リーダーにとってのハイブリッドワークの意義
仮に、あなたがチームのリーダーであり、メンバーに対して働く場所の自由を認めているとしよう。また、その結果としてチームのパフォーマンスや文化を維持するのに苦労を強いられているとする。そのような場合でも「メンバーの全員をオフィスに呼び戻したい」という誘惑に負けてはならない。というのも、今日のナレッジワーカーは大多数が働く場所について選択の自由を望んでいるためだ。つまり、柔軟な働き方が可能であるならば、ほとんどのナレッジワーカーが柔軟に働くことを選ぶということだ。実際、マッキンゼーによる2022年の調査(英語)でも、アトラシアンの調査と同じような結果が見られている。
働く場所に制約をかけることは、従業員から望むものを奪うことにつながる。そう考えれば、働く場所をオフィスに限定することは、従業員のエンゲージメントや企業文化に対する好感度を向上させる方法ではないことがわかるはずである。そのような方法を選択する代わりに、チームにおけるコラボレーションのあり方を見直し、ハイブリッドワークの恩恵を享受できるようにすることが大切なのである。
なお、アトラシアンの「Team Playbook」には、チームにおけるコラボレーションのあり方を変革し、ハイブリッドワークの恩恵を十分に享受できる条件を整えるための数々のプラクティス(=プレイ)が用意されている。そのいくつかを簡単に紹介しておきたい。
チームの調整に役立つプレイ
- 作業合意(ワーキングアグリーメント):このプレイは、チームにおける「コミュニケーション」や「フィードバック」「失敗からの学び方」「成功の祝い方」などに関する基本ルールを定めるためのものだ。このプレイを使いながら、チームで働き方の基本ルールについて話し合い文書化して共有することをお勧めする。また、基本ルールについては必要に応じて適宜変更を加えることもできる。
- スタンドアップミーティング:このプレイは、昨日からの仕事の進捗や今日の計画、仕事の進捗を妨げているものをチームで共有する短時間(10分以内)のミーティングを行うためのものだ。
- 役割と責任:このプレイは、チームメンバーの仕事上の役割と責任を明確にして文書化・共有するためのものだ。このプレイを実行することで、メンバー各人が自分のタスクと他のメンバーのタスクとの依存関係が見えず、無意識のうちに他のメンバーの足を引っ張ってしまうリスクを低減できる。同様に、メンバー各人がカバーすべきタスクや責任の範囲についての認識のズレを回避することも可能になる。
インクルーシブ・リーダーシップに役立つプレイ
- DACI意思決定フレームワーク:DACI意思決定フレームワークとは、意思決定における「推進者(Driver)」「承認者(Approver)」「貢献者(Contributors)」「報告先(Informed)」を明確にし、意思決定の効率性と透明性を高めるためのフレームワークだ。そのフレームワークを実行するためのプレイを活用することで、チームにおける意思決定に対して誰が意見を提供し、誰が最終的な決定を下すのか、そして誰がその結果を知らされるのかを明確にできる。
- 受容的(インクルーシブ)なミーティング:このプレイは、チームの全員に対して発言の機会とチームに貢献する機会を等しく提供するためのTIPSである。
イノベーションの支援に役立つプレイ
心理的安全性を高めるプレイ
- 破壊的ブレーンストーミングのアイデア:このプレイは、チームのメンバー各自が、周囲からの非難や軽蔑を恐れずに自由に自分のアイデアを発言して共有する機会を提供するためのものだ。構造化されたフォーマットのもと、お互い尊重しながらアイデアを絞り込んでいくことができる。
- ユーザーマニュアル:このプレイは、チームのメンバー各人が自身の「取扱説明書(ユーザーマニュアル)」を作成し、他者と共有するためのものだ。このプレイの実行によって、チーム内の各人がお互いをより深いレベルで知ることができるほか、チームに対するメンバーの帰属意識を高めることもできる。
ここで、もし、あなたのチームがすでに柔軟な働き方が試せる健全な状態にあるのなら、アトラシアンのように従業員に働く場所を自由に選ばせてみてはいかがだろうか。アトラシアンの働き方が完璧であるとは言い切れない。ただし、少なくともアトラシアンでは柔軟性の高いハイブリッドワークの実践によって相応のベネフィットを手にしている。それゆえに、私たちは場所を選ばない働き方にナレッジワークの未来があると確信しているし、ハイブリッドワークの荒削りな部分を滑らかにする最良の方法を見つけ出そうともしている。
加えてアトラシアンでは、ハイブリッドワークへのチームや個人の適応を支援するために、各チームで「Work-Life Impact(ワークライフインパクト)」のワークショップを定期的に催している。
この会議は、チームのメンバー各人が自宅の仕事環境やネットワーク、さらには自分の役割を担っていくうえでの要件、課題について明らかにする場である。この会議を通じて、チームにおけるワークフローや儀式、期待事項をどのように調整すれば、お互いをより良くサポートできるかが明確になる。さらに、柔軟な働き方を何年も続けている人であっても、さらなる改善策を見い出すこともできる。
柔軟な働き方にも課題があり、チームメンバー同士の個人的なつながりを築き、より強固なものにするうえでは、ときおりチームの全員をオフィスに集めて直接会う機会を設けたほうが良いだろう。ただしそれでも健全なチームには柔軟な働き方が適していることには変わりはなく、その働き方はマイナス面を補って余りあるメリットをチームにもたらしてくれる。そして、そのことはアトラシアンの調査が端的に物語っているのである。