アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのカット・ブーガード(Kat Boogaard)が、リーダーシップスタイルの1つ「オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップ)」の使いどころについて解説する。
本稿の要約を10秒で
- 「オーソリテイティブリーダーシップ(指導型リーダーシップ)」とは、チームの目標を示し、その達成に向けて必要な支援を提供するスタイルのリーダーシップを意味する。
- オーソリテイティブ (指導型)リーダーシップは、すべてを自分に従わせる強権的なリーダーシップではなく、チームが目標を達成するために必要な支援を提供するスタイルである。
- オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップには長所と短所があるが、それが有効に機能する場面はいくつもある。
「オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップ」とは?
「オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップ)」は、その名称から堅苦しくて強権的なスタイルのリーダーシップと思われがちだ。また、現代の職場では「サーバントリーダーシップ」や「コーチングリーダーシップ」「トランスフォーメーショナルリーダーシップ(変革型リーダーシップ)」など、柔軟で協調的なリーダーシップスタイル(参考文書(英語))が好まれる傾向が強い。そのため、オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップにスポットが当てられることは相対的に少ない。
ただし、特定の場面では、オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップが有効に機能することがある。
オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップとは、心理学者で作家のダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman)氏が2002年に出版した著書「Primal Leadership:Unleashing the Power of Emotional Intelligence」の中で定義したスタイルだ。同氏はこのスタイルについて「集団がどこへ向かうべきかを明確に示すが、そこにどう到達するかは示さないリーダーシップ」と説明している。
ただし、特定の場面では、オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップが有効に機能することがある。
このリーダーシップのもとでは、チームのメンバーにはゴールまでの最善のルートを決める権利が与えられる。とはいえ、オーソリテイティブ(指導型)リーダーがすべてをチームのメンバーに委ねるわけではない。このスタイルのリーダーは、必要に応じて指導や励ましを行い、熱心なコーチ、ないしは指導者の役割を果たす。ゆえに、オーソリテイティブ(指導型)リーダーには、次のような特性を有していることが必要とされる。
●自信: チームのメンバーは、オーソリテイティブ(指導型)リーダーの決断と指示を常に仰ぐ。ゆえにリーダーには、それだけの信頼をチームに抱かせる自信がなければならない。
●決断力: オーソリテイティブ(指導型)リーダーは、最終的な指示をチームに出す立場にある。そのため、迅速、かつ効果的な意思決定を下し、決定内容をチームに伝える能力がなければならない。
●エモーショナルインテリジェンス(EQ/参考文書(英語)): オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップは、人に焦点を当てたリーダーシップだ。リーダーは、チームのメンバーに共感し、彼らのニーズや課題に適宜対応しなければならない。ゆえに、高いEQが求められる。
●集中力: オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップでは、チーム目標の達成にメンバーたちを集中させなければならない。ゆえに、オーソリテイティブ(指導型)リーダーには、チーム目標の達成に対する自らの集中力を維持する能力が必要とされる。
●インスピレーション: オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップでは、単に指示を与えるだけでなく、目標達成に対するチームのやる気や熱意を引き出す発想力がなくてはならない。
●戦略性: オーソリテイティブ (指導型)リーダーは「目標達成の旅路」にチームを誘う。ゆえに、長期的な目標や大局をとらえた戦略的思考が必要とされる。
●支援的: オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップは、強権的というよりは「支援的」なスタイルだ。独善的な判断や批判、叱責を行うことなく、目標達成に必要な支援やリソースをチームに提供して課題に対処する手助けをする。
オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップ
vs. オーソリタリアン(権威主義)リーダーシップ
オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップは「オーソリタリアンリーダーシップ(権威主義リーダーシップ)」と混同されることが多い。ただし、名称は似ているが、これら2つのリーダーシップはまったく異なるもので、以下に示すような違いがある。
●オーソリテイティブ (指導型)リーダーシップ: このスタイルをとるリーダーは、目標を設定し、その達成に向けてチームが協力するよう促す。
●オーソリタリアン(権威主義)リーダーシップ: このスタイルをとるリーダーは、目標と併せて、目標を達成するための詳細な道筋を設定する。そして、チームのメンバーにはリーダーの決定に懸念や反対意見を示すことなく、指示に厳格に従うことを期待する。
ちなみに、ハーバードビジネススクールでは、上記2つのリーダーシップの違いをこう完結に表現している。
── オーソリテイティブ指導型リーダーは、「私と一緒に来い」というタイプのリーダーで、オーソリタリアン(権威主義)リーダーは「私のいうとおりにしろ」というタイプのリーダーである(参考文書(英語))。
オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップの長所と短所
成長意欲の高いリーダーや、リーダーを目指す人たちの多くは、理想的なリーダーシップスタイルを探し求めている。だが、すべてのリーダーシップスタイルには長所と短所があり、それはオーソリテイティブ(指導型)リーダーシップについても例外ではない。以下、このリーダーシップの主たる長所と短所を紹介する。
【長所】
●明確さ: オーソリテイティブ(指導型)リーダーには、チームの目標やビジョンを設定する責任がある。ゆえにチームの方向性は常に明確であり、混乱や議論が少なくなる。
●スピードと効率性: チームにおける協調的な意思決定は、メンバーの賛同や関与・協力を得るうえでは有効だが、意思決定には相応の時間がかかる。それとは対照的に、オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップでは、リーダーにすべての決定権があるため、意思決定が迅速になる。
●予測可能性: オーソリテイティブ(指導型)リーダーは、チームに対して明確な方向性と信頼できるガイダンス、将来に向けた安心感、そして一貫性を与える。
●信頼性: オーソリテイティブ(指導型)リーダーは、チームと同調し、チームメンバーのニーズや課題に迅速に対応する必要がある。そのためには、高いEQが求められる、高いEQはメンバーからの信頼とポジティブな職場環境を育むのに役立つ。
【短所】
●アカウンタビリティ(説明責任)の重さ: オーソリテイティブ(指導型)リーダーは、意思決定の最終責任を背負う。ゆえに、チームの成否について最終的な説明責任を背負わなければならないが、このレベルの説明責任を果たす能力は自然に身につくものではない。
●アライメント(調整)の不足: オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップは、会社の戦略と高い整合性を保つことが要求される。ただしそれは、多くのリーダーが苦手とすることだ。実際、ある調査によれば、リーダーの将来ビジョンと会社のビジョンが常に一致していると答えた従業員は29%に過ぎなかったという(参考文書(英語))。
●過度の依存: オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップでは、チームメンバーがリーダーの決定や指示に依存しがちになる。これは、メンバー個人の成長やキャリア開発、自立の妨げになるものだ。
●柔軟性の欠如: オーソリテイティブ (指導型)リーダーは協力的ではあるものの、チームの意思決定や目標設定においてメンバーの意見を歓迎もしない。一方で、チームメンバーの多くは、会社の意思決定プロセスから締め出されたように感じることを良しとしない。そのため、オーソリテイティブ(指導型)リーダーが率いるチームのメンバーは、会社の意思決定プロセスの可視化やプロセスへの関与を求めるようになる(参考文書(英語))。
●マイクロマネジメント: オーソリテイティブ (指導型)リーダーシップは本来、チーム目標を設定しつつ、メンバーがそれをどのようにして達成するかについては細かく管理しないスタイルのものだ。ところが、オーソリテイティブ (指導型)リーダーは、その多くがマイクロマネジメントの領域に足を踏み入れてしまっている。
オーソリテイティブ (指導型)リーダーシップの使いどころとは
会社組織のチームは絶えず変化している。そのため、優れたリーダーは、チームが置かれている状況に応じてリーダーシップスタイルを変化させている。これは「状況対応型リーダーシップ(シチュエーショナルリーダーシップ)」と呼ばれるものだ。
では、オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップが必要とされる状況には、どのようなものがあるのだろうか。以下は、その例である。
●大きな変化に対応するとき: チームを取り巻く物事の不確実性が高まったとき、メンバーたちはリーダーに対して「安心感と自信を与えてくれること」「正しい方向へと自分たちを導いてくれること」を期待する。オーソリテイティブ(指導型)リーダーには、そのようなメンバーからの期待にこたえうる自信と決断力、共感力が備わっている。
●迅速な決断が求められるとき: 他のチームが自分たちの指示を待っているときや、会社が迅速に行動する必要があるときなど、チームの意思決定をスピーディに下さなければならない場面がある。そのようなとき、オーソリテイティブ(指導型)リーダーは、迅速で的確な意思決定を、自信を持って下すことができる。
●新しいチームメンバーを迎えるとき: 新しい仕事を始めるときは誰もが緊張する。そのため、新しいチームのメンバーは仕事に慣れるまで、直属のリーダーを頼りにすることが多い。オーソリテイティブ(指導型)リーダーは、そうした新メンバーが前進するために必要な方向性を示すと同時に、彼らが学び、自らをイノベートするためのスペースを提供する。
●チームが周囲の批判や反発にさらされたとき: オーソリテイティブ(指導型)リーダーは、チームの状態が良いときだけでなく、厳しいときにもアカウンタビリティを果たそうとする。つまり、オーソリテイティブ(指導型)リーダーは、チームのパフォーマンスに対するすべての責任を背負うだけでなく、チームを擁護する役割も果たすわけだ。
オーソリテイティブ(指導型)リーダーシップは、厳格な指示・指導を一方的に提供するスタイルではない。リーダーシップスタイルとして完璧とはいえないが、チームが明確な方向性を欲しているときには効果的で信頼できるアプローチとなる。