アトラシアン本社の情報サイト『WORK LIFE』より。ライターのサラ・ゴフ・デュポン(Sarah Goff Dupont)が、アトラシアンによる調査の結果にもとづきながら、働く場所を自由に選べる「柔軟な働き方」がチームにもたらす恩恵について説く。

本稿の要約を10秒で

  • 働く場所を自由に選べる「柔軟な働き方」は、チームにおける従業員エンゲージメントや心理的安全性の向上につながる。
  • ただし、上記の恩恵が享受できるのは特定の条件を満たしたチームに限定される。
  • アトラシアンの「Team Playbook」には、チームを強化し、柔軟な働き方による恩恵を享受できる組織にするためのテクニックが紹介されている。

「リモートワーク」は本当に「悪」なのか?

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の脅威が過ぎ去ろうとするなか、働き方をリモートワーク中心型から、コロナ以前のオフィスワーク中心型に戻そうとする企業が増えている。目的は、リモートワークによる生産性の低下や組織文化の弱体化に対処することにあるようだ。

では、本当にリモートワークはチームの生産性や良質な文化の維持・醸成を阻害するものなのだろうか。働く場所をオフィスに限定したほうが、チームの生産性は向上し、より良質な文化が醸成されるのだろうか。

その辺りの疑問を解消すべく、私はアトラシアンの調査「State of Teams」の結果を点検してみることにした。

State of Teamsは「チームの現状」を世界規模でとらえることを目的に毎年実施している調査活動だ。活動の一環として、米国、オーストラリア、ドイツ、インドで働く、およそ2,200人のナレッジワーカーを対象に「働く場所を自由に選べる柔軟な働き方(=ハイブリッドワーク)」が、個人とチームにどのような影響を及ぼしているかを詳細に調べた。

その初期集計の結果(英語)を見ると、チームの成功と、メンバーの働く場所との間にはそれほど強い相関関係がないことが分かる。すなわち、チームにとってはメンバーが「どこで働くか」よりも「どのように働くか」が大切であり、メンバーの全員がリモートに分散して働いていても、あるいは、オフィスに集まって働いているとしても、すべてのチームに等しく成功をつかむチャンスがあるということだ。

また、2022年のState of Teams調査のレポート(英語)を読むと、働く場所を自由に選べるハイブリッドワークが、チームにおける「ウェルビーイング(心身の健全性)の向上」や「イノベーションの増加」「従業員の組織文化に対する好感度の向上」といったベネフィットの創出につながっていることがわかる。ただし、ハイブリッドワークには「コラボレーションの難度のアップ」「インポスター症候群(詐欺師症候群=自分は周囲を偽って評価を得てきた人間に過ぎないといった思い込み)の発症リスクの高まり」といった負の影響もあるようだ。

こうした調査の結果からは、どのようなチームがハイブリッドワークの恩恵をより多く享受できるかも見えてくる。例えば、ハイブリッドワークは、チームの健全性を向上させる可能性が大きくあるが、「健全ではないチーム」を健全にすることはできない。また、チーム内に特定のネガティブな要素がある場合、働く場所の自由度を高めることでチームの状態が悪化する恐れもある。

ということで、以下では前述の調査の結果を踏まえながら、柔軟な働き方の恩恵を大きく享受できるようなチームの構築法について見ていくことにしたい。

柔軟な働き方の恩恵を享受できるチームとできないチーム

調査結果を見ると、回答者の半数以上(53%)が「自分の好きな場所で仕事ができている」と答え、うち97%が在宅勤務を取り入れており、その中の15%が常にリモートワークを行っているとしている。

上述したとおり、このように働く場所を自由に選べることは、従業員エンゲージメントや心理的安全性の向上につながるものだ。それに加えて、多くの従業員が「自分のチームのマネジメント層は『インクルーシブ(受容的)』である」と思うようになるようだ。さらに、働く場所を自由に選べている人たちは、自分のチームの状態について「Thriving(活発である)」と表現する傾向が強く見られている。

もっとも、上述したようなハイブリッドワークの恩恵は、決してリモートワーク自体、つまりは「オフィス外で働くこと」によってもたらされているわけではない。言い換えれば、リモートワークを働き方の選択肢に組み込むだけで、従業員エンゲージメントやチームパフォーマンスが自動的に高められるわけではないのである。

ハイブリッドワークの恩恵を最大限に享受するためには、メンバー同士のつながりを強化したり、インクルーシブ・リーダーシップを発揮したり、イノベーションへの支援を展開したりすることが不可欠となる。また、組織内・チーム内で心理的安全性が確保されていなければ、ハイブリッドワークの恩恵を手にすることはできない。以下、そうした条件、つまりは柔軟な働き方の恩恵を享受するための条件(ないしは、条件を整えるために必要とされる要素)についてまとめておきたい。

  • チームの調整
    まずは、チームのメンバー各人の役割と責任の範囲を明確にする。そのうえでメンバー各人の課題やアイデア、さらには「誰が何をしているか」についてのコミュニケーションをとるようにする。こうすることで、メンバー全員が目標を共有しながら、目標達成に向けて自分たちが何をすべきかを把握することが可能になる。
  • インクルーシブ・リーダーシップ
    インクルーシブ・リーダーシップとは、チームに影響を与える情報を積極的に共有し、チームの改善に向けた全員のアイデアを取り入れようとするリーダーの姿勢を指す。その姿勢は、異なる役割、立場の人員の意見を総合することが、より良い課題解決につながるという信念にもとづくものでもある。ゆえにリーダーは、自分自身が「偏見(バイアス)」を持っていることを認識し、すべての意見についてバイアスをかけずに検討するよう最善を尽くす必要がある。
  • イノベーションの支援
    イノベーションの支援とは、想定されたリスクをとり、チャレンジするチームの文化を育むことを指す。また、イノベーションを支援するうえでは、チームのメンバーに対して新しいアイデアを生み出すための十分な時間とスペースを与えることも重要となる。さらに、誰から出されたアイデアであろうとも、優れたものであればそれを受け入れる文化を育むことも大切である。
  • 心理的安全性の確保
    心理的安全性が確保された職場では、チームで働くすべの従業員が、ありのままの自分でいることが許される。また、誰かが失敗しても、それを周囲が許容し、失敗から多くを学ぼうとする。加えて、個々人と他者との違いが尊重され、かつ、すべての従業員が意思決定において自分の視点、意見、アイデアが考慮されていると感じることができる。

先に触れたとおり、インクルーシブな環境や心理的安全性の確保は、ともに働き方に柔軟性を持たせることで高めることができる。そう考えると、これら2つの属性を確保するのが先か、それとも柔軟な働き方を実践するのが先かという「卵が先か、鶏が先か」的な議論に陥りそうになるかもしれない。

確かに、働き方に柔軟性を持たせれば「自分たちのリーダーはインクルーシブである」と評価される可能性は高まる。ただしそれは、リーダーがすでに相応の環境を整備している場合に限られる。また、チームにおける心理的安全性のレベルと働き方の柔軟性には正の相関関係が見られているが、働き方が柔軟だからといって心理的安全性が自動的に確保されるわけではない。すなわち、柔軟な働き方は「心理的安全性を増幅させる装置」に過ぎないと見るべきなのである。

このように適切な条件がそろっていないチームは、柔軟な働き方を採用しても状態が好転することなく、現状と何も変わらないか、あるいは、悪化する恐れがある。実際に調査結果を見ると、企業文化に対する従業員の好感度が低いチームの場合、働き方に柔軟性を持たせることでメンバーのウェルビーイングが低下してしまうこともあるようだ。その要因を正確に突き止めるためにはさらなる調査・分析が必要とされるが、自社の企業文化に否定的なチームでは、メンバー間のコミュニケーション不足や政治的な対立が起こりがちになる。その問題が人員の分散化によって深刻化し、結果としてメンバーのストレス増につながることは想像に難くない。