世代ごとの特性を再確認
上で触れたとおり、働く人の世代、年齢の多様性を組織・チームの力にするうえでは、自分とは異なる世代に対する理解を深めることが初めの一歩といって良い。
ということで、上述した5つの世代のプロファイルを以下にまとめておきたい。このプロファイルはあくまでも米国で主に使われるものだ。また、これは各世代に対する基本的な理解を促進するためのものだ。こうしたプロファイルをもとに「この世代の米国人は、すべてがこういう人物である」という決めつけや偏った見方はしてはらならない。
①伝統主義世代
- 生まれ:1920年代~1940年代半ば
- 米国における労働力としての規模感:労働人口に占める割合は5世代の中で最も小さい
- 大きく影響を受けた出来事:第二次世界大戦、経済不況、マスメディアの登場・発展
- 世代共通の特徴、価値観:伝統主義世代の多くは、価値観の形成期に戦争や経済不況に見舞われたことから安定や実用性を重視する傾向がある。また、この世代の人たちが過去に経験してきたほとんどの職場は、伝統的な階層構造を成し、年功序列、年長者・上司への尊敬、規則への遵守の重要性を労働者に徹底して教育してきた。
- 好む仕事上のコミュニケーションスタイル:伝統主義世代は、慣れの問題から、デジタルツールを使ったコミュニケーションよりも、対面での対話や手書きのメモを好む傾向にある(と考えられる)。
②ベビーブーム世代
- 生まれ:1940年代半ば~1960年代半ば
- 米国における労働力としての規模感:現時点でも労働人口に占める割合は比較的大きい。ただし、企業における定年制度の中で今後急速に(労働人口としての)数を減らしてことが予想されている。
- 大きく影響を受けた出来事:ベトナム戦争、冷戦、公民権運動、ポップカルチャーの台頭
- 世代共通の特徴、価値観:ベビーブーム世代の多くは、伝統主義者の子供であり、労働に対する強い倫理感や責任感、年長者への尊敬の念を継承している。しかし、文化や技術の進歩を経験しながら成長したため、職場において独立心が強く、自信に満ち溢れ、先見の明がある傾向が強い。
- 好む仕事上のコミュニケーションスタイル:米国の企業が電子メール(以下、メール)を導入し始めたのは、ベビーブーム世代が一定のキャリアを積んだのちの話だ。ゆえに、ベビーブーム世代はコミュニケーション手段として電話を好んで使う傾向が強い。ただし、メールも広く受け入れられており、特に取引先に簡単な依頼を行う際にはメールが使われることが多い。
③X世代
- 生まれ:1960年代半ば〜1980年
- 米国における労働力としての規模:労働人口の多くを占めるマジョリティ。ただし、ベビーブーム世代と同じく、労働人口としては縮小傾向にある。
- 大きく影響を受けた出来事:冷戦、ポップカルチャー、デジタルテクノロジー(IT)の台頭
- 世代共通の特徴、価値観:マスメディア(特にテレビ)やデジタルテクノロジーの台頭、そして政情不安の中で育った米国のX世代は、多くが自立心、反骨精神が旺盛だ。両親や祖父母の働きぶりを反面教師にしながら、ワークライフバランスを重視し、雇用主に対して利益だけでなく、人を重視するように働きかけてきたのも、この世代である。
- 好む仕事上のコミュニケーションスタイル:X世代は、ITの普及・発展と自身のキャリアがシンクロしており、仕事の中で電話をよく使用する一方で、メールも好んで使用している。
④ミレニアル世代
- 生まれ:1981年~1990年代
- 米国における労働力としての規模:米国の場合、ミレニアル世代が労働者のマジョリティである。かつ、労働人口に占めるミレニアル世代の割合は今後さらに増える見通しだ。
- 大きく影響を受けた出来事:インターネットの台頭、国内外のテロリズム、世界不況
- 世代共通の特徴、価値観:X世代と同様にミレニアル世代は、前世代の労働倫理を尊重する一方で、個人の生活や周囲の世界をより良くするためにもっと投資したいと願う傾向が強い。また、インターネットにアクセスできるのが当たり前の環境で育ったために、世界観はよりグローバルになり、スピードに対する期待はより強く、改善への渇望はより大きくなっている。
- 好む仕事上のコミュニケーションスタイル:ミレニアル世代にとって、コミュニケーションのスピードと利便性が重要なポイントとなる。この世代の多くは、メールが企業に広く普及してから社会人になっている。ゆえに、電話よりもメールを好む傾向が強い。
⑤Z世代
- 生まれ:2001年~2010年代
- 米国における労働力としての規模:労働人口に占めるZ世代の割合は現状、小さいが、その比率は増加傾向にある。
- 大きく影響を受けた出来事:世界同時不況、ソーシャルメディアの台頭、新型コロナウイルス感染症の流行
- 世代共通の特徴、価値観:インターネットをはじめとするデジタルテクノロジーのない時代を知らない米国のZ世代は、グローバル志向のデジタルネイティブである。自分のニーズ、要望が即座に満たされることを重視し、スピードは特別なものではなく必須の要件であると考えている。困難な経済状況の中で育ったため、Z世代の多くは起業家精神が旺盛で、自己実現に重点を置き、かつ、さまざまな変化を受け入れることができる。
- 好む仕事上のコミュニケーションスタイル:Z世代は、テキストやインスタントメッセージなど、最も迅速、かつ簡単に返事がもらえるコミュニケーション手段を好む傾向が強い。
文化を変える
先に触れたとおり、異なる世代の人員で構成されたチームの生産性は高い。ただし、単に世代の異なる人員でチームを構成しても、組織のヒエラルキーや文化が旧態依然としたものであるならば、ダイバーシティのメリットを最大限に引き出すことは難しいはずである。
この点に関して、ハーバードビジネススクールのロビン・J・イーリー氏(Robin J. Ely)氏とデビッド・A・トーマス(David A. Thomas)氏は次のように指摘している(参考文書 (英語))。
人材の多様性を高めるだけでは、ダイバーシティの効果は得られません。重要なのは、人材の多様性を最大限に活かせるよう、組織の権力構造を変容させることです。
加えて両氏は、「自分とは異なる視点、考え方」を重視し、多様な知識や考え方に学ぼうとする文化を醸成することが、ダイバーシティの効果を高めることにつながると説く。
人材の多様性を高めるだけでは、ダイバーシティの効果は得られません。重要なのは、人材の多様性を最大限に活かせるよう、組織の権力構造を変容させることです。
さらに両氏は、上述したような学習の文化を取り入れようとする組織・チームのリーダーに対して、以下の4つの行動をとるよう勧めている。
- 組織・チームにおける人同士の信頼関係を構築し、すべての人員が自由に自己表現できる職場環境を築く
- あらゆる偏見と抑圧のシステムに立ち向かい、排除する
- 多様な働き方や意見を受け入れる
- 人員のアイデンティティの形成している知識、経験を、組織・チームの中核の仕事を成し遂げるために活用する
これらを遂行するのは簡単なことではない。ただし、上記の行動は、ダイバーシティを単に世の中の流行に追随するための取り組みや会社を良く見せるための施策に終わらせず、組織の生産性向上や競争力の強化に役立てるうえでは必須のものといえるだろう。
すべての年代が能力を発揮できる職場づくりを
現在、世代間の違いを分析する研究資料やメディアの記事は数多くある。ただし、そうした資料・記事の多くが、ダイバーシティの時代のものとは思えないような内容で、各世代の強みではなく、各世代の欠点や世代間のギャップのほうにフォーカスを当てている。それらは純粋な読み物としては面白いかもしれないが建設的ではない。
ダイバーシティの考え方の基本は、多様な価値観や物事の見方を柔軟に取り込み、組織力・チーム力をアップさせようというものだ。その実現を目指すのであれば、異なる世代の人を集めるだけではなく、それぞれが互いの違いを尊重して、各世代の強みや視点を受け入れ共有し、すべての世代の人が自分の能力をいかんなく発揮できるようにすることが重要だ。
そうすることで心理的安全性が確保された職場が形づくられる。そうなれば、私たちは、公園で遊ぶ子供たちのように、互いの良さを自然に引き出しながら、自分たちのつくるプロダクトや自分たちの周辺社会をより良くすることができるのではないだろうか。