アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのシャイナ・ローゼン(Shaina Rozen)が、職場から「有害なポジティブさ(Toxic Positivity)」を排除する方法を説く。

本稿の要約を10秒で

  • 物事には良い面と悪い面がある。このうち物事の良い面ばかりを見ようとすると、悪い面の抑圧につながる。
  • 「有害なポジティブさ(Toxic Positivity)」とは楽観主義の極端な形態を指す。ネガティブな感情や反応、経験を否定したり、無効にしたりして、偽りの安心に置き換えてしまうことを意味している。
  • 健全で強いチームを築くうえでは、自分たちのネガティブな感情と正面から向き合い、それを克服するのが効果的だ。つまり、職場における「有害なポジティブさ」と闘うためには、あらゆる感情を受け入れたうえで、他者が直面する課題について解決する前に共感し、感じたことを率直にフィードバックすることが大切である。

「有害なポジティブさ」とは

あなたは「有害なポジティブさ(Toxic Positivity)」という言葉を聞いて、どう感じるだろうか。なかには「ポジティブなことは良いことで『有害』ではありえないのではないか?」と感じる人もいるだろう。

ただ、そう感じる方も含めて、私たちの大多数は家庭や職場で「有害なポジティブさ」を経験したり、目撃したりしているはずだ。この言葉は比較的新しい用語だが、実生活においても、メディアの記事でもよく見受けられる身近なワード、ないしは概念となっている。

もちろん、ポジティブ(前向き)な姿勢を保つことは間違いなく有益である。また、それが個人の健康や仕事上のパフォーマンスを向上させることも科学的に証明されている。ゆえに職場では物事に対して前向きで積極的であることが奨励され、その姿勢を保つことで「周囲から褒められる」という報酬を得たりもする。

ただし、物事の明るい面を見ることと暗い面を抑圧することは紙一重だ。「有害なポジティブさ」は、まさにその暗い面を抑圧するような極端な楽観主義を指している。つまり、「有害なポジティブさ」とは、ネガティブな感情や反応、体験を否定したり、無効にしたりして、偽りの安心に置き換えようとすることを意味しているのである。

例えば、次のようなフレーズを思い浮かべていただきたい。

「もっと悪いこともあるさ!」
「すべての物事には意味があるんだ」
「明るい面を見ようぜ!」
「きっと大丈夫さ!」

このようなお決まりのフレーズは事態を良くも悪くもしないうえに、場合によっては事態を悪化させることがある。そして、大抵の人は、良かれと思ってやっているので、ポジティブさの行き過ぎが害悪になることに気づいていないのである。

有害なポジティブさが横行する理由

私たちの多くは、幼少期から成人期にかけて無意識のうちに「ポジティブであること」「前向きであること」を強要されてきた。例えば、あなたに対して、メディアや周囲は「常に幸せそうな顔をしなさい」「苦しそうな顔を周囲に見せてはならない」「ポジティブに考えなさい」「良い波動だけを周囲に送るようにしなさい」といった危険なメッセージを数多く伝えてきたはずだ。

そして、これらのフレーズの根底には、あなたの周囲の気分をより良くする、ないしは、あなたの周囲をより快適にするといった目的が流れている。ゆえに、良い子にしているとおやつをもらえる子犬のように、私たちはポジティブさを示すことで「褒められる」という報酬を幾度も得てきたはずである。結果として、半ば条件反射的にポジティブさを示そうとするのである。

このように、私たちの一般的な経験に考えを巡らせると「有害なポジティブさ」が横行するのも不思議ではないとの結論に至る。実際、サイエンス・オブ・ピープルの調査では、調査回答者の68%近くが、過去数週間のうちに誰かから「有害なポジティブさを示された」と答え、75%以上が「幸せであることを優先させ、自分のネガティブな感情を無視する」と認めている(参考文書 (英語))。

こうした傾向は職場で一般的に見られるものだ。というのも、企業の多くが「ポジティブな姿勢」と「プロ意識」を中心とした組織文化を醸成しようとしているからである。そして職場において「ポジティブなプロフェッショナル」であると思われるために、多くの人が自分の本心を隠そうとしてきたはずである。

こうした職場の潮目は徐々に変わりつつある。ただし、「有害なポジティブさ」が職場から一掃されるまでには、まだ相当の時間を要するだろう。ゆえに、ポジティブさはときとして害悪になりうることを深く理解し、より効果的なアプローチを取り入れるよう努力する必要がある。

「有害なポジティブさ」と「楽観主義」

楽観主義とは、未来や成功に対する希望、自信を意味し、「有害なポジティブさ」は、楽観主義の極端な形態である。ちなみに、楽観的な人は否定的な意見を認めることができるが、「有害なポジティブさ」においては否定的な意見が無視される。

有害なポジティブさの危険性

言うまでもなく、ネガティブな感情を無視したところで、それが消えることはない。それどころか、ネガティブな感情を排除しようとすると、かえって人の感情、あるいは状況を悪化させてしまう可能性がある(参考文書 (英語))。以下は、極端なポジティブさが、人の感情に与える悪影響の例だ。

  • 罪悪感や羞恥心を生む
  • 他者が自分のネガティブな感情を分かち合うことを妨げる
  • ストレス、不安、抑うつ、吐き気、疲労、睡眠障害、消化不良など、ネガティブな感情が別のかたちで現れる

一方、職場における心理的安全性の確立は、ハイパフォーマンスなチームの重要な要素となっている。職場に心理的安全性があれば、チームのメンバーは、周囲からの非難、批判を恐れずに自分の「ミス」や「直面する課題」を明かしたり、「自分のアイデア」を提案したりすることができる。このような環境は、チームの成長とイノベーションを促進するものだ。

実のところ「有害なポジティブさ」は、この心理的安全性の確立を妨げるものでもある。

そうした「有害なポジティブさ」の影響は、その存在を認識し、常にポジティブであろうとする意識から自らを解放することで最小限に抑えることができる。別の言い方をすれば、自分自身や周囲の誰かを「ガスライティング」するのをやめることで、より強く、より高いパフォーマンスを発揮し、かつ真の意味で雰囲気の良いチームを築くことが可能になるのである。

ガスライティングとは?

「有害なポジティブさ」は「ガスライティング」という形態をとることがある。ガスライティングとは、自分の周囲の「誰か」、あるいは「何か」が、自分の現実に疑問を抱かせることを指している。例えば、周囲の誰かがあなたに過剰反応しているように感じさせたり、あるいは、あなたをひどく傷つけたことを「大したことではない」と思い込ませようとしたりするのは、ともにガスライティングの典型的な例だ。

有害なポジティブさの見分け方と対処法

「有害なポジティブさ」は大抵の場合、人の善意によって引き起こされる。つまり、私たちはポジティブさで人を助けるつもりが、逆に人を傷つけてしまうことがあるというわけだ。

では「有害なポジティブさ」に陥ることなく楽観的でいるにはどうすれば良いのだろうか。

以下では、ポジティブさを適切に管理する方法と、人を助けようとする善意を「有害なポジティブさ」ではなく、真の意味で良い影響に転換する方法をいくつか紹介する。

方法①ポジティブな感情だけでなく、すべての感情を受け入れる

物事に関して「正しい」「間違っている」「良い」「悪い」といった人間の感情は存在しない。私たちは人間にとって、すべての感情は経験の一部でしかない。ゆえに、ポジティブ一辺倒でひた走ろうとすると、現実の、そしてときには辛い経験をすべてブルドーザーで踏み潰しながら前に突き進もうとしてしまう。

したがって、ネガティブな感情も認めて、それと真正面から向き合うことが大切となる。それによって、ネガティブな感情を増幅してしまうのではないかと思えるかもしれない。

ただし、自分や周囲の誰かが苦しんでいるとき、その苦しさに共感し、思いやりを持って優しく接することは、ネガティブな感情を否定したり、覆い隠したり、抑圧するよりも問題の早期解決に役立つのである。

例えば、あなたが大切な仕事の締め切りに間に合わなかったとしよう。そして、あなたは自分の至らなさを反省しながら、リーダーに現状を伝え、翌朝納品するために残業したとする。

ここでもし、あなたが「有害なポジティさ」を発揮したならば、すぐに気分を良くしようと自身への失望や自省の感情を押し殺してしまうだろう。それに対して、受容的で生産的なアプローチをとれば、起きてしまったことを(それに続く感情も含めて)すべて受け入れ、そこから学び、次に進もうとするはずである。

  • 有害なポジティブ思考の例:
    「締め切りに間に合わなかったことを、なぜいまだに悔やむ必要があるのか。今さらどうすることもできないし、少なくとも翌日には納品できたじゃないか」
  • 受容的な思考の例:
    「締め切りに間に合わなかったことで、チームを失望させてしまった。ただ、完璧な人間はいないし、少なくとも私が残業をして翌日に納品したことにチームメイトたちは感謝してくれている。次からはもっと仕事を早く始めよう」

方法②経験を検証する

心理学者のマーシャ・リネハン(Marsha Linehan)博士によれば、人との関係を良好に保つうえでは「妥当性の検証(=バリデーション)」が非常に有効であるという(参考文書 (英語))。ここで言う「バリデーション」とは、「自分や他者の生活状況や文脈の中で、自分、ないしは他者の行動が理にかなっている」という点を検証して相手に伝えたり、相手の行動を理解したりすることを意味している。

このバリデーションは、自分自身を含めて人を癒し、強くすることが研究によって明らかにされているという。また、あなたが相手の意見に同意できなくても、バリデーションによって、そうした感情を抱くこと自体に無理はないと共感し、肯定することができる。それによって、その人も、自分も癒されることになる。

一方、感情に「ラベル」をつけることも、自分の感情への理解を深めて管理するうえで有効だ。その効用について、トニー・シュワルツ(Tony Schwartz)氏がニューヨーク・タイムズ紙で次のように述べている。

感情はエネルギーの一形態であり、エネルギー量を表す適切な表現が必要とされます。ゆえに、ゆえに、感情にそのエネルギー量を示す適切なラベルをつけることで私たちは感情に責任を持てるようになり、他者の犠牲を強いるような感情を無責任に放出してしまうリスクを低減させることができるのです。

ここで例えば、あなたの同僚2人が昼食時に年次の業績評価について対話しているとしよう。会社の業績は芳しくなく、レイオフの可能性も噂され、雇用の安定性に不安がある。そのテーブルにいた同僚の1人が、人事考課で昇進することを期待していたが、それも叶わず、落胆している。その同僚を励ますべく、もう1人の同僚はすぐに明るい面を見るように仕向けるか、まず彼女の気持ちに共感するかのどちらかを選ぶことになる。このうち前者が「有害なポジティブさ」 と言える。

  • 「有害なポジティブさ」が見受けられる対話の例:
    同僚A:がっかりだわ。今回の人事考課で昇進できなかったの
    同僚B:なるほど。でも、明るい面を見なよ!
  • 感情の「検証」と「ラベリング」を使った対話の例:
    同僚A:がっかりだわ。今回の人事考課で昇進できなかったの
    同僚B:それは本当に残念よね。あなたがどれだけ頑張ってきたか知っているから、私も本当にがっかり

方法③問題の解決を図る前に共感する

人の不満や否定的な意見に直面したとき、私たちは反射的に相手や自分の気分を良くしようと試みる。ただし、その相手があなたに意見を求めていたり、問題解決の手助けを求めていたりしない限り、私たちの役割はまず話を聞き、共感することである。その大切さについて、心理学博士のジル・サッティー(Jill Suttie)氏は次のように述べている。

自分たちのネガティブな感情を互いに共有することは、ストレスを減らすのと同時に、お互いの距離を縮めて、集団への帰属意識を生む効果があります。言い換えれば、自分の想いを打ち明け、それに対して人々が共感を持って応えてくれたとき、私たちは見守られ、理解され、支えられていると感じるのです。

あなたが解決に向けて全速力で突き進んでいるときや、同僚が胸の内を打ち明けているときに気づいたら、問題解決モードに飛び込む前に、一拍置いて話を聞いてみてほしい。

例えば、あなたがチームリーダーであるならば、仕事が多すぎて時間が足りないといった不満を漏らすメンバーや、自分の悩みを打ち明け、問題解決への助力を求める従業員に遭遇することがあるはずだ。そのようなとき、相手に嫌な思いや物足りなさを感じさせることなく適切に対応するには、彼らが安心して助けを求めたり、悩みを打ち明けたりできる空間を作り上げることだ。これにより、チーム内に信頼の文化を築き、より強いチームを築くことが可能になる。

  • 「有害なポジティブさ」があるリーダーの発言例:
    「君が大変なのは分かっている。私は、君が処理できる以上のことは決して与えない。君ならできる!」
  • 課題解決よりも共感を優先したリーダーの発言例:
    「君は自分のことで手一杯で、仕事に圧倒されているようだね。負担を軽くする方法について話し合わないか」

方法④「有害なポジティブさ」を感じたら即座にフィードバックを

では、職場において誰かの「有害なポジティブさ」を感じたら。どう対処するのが適切なのだろうか。この点について、セラピストの資格を持ち、書籍「Toxic Positivity:Keeping It Real in a World Obsessed With Being Happy」の著者でもあるホイットニー・グッドマン氏は「私たちにはいくつかの選択肢がある」としたうえでこう述べている。

相手が親しくない人なら、その過剰なポジティブさ(有害なポジティブさ)に対して感謝を示すだけで良いでしょう。ただし、相手のことを『あなたを理解してサポートしてくれる人』にしたいのであれば、相手の意図を認めたうえで、相手が言ったことがあなたにどのような影響を与えたかを説明し、有害なポジティブさを示す代わりに、その人ができることを提案するようにすべきです。

例えば、あなたが同僚(仮に「チェルシー」と呼ぶ)に対して、別の同僚(仮にジョーと呼ぶ)がメールであなたの仕事を批評し、そのメールをあなたの上司にもCCで送り付けたことについて愚痴を漏らしているとしよう。チェルシーはあなたの気分を良くしようと試みているが、そのための言動が「有害なポジティブさ」としてあなたに伝わり、逆にあなたは気分をさらに害してしまうことがある。

  • 「有害なポジティブさ」による不満への応対例
    • あなた:ジョーは、私が編集したコンテンツをすべて却下してメールで送り返してきたの。私の上司にもCCでその旨を知らせてさ。どうして私をおとしめようとするのかしら。本当に頭にくる!
    • チェルシー:大丈夫、大丈夫。あなたの上司は、あなたが良い仕事をしていることを知っているんだから。ジョーのことは忘れることね。
    • あなた:そうね。ありがとう。
  • 有益なフィードバックの例
    • あなた:ジョーは、私が編集したコンテンツをすべてリジェクトしてメールで送り返してきたの。私の上司にもCCでその旨を知らせてさ。どうして私をおとしめようとするのかしら。本当に頭にくる!
    • チェルシー:大丈夫、大丈夫。あなたの上司は、あなたが良い仕事をしていることを知っているんだから。ジョーのことは忘れることね。
    • あなた:ありがとう、なぐさめてくれて。でも悔しいのよ。上司に、私がしっかりと問題と向き合い、対処していることがわかってもらえるように、ジョーに良い返事を書くのを手伝ってくれる?

仕事で自分らしさを保つ

職場での人間関係の健全性を保ち、幸せになる唯一の方法は、自分の中で無意識のうちに湧き上がる感情を受け入れ、適切に管理することだ。それは、等身大の自分たちを丸ごと受け入れながら、さまざまな困難に立ち向かい、乗り越えていく力を身に付けることを意味する。

自分たちの苦境から目をそらしたり、それを脇に追いやったりするのではなく、それと真正面から向き合い、必死になって乗り越えていく。それによって、私たちはチームの結束力を強め、より良いパフォーマンスを発揮し、より早くチームの最高の空気感にたどり着くことができるのである。