ステップ③アイデアを出し合う
情報収集のステップを終えたら、チームでブレーンストーミングを行い、さまざまな選択肢を検討しながら、新しいアイデアを生み出していく必要がある。仕事上の意思決定における選択肢は多様であり、コイントスのように単純な二者択一では物事は決められない。ゆえに、意思決定に向けたブレーンストーミングの場では、チームのメンバー全員が可能な限りクリエイティブになり、問題の解決(ないしは、目的の達成に)向けたあらゆる道筋や施策を出し合い、検討すべきである。
【ステップ③の実践方法】
- 「シックスハット法(6つの帽子思考法)」を使う:
シックスハット法とは、物事(仕事上の課題やゴール)を「事実(情報)」や「創造性」をもってとらえたり、「直感・感情」によってとえたり、物事の「リスク」「メリット」を見定めたりして、思考を押し広げていく手法だ。チームが固定的な役割や考え方から脱却し、より自由に物事をとらえ、問題解決の施策やゴールを発想するのに役立つ。 - 「ブレインライティング」を行う:
ブレインライティングとは、着想したアイデアをシートに書き込み、そのシートを複数人で回覧しながらアイデアを広げていく思考法だ。これをチーム内で行う前に、メンバー各自で行うようにする。このように1人でアイデアを広げる時間を設けることは、チームの心理的安全性を高める効果があるとの研究結果がある(参考文書 (英語))。またそれは、チームによる創造性に富んだ提案にもつながるようである(参考文書 (英語))。
【ステップ③で注意すべきこと】
チーム内でのアイデア出しにおいては「集団思考(グループシンク)」に陥らないようにしなければならない。集団思考とは、組織内での合意を優先させ、最適でない決定を下してしまうことを指している。人間は、社会の生き物であるがゆえに組織内・チーム内での調和を大切にする。そのため、会議などで大勢とは異なる意見を言って場を揺らすことを避けたがる傾向が強い。それが結果として、間違った意思決定につながってしまうことが間々あるのだ。
ステップ④選択肢を絞り込む
ブレーンストーミングによってアイデアのリストを手にしたのちは、その中のどれを追求するかを決めるステップに移る。このステップにおいては「そのアイデアは、どういった課題をどのように解決し、目標を達成しうるのか」「そのアイデアの長所と短所は何か」を見定めなければならない。
また、アイデアの選択肢を絞るうえでは、自分の考えを正直に述べること、そして、収集した情報によって主張の裏づけをとることが大切だ。そうすることで、アイデアの選択肢を最良の決定につなげるまで絞り込むことが可能になる。
【ステップ④の実践方法】
【ステップ④で注意すべきこと】
人間は決断を急ごうとするあまり、直感によって選択肢を消去しようとする。ただし、それは間違った決断を下してしまうリスクを膨らますものだ。アイデアの絞り込みは「まあ、これで十分ではないか」といったレベルで行うべきものではない。
ステップ⑤決断を下す
ステップ④までのプロセスを通じて、可能性のある選択肢をすべて洗い出し、裏づけとなるデータを検討し、今後の進め方を選択する準備が整ったことになる。ゆえに次なるステップは、いよいよ最終的な意思決定を下すフェーズとなる。
ただし、この意思決定の段階においても、驚くほど柔軟な選択が可能であることを覚えておいていただきたい。代替案を修正したり、提案された解決策をいくつか組み合わせたりすることで、最良のソリューションにたどり着く可能性が大いにあるのだ。
【ステップ⑤の実践方法】
- 「DACI 意思決定フレームワーク」を使う:
DACIフレームとは、物事の「推進者(Driver)」「承認者(Approver)」「貢献者(Cotributor)」「報告先(Informed)」を明確にするための枠組みだ。このフレームを使うことで、特定の物事について誰が最終的な意思決定権を持つかが明確になり、チームでの意思決定を効率化することが可能になる。意思決定プロセスは共同作業でも構わないが、最終的な意思決定の権限は誰か1人が持つべきである。 - 「投票」の方法を試す:
より民主的な意思決定を目指すのであれば「投票」の手法を試してみることをお勧めする。これは要するに多数決によって意思決定を下すやり方である。
【ステップ⑤で注意すべきこと】
選択肢の分析を重ねるとチーム全体が「分析麻痺」に陥ってしまうことがある。分析麻痺とは、物事を深く分析しすぎて脳が疲弊してしまい、意思決定の段階で何も考えられなくなり、固まってしまうことを指す。
ステップ⑥行動を起こす
大きな決断を下すのは大変な労力を要する。ただし、それは課題を解決したり、新しい何かを始めたりするための最初のプロセスにすぎない。より重要なことは、決定した事柄を実行に移すこととなる。特にチームにおいては、決定した事柄をメンバー全員に伝え、計画どおりに実施してもらうために、意思決定を行うのと同じくらいの思考と労力の積み上げが必要とされる。
【ステップ⑥の実践方法】
- ステークホルダー全員とのコミュニケーション方法を決める:
決定した事柄を実行に移す際には、決定事項のステークホルダー全員(チームのメンバー、会社のマネジメント層、顧客など)とのコミュニケーション計画を立てる必要がある。その計画にもとづいて、決定事項の進捗状況などをステークホルダーに伝えていくことになる。 - 決定事項の「ゴール」「シグナル」「指標」を明確にする:
この作業によって、決定事項の調整や、それが成功したかどうかの判断が容易になる。
【ステップ⑥で注意すべきこと】
決定事項を実行に移す際には「自信喪失」の状態に陥ることがよくある。つまり、自分たちの選択が本当に正しいかどうかを疑いがちになるということだ。とはいえ、物事を決めたのちには、速やかに行動することが重要であり、自分たちの決断に懐疑的になっている場合ではない。自分たちの決断を信じ、すぐに行動に移すことが大切だ。
ステップ⑦決定事項を見直す
入念に検討を重ねた決断であっても、それが常にベストな選択であるとは限らない。しかも、世の中の状況は目まぐるしく変化しており、1週間前までの最良の選択が、今日になっていきなり最良ではなくなるようなことが、いつでも起こりうる。したがって、決定事項を進めるうえでは、適宜、昨日までのことを振り返りながら、決定事項の実効性を点検し、必要に応じて調整をかけることが必要とされる。
この振り返りを行ううえでは「自分たちの決断は、自分たちの望んだような成果を上げているのか」「決定事項を実行に移したことで何が起きたのか」をチェックしながら、決定事項の良い点と悪い点をともに検証することが重要となる。
【ステップ⑦の実践方法】
- 「4つの『L』による振り返り」を行う:
ここで言う4つの「L」による振り返りとは、決定事項を進める中で、あなたやチームが「何を大切にし(Loved)」「何を嫌い(Loathed)」「何を学び(Learned)」「何を求めたか(Longed)」を定期的に話し合うことを意味する。 - 「勝利」を祝う:
決定事項を進める中では、たとえ小さな「成功」、ないしは「勝利」であっても、それを祝うことが大切だ。そうすることでチームの士気が高まり、かつ、決断に対する恐れを低減させることも可能になる。
【ステップ⑦で注意すべきこと】
決定事項の遂行結果を振り返る中で注意すべき点は「後知恵バイアス」によって物事をとらえないようにすることだ。後知恵バイアスとは、行動を起こしたのちに獲得した「知恵」によって過去を振り返り、自分たちの知恵の不足を責めてしまうことを指している。実のところ、いくら注意深く考えて計画を立てても、うまくいかないことは多くある。その失敗を悔やむよりも、失敗から学び、先に進むことが重要なのである。
意思決定プロセスをよりスマートに
以上に示したとおり、チームにおける仕事上の意思決定を下すうえでは成すべきことが多い。もちろん、それほど重要ではない小さな意思決定にまで上述したプロセスを適用するというのは、合理的ではない。例えば、チームによるランチミーティングの際にタコスを注文すべきか、サンドイッチを注文すべきかを決めるのであれば、時間をかけて情報を集める必要も、ブレーンストーミングを行う必要もない。
しかし、チームとしてどのようなプロジェクトに着手すべきかを決めるなど、重要な意思決定を下すうえでは、ここで紹介したステップを踏みながら、慎重、かつ協力的に物事を決めていかなければならない。
いずれにせよ、チームによる意思決定の作業は、究極的には「満足感」を追い求めるか、それとも「最大化(完璧)」を追求するかのせめぎ合いに帰着すると言えるだろう。意思決定における最大化主義(完璧主義)と、満足主義との違いは以下のとおりである。
- 最大化主義(完璧主義): あらゆる決断から最高のものを引き出すことを目指す
- 満足主義: 最高の結果を得ることに執着するのではなく、「これで十分」と妥協することを厭わない
この2つの考え方には一長一短があり、優劣はつけられない。つまり、満足と最大化(完璧)のどちらを優先するのが正解かは、ときと場合によって異なるのである。
例えば、チームに対して、長期的に大きな影響を及ぼす意思決定には、ある程度のこだわりと完璧主義をもって臨むのが適切と言える。一方で「チームミーティングは、カジュアルな世間話から始めるべきか、それとも計画的なアイスブレイクから始めるべきか」といった、いつでも変更がきくような、さして重要ではない意思決定に完璧主義を持ち込むのは明らかに不適切である。加えて言えば、意思決定にどれだけの熟慮と精度が必要かを判断するうえでは、決定がチームやチームの仕事に与える潜在的な影響を見定めるのが良いだろう。
意思決定は、科学であり、芸術でもある。ゆえに、仕事人としての直感を取り入れることも必要だが、すべての直感は十分なデータや客観的な評価によって補完されるべきである。言い換えれば、今回示した意思決定のプロセスは、直感による判断と科学的判断とのバランスを取るためのフレームワークであるとも言える。上述した7つのステップに従えば、あなたとあなたのチームは、自分たちの下した決断に自信を持つことができるのである。