アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのカット・ブーガード(Kat Boogaard)が批判的思考(クリティカルシンキング)について解説する。

スキル⑤推論

クリティカルシンキングの落とし穴の1つは「リサーチや分析はまだ不十分」と感じやすいことだ。収集できる情報に限りはなく「宝がありそうな洞窟」も無数にある。

ただし、ビジネス上の問題解決にはタイムリミットがある。ゆえに、ある時点で、十分なリサーチや分析を行ったと判断し、次に進む手段を選択しなければならない。そこで必要とされるのが「推論」のスキルだ。このスキルは、自分の手元にある証拠や事実にもとづいて結論を導き出す能力を指している。

客観性を保ちながら、あらゆる可能性を追求していると、推論によって結論を導き出すことに違和感を覚え、そうすることはクリティカルシンキングの考え方に反する行為のように思えるかもしれない。

ただし、収集できる情報がほぼ無制限にある以上、推論こそが「思考」のプロセスから「行動」のステップに移るための唯一の、そして有効な手段といえるのである。

クリティカルシンキングの例⑤推論スキルの活用

ニュースレター登録のコンバージョンにつながっていないWebページの調査・分析を進めたA氏は、Webページの品質(内容)に以前とさしたる違いがないことを突き止めた。そこでA氏は、当該ページにおけるコンバージョン低下の背景としてシステム的な問題があると推測し、調査を進めた。結果として、メールサービスプロバイダーを変更したのと同時期にニュースレター登録者数の急激な落ち込みが起きていることに気づいた。この気づきをもとに当該ページのバックエンドシステムについて詳しく調べた結果、そのページの登録フォームがニュースレターの新たなITインフラ(メールプラットフォーム)に正しく接続されていない事実を突き止めた。つまり、そのページで登録した人はニュースレターの読者データベースに登録されていなかったのである。そしてA氏は、このシステム的な問題がニュースレターにおける登録者数減少の主因であると断定した。

スキル⑥コミュニケーション

クリティカルシンキングを通じて問題への解決策や答えが見つかった際には、当然、それを自分の上司やチームのメンバーなど、次のステップに関与する可能性のある人たちと共有しなければならない。そのために必要となるのが、情報を正しく、わかりやすく他者に伝えるコミュニケーションのスキルとなる。また、このフェーズでは、他の人が知る必要のある情報は何かを的確に判断することが必要とされる。ゆえに分析のスキルも有効に機能することになる。

クリティカルシンキングの例⑥コミュニケーションスキルの活用

ニュースレター登録者数減少の原因を断定したA氏は、チームミーティングの場で、コンバージョンを低下させているWebページとメールプラットフォームとの接続性が欠けている事実を示した。また、その問題とニュースメール登録者数の減少との相関関係を数値で示した。そのうえでA氏は、Webチームに当該の接続性に関して早急に点検するよう依頼し、メールマーケティングのチームにも「見逃した登録者(=ニュースレターの読者データベースに登録されなかったユーザー)」への謝罪メールを作成して送付するよう依頼した。

スキル⑦問題解決

クリティカルシンキングと「課題解決」はよく混同される。また実際にも、クリティカルシンキングは問題解決を目的としていることが多い。

ただし、問題を解決することとクリティカルシンキングは完全に同義ではない。問題解決は文字どおり問題を解決するためのプロセスだが、クリティカルシンキングは、問題解決以外にも質問に答えたり、改善の機会を見つけたりなど、さまざまな用途に応用できる。とはいえ、クリティカルシンキングのプロセスの中では「思考による結論」を「行動」につなげる際に必ず問題解決のスキルを活用することになる。

クリティカルシンキングの例⑦問題解決スキルの活用

A氏は、問題のWebページとメールプラットフォームとの接続性を修復させたとの報告をWebチームより受け取った。そこで同氏は、ツールを使ってニュースレター登録者数が増えているかどうかを確認した。その結果として、仮に登録者数が増加傾向にない場合(あるいは、想定よりも遅いペースでしか登録者数の増加が認められなかった場合)には、問題の原因が他にもあることが想定される。ゆえに、その場合に備えて、ニュースレターへの読者登録を喚起する文言(CTA文言)やWebページにおける登録フォームの配置変更など、他のテストを実施する準備を進めた。

クリティカルシンキングの能力を高める5つの方法

クリティカルシンキングは、人の直感、あるいは動物的な感覚を一切頼りにしない思考法だ。つまり、クリティカルシンキングは先天的な才能ではなく、学習によって獲得し、高められる後天的な能力、ないしはスキルによって成り立つものといえる。では、どうすればクリティカルシンキングの能力、あるいはスキルを高めることができるのだろうか。以下、そのための有効な方法を5つ紹介しよう。

①アクティブリスニングを実践する

アクティブリスニング」とは、他社の話に全神経を集中させて耳を傾け、内容を理解することを指す。そのスキルを獲得することは、オープンマインドであらゆる可能性を探るうえで極めて重要なことといえる。

②「オープンエンドの質問」をする

「オープンエンドの質問」とは、「はい」「いいえ」では答えられない質問のことを指す。このスキルに磨きをかけることは、クリティカルシンキングのプロセスにおいて他者からフィードバックや意見を収集するときにとても役に立つ。というのも、オープンエンドの質問によって、より貴重な情報が得られるだけでなく、自分自身のバイアスが人々の意見に影響を与えるのを防ぐことができるからである。

③情報源を精査する

クリティカルシンキングを実践する際には、情報源として何を信用し、何を優先すべきかを見極めることが非常に大切だ。ゆえに、メディアリテラシーを高めたり、情報源に対してより多くの質問を投じたりすることが重要であり、そうすることで、どの情報を考慮に入れるべきかを精査することが可能になる。情報源の精査は、あらゆる情報に疑いの目を向けることを意味し、その姿勢と上述したオープンマインドとのバランスをとるのは難しい。ただし、相応の疑念を持って情報に接することは、クリティカルシンキングによって、より良い結論を導き出すことにつながる。

④ゲームをする

例えば、あなたは「2枚の硬貨の合計値が30セントで、うち1枚が5セント硬貨ではないとする。2枚の硬貨はそれぞれ何セントか」というナゾナゾを解いた記憶はないだろうか。些細なことのように思えるかもしれないが、こうしたゲームや脳のエクササイズは、クリティカルシンキングの能力向上に有効だ。このような演習は数多くあるので、調べた上でぜひ試されたい。

⑤相応の時間をかける

ある調査によれば、決断を急いでクリティカルシンキングを使うと後悔することが多いという(参考文書 (英語))。したがって、クリティカルシンキングによって大きな決断を下したり、厄介な問題に取り組んだりするうえでは、思考プロセスの中でひと息つけるような時間的なゆとりを持つことが大切である。言い換えれば、脳の中でクリティカルシンキングに向けた準備が整っていなければ、この思考法に取り組むのは非常に難しいということだ。

クリティカルシンキングは真にクリティカルである

繰り返すようだが、クリティカルシンキングのスキルは自然に身に付くものではない。また、多くの人にとって、クリティカルシンキングに挑むよりも、自分の偏見や思い込み、表面的な情報に固執することのほうがはるかに楽である。ただし、そのような楽な道筋は、しばしば軽率な判断や曖昧な結論、あるいは失望を招く選択へとつながる。したがって、クリティカルシンキングはまさに「クリティカル(重要)」な思考法といえ、たとえ精神的な負担が大きくても、それに取り組む価値は十分にあるのだ。