アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのシャンテル・リー(Chantelle Lee)が、「大局的思考(ビッグピクチャーシンキング)」について説く。

本稿要約を10秒で

  • 「大局的思考(ビッグピクチャーシンキング)」とは、物事の細部に焦点を当てるのではなく、全体をとらえて長期的な可能性や目標を思い描くことを意味している。
  • 大局的思考を身につけることは、自分や周囲にさまざまなベネフィットをもたらす。
  • 大局的思考のスキルは誰もが身につけることができ、その能力を育むためのテクニックがいくつかある。ここではそのテクニックを4つ紹介する。

「大局的思考(ビックビクチャーシンキング)」とは何か

「大局的思考(ビッグピクチャーシンキング)」とは、物事の細部に焦点を当てるのではなく、全体をとらえて長期的な可能性や目標を思い描くことを意味している。ハーバード大学のキャリア アドバイザーであり、ウォール・ストリート・ジャーナル誌の人気書籍「The Unspoken Rules: Secrets to Starting Your Career Off Right」(邦訳版「THE UNSPOKEN RULES 暗黙のルール: ハーバード大学のキャリア・アドバイザーが書いた、新・社会人の教科書」/実務教育出版)の著者でもあるゴリック・ウン氏によれば、大局的思考は「タスク志向」ではなく「ゴール(目標)志向」の思考法であるという。

そんな大局的思考の重要な要素の1つは「システム思考(システムシンキング)」だ(参考文書 (英語))。システム思考とは、プロセスやタスクが互いにどのように結びついて、より大きな全体を構成しているかを把握するためのものである。

また、職場において大局的思考を働かせるためには、通常、複数の組織・チームを跨いで多くの人と仕事をする必要がある。そのため、組織・チームの垣根を超えたクロスファンクショナルなコラボレーションも、大局的思考を実践するうえで重要な要素となる(参考文書 (英語))。

大局的思考はよく、物事の細部にフォーカスを絞りながら思考する「細部重視型思考(ディテールオリエンティッドシンキング)」と対比される。ゆえに、多くの人は大局的思考と細部重視型思考とを相反するものととらえがちだ。ところが、組織・チームが目標を達成するためには、これら2つの思考を同時に働かせなければならない。

さらに言えば、組織・チームが長期的な目標を設定することと大局的思考とは同義ではない。ただし、長期的な目標を設定することは、大局的思考の重要な要素でもある。

大局的思考がもたらすベネフィット

大局的思考の能力を身につけることは、自らを助けるだけでなく、自分の組織・チームにもベネフィットをもたらす。そのベネフィットとは以下のようなものだ。

ベネフィット①問題の戦略的解決とキャリアアップ

ウン氏は、前述した書籍を執筆するにあたり、多様な業界で働く数百名の職業人にヒアリングをかけ、彼らの思考法が、それぞれのキャリアにどのような影響を及ぼしているかを調査した。

例えば、ある小売店のレジ係たちは、ランチタイムになるたびに周辺で働く人たちが店に押し寄せ、レジ周りが混沌とした状態になることに悩んでいた。

その問題を解決する術(すべ)としては「レジを増強する(ないしは、レジ係を増員する)」といった選択肢が考えられた。だが、混沌が起きるのは平日のお昼どきのみであり、そのためにレジの増強や人員を増やすというのは経済効率の悪い解決策と言えた。また、レジ係の処理能力を高めるという選択肢もあったが、そもそもレジ係たちのスキルは高く、それぞれの処理能力を多少高めたところで、混沌が大きく抑制できる可能性は低かった。

そんな中で、レジ係たちは、問題の抜本解決に向けて大局的思考を働かせ、あることに気づいた。それは、自分たちの競合店が、レジ待ちの顧客たちがどこに並んで待てば良いかを目印によって明確に示していることだ。レジ係たちは、その仕掛けが混乱を抑制する有効な一手であると判断し、それと同様の仕組みを導入するよう店舗の幹部に提案した。結果として彼らは、ランチタイムにおける混乱を抑制することに成功し、かつ、昇進も果たしたという。つまり、このレジ係たちは、自分たちの大局的な思考能力のおかげで、自らの職場を改善する方法を探し当てただけではなく、キャリアアップも実現したのである。

私たち全員が、アートギャラリーにいて、1枚の絵画を眺めていると想像してください。その絵画のどの細部に注目し、どのような印象を受けるかは人によってさまざまで、なかには絵画の全体をとらえて『この絵の中には、全体の印象を悪くしている邪魔なモノがある』と感じ、苛立ちを覚える人がいるかもしれません。実は、そのような人こそ、大局的な思考力を持つ人なのです。(ウン氏)

ベネフィット②変化への高い適応力

ヘッドハンティング(エグゼクティブサーチ)会社のアーテミス コンサルタンツでCOO兼共同創設者であるジェイソン・シュワートフェイガー氏によれば、大局的思考の能力がある人は、困難や変化に直面しても、機敏に対処・対応したり、適応したりすることができるという。

また、大局的思考の使い手は、上述したレジ係たちのように状況を改善する方法を常に模索してもいる。その一方、細かなタスクに集中する人は、仕事の先を見据えたり、現状を改善する方法を考えたりするよりも、日々のタスクをこなすことのほうに注力しがちになる。

ベネフィット③モチベーションの向上につながる将来ビジョン

効果的な大局的思考は、自分と他者の双方にインスピレーションを与える。また、大局的思考を使って将来ビジョンを描いておくと、困難に直面しても長期的な目標を見据えながら、適切に対処・対応することが可能となる。また、大局的思考は、業績評価のフレームワークである「OKR(Objectives and Key Results:目標と主要な成果)」と同じように、長期的な目標を持って周囲の人の成すべき事柄を決め、モチベーションを向上させる手段として有効に活用できる。

ベネフィット④先を見据えた思考によるイノベーションの創出

大局的思考は創造性を育み、イノベーションを引き起こすものでもある(参考文書 (英語))。その好例の1つが、アップルの創始者スティーブ・ジョブズ氏による「iPhone」の開発だ。ジョブズ氏は、次世代型の携帯電話を想起するために、デジタル社会の先を見据えた。そうした大局的思考がiPhoneの開発へとつながったのである。

大局的思考力を育むテクニック

大局的な思考力は強化することができる。その能力を伸ばすためのテクニックをいくつか紹介しよう。

テクニック①成長型マインドセットを持つ

成長型マインドセット」を持つ人は、努力次第で成功がつかめると考える。それに対して「固定型マインドセット(フィックスドマインドセット)」を持つ人は、成功をつかむための才能は生まれつきのものであると考える。

このうち、成長型マインドセットを育むために必要とされるのは、知識を身につけ、スキルセットを広げることだ。それを実践することは、大局的思考のスキルを身につけることにもつながる。

例えば、ウン氏は、前出のヒアリング調査を通じて、あるセールスパーソンに出会ったという。その人は以前、顧客にセールスの電話をかけるだけの日々を送っていた。それでも彼は、セールスを断られたときの記録をつけており、のちに、そのメモをチーム内で共有し、自分のアプローチや会社のセールス手法のどこに問題があるのか、どうすれば改善できるのかを話し合うようになったようだ。結果として、そのセールスパーソンは、毎日同じ仕事をこなすだけではなく、仕事の改善方法をブレインストーミングによって検討したり、新しい知識を身につけて自分のスキルセットを広げたりしたいと考えるようになったという。

テクニック②「破壊的思考(ディスラプティブシンキング)」の活用

「破壊的思考(ディスラプティブシンキング)」も、大局的な思考力を育むうえで有効な手段だ。破壊的思考とは、自由で非構造的なブレインストーミングを通じ、アイデアを生み出す創造的なプロセスである。そのプロセスを実践することで、既成概念にとらわれない思考力が鍛えられる。

また、破壊的思考は、あらゆる選択肢を追求するよう促す。ゆえに、破壊的思考を使うことで、自分たちが置かれた状況をさまざまな角度からとらえられるようになり、仕事に対してオープンマインドなアプローチをとれるようになる。

テクニック③戦略型ゲームをする

チェスや将棋などの戦略型ゲームは、大局的な思考力を開発するのに適したツールだ。これらのゲームでは大抵の場合、何手も先のことを見据えながら、対戦相手を攻略するためのプランを練る。そのため、定期的に戦略型ゲームを楽しむことは、大局的思考の練習になる。

テクニック④ToDoリストを作る

目標を設定し、その達成に向けたToDoリストを作ることは、大局的思考力を鍛えるための基本的なテクニックだ。ToDoリストの作成に際しては、細かいことにとらわれ過ぎないことが大切だ。また、長期的な目標を立てることで、その達成を常に念頭に置きながら、成すべきことの軌道修正を柔軟に行えるようにもなる。

以上、大局的思考とそのベネフィット、そして大局的思考力を鍛える4つのテクニックを紹介した。このスキルは、現代を生きるあなたに多くのベネフィットをもたらしてくれるはずである。