から始めるのが良い。具体的には、以下のような質問の自身にぶつけるのである。

  • 今日に至る道のりを形づくってきた重要な選択とは何だったか。
  • 自分はこれまで、どのようなスキルと価値観を持ち続けてきたのか。
  • 自分はいま、どこに向かっているのか。
  • のちに年齢を重ねたときに、自分に対してどう感じていたいのか。
  • フロー状態(何らかの活動に集中し、時間の経過を忘れるほどに作業に打ち込んでいる状態)になるのはどんなときか。
  • 生きがいを感じるのはどんなときか。

これらの自問への答えを熟考することで、自分の仕事や人生の目的について明確な答えが得られるはずである。

なお、そのためのワークシート(無料/英語)もあるので、興味のある方は以下のURLからダウンロードされたい。
▶︎ワークシートをダウンロードする https://go.atlassian.com/teamtextbook145-purpose-worksheet

ステップ②「優先事項(Priorities)」を決める。目的を明確にしたら、今度は優先事項を決める。

ちなみに、私は「人生の壺」に「大石(岩)」「小石」「砂」を好きな順番で詰めるという昔話のファンだ。この話が意味するところは、自分にとって重要な事柄(=「大石」)を最初に決めたうえ、それほど重要ではないこと(=「小石」「砂」)よりも多くの時間をかけて取り組めば、万事がうまくゆくというものだ。

実際、自分にとって重要な事柄を3つ~5つに絞り込み、取り組むことは、人生にとってとても大切である。ゆえに私は、企業の経営層か、小規模なチームのリーダーかによらず、あらゆる層のリーダーたちへのコーチング、ないしはトレーニングを行う際に、仕事だけではなく人生全般における優先事項を探求し、明確化することに多くの時間を割くようにしている。

ステップ③「可能性(Potential)」を探求する

自分の人生で優先すべき事柄を決めたのちには、その事柄に取り組み、成功をつかむうえで「どんなスキルを伸ばすべきか」「どのような経験を積むべきか」「自身の成長を確認するために、どのようなマイルストーンを設定すべきか」を明確にする。

このように自分の可能性を思い描くうえで大切なことは、胸躍るような目的やマイルストーンを設定することだ。要するに、その達成時に思わず祝杯をあげたくなるような、あるいは自分自身を誇らしく思えるような目的やマイルストーンを設定することが重要なのである。

また、目的やマイルストーンは可能な限り数字で表現できるものにすべきである。そうすることで、人生におけるあらゆる優先事項について、自分の成長や進歩を測定することが可能になり、また目的を果たすモチベーションも喚起されるからである。

例えば、自分の健康や家族のことは、仕事に追われる毎日の中でとかく犠牲にされがちで、何らかの目標をもってその維持・向上に努めようとはしなくなる。ただし、健康と家族は人生においてきわめて重要な事柄であり、それを意味ある数値目標やマイルストーンに結び付けることで、自ずと家族や健康を大切にしようという意欲が湧いてくる。一方で、仕事については、よりソフトで定性的な目標(例えば、頼んでもいないのに他社への自分の推薦文を顧客からもらったり、プロジェクト終了後に同僚との自由な時間を満喫したりするといった目標)を定めるのもモチベーションのアップつながるはずである。いずれにせよ、自分を鼓舞し、心身のバランスを適切に保つのに役立つ目標を上手に設定していくことが成功につながるのである。

ステップ④「進捗(Progress)」をマネージする

最後のステップは、上で定めた目的や優先事項を、それを実現するためのスキルや実行可能なタスクに分解して計画を立て、その進捗をマネージしていくことである。

進捗の確認は、自分の現在地と目指す場所との橋渡しを行うことでもある。その作業は、目的や優先事項を、それを実現するための明確で簡潔な計画に落とし込むことで容易になる。また、明確で簡潔な計画づくりには、自分の目的や優先事項をチームのメンバーたちに伝えやする効果もある。

リーダーへのコーチングや教育の経験から言わせてもらうと、チームのリーダーがチームの計画やその進捗をマネージしていく際には、目的や優先事項を実現するのに必要なスキル、タスク(ToDoリスト)といった重要な要素を1ページに簡潔にまとめておくのが有効である。また、人生の目的・優先事項についても同様にして1ページの「Life on one page」(参考文書(英語))にまとめておく。それは、本当に達成したいことを実現するための有効な手段なのである。

コネクテッドリーダーとして社員を鼓舞する方法

上述したコネクテッドリーダーシップにおける「4つのP」は、より優れたリーダーになるための土台を形成するものでもある。その土台は強力であり、自分の人生のアーキテクトであり、創造者であるあなたをしっかりと支えてくれるはずだ。

とはいえ、人生という建物は複雑であり、周囲の環境は絶えず変化している。ゆえにリーダーは、「4つのP」を常に問い直し、更新していく必要がある。ただ、それを行えば、仕事でも、プライベートの人生においても、自分の目的や目標に近づきながら、生きていくことができる。ここで改めて「4つのP」から成るコネクテッドリーダーシップの効果についてまとめておきたい。

  • 自己成長:仕事と人生の目的とを一致させることで、自分がするすべてのことに深い意味を見出すことができる。
  • 効率性:優先事項を明確にすることで、本当に重要なことに集中でき、生産性と仕事の満足度をともに向上させることができる。
  • チームの成功:チーム全員に「4つのP」を実践させれば、コラボレーションが強化され、チームの足並みが揃い、より良い結果につながる。
  • 会社組織への影響:コネクテッドリーダーで構成されたチームは、単に連携して仕事をするだけでなく、組織やより広い世界をより良く変える潜在能力を開花させる。