アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。コンテンツ・ストラテジーを担当するアシュリー・ファウス(Ashley Faus)が「サーバントリーダーシップ」の効果について説く。

サーバントリーダーの3つの好例

優れたサーバントリーダーになろうとする人にとって、このリーダーシップの成功者の取り組みは大いに参考になるはずである。ただ、先に触れたとおり、サーバントリーダーは自分ではなくチームにスポットライトを当てるので、自身の会社やチームへの貢献もチームの功績として見せようとする。そのため、自身は特に目立たないし、目立とうともしないのが通常だ。そうしたサーバントリーダーの特性から、優れたサーバントリーダーを探し当てるのはなかなか難しい。

そこで以下では、アトラシアンが見い出したサーバントリーダーの好例を3つ紹介する。

例①トニー・シェイ(Tony Hsieh)氏(元ザッポスCEO)
トニー・シェイ氏は、ザッポス社でサーバントリーダーシップの手本を示しただけでなく、サーバントリーダーシップに関する書籍「Delivering Happiness: A Path to Profits, Passion, and Purpose」も記した。この書籍は、サーバントリーダーシップを通じてポジティブな企業文化を育むためのガイドブックとして広く読まれ、内容が引用されることも多い。

私のリーダーとしての役割は、温室を設計してその環境を適切に保ち、あらゆる植物が繁栄し、成長できるようにすることだと考えている。

例②シェリル・バチェルダー(Cheryl Bachelder)氏(元ポパイズ ルイジアナ キッチンCEO)
シェリル・バチェルダー氏がポパイズ ルイジアナ キッチン社のCEOに就任したとき、同社は倒産の危機に瀕していた。そこでバチェルダー氏は、従業員やステークホルダー、顧客の意見をヒアリングする「リスニング ツアー」を行うなど、経営を立て直すためのさまざまな施策を展開した。併せて、フランチャイズ加盟店を大切なパートナーとして扱った。結果として、彼女が去るころのポパイズ ルイジアナ キッチン社の株価は、彼女のCEO就任時の4倍に膨らんでいた。

リーダーは、大胆な目的地に人々を連れて行く勇気と、旅の途中で無私の奉仕をする謙虚さの両方を持ち合わせていなければならない。

例③アイリーン・ローゼンフェルド(Irene Rosenfeld)氏(元クラフトフーズCEO兼会長)
アイリーン・ローゼンフェルド氏は、2006年にCEOに就任したクラフトフーズ社の業績を立て直したことで知られている。彼女は、経営再建のプロセスにおけるハードワークの重要性を認めつつも、組織の立て直しに不可欠なのは人材であると訴え続けた。その信念のもと、会社を分割して従業員たちに多くの独立性と決定権を与え、成功を収めたのである。

今日の従業員は、トップダウン型のリーダーシップを望んでいない。従業員が求めているのは、学ぶことができる職場であり、自分たちの成功を手助けしてくれるリーダーだ。そうした従業員の要望にこたえることは、最もシンプルな経営手法と言える。したがって、組織のリーダーは、自分がして欲しいと思う敬意、威厳、素直さを相手に示すべきである。

サーバントリーダーシップの長所と短所

サーバントリーダーシップは、非常に効果的なリーダーシップスタイルの1つだが、そこには欠点もある。サーバントリーダーシップの長所と短所は次に示すとおりだ。

サーバントリーダーシップの長所

  • 業績の向上と利益の増加が期待できる
  • 上司と部下との強固な信頼関係が構築できる
  • 従業員の士気、モチベーション、エンゲージメントが向上する
  • 組織・チームの革新性、創造性が向上する
  • 従業員が自分の仕事や意思決定にオーナーシップを持つようになる

サーバントリーダーシップの短所

  • リーダーへの要求が高く、リーダシップスキルを獲得するまでに時間がかかる
  • 部下の人数が多く、個々人の要望にバラつきがある場合、意思決定に相応の時間を要することが多くなる
  • サーバントリーダーシップの確立は、組織的・文化的な変革が必要とされる
  • 伝統的なリーダーシップを好む人たちから、サーバントリーダーが脆弱と見なされる可能性がある
  • サーバントリーダーシップには、高い透明性や信頼性、そして自分の弱点をオープンにすることが求められるために、リーダーによっては不快に感じることもある

サーバントリーダーシップへの転換に役立つ3つのTIPS

以上に示したとおり、サーバントリーダーシップには利点がいくつもある。ただし、サーバントリーダーシップを実践するのは簡単ではない。特に、伝統的なリーダーシップスタイルを是とする組織で働いているリーダーにとって、サーバントリーダーシップを実践し、それを周囲に受け入れさせる作業は難度の高い取り組みと言える。そこで必要になるのが、サーバントリーダーシップのスタイルを自然なかたちで取り入れ、成果へとつなげることだ。以下、そのためのTIPSをいくつか紹介したい。

TIP①自分がどのように手助けできるかを尋ねる

サーバントリーダーシップの手始めとして、自分の率いるチームの全員に対して「自分にどうして欲しいのか」「どのようなサポートが必要か」と尋ねてみるのは良い方法である。

ただ、チームのメンバーから何らかの回答を得た際には、それに基づいた行動を起こすことが必須となる。

例えば、仮にチームのメンバーが「業務負担が大きい」と言ってきたとしよう。その場合には、彼らの業務負担を軽減する施策を速やかに講じる必要がある。その逆に、何らかのフィードバックをメンバーに求めておきながら、そこで得られた回答を行動に結びつけないならば、メンバーの不信感や不満、憤りを生む結果になる。

TIP②賞賛とチャンスを提供する

チームメンバーの成功をサポートしたり、その成功(それが小さな成功であっても)を褒めたりするのは、サーバントリーダーの基本的な行動だ。また、メンバーをサポートしたり、褒めたりするために多くの労力、時間をかける必要は特にない。チームミーティングの最初の5分間を使って、当該メンバーの褒めたたえるだけで、そのメンバーの承認欲求・認知欲求を満たし、かつ、あなたがメンバーの成功にコミットしていることを明示することができる。

加えて、メンバー各人を褒めるだけではなく、彼らに対して自己成長のチャンスを可能な限り数多く提供することも忘れてはならない。チームのメンバーが成長する機会は、プロジェクトの陣頭指揮を執るチャンスをはじめ、適切なメンターと知り合うチャンスや学習のチャンスなど、さまざまにある。そうしたチャンスをチームのメンバー各人に積極的に提供し、かつ、成功をバックアップすることが大切となる。

TIP③チームから常に見られていると意識しながら行動する

人間は進化の過程で利己的になるようプログラミングされたと主張する人がいる。その一方で、人間は社会の生き物であって生来協力的であり、利己主義は特定の状況においてのみ表面化するという研究結果もある(参考文書 (英語))。

仮に、自分の行動の誠実さに不安を感じているのであれば、自分の行動はいつもチームから見られていると思うようにすると良いだろう。そうすることで、常にチームの利益のために行動し、決断することが自然にできるようになる。

奉仕することは導くこと

古き時代のビジネスリーダー像は、情報をため込み、同僚たちをライバル視し、何が何でも勝とうとするような人物だった。ただし、そのような自己中心型のアプローチは、今日のような変化の激しい時代では通用せず、リーダーとしての成功を妨げるものでしかない。

また、協調と奉仕の精神は、リーダーとしての成功のみならず、自身が携わるビジネスの成功の確率を高めるものでもある。要するに、チームをリードするうえでも、ビジネスをリードするうえでも最善の方法は周囲に奉仕することなのである。